第150話 溶鉱炉

 シャミがうちに来た直後のことだ……。


 出産の近い姉の世話をするために、週の大半を実家で過ごしている巨人のメルビエが珍しく帰ってきたかと思うと、裏庭に材木を山ほど積み上げていた。


「家の工事は終わっただろう。今度はなにをするんだ?」


 と尋ねると、


「んだ、こいつは裏庭に小屋を作るそうだべ。シャミが錬金をやるから、大きな炉がほしいったらいって、ここに屋根さ作って炉をこしらえるそうだぁよ」

「ははあ、なるほど。それはそうと、今夜はうちにいるんだろ」

「んだ」

「うちにいる時ぐらいは、晩酌に付き合ってもらわんとな」

「んだぁ」


 その後はこのグレートな巨体をタップリと……。


「ごすじんさま、また妙なこと考えてるツラだべ、オラ、オラ、こっぱずかしいだぁ!」


 メルビエがでかい手で俺の背中を叩く。


「げふげふっ」

「どうしたべ?」

「いや、なんでもない。とにかく仕事を頑張ってくれ」

「んだぁよ」


 三メートルの巨体から繰り出されるメルビエの強烈な一撃でむせた俺は、ひとまずうちの中に退避する。

 こちらではカプルとシャミの大工コンビが、どこかから仕入れてきたのであろう、黒い精霊石の板を眺めていた。


「こっちは何やってるんだ?」

「金属を溶かす炉を作りますの。その為に熱と魔力を封じる黒の精霊石を仕入れてきたのですわ。今はその検品中ですの」

「なるほど、結構薄いもんだな」


 カプルが手にしている黒い板は厚さ一センチもない。


「それなりに値が張りますから。耐火レンガと二重にして補うんですわ」

「なるほど。じゃあ、炉ができたら本格的に色々作ってくれるわけか」

「そのつもりですわ」


 それからしばらく経って、ちょうど今日、裏庭の一角にこじんまりした小屋が完成した。

 石を積み上げた炉と、簡易的な外枠があるだけの、シンプルな小屋だ。


「ふう、突貫工事でしたが、どうにか出来ましたわね」

「できた」

「これで、鎧のような大物でも、うちで扱えますわ」

「うん、鎧も、基本は学んだ。パペッタの、花形」


 カプルとシャミの大工コンビは満足そうに頷く。


「二人共おつかれさん。それで、何を作ってくれるんだ?」


 と聞くとシャミが、


「いっぱい」

「そうか、じゃあ、最初はなんだ?」

「……どうしよう」

「まあなんでもいいけど、調理道具か冒険道具がいいかな?」


 調理道具は手動ミキサーやピーラーなど、すでに幾つか作っている。

 となると、冒険者道具かな?


「なにか、ご希望は有りますの?」


 とカプル。


「そうだなあ、余裕のある今のうちに、冒険用の道具を改善したいな」

「と言っても、今あるものでしたら、うちはそれなりに良い物を揃えていると思いますわ。もちろんご主人様が異世界仕込みの素晴らしいアイデアを提示してくださるなら、話は別ですけれど」

「アイデア、天才的なの、希望」


 シャミも目を輝かせている。

 といっても、俺の世界じゃモンスター退治もダンジョン探索も無いわけで……ゲームのアイテムってあんまり具体性がないよな。

 俺が知らないだけで、リアルなゲームもあったのかもしれないけど。

 あとは……強いて言えば登山かなあ。

 登山グッズの応用を考えてみるか。

 うーん、なにがあるだろう……登山の三種の神器は靴にザックにカッパだな。

 どれも錬金術は関係なさそうだ。

 それ以外だと、水筒、ストック、シュラフにヘッデン……ヘッデンってのはヘッドライトのことだ。

 冬山やロッククライミングだと別の道具もいるが、それはひとまず置いとこう。

 となると、ヘッドライトがいいかな?


「こうな、ランプを小さくしてだな、おでこに紐で括りつけるんだ。まあ兜に固定してもいい。そうすると手が自由になるだけじゃなく、顔を向けた方向を照らせるだろ」

「顔が眩しくありませんの?」

「そこは多分……、ガラス面をレンズにしたり、背面のミラーとかで光に指向性をもたせるんだ。正面しか照らさないようにな」

「なるほど、それならいけそうですわね。小物だと炉の使い道がありませんけど。どうかしら、シャミ」

「やる」


 と言って、支度を始めた。

 あとは余計なことを言わないほうがいいだろう。

 二人はガッチャンガッチャンと作業を始めた。


 翌朝。

 まだ薄暗いうちに目がさめたので起きだしてみると、家馬車に明かりが灯っている。

 覗くと大工コンビはまだやっていたらしい。

 徹夜は美容の大敵だぞ、と思ったものの口には出さずに成果を確認すると、試作品がいくつもできていた。

 それを手に取りながら、カプルが眠そうな顔で説明する。


「思ったより小さくまとめるのが難しいですわね。手で持つと平気でも、頭につけると随分と重さを感じますわ。それに小さいと精霊石のもちも悪くなるのがネックですわ。消費量を減らすと光量が足りないのでレンズで補強したいのですけど、レンズも分厚く、重くなりますし」


 レンズを軽くといえば、何かの本で読んだが、灯台のために軽いレンズを作った話とかがあったな。

 フレネルレンズだっけか。

 スマホでフレネルレンズのことを調べる。

 このサイズで意味があるのかどうかはわからんけど、どうだろう、教えてみるか。


「薄いレンズといえば、フレネルレンズとかどうだ?」

「また知らないものが出てきましたわね」

「つまりだな、レンズって表面の曲面部分で光を曲げるんだよ、だからそこだけを取り出して……」


 ゼスチャも交えてフレネルレンズの説明をする。


「なんだか、騙されたみたいですけど、これで同じ効果がでますの?」

「でるでる、もっとも同心円上に筋が入るから見るには不便だが、光を集めるにはいいだろう。俺の世界じゃ灯台なんかにも使ってたぞ」

「うーん、ですけど、この細工は難しいですわね。ペイルーンがもう少し錬金術に長けていればよかったのですけど、彼女の術では精製しかできませんし……これはいつぞやのガラス工房に依頼してみますわ」


 というわけで、ヘッドライトはもうしばらく掛かりそうだ。

 それでも光量が足りてない試作品を頭につけて、色々試してみる。

 この世界にはよく伸びるゴムはないようで、帯状の革紐で額に留めてある。

 それでもフィット感は悪くないし、重さも気にならない。

 これをつけたまま真っ暗な地下室に降りてみると、なかなか便利だ。

 興味をもったエレンも試してみて、すぐに気に入る。


「へえ、こいつはいいね。邪魔なときは腰にランプをぶら下げるけど、これなら自分の向いてるほうが照らせるし。なんで思いつかなかったんだろ」

「ここまで小さくしようと思わなかったんじゃないか?」

「かもね。実際、このままじゃちょっと明るさが足りないし」

「そこは現在改良中だ」

「うまく行けば、盗賊仲間にバカ売れだよ、きっと」


 そうかもな。

 うまくいくといいなあ。

 まあ、あの二人なら、どうにかしてくれるだろう。




 その日の午後、道具ばかり作ってもらっても仕方がないので、自分も磨いておこうと、俺は修行していた。

 道場に行けばいいんだが、若いお嬢さんにポンポン殴られるのも癪なので、今日はうちで元白象騎士エーメスに習っている。

 剣の師匠であるセスは、シーリオ村に出張中だ。

 週に一、二回、コルスと交代で様子を見に行ってもらっているからな。

 用心棒のコン老人は凄腕過ぎて「出る幕がありません」などとセスは言っていたが、それでもこの時期は狼などが山から降りてくるらしく、それなりに人手がいるようだ。


「ではご主人様、次はこちらの盾を試してみましょう」


 そう言ってエーメスが次の盾を持ってくる。

 何をやっているかといえば、俺にあう盾を探しているのだ。

 修行にあたって自分の装備、とくに防具を見なおすことにした。


 防具といえば、まずは騎士の甲冑がある。

 うちには騎士が三人居るが、それぞれ立派な甲冑を持っている。

 強力な槍や矢を弾き、魔法の火弾なども防ぐという。

 その分、分厚い金属の塊でできており、とても重い。

 これは馬に乗って突撃するような戦いで使うもので、俺達がやるようなダンジョン探索には不向きだし、うちの騎士連中も探索時にフル装備の甲冑は使わない。

 例えばオルエンは針金を編み込んだ鎖帷子の上に、プレートを組み合わせたベストを羽織っている。

 エーメスやレルルは同じく鎖帷子の上に革鎧などだ。

 うちで唯一の戦士系であるカプルは、ごってりした金属鎧を身につけるが、これなどは俺には持ち上げることもできない。

 その為、半端な攻撃はすべて鎧が弾き返してしまう。

 技による防御を無視して怪力に物を言わせて大斧を振り回すカプルなればこその装備だ。

 逆に侍系のセスは鎖帷子ならぬ鎖腹巻きのようなものを胴に巻いているだけであとは着流しの軽装だ。

 戦闘中は盾も捨てるので、攻撃特化型だといえる。


 でもって俺なんだが、最近は薄い鎖帷子の上に革の胸当て、肘に固定する小さな盾という装備だ。

 鎖帷子が薄手の高級品に変わっただけで、あとは変わっていない。

 妖精の糸と言うもので作った超高級品の鎖帷子もあるらしいが、ものがないので買えなかった。

 あっても手が出ない金額だというが。

 そこでまずは盾を見直すことにしたのだ。

 今まで左腕につけていた小型の盾は、とっさの場合に顔や急所を守るといったおまけで、うまく受けられればめっけ物といった扱いだ。

 これは単に、俺に盾を使うスキルがなかったからだが、ここアルサの街にいる間は、じっくり時間を取って練習する余裕もあるはずなので、修行の方向性として、守備の要である盾に習熟してやろうと考えたわけだ。

 というわけで、さっきからとっかえひっかえ試しているのだが、一つ大きな問題がわかってきた。


「なんで盾ってこんなに重いんだ?」


 ということだ。


「しかし、打撃を受けきるにはそれだけの金属の厚みが必要になります。木材に板金を貼り付けたものもありますが、それでは以前のものと変わらぬでしょう」

「そうかもしれんが、こう重いと構えるだけでバテるぞ」

「そこは鍛えていただくしか……」

「ちょっと肉抜きするとかして、軽くだな」

「それでは強度が足りません」

「そうなあ……」


 疲れたところで、モアノアが蜂蜜のたっぷりはいった甘い紅茶を持ってきてくれる。

 それをすすりながらぼーっと考えていると、不意に思いつく。

 ハニカム構造とかそういうのにすれば、強度据え置きで軽くなるんじゃないか?

 工学系の知識は疎いが、それぐらいならわかるぞ。

 というわけで、早速昼寝から起きたばかりのカプルとシャミを呼んできた。


「ハニカムとはなんですの?」


 とカプル。


「蜂の巣ってあるじゃないか、六角形を組み合わせたやつ」

「ありますわね、よくメルビエの実家から頂いてますわ。先週頂いた蕎麦のはちみつもとても美味しかったですわね」

「その蜂の巣だけどな、あの巣の構造って凄く薄くて頑丈なんだよ」

「そうなんですの? 考えたことがありませんでしたわ」

「まあ、そうなんだ。それであの構造を活かして盾とか鎧を作れば、凄く軽量で頑丈なものが作れると思うんだ」

「いつもながら、突然思いつかれますわね。本当なら確かに素晴らしい発明になりますわ。シャミ、やってみましょう」


 カプルが言うよりはやく、シャミは準備を始める。

 出来立ての炉に火を入れて、鉄を溶かす。

 溶けた鉄をカプルが柄杓ですくい、錬金術用の装置の上から注ぐと、シャミが念仏を唱えながら成形していく。

 まずは一ミリぐらいの板を組み合わせた一センチの厚さの板を錬金術で生成する。

 錬金術で生成された鉄の蜂の巣は、どこにも繋ぎ目がなく美しい。

 そして、見かけ以上の頑丈さだった。


「たしかに、触っただけでも見かけ以上の丈夫さを感じますわね。この長さの板ですのに、持ち上げても歪みませんし」

「だろう。ほら、ジンクの作った塔も、細い柱にうまく力を逃して強度を出してただろ、これも似たような仕組みだよ。細かい理屈はわからんのだけど」

「そこが一番大事なところだと思いますけど、良いですわ、色々試してみますわ」


 ついで構造のサイズと厚みを変えたサンプルの板を用意する。

 これをデカイハンマーで殴って、強度を確かめるのだ。

 大雑把だが、実用的な強度検査だろう。

 丸一日かけて試した結果、重量が数分の一になった盾のサンプルが出来た。


「おお、軽い軽い、これなら俺でも使えるぞ」

「たしかに軽いのですが、これで本当に壊れないのでしょうか?」


 試作品を手にしたエーメスは不安がる。

 まあ気持ちはわからんでもないが。


「大丈夫だと思いますわ。試しにそこの床に置いて、このハンマーで殴ってみてくださいな。おもいっきりで良いですわ」


 カプルも自信たっぷりだ。


「それでは」


 エーメスは大上段に大ハンマーを構えて全力で振り下ろす。

 エーメスの怪力で衝撃を与えても、表面に張った鉄板が少しめくれたものの、本体はほとんど歪みもなかった。


「これは……もしかして、素晴らしいものなのではありませんか?」

「そうでしょう、装備に革命が起きるかもしれませんわね」


 更に実践スタイルで試す。

 その結果、強度に問題はないが、別の問題が出てきたようだ。


「本体が軽いせいでしょうか。衝撃が腕に直接来るのです。重い盾だと、なんというか盾自身が衝撃を吸収してくれるというか、そう言う気がします」


 エーメスがベテランらしい感想を述べる。

 なるほど、重さによる慣性で衝撃を殺してるのかな?

 よくわからんけど。

 要するに衝撃を逃がせばいいのか。


「もち手の部分にゴムなり板バネをかまして衝撃を逃したらどうだ? 素材を組み合わせてもいいかもしれんが。そういえば、人間の頭蓋骨は骨が別れて組み合わさってることで、衝撃を分散させて中の脳みそを守ってるとか聞いたことがあるな。そういうのが参考にならないかな?」

「頭蓋骨……。あれはたしかに、いくつか噛み合わさった構造になっていますわね」


 カプルは頷くがシャミは、


「見たこと無い」

「葬儀の時には見られますわ。長いこと神殿とつきあいがあると、よく目にしたものです。蜂の巣に頭蓋骨。なるほど、自然の中には参考になるものが多そうですわね」

「おもしろい」


 あとはなんだろう、身を守る物……ヘルメット。

 自転車のヘルメットは発泡スチロールでできてたな。

 あれは壊れることで、ダメージを逃すとか何とか。

 防弾チョッキとかも熱エネルギーにしてどうこうとか聞いたことが……。

 あれってどういう構造だろう?

 戦車とかは表面が爆発してダメージを相殺するとかもどっかで聞いたぞ。

 軍事ネタとかサバイバルで役立ちそうなのに全然知らないな。

 俺の知恵袋であるスマホで調べてみたが、あんまり役立つ知識は得られなかった。

 ネットに繋がればもっと分かるんだろうけどなあ。

 もっと色々知っとくべきだったなあ。

 プログラムの知識って全然異世界で役に立たないし……。

 それでも幾つかヒントは与えられたようだ。


「忙しくなって来ましたわ」


 カプルとシャミは楽しそうにしている。

 エーメスを実験台に、みるみる試作品の山が出来上がっていった。


 そうして新しい鎧第一号ができた。

 全体的にハニカム構造の部材を使い、強度と軽量化を両立している。

 それだけでも革新的だが、更にパーツの組み合わせで衝撃を逃がす工夫もしてあるようだ。


「ダメージを面方向に逃すように組み合わせて見ましたの。建築物がアーチで自重を分散させる仕組みと同じですわね。掛かる力を横に横に逃すように組んでありますわ」


 とカプル。

 構造的な工夫のせいで見た目はゴツくなっているが、それでも従来の鎧よりはだいぶ軽いようだ。


「あと足の骨の仕組みなども研究してみましたの。サウが解剖学に詳しかったので教わりましたわ。私、存じませんでしたが、画家というものは骨格の勉強からするんですのね」

「美術解剖学とかいうな」

「彼女も以前は街の画塾で学んでいたそうですわ」

「ほほう」

「とにかく、色々学びましたのですけれど、足には重い体重がかかるものでしょう。それをどのように分散しているのか調べていたのですけど、思った以上に多くの骨があるものですのね。しかも独特のアーチを描いていますわ。これを盾のもち手の部分に活かすことで、手にかかる直接的な衝撃がかなり分散されたと思いますわ」

「なるほど」

「他にも細かいところでは、まだ未完成ですけどヘルメットにライトが組み込めるようにしてあったり、手甲も大きくなった分、隙間ができたのでナイフを仕込んだり、胸当てに内ポケットをつけて、小物がしまえるようにと言った工夫もありますのよ」

「ほほう」

「あと、何でしたかしら、この水筒」

「ハイドレーションか?」

「そう、そのハイドレーション。背負い袋から羊の腸で作ったチューブを通して口元で飲めるものですけど、水分補給の手間も馬鹿になりませんから、長時間の探索では地味に効いてくると思いますわ。もっとも、革袋の水筒と比べてどっちが良いかはわかりかねますけど」

「そうだなあ、こまめに休憩を挟むダンジョンだと利点は少ないかもな。半日かけて山越えするとか、そういう時のほうが向いてるかもしれん」

「そうですわね。これも運用しての実験が必要ですわね」


 付き合わされていたエーメスも、


「これは鎧が変わると思います。ただ……」

「ただ?」

「見た目が少々……」


 頭も手足もゴツくてまん丸な塊が、まるで昭和のブリキロボットのようにも見える。


「構造が決まれば、外見はこれからいくらでも検討できますわ」


 カプルは気にしていないようだが、エーメスはまだ納得していないようだ。


「それに重い鎧は頑丈さの証。とくに戦士は体を鍛え、より重い鎧を好むと聞きます。我々が使う分には良いのですが、一般に普及させるには時間がかかるのではないでしょうか。私には商売のことは分かりかねるのですが」

「たしかに、そういう傾向はありますわね。冒険者はゲンを担ぐものですし。ですけど、そこのところはきっとメイフルがいい塩梅にやってくれますわ」


 そのメイフルは、現状で鎧を売る気はないようだ。


「うちも元々は冒険者道具をやってたからわかりますけど、ライバルの多い商売ですからな。たしかに今は冒険者ブームで需要もありますけどなあ。量産するにも工場を抑えるところから始めなあきまへんし」

「ふぬ」

「エーメスはんの言うとおり、戦士は成長の証として重い鎧を好みますしな。言い換えると、軽くて使いやすい鎧ってのは、初心者向けですわな」

「なるほど」

「そっち方面から需要を伸ばすんはありでっしゃろが……それに見たところ、まだまだ改善の余地もありそうですしな。しばらくかけてじっくり仕込んどくのがよろしゅうおますわな。その頃にはゲームの方もきっちり軌道に乗せますんで、改めて考えまひょ」


 メイフルがいうのももっともだ。

 そもそも、命を預ける道具だしな。

 うちもいきなり実戦投入は怖い。

 しっかり実験してから使うとしよう。




 それから数日後。

 ガラス工房のハマシロ姐さんが、できたばかりのレンズを持ってきてくれた。


「作ってみるまでは半信半疑だったけど、こいつは確かに良いレンズだ」


 そう言って同心円上に幾筋も切り込まれた板状のレンズを取り出して、手元のランプにかざすと収束された光が壁面を明るく照らす。

 切子細工の得意な彼女には、この作りは向いているかもしれない。

 こいつをヘッドランプに取り付けると、十分な明るさが確保できた。

 試作品を取り付けたカプルも満足そうに使ってみせる。


「光源の精霊石の純度も上げて有りますの。通常のランプより若干コストも掛かりますけど、悪くありませんわ」

「いや、こいつは大した発明だ。うちでも十年に一度ぐらいは灯台の仕事も受けるんだが、次にあった時にこいつを提案してもいいだろうか」


 ハマシロも手応えを感じたようだ。


「ああ、うちとしては構わないが、その時はまた、相談してくれ」

「わかってるさ、これだけの発明だ。お得意さん相手に仁義を欠くような真似はしないさ。肝心の食器が輸入品のせいで売れないんでね。こういう技で勝負できる部分で、商売の手を広げたいもんだよ」


 まあ、商売の話はカプルやメイフルに任せておくとして、俺は出来立てのヘッドランプであちこち照らして遊びまわった。

 そんなことをして遊んでいれば、当然フルンやエットがやってきて一緒に遊ぶわけだ。

 その結果、うっかり顔を照らして眩しさに驚き、茶碗を落としたアンに三人揃ってこってり絞られたわけだが、その話はおいとこう。


 その間にも毎日大量の試作品の道具やら鎧やらが開発されては潰されていき、裏庭はあっという間にガラクタ置き場になった。

 鉄は再利用もするのだが、それでもこれだけ鉄を集めると結構お金もかかってるんじゃないかなあ。

 と不安になってそれとなくアンに尋ねると、


「家計のうち、冒険にかける金額はデュースやレーンと相談した上で必要な予算を決めてあります。ここは命に関わりますので、従者の増加予想も踏まえて結構な割合を割いてあります」

「ふむ」

「騎士であるエーメスのように装備一式込みで来るものもいれば、エットのように剣や鎧を揃える必要がある者もいます。それを踏まえた額だと思ってください」

「なるほど」

「ですが現在は大きな冒険はしておりませんので、その分の予算の大半を、あの二人の工作費に回しました。ですから、今のうちに良い物を作って貰えると助かりますね。春以降はそちらに回せる余裕はなくなるかもしれませんし」


 とのことだった。

 ちゃんと考えてるんだなあ。


 鎧の方は、これから時間をかけて試行錯誤するということで、ひとまず俺専用の盾を作ってもらった。

 しゃがみこめばギリギリ全身を隠せる程度の大きさがある長方形の盾で、横方向に軽く弧を描いている。

 もちろん中はハニカム構造の板で、六角形のサイズをいくつか変えた立体構造でうまく衝撃を逃しているらしい。

 かなり軽いが、強度は相当なものだ。

 おそらくは溶接などではなく、錬金術による3Dプリンタ的な作りのために、接合部の強度なども強いのかもしれない。

 また、中のメッシュの隙間に黒の精霊石が何箇所か埋めてあって、魔法攻撃も弱めてくれるらしい。

 使い方としては、直接対峙した時に相手の攻撃を受け流すというよりは、正面に構えて、中距離からの弓や魔法攻撃を凌ぐのがメインになるそうだ。

 やはり盾で器用に受け流すのは難しいし、後衛で魔法組の護衛や前衛の補助に回ることが多い俺にはぴったりかもしれない。

 とにかく、新しい装備を手に入れるとさっそく使ってみたくなるのだが、エーメスは首を振ってこう言った。


「実戦投入するには十分な鍛錬がかかせません。これから毎日たっぷりと練習して、いかなる場合でも自然に使いこなせるまで特訓です。さあ、よろしいですか、ご主人様。頑張らなければ紅白戦の見学にも行けませんよ!」


 と張り切るエーメス。

 まあ、俺の相手をしてれば鎧の実験台にもならなくて済むだろうしなあ。

 紅白戦の第二試合は、数日後らしい。

 というわけで、しばらくは修業の日々が続くのだった。




 その日もみっちりしごかれて、やっとエーメスが開放してくれたので、俺は修行でへろへろになった体をお風呂でスッキリさせる。

 家馬車のお風呂も、ちょっと手狭なんだよな。

 うちの水回りは現在改良中で、井戸から汲んだ水を貯める大きなタンクが土間の側、裏口の方に据え付けられており、毎朝ここに水を組み入れる。

 溜まった水は木製のパイプを伝って、洗い場に流れるようになっている。

 これを風呂桶にも導けるようにするために、何やら炊事場の隣にお風呂を設置するようだ。

 今度のお風呂は洗い場が付いているので、全身をくまなく洗ってもらったり洗ってあげたりできる素敵仕様になっている。

 現在絶賛工事中だが、水回りは排水なども含めて、何かと手間がかかる。

 連日の忙しさもあって、こちらはなかなか進んでいない。


 その代わり、こたつはすでに試作品が完成していた。

 熱源を天板に貼り付ける、というのが難しいようで、中央に精霊石とそれを覆う二重の金網、そして耐火性の布で巻かれたヒーターが置かれたテーブルになっていた。

 その為に、テーブルは横長になっていて、熱源を避けるように、長辺方向から足を入れる構造になっている。

 もちろん布団はかぶせてあり、脚を突っ込んでみれば、感触はコタツのそれだ。

 実に快適であり、実に怠惰な生活が約束されたと言える。


「はー、なごむなあ」


 風呂あがりでくつろぐ俺。

 そのとなりでは一緒にお風呂に入っていたエットが、


「ぬくぬくー」


 と服も着ないでコタツに入っている。

 反対側では同じ格好のフルンが、


「あったかー」


 と丸まっている。

 まあ、二人共背中には結構毛が生えてるので、服は要らなくも見えるが。


「暖かいところにいると、冷たいものを食べたくなるよな」

「なにそれ、そんなもったいないことしていいの?」


 エットが目を丸くする。


「ははは、まあ、たまにはな」


 というわけで、晩酌の要望を聞きに来た牛ママのパンテーにアイスが無いか尋ねると、ちょうどルチアの店に卸す予定で余っていたものがあるという。

 そいつを出してもらって、三人で食べる。


「んまーい、暖かくて、冷たくて、さいこー。これ、こんなもったいないことしてバチあたらない? 大丈夫?」


 心配そうな顔で尋ねるエットにフルンが、


「大丈夫! アンが怒らない程度に食べてれば平気!」

「そっか、じゃあ、ゆっくり食べる。おいしい、はー」


 フルンもそうだったが、エットも実にうまそうに食うな。

 聞いた話では、エットの故郷の国は大半が地下にあって、土中の僅かな精霊石の明かりでほそぼそと育てた穀物を食っていたらしい。

 それでも食えるだけマシだったとかで、親のないエットは立場も弱く、群れから逃げ出し密航してきたんだとか。

 この世界って凄く平和で脳天気に見えるけど、まあ当然ながらそればっかりなわけもなく、俺の手の届く限りは、しっかり守ってやりたいところだ。


 食べ終わった頃に、集会所に居たイミアやエクが帰ってくる。

 チェス大会の後、子供が連日押し寄せるようになって、毎日手ほどきに忙しいらしい。

 少なくともこの辺りでは年寄り中心だったユーザー層ががらっと変わりつつあるようだ。

 これぐらい裕福な街だと、子供に売り込むのは正解だったかもしれないな。

 メイフルによると、大会の感触を見て、すでに子供向けの安価なチェスも追加発注済みだとか。


「みんな凄く楽しそうで。私が始めたころもああだったなーと思うと、教えるのがとても楽しいんです」


 イミアは嬉しそうに話す。

 エクは誰が相手でもマイペースなので問題なさそうだが、プールは子供になんで肌が茶色いのとか、魔界ってどんなのとか、人間食べるの? とか質問攻めにあって、だいぶ参っていた。

 今一人の常連である燕は、子供はうるさすぎて無理だと言って、足が遠のいているようだ。

 まあ、今の騒ぎが収まれば、どうにかなるだろう。


 例のごとく手の空いたものからリビングに集まってくるが、大人気のコタツは長机の両サイドに四人ずつ、八人も入れば満席で、当然大多数は余ってしまう。

 暖炉の前も定員は限られているので、なかなか全員が暖を取るという訳にはいかない。

 もっとも戦士組などは寒くてもへっちゃらと言う顔をしているし、家事組は、今も忙しそうに額に汗して働いている。


 もう一つの暖房器具である火鉢は、エレンとメイフルが占領しているようだった。

 火鉢を挟んで、干物を炙りながら、酒をちびちび飲んでいる。

 あれあれ、アレがしたかったんだよな。

 だが、あちらに行くとこたつは誰かに取られてしまうだろう。

 今日のところはコタツでがんばろう。


 やがて今夜の料理が運ばれてくる。

 最初に出たのは山盛りのスパイスで焼き上げたニジマスっぽい魚だ。

 香ばしい匂いが鼻孔に広がる。

 箸をつけると、締まった身がほろりと取れて、口に運ぶと実に旨い。

 隣のエットは俺を見習って箸を使おうとするが、うまく行かずにポロポロこぼす。


「無理せずフォークかスプーンを使ったらどうだ?」

「いい、これ覚えるから! エレンも手先の修行になるって言ってたし」

「そうか、しかし頑張って食べないとなくなっちまうぞ」

「ああ、だめ! まだ食べてない!」


 箸からこぼれ落ちる身を左手で受け止めては口に運ぶ。

 箸が口に到達する頃には、すでに身はなくなっている。

 前途多難だな。


「もっと指の力を抜いてだな、手の上に載せる感じで……」


 そう言って素っ裸のエットの胸の蕾を箸でつまむ。


「キャゥ!」


 びっくりして箸を投げ出すエット。

 そこに次の料理を運んできたアンが、


「エット、食事中に騒いではいけません!」

「だって! ご主人様が、おっぱいつまんだ!」


 あ、告げ口するんじゃない!


「ご主人様! そういうことは食事が終わってからにしてください!」

「すんません」


 くそう、怒られちまった。


「あはは、ご主人様も一緒に怒られた」


 何故か嬉しそうなエットを見て、アンは呆れた顔で戻っていった。


「ほら、風邪引くぞ、二人共服を着なさい」

「別に寒くないよ?」


 俺の言葉にエットが答えると、フルンもつられて隣のイミアに向かって、


「私も寒くない! イミアも脱いだほうがいい!」

「え、私は……その、後で……」


 そう言って恥ずかしがるイミア。


「あー、恥ずかしがるのもいいよね! ご主人様、そういうのも好きだし。でも難しい!」


 無邪気にはしゃぐフルン。


「ははは、無理に演技してもしかたがないだろう。普通にしてればよろしい。あとアンが戻ってくる前に、服は着なさい」

「はーい」


 服を着た二人は、ガツガツと食べ終わると、部屋の隅に走って行ってしまった。

 床ができてテントを畳んだので、部屋の一角に自分たちのスペースを作りつつある。

 二メートル四方ぐらいのスペースにクッションを敷き詰め、小さなテーブルが二つ。

 アフリエール達が勉強する机と、フルンがすごろくを作る机だ。

 そこに先日フューエルからもらった本棚も置き、カプルのしつらえた飾り棚に歴代のすごろくも並べてある。

 よく見ると貝殻とか綺麗な石ころも並べてあり、子どもたちの宝物なのかもしれない。

 ちゃんと飾ってるところが偉いよな。

 フルンが子供スペースに入ると、他の年少組もゾロゾロと集まってくる。

 ああして寝るまで一緒に遊んだり勉強したりするようだ。

 そんな様子を横目に見ながら、俺は改めてこたつに潜り込む。

 はあ、あったかいな。

 そこに、カプルとシャミが家馬車から出てきた。


「おう、なんか良い物できたか?」

「さっぱりですわ。先日、ご主人様に伺ったローラー式の印刷機を試してたんですけど、円柱状に版下を起こすというのが想像以上に難しいようで、ちょっとあきらめ気味ですの」


 隣のシャミもコクコクと頷く。


「なるほど、たしかに丸い形に置き換えて作るのは大変なのかもなあ」


 ちょっと俺には想像もできんな。


「あと、もう一つ、お湯が早く湧く鍋、というのも難しいですわね」


 こちらは、以前見たことがあるやつで、鍋の底が特殊な形をしていて熱効率が高く、すぐにお湯が湧くというアウトドア用の鍋なんだが、実物を持っていなかったので細かいところがわからないんだよな。

 なんとなく想像を交えて話したところ、興味を持って作っていたようだが、うまくいかないようだ。


「理屈は分かるんですけど、たぶん何か秘訣があるんですわね。ハニカムというのも作ってみなければわからないものでしたし、もう少し研究してみますわ」

「それで、鎧の方はどうなんだ?」

「こちらも研究中ですわね。ハニカムで強化するのは篭手や胸当てだけにして、既存の鎖帷子などとの組み合わせも考えていくべきですわね。どうしても厚みが出ますから、可動性との兼ね合いもありますわ」

「なるほど」

「もう少し研究したら、試作品を持ってダンジョンに潜ってみようと思いますわ」


 大規模な探索の時は、シャミも同行するという。

 鍛冶師ってのは欠かせないもののようで、ダンジョンの入口にはたいてい一つか二つは流しの鍛冶師が屋台を出している。

 刀を研ぎ直したり、壊れた鎧を直したりするらしい。

 ベテランのデュースによると、


「試練の塔だとあまり必要ないですけどー、天然のダンジョンやフィールドの探索では色々工具も必要なんですよー。橋が流されていたら簡易の橋をかけ直したりー、あるいは洞窟の裂け目からロープで潜ったりー」

「そういや、ロープとかこっちに来てから使ったこと無いな。カラビナとかあるのか?」

「カラビナとはなんでしょー」

「こう、輪っかになった金具でな、ロープと一緒に使うんだが」

「そういうのは使いませんねー。ロープを木や岩に括りつけてー、それを握って昇り降りしますねー。持ちやすいように結び目を作ったロープをー、いつも二本は持ち歩いてるはずですよー」


 そんなロープで登り降りするのは怖いな。

 クライミングはあまり詳しくないんだが、知ってる範囲でロープを使った保持や、懸垂下降の仕方を説明する。


「ずいぶん、複雑な仕組みなんだねえ」


 盗賊のエレンやメイフルも興味深そうに寄ってくる。


「安全性とスムーズさを考えるとな。今言ったカラビナとロープさえあればどうにかなると思うんだが。あとエイト環とかハーケンとか色いろあるんだけど……」

「では、ひと通り作ってみますわ。負荷を考えるとかなりの強度がいりそうですけど、素材から吟味しないと難しそうですわね」


 カプルも真剣な顔でうなずいている。

 いざとなればオーレが飛んでくれるのでどうにかなるとは思うが、上下移動は天然ダンジョンだと要りそうな気もするしなあ。

 鎧と合わせて、こちらもやっといてもらおう。


 カプルとシャミの大工コンビは食事を終えると再び家馬車の作業スペースに引きこもってしまった。

 俺は手持ち無沙汰なので、コタツの向かいで飲んでいたイミアを招き寄せる。

 一見細身で少女らしさも残るイミアは、腰回りなんかにもしっかりお肉がついていて、抱きしめると割と量感がある。

 酌をする仕草にもほんのり色気がある。

 これが従姉妹で一つ年下のサウになると、途端にヤンチャな感じになるので面白いもんだ。

 そのサウはまだロフトにある自分のアトリエで作業しているようだ。

 職人組はだいたいのめり込むと食事も忘れて出てこないからな。


「サウにはさっき夕飯を持って行きました。たぶん、夜中までやるつもりじゃないでしょうか」

「しかしまあ、すごい集中力だよな。手も早いし」

「サウは子供の頃から書き始めると止まらなくて、昔海岸で遊んでた時に、砂地に落書きしてたんですけど、ちょっと目を離したら見える範囲を全部よくわからない模様でうめつくしてたこともあって」

「はは、たしかにやりそうだ。だが、イミアもチェスをやり始めたら何も耳に入らなくなるって、お母さんが言ってたぞ」

「え!? 母がそんなことを? い、今は大丈夫です。ほら、ちゃんとお酌もできますし」


 そう言ってまだ減っていないグラスに継ぎ足すと、話題を変えてきた。


「ところで、春になると海をわたって試練に行かれるんですよね?」

「ああ、そのつもりだけど」

「ここはどうするんです?」

「それなあ……」


 当初は仮住まいのつもりだったが、商店街にこれだけ入れ込んでしまっては、捨てて出て行くわけにも行かないよな。


「お前たちを置いていくわけにも行かないし、半年ほど休業ってことになるのかな?」

「それですけどな」


 後ろの火鉢で飲んでいたメイフルが口を挟む。


「当初、バンドンの方から誰ぞ貸してもらって店番頼もうかと思ってたんですけど、イミアはんの実家にお任せするんもええかもなあ、思いましてな。血縁のほうが安心ですしな」

「だったら、今度おじいちゃんに話してみますね」


 とイミア。


「そんときはうちも行きますわ。工場の方も春には軌道に乗っ取るやろうから、そっちも大丈夫でっしゃろ。色々あって、ちょいと村の商売もやりやすうなりましたしなあ」


 とのことだ。

 たぶん、大丈夫なんだろう。

 安心したところで飲み直そうと思ったら、二階からサウが降りてきた。


「よう、もう終わりか?」

「なんか今夜はダメみたい。こういう時は諦めるのも肝心よね」

「そりゃそうだ。こっち来て飲もうぜ」

「そうする」


 イミアと交代で、今度はサウを隣に抱きかかえる。

 骨盤のあたりを触ると、わりと骨っぽい。


「ねえ、これもう空よ?」


 サウが瓶を振る。


「じゃあ、次はこれかな」


 新しい酒瓶を開けて味見してみると、なかなか刺激的な香りだ。


「ミルク割りとかいいんじゃないかしら、これ」

「ふぬ、じゃあ割ってみるか」

「取ってくるわ」

「いや、目の前にあるじゃないか」


 と俺の対面に移っていた牛ママのパンテーを指さす。


「あら、そうだったわね。パンテー、お願い」


 とサウと俺がグラスを差し出すと、パンテーは最初意味がわからなかったようだ。


「えっと、じゃあ絞った分を持ってきますね」

「違う違う、そうじゃなくて、今ここで絞ってグラスに注ぐの。ご主人様、そう言うの好きじゃない」

「ええ! そ、そんなこと……皆さんの前で!?」

「大丈夫よ、今更恥ずかしがってもしょうがないじゃない。昨夜も一緒にご奉仕した仲でしょ!」

「で、ですけど……」

「ほらほら」


 サウに促されて、パンテーは胸元をはだけて乳房を露出させる。

 俺達はグラスを差し出して、搾り出される瞬間を待ち構える。


「で、では……」


 顔を真赤にして自分の乳房を絞るパンテー。

 先端を摘んで、クニクニっとやると、ぴゅうっとグラスに注がれる。

 さらに数回、ぴゅぴゅっとミルクがいい感じに注がれた。

 こんな贅沢は、俺の想像の範疇を超えてたな。

 ほんと、異世界に来てよかったなあ。

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