第149話 カッターレース

 パンテー親子のことは、ご近所様には快く受け入れられた。

 というか、だいたいみんな時間の問題だと思っていたらしい。

 一人をのぞいては。


「なんでだ、なんでお前ばっかりもてるんだよ!」


 ただ一人、まったく想像もしていなかった果物屋のエブンツが愚痴る。


「まあまあ、いいじゃないですか。めでたいことですし」


 とパン屋のハブオブ。


「そうそう、気にせずにまずは乾杯と行こうぜ、カンパーイ」


 俺の掛け声で、三人は酒場で乾杯する。

 三人というのは果物屋のエブンツとパン屋のハブオブ、そして俺の三人だ。

 祭りの支度で一緒に働くうちに、こうして男三人で時々飲みに来るようになってしまった。

 まあ、そういうのもいいもんだ。


「ぷはー、うめえな。おう、何食うよ」

「そうだなあ」


 エブンツの問に生返事をしながら、俺は壁に書かれたメニューを眺める。

 料理の名前しか書いてないからわからんのだよな。

 海外のメニューも大抵そうだったけど、日本のメニューは親切だったからなあ。

 案外、そういうところにも客寄せのヒントがあるかもしれん。


「このカンピーレのペニョーレ風ってなんだ?」


 メニューを指さして尋ねるとエブンツが神妙な顔で、


「そりゃおめえ、カンピーレのペニョーレ風……だろう」

「それで答えたつもりか、お前は」


 とは言うものの、俺の言葉の知識も、わかるものとわからないものがあるからなあ。

 固有名詞はそのまま翻訳されてるっぽいけど、似たようなものの場合は翻訳、というか頭のなかで俺の知ってる言葉に結びついてるっぽいし。

 どこで線引されてるんだろうな。


「しらねーのはお互い様じゃねえか、食えばわかるんだよ、それ頼もうぜ」

「おう、そうだな。じゃあこれと、あとこのシャボシャボ焼きってのはなんだ?」

「しらねーよ、俺も田舎から出てきたから、こんなハイカラな料理わかんねえよ」

「シャボシャボはシャボという小魚をパイで包み焼きにしたものだと思いますよ。前に食べたことがあるんで」


 とパン屋のハブオブ。

 無口で人見知りするタイプだが、最近はすこし打ち解けてきたようだ。


「じゃあ、それも。おう、ねーちゃん、これ頼むわ」


 エブンツが呼び寄せたウエイトレスは二十代半ばのムッチリした健康的な女だ。


「あら、エイーラのお兄さん、珍しいじゃない」

「えっ!? えーと」

「ハンプスよ、覚えといてね」

「お、おう」

「あら、もう赤くなっちゃって、まだまだ飲んでってよ」


 ムッチリちゃんはでかい尻を振りながら去っていく。

 エブンツはウブだからな。


「なんだよ」

「別に」

「ちっ、俺とお前で、そんなに違うもんかね?」

「さあな、俺は別に女性と喋ってあがったりはしないが」

「お、俺だって別にあがってるわけじゃ……、でもほら、なんかこう、馬鹿にされるんじゃないかとか、恥ずかしいことしちまわないかとか考えちまってよう、萎縮するっていうか」

「わかりますよ、僕も女性にかぎらず人前ではいろいろ考えてしまって。皆さんは仲良くしてくださるので、こうして会話できますが」


 ハブオブも同意するが、エブンツはせっかくの味方に矛先を向ける


「何言ってやがるハブオブ、お前、彼女いるんだろうが!」

「え、彼女というか、幼なじみで……」

「一緒だよ! わざわざ出てくるんだろ! いつ来るんだよ!」

「紅白戦を見たいというので、たぶん近々……」


 つまり、先日見かけたご婦人は、やはり別人か。


「くそう、どうせサワクロもあの金髪美人と行くんだろ?」


 エブンツはまた俺に絡んでくる。


「彼女は騎士団だから出るほうだよ」

「くそう……はあ、俺にも春がこねえかなあ」

「これから来るのは冬だ」

「うるせえ」


 毎日手の届かない美人が周りに溢れててストレスが溜まってるみたいだな。

 こういう時は、おとなしく飲むに限る。


「まあ、気にせず飲め、せっかくの旨い酒だ」

「まったくだ、今日はとことん飲むぞ、ちくしょうめ」


 そんなことを話しながら、ぐびぐびと酒をあけていく。

 気がつけば店の奥で聞き覚えのある音楽が流れてくる。

 春のさえずり団にBGMとして演奏してもらってた曲だな、これ。

 そうか、音楽ってこういうところで普段接するんだな。

 オルガンっぽい鍵盤楽器の軽妙な演奏に耳を傾けていると、何皿目かの料理が運ばれてきた。


「どうぞ、本日の目玉、水色鯛のチリソースあえです」

「あれ、頼んだっけ?」

「僕のおごりですよ」


 そう言った給仕を見ると、エブンツの義理の弟、ハッブだった。


「お、ハッブ、おまえ厨房じゃないのか?」


 驚くエブンツに、義弟は礼儀正しく頭を下げる。


「義兄さんが来てると聞いたもので、お二人もようこそ」


 客商売を抜きにしても、ハッブは実に良く出来た好青年だ。

 いつも朝早くから夜遅くまで働いているのでめったに顔を合わせないが、料理人としての腕もいいらしい。


「やあハッブ、そういうことならごちそうになるよ」

「ええ、どうぞごゆっくり。忙しいので僕は失礼しますが、お三方はごゆっくり楽しんでいってください」


 俺が礼を言うと、ハッブは厨房に引っ込んでいった。


「よく出来た義弟じゃないか」

「まあなあ、うちの妹にはもったいないが」

「逆だろ、エイーラちゃんがお前にはもったいない妹なんだよ」

「うるせえ、どうせ俺はこのまま独身でだらだら爺になっちまうんだよ、ひっく」

「なんだもう酔っちまったのか?」

「まだまだ序の口だよ! もっと飲むぞ!」


 結局、ぐてぐてになるまで酔っぱらい、俺達は店を出る。

 店から俺達の家までは、通りを一本隔てているので、歩いて十五分程度だ。

 飲んでる間に降ったのか、道にはうっすらと雪が積もっている。


「うへえ、寒いな」

「そうですね、もうすっかり冬のようです」

「うぃー、ひっく、どくしんがーなんだぁー」

「あまり大きな声を出すと、ご近所迷惑ですよ」

「うるへー、うるへー」


 酔っ払って絡むエブンツを、ハブオブがなだめる。

 俺は飲み過ぎてちょっと無口になっていた。


「うへぇ、うへぇ」


 とうとうエブンツはろれつも回らず、まともに歩けなくなったようだ。

 俺とハブオブが両脇を抱えて酔いつぶれたエブンツを抱えて歩く。

 とは言っても、俺とハブオブも結構酔ってて千鳥足だ。

 まいったね、こりゃ。

 角を一つ曲がったところで力尽きて、街頭横のベンチに腰掛ける。

 こういうのがちゃんとしてるのは文明の高さを感じるねえ。

 うちから誰か迎えを呼ぶべきか。

 見ると通りの反対側でも酔っ払いが寝てた。

 風邪引かなきゃいいけどな。

 というか、追い剥ぎはいないのか?

 祭りの期間中だけあって、この時間でもそこそこ人通りはあるが、それもまばらで、少し裏に回れば真っ暗だ。

 と思ったら、すぐに巡回の警吏がやってきて向こうに声をかける。

 しばらくすると、もう一組、今度はこちらにやってきた。


「ほら、お前たち、こんなところで寝てないで、さっさとうちに帰れ。身ぐるみ剥がれても知らんぞ」


 どこかで聞いた声だと思ったら、ヘンズ曹長だ。

 先日ボルボルと会った時に絡まれた街の岡っ引きで、聞くところによると遣り手らしい。


「なんだ、旦那ですかい。困りやすよ、こんなところで」

「ああ、すまないな親分。ちょいと飲み過ぎちまってね」

「お宅はそこでしょう、送っていきますよ。旦那に何かあったら、モアーナのお嬢に絞められちまう」

「はは、俺はそんな大層なもんじゃないって。でも、彼を頼むよ。自分が歩くだけで精一杯だ」

「おい、コズ、その酔いつぶれてるのを担ぎな」

「へえ」


 ヘンズの連れの若い警吏が、エブンツを軽々とかつぎ上げる。

 固太りのエブンツは結構重いんだけど、たいしたもんだ。

 家まで送ってもらい礼を述べると、ヘンズは面倒くさそうに返事を返す。


「それじゃあ、あっしはまだ巡回がありますんで」

「ありがとう親分、こいつは少ないが……」


 と言って、少々多めにコインをつかませる。


「困りやすねえ、旦那。こいつは仕事のうちなんで」


 そう口では言いつつも、ヘンズは素直に受け取る。


「なに、運んでくれた彼にもいっぱい飲ませてやってくれ」

「へえ、それじゃあお言葉に甘えやして」


 そう言うと、ヘンズとその子分は去っていった。




「また随分と飲まれたようですね」


 家ではアンがあきれ顔で出迎えた。


「男同士の付き合いってね、歩いたら酔いが回っちまった」

「もう……、ちょっと誰か、手を貸してください」


 従者たちの手を借りながら、俺は暖炉前のソファにふんぞり返った。

 アンとペイルーンが俺の服を脱がして、熱いおしぼりで体を拭いてくれる。

 極楽だなあ。


「ほら、これでも飲みなさい」


 ペイルーンが差し出した悪酔いを避けるという丸薬を、冷たい水で飲みこむ。

 はあ、水がうまい。

 あらためてふんぞり返ると、ぐっと酔いがきた。

 ああ、世界が回るねえ。

 こんなに飲んだのは久しぶりだな。

 うちだとあれでも余裕をもたせてたんだなあ。

 そういや、会社勤めの頃はしょっちゅうグテングテンになるまで飲んで酔いつぶれてたな。

 そうだ……、あの日、会社が潰れた日も俺は酔いつぶれて……。




 いつの間に眠ってしまったのか、気が付くとすでにまわりはうっすらと明るかった。

 幸い、頭もスッキリしている。

 二日酔いの心配はなさそうだ。

 丸薬が効いたかな?

 それでも微妙に喉が渇く。


「おーい、アン、ウクレー、だれかー、モアノアー、リプルー、水くれー、水ー。パンテーでもいいぞー、ダイレクトでー」


 暗い内から起きてそうな連中に声をかけるが返事がない。

 しょうがないなと体を起こすと、周りは真っ白いモヤだ。

 あれ、どこだここ?

 こういうの夢でよく見たような……。

 なんとなくほっぺたをつねってみると、すごく痛い。


 起き上がろうと地面に手をつくと、下は芝生の生えた土の地面だ。

 なんだこりゃ。


「おーい、だれかー、アーン、デュース、だれかー」

「そろそろ私の名前も呼びなさいよ、アンばっかり二回も呼んだわよ」


 突然、後ろから声が掛かる。


「燕か?」


 あわてて振り返ると、全身が光り輝くありがたい何かが立っていた。


「そうよ」

「え、でもお前光ってるぞ」

「インフォミナルプレーンではこんなもんよ。ちょっと待ちなさいよ……イメージを実体に合わせるから……とこんなもんかしら?」


 いつもの姿に戻った。


「まったく、なにやってるのよ、こんなところで」

「いや、何と言われても。ここどこ?」

「どこって、あんたの中でしょうが」

「中? 中ってなに?」

「あんたそのものよ! わかるでしょ!」

「わからん!」

「ああもう、面倒ね」

「それよりも他のみんなはどこだ?」

「私だけよ。今ここにフォールできてるのは私だけね。マテリアルプレーンからのライズはまだ無理かしら。たぶん、私と紅はできるはずだけど。紅は何度か来てるでしょ。私は先の遠耳の呪文でリンクを何本か増やしたからいけるんだけど、まだ自覚できてないみたいね」

「ほう。で、つまりどういうこと?」

「だからつまり、あんたは物質世界では肉の体を持った存在だけど、上位次元では情報だけで構成されてるわけじゃない。言い換えると上位次元の情報体であるあんたは下位次元に物質として投影されてるわけよ。で、ここはその中間ぐらいの世界であんた自身が内包する世界を具象的に表現した世界ね。物質化のためのバッファってとこかしら」

「なるほど、わからん」

「わかるでしょ!」

「どうやって!」

「つまりあんたが自分の心の中に作った異世界みたいなもんよ、あんたとあんたの眷属である私達だけが入れる世界」

「なるほど、ちょっとわかった」

「ほんとに?」

「ここがどういうところかはちょっぴり分かったが、なぜここにいるのかとか、ここは何をするところかとかはまだわからんな」

「何故いるのかは知らないし、何をするかはあんたが自分で決めなさい」

「それじゃあ、とりあえず帰りたいんだけど。喉乾いたし」

「その辺に出口のゲートがあるんじゃない?」

「ゲート? 真っ白いあれか?」

「そうよ。もっともここのゲートは外のあんたにつながってるから白くはないと思うけど」

「そうなのか?」

「普通のゲートはすべてのゲートにつながってるから無限の景色が重ね合わさって白く見えるのよ」

「ほほう」

「とにかく、ゲートを探しましょ。その辺にあるでしょ」


 二人でモヤの中をぶらぶら歩く。


「せめて見晴らしが良ければ探しやすいのにな」

「なら、自分でどうにかしなさいよ」

「どうやって?」

「もう、しょうがないわね」


 燕が右手を上げてさっと振ると、たちまち強烈な風が吹き付ける

 吹き飛ばされそうになって燕にしがみつくと、


「あら、壁を作るの忘れてたわ」


 そう言って燕は再び手を振る。

 それで風はピタリとやんだ。

 霧が晴れると、あたりはどこまでも続く草原だった。

 空には星……じゃないな、なにかメロンの皮のような網目状の光の筋が広がり、地平線はやはりモヤで覆われている。


「あれじゃない?」


 燕の指差す先には、なにか四角いものがあった。


「これ、カプルが作った匣じゃないか」

「そうなの? これ、子宮よね」

「え、子宮?」

「そうよ。これで誰かを生むんでしょ。エネアルはこれで受肉するつもりかしら?」

「受肉ってのはつまり肉体をもつってことか?」

「そうね、物質世界にフォールすることよ。ここより下には体がいるもの。私みたいに人形でもいいけど」

「ふむ、その為にこれがいると」

「他の誰かが使うのかもしれないけど」

「誰かって?」

「さあ、知らないけど」

「エネアルってお前の上司……だっけ」

「上司というか、姉というか、そういうのよ。私達アジャールの闘神は、みんな生まれ変わって姉妹になったの。今私達があんたと契約して姉妹になったみたいに」

「へえ、よくわからんが」

「別にどうでもいいわよ。そっちは済んだ話だし」


 そんなことを話しながら草原を歩く。


「昔見た夢の中では、ここみたいなモヤの中で、そのエネアルが出てきてた気がするんだよなあ」

「そうね、でも彼女はもう、ずっと上のプレーンまで戻ってるわ」

「なんで?」

「むしろ今まで無理して下まで降りてきてたんでしょ、あんたのために」

「俺のため?」

「あんたが頼りないからでしょうが」

「まあ、頼りないのは自覚あるが」


 カプル特製の匣にたどり着くが、ゲートのようなものはない。


「おかしいわね。どうやって戻るのかしら?」

「そうだな」

「そうだな、じゃないでしょう。ここはご主人ちゃんの中なんだから、あんたが自分でどうにかしなさい」

「そういう不安になることを言うなよ、俺にはさっぱりわからん」


 そういって無意識に胸元のペンダントをつかむ。

 俺の紳士の証だという赤い石は、ガキの頃から握り締めると心が落ち着く。


「ああ、それよそれ、それがゲートよ!」

「え、これ?」

「そうよ、ほら、そこに入れば……」


 そう燕が叫んだ瞬間……世界が真っ白になって、意識が途絶えた。




「むにゃむにゃ」


 寝ぼけて目の前にある柔らかいものをつかむ。

 この感触はまだ馴染みがないな。

 ふむ、パンテーか。

 でかくて柔らかい。

 目を開けて答え合わせをすると、正解だった。


「おはよう、パンテー」

「お、おはようございます」


 顔を真っ赤にして答えるパンテーは、とても初々しい。

 アンも昔はこうだったのに、最近はすっかりベテランになってハード路線だからなあ。

 そういえば、なにか大事な夢を見た気がするが、目覚めのおっぱいですっかり忘れてしまった。

 まあおっぱいより大事なことなんて、そうそう無いだろう。


 まだ外は暗いが暖炉にはすでに火が入っていた。

 沸かしてあったお湯を少し貰って顔を洗い、裏庭に出ると、エーメスがいた。


「早いな、眠れなかったのか?」

「すこし考え事を……」


 そう言ってエーメスは湖を見つめる。

 今日から赤竜騎士団と白象騎士団の紅白戦がはじまる。

 その第一弾、カッターレースがこの湖で行われるのだ。


「カッターは我々の本職のようなもの、これだけは負けるわけには行かないので、みな必死になって練習したものです」

「ここからでも見られるかな」

「おそらくは。ただ、スタートとゴールは東港なので、あちらで応援したほうが盛り上がるかもしれません」

「だったら、今日はみんなで行くか。そういやチケット貰ってた気がするな」


 実はエディとメリエシウムの両方から貰ってるんだよな。

 凄く困る。

 どっちを使えばいいんだ。

 こんなことで困ってると、まるで俺がダブルブッキングで途方に暮れてるスケコマシのナンパ野郎みたいな気がしてくるじゃないか。


「レースは午後です。出向くのは昼前でよいでしょう」

「ふぬ」

「友人たちの晴れ舞台、ぜひとも応援しなければ」


 そう言ってエーメスは笑う。

 まああれだろう、騎士団に未練がないわけじゃあるまい。

 思い入れが強いからこそ、すぐに切り替えられるものじゃないだろうが、エーメスなら自分で自分に区切りが付けられるだろう。

 今日のところはエディには悪いが、白象を応援させてもらおうかな。


 アンを始めとした家事組はすでに朝の支度を始めていたが、添い寝をしていたパンテーもすでに着替えて料理を手伝っている。

 パンテーは今までミルクを卸していたお店に話をつけて、段階的に納品を減らすことにした。

 いきなりやめるってわけにもいかないしな。

 ミルクはうちで消費する分だけでも足りないぐらいなので、それはいいのだが集会所を挟んだ先にあるパンテーの家は、とりあえずそのままだ。

 ここと違って借家だった彼女の家は年内までの家賃が収めてあるので、すぐに引き払う必要もないが、あまり使い道もないんだよな。

 むしろ新規に貸し出して、新しい人に小売業をはじめてもらったほうが商店街の活性化につながるんじゃなかろうか。

 そんなことをメイフルと話すと、


「そうですなー、とはいえ、うちも年内は手一杯ですからなあ。なんぞアイデアありますのん?」

「軽食はかぶるし、飲み屋をやるようなスペースでもないだろう」

「そうですなあ。まだ商店街のカラーってもんも決まってまへんけど、喫茶にパン、果物に御札、本屋にチェスとまあ、バラバラですからな。その方向で被らんもん入れたほうがええかも知れまへんな」

「だよなあ。家で言えば、丸薬とかをまた売ってもいいのかもしれんが」

「あれも旅先ならともかく、こない大きな街やと微妙ですな。ペンドルヒンの置き薬とかも普及してますし、医者のコネもおまへんしな」


 つまり新規参入が難しい商売なのか、まあ必需品ほどそうなのかもしれん。

 とりあえず保留だな。

 朝食の後、パンテーとリプルが乳を絞るというので、俺は主人の勤めとして最初から最後までしっかり見守った。

 その大切な仕事を終えたあと、もうひとつの仕事として、俺は商店街に出てバンドの四人に声をかける。


「祭りもあと少しだけど、君たちのおかげで大盛況だ。本当にありがとう」

「い、いえ、私達こそこんな体験をさせてもらって……とても感動してます」

「そりゃあよかった。とにかく、最後までよろしく頼むよ」

「はい、がんばります」


 四人にはファンも出来たようで、連日詰めかける者も居るようだ。

 握手会でもしたら儲かりそうだな。

 グッズとかあればいいんじゃなかろうか。

 アイドルグッズって何があるんだ?

 しまった、俺全然アイドルに詳しくない。

 何を売ればいいんだろう、プロマイドとかか?

 いかん、この世界に写真はまだないんだった。

 CDもないし……うーん。

 といったことを再びメイフルに相談する。


「プロマイドってなんですのん?」

「写真はわかるか?」

「大将のおもちのそれで取れる、そっくりの絵のことですな」

「これをな、綺麗に印刷してだな、サインとか入れて売るんだ」

「ははあ、たしかにそっくりの絵が買えるんなら売れますわなあ」

「けど、写真は無理だしなあ」

「でしたら似顔絵はどうですのん。サウはんに描いてもらえばええですやん」

「おお、なるほど」


 というわけで、今度はサウに話を振ってみたが、難しい顔をする。


「だめかな」

「うーん、私の絵でいいならいくらでも描くけど、たぶんそれを欲しがるファンの人って彼女たちそのものが好きなんでしょ。だったら似顔絵にしてもそっくりな方が売れると思う」

「なるほど、そりゃそうか」

「肖像画を描くような絵画工房がこの街にもあるから、そういうところに依頼したほうがいいと思う」


 もっともな意見だ。

 サウもだんだんプロっぽくなってきたな。

 それはそれとして、どうもイメージがまとまらない。

 近いうちにエッシャルバンと相談してみようかな。

 彼は本業が忙しくなったので、しばらくは会えそうにない。

 まあ祭りが終わってからでもいいかもしれない。




 早めの昼食を終えて、うちを出る。

 お供はエーメスのほか、十人ほどだ。

 それでも三分の一に満たないわけだが。

 うちの従者も今や三十三人。

 クロみたいな特殊なものも居るが、もはや学校の一クラスより多いんじゃなかろうか。

 一人一晩でも一月以上かかるんだぞ!

 まったく、とんでもない話だな。

 残りの従者は手が空いたら裏庭から見ると言っていた。

 もっとも街の大半は紅白戦を見るので、あまり仕事はないだろうが。


 東港につくと、すでに多くの観客で賑わっていた。

 湖岸に階段上のシートが設置され、そこに並んで見るらしい。


「出遅れたみたいですね、随分並んでいます」


 とエーメス。


「仕方ない、まずは並ぼう」


 列に並んで順番を待つ。

 やっと順番が来てメリエシウムからもらったチケットを見せると、奥の特等席に通されてしまった。

 普通でよかったんだけど。

 周りには街の有力者が大勢いて、知った顔もちらほらと。

 何人かは俺に気がついて挨拶に来るので適当に返していたが、そのなかで一番知った顔の有力者である某領主のお嬢さんは最後に挨拶に来た。

 来たのはいいが、俺はスルーして隣に座るピューパーに話しかける。


「ピューパーちゃんも来てたのね、お母さんは?」

「ママはお仕事の合間に、家で見るって」

「そう、じゃあ今日はおばさんとみようか」

「うん」


 そう言ってピューパーの隣に座る。

 必然的に俺は押し出されてしまった。

 そんなに俺の隣に座りたいなら、そういえばいいのになあ。


「ピューパーちゃんはどっちを応援するのかしら?」

「わかんないけどエディおばさんの方かな?」

「じゃあ、赤竜ね」

「でも、エーメスは白象です」


 ピューパーの隣に座っていた撫子がそう言って身内をフォローする。

 よくできた幼女だなあ。


「そうなんだ、じゃあ家族だから白象を」

「自分は赤竜でありました、赤竜も応援して欲しいであります」


 とレルルが余計なことを言う。

 こっちはあんまりできてないな。


「え、そうなんだ。どうしよう……困る」

「かわいい従者が困ってますよ?」


 フューエルが意地悪そうに俺に丸投げする。


「そういう時はな、負けてる方を応援すると盛り上がるぞ」

「わかった」


 ピューパーは納得するが、フューエルは呆れた顔で、


「またそんな日和見的な。もう少し教育的なアドバイスをなさるべきでは?」

「これが俺の生き様なんだよ!」

「でしょうね」

「それよりも、両団長はどこにいるんだろうな、やっぱ陣頭指揮かな」

「だと思いますよ。あの天幕のあたりでは? 試合の後にでも挨拶に行けばいいでしょう」


 そうこうするうちに最初の選手が出てくる。

 レースはシンプルなもので、目の前の東港から出発し、湖中央のブイを回ってここに戻ってくる。

 チームは各騎士団それぞれ五チーム。

 双方が順に一チームずつ出て競い合い、勝率を争う。

 総当りじゃないので、出場する順番も重要だな。

 場合によっては三回戦で決まっちまうかもしれないわけだ。


 細長いボートにはそれぞれ九人ずつ乗っており、八人がオールを漕ぐ。

 残り一人はリーダーとして先頭に立って旗を掲げている。

 あれを落としても負けらしい。

 そんな負け方をしたら、辛いだろうなあ、などとシロウトっぽい感想をエーメスにぶつけてみると、


「ただの力任せのレースではありません。湖上で十分に力を発揮するには、安定してボートを進める必要もあります。あれはそのためのものなのです」


 なるほど。


「おお、赤竜の先鋒はサーレッツでありますな。彼の乗馬技術には定評があるであります。船の上でも同様に見せてくれるでありましょう」


 レルルが鼻息を荒くすると、


「白象はカモラですね。今年は先鋒を変えてきたようです。例年はエースのユルーネなのですが」


 エーメスも負けじと力む


「むむ、白象は隠し球でありますか?」

「いや、カモラも十分な手練。先鋒でもおかしくはありません」

「なんにせよ、始まればわかることであります」


 高らかにドラが鳴り響き、最初のレースが始まった。

 リーダーが振る旗にあわせて、オールが動く。

 立ってるだけじゃなくて、まさに指揮者なわけだ。

 感心していると、側に居たエーメスが解説してくれる。


「オールを漕ぐ者達は皆歴戦の騎士。単純な力で優劣は決まりません。そうなれば結局はリーダーの指示が勝敗を分けるのです」

「ほほう」

「湖上は一見穏やかに見えますが、ああ見えて複雑に水は流れ、波も打ち寄せます。それを見極めながらオールを漕ぎ、船を進めるには高度な指揮能力が求められるのです」

「なるほど」


 だんだんややこしくなってきた。

 よくわからんので、無心で応援しよう。

 現在は赤竜が頭ひとつ抜けているが、誤差みたいなものだ。

 今日は白象を応援することに決めていたが、さっきの発言の手前、上辺はフレキシブルに応援することにした。

 撫子やピューパーも立ち上がって声援を送っていて楽しそうだ。




 前半戦、先鋒は赤竜が取り、ついで次鋒も赤竜が取った。

 このままだと次で決まるんじゃないか?


「カッターは例年白象に水をあけられていましたが、今年は非常に優勢でありますな!」


 レルルは鼻息を荒くする。


「むうぅ、カモラもハントックも健闘したのですが……」


 エーメスも熱くなってる。


「おお、中堅は我が乗馬の恩師ベークス卿でありますな! これはもう頂いたであります」

「なんの、我らも次に出るは我が友人にして白象の白眉と歌われたユルーネ。彼ならば必ずや勝利をわれらに」


 二人共いつの間にか騎士団を代表しているようだ。

 そういえばこの二人は以前もエキサイトして私闘に走ったとか何とか言ってたな。

 一見正反対のようだが似たもの同士なのか。

 これじゃあ相性が良いのか悪いのかわからんな。


「良いのですか? 文武ともに人の規範となるべき騎士があのようなことで。子どもたちも見ているのですよ」


 とフューエル。


「世の中には引くに引けない時もあるのだと学んでもらわないとな」

「ああ言えばこう言う」

「ははは、そんなに人間、都合良くはできてないさ。ほら、始まったぞ」

「もう……」


 呆れるフューエルをほっといて、俺はレースを応援する。

 周りのお上品な観客も、こうなると盛り上がるようで、立ち上がって野次を飛ばすものもいる。

 釣られて俺たちも大いに叫んだ。


 中堅は僅差で白象が勝ち、次の試合もその勢いで白象が取り、勝負はタイに。

 決着は大将戦へともつれ込んだ。


「最後はやっぱり団長が出るのかな? でも大将戦ってのが別にあるんだっけ」


 俺がエーメスに尋ねると、


「いえ、両団長は最終日の騎馬戦まで出ません。それにそもそも大将戦は……」

「お、始まるでありますよ!」


 レルルが話に割り込んでくると、エーメスの説明は有耶無耶になってしまった。

 なんだよ、気になるじゃないか。

 まあ、当日まで楽しみにしとくか。


 で、レースの方は最終的に赤竜が勝った。

 カッターレースで赤竜が勝つのは実に十数年ぶりらしく、レルルは感動してむせび泣くし、エーメスは俯いたままわなわなと震えている。

 二人共熱いよなあ。

 まあ、俺が声をかけるのも野暮なので、二人はオルエンに任せてそっとしとこう。

 俺達は騎士三人と別れて、騎士団をねぎらうために、場所を移る。

 移動しながら撫子とピューパーは興奮した面持ちで感想を話し合う。


「面白かったです」

「うん、すごかった。やっぱり騎士ってかっこいい」

「でも、レルルとエーメスはちょっと大人気ないと思う」

「うん、オルエンはかっこいいけど」

「オルエンは馬に乗せてくれる時も凄くカッコイイです」

「ほんと? 私も乗ってみたい」

「今度連れてってもらおう。いいですよね、ご主人様?」


 撫子がおねだりするように見上げるもんだから、二つ返事でOKする。


「ああ、じゃあどっかにハイキングでも行くか」

「はい」

「フューエルおばさんも行こうよ」


 ピューパーに誘われると、フューエルはにっこり笑って、


「ええ、ぜひ連れてってちょうだいね」


 と答えた。

 ここで何も言わないのが、俺のダンディズムってやつだ。

 湖岸まで降りて行くと、最初に目についたのは肩を震わせて泣く白象騎士団の面々だった。

 その前に立ってみんなを慰めているのは、いつぞやのオカマちゃんだ。

 たしか中堅のリーダーをやっていたな。

 一方の赤竜は揃ってかちどきをあげていた。

 こてこての体育会系で、見てると面白いが、さて、俺はどっちから顔を出せばいいんだ?

 両騎士団長は、湖岸に天幕を貼って、それぞれ向かい合うように控えている。

 片方に行けば、片方から丸見えだよな。


「それで、どうされるんです?」


 実に楽しそうな顔で聞いてくるフューエル。


「もし、俺がキミの領民だったら……」

「だったら?」

「その顔を見た瞬間、武器を手に蜂起してるだろうな」

「全力で返り討ちにしますよ」

「いっそ今すぐ叩きのめされたいところだが……」


 改めて両団長の姿を見る。

 メリーは俯いたまま湖岸を眺めていてよくわからないが、エディは隣に居たローンとなにか話していたが、俺に気がつくと、ポーズをとってウインクしたように見えた。


「フューエル、エディとこの子たちを頼むわ」


 俺はエディに手を合わせて謝る仕草を見せてから、メリエシウムの方に向かう。


「え、ちょっと、紳士様!?」


 フューエルは呆れた顔で声をかけるが、残念ながら、俺の体はひとつしか無いのだよ。

 白象のテントに駆け寄ると、メリーちゃんは俺に気がついて顔を上げる。

 やはり泣いていたわけではないようだ。

 この子は人前で泣いたりはしないよなあ。


「これは……クリュウ様、お恥ずかしいところを……」

「いい試合でしたよ、みんなも盛り上がっていた」

「あなたに勝利を捧げると、誓いましたのに」

「まだ勝負は始まったばかり。次がありますよ」

「ありがとうございます。ですが……」

「うん?」

「不思議なものですね。私が騎士団長になってからも毎年この行事を執り行ってきましたが、誰かのために勝利を得たいと思ったのは、これが初めてだったのです。それが、この大事な試合に限って、今まで私の代で一度も負けたこともないカッターの試合でまけてしまうとは……」

「欲をかいたせいだと思いますか?」

「はい、まさに己の未熟さ故の結果」


 さて、なんと言ったものか。

 普通の人物なら、同情なり励ましなりすればそれで十分だと思うけど、彼女はそういうのを求めてないよなあ。

 彼女に必要なのは、彼女の持ってない視点かな。

 つまり……、


「むしろ欲が足りなかったのかもしれませんね」

「え?」

「エディは今回の紅白戦に随分と入れ込んでいたようです。自分が就任してからの初試合。しかも負け続き。今年こそは団のため、自分のために全力で勝利すべく頑張ってたのですよ」

「あの方が?」

「ええ、彼女は優秀な上に欲張りです。そんな彼女が全力で勝ちたいと臨んだこの試合、私のために勝ちたいというだけでは、少々欲が足りなかったのかもしれませんよ」

「しかし、私心にとらわれては大義を見失うと……」

「それは建前というものです。結局、あなたも部下も、みんな勝ちたいから頑張れる。そういう単純な気持ちが一番強いのでしょう。そしてそういう我の強さこそ、人を惹きつけるのではないでしょうか」

「気持ちの強さ……」


 精神論は必ずしも万能じゃないが、拮抗した相手と闘う場合は効いてくるからなあ。

 あくまでやるべきことをやった上での、さいごの一パーセントみたいな話だ。

 だが、たぶん彼女に足りないところがあるとすればそれだろう。

 彼女には使命があっても欲がない。

 使命ってのは言い換えれば義務だからな、そこに主体性はない。

 やらなければならないってのと、どうしてもやりたいってのはモチベーションの点ではやはり差が出るもんなあ。

 それに、先頭に立って人を使う人間は、よくも悪くもそういうワンマンさがいるよな。

 周りの分までモチベーションを担保してくれるようなパワフルさがないと、普通の人はなかなかついていけないよなあ。

 あくまでリーダーの気質の話であって、部下にまで強要しちゃうとブラック企業みたいになっちゃうけど。


「お言葉の意味は、まだ全てはわかりませんが……、それでも団員たちが悔しがっていることはわかります。そんな彼らを勝たせてやりたいとも思います」

「そう、そういう気持ちは、シンプルなほど強いものです」

「ありがとうございます。あの……私、団員たちのもとに行ってきます」

「ああ、それがいいでしょう。一緒に悔しがって、次の勝利を願うのです」

「はい」


 力強く頷くと、メリエシウムは走り去った。

 あとにぽつんと残された俺は、一つため息を付いてからテントを出た。

 赤竜のテントを見ると、勝利を讃えようとうじゃうじゃと人が集まっていて、今からでは近づけそうになかった。

 まあ、仕方ないな。

 俺は湖岸の土手に登って腰を下ろすと、あたりを見下ろす。

 白象の方は、メリーがみんなの手をとって何やら励ましていた。

 赤竜の方はまだ盛り上がってるようだ。

 視線を湖に移すと、さっきまで白熱していた湖上は静かにきらめいている。

 平和だねえ。

 ぼーっと眺めているうちに、ふと気が付くと隣に誰か立っていた。

 また船幽霊かと思ったら、エディの相棒であるポーンだった。


「よう、初戦の勝利、おめでとう」

「ありがとうございます。ですが、おっしゃる相手を間違っているのでは?」

「そんなことはないさ」

「またしばらく、拗ねたエディをなだめる仕事が増えてしまいます」


 そう言うと、彼女は俺の隣に腰を下ろした。


「エディの隣に居なくていいのかい?」

「はい。今は大勢ついていますので」

「そうか」


 そこでしばしの沈黙。

 なにか彼女は俺に話すことがあるんだろうか。

 話すことがあれば、きっと彼女は自分から話すだろう。

 白象騎士団に向かって頭を下げた時の彼女は、実にかっこよかった。

 もし、話したくないなら、話したくなるまで待とうかな。

 混乱し、傷ついていたエットを急かすことなく、彼女は待ってくれたからな。


 季節はすでに冬だが、今日の日差しはどこか温かい。

 風がないからかな?

 穏やかな湖面を眺めていると、なんだか眠くなるな。


「いい天気だなあ、小春日和ってやつか」

「ええ」

「ずっと忙しそうだったけど、少しは落ち着いたのか?」

「おかげさまで。最大の懸案が片付きましたので。調整に骨を折っているローンはさておき、このような行事は我らにとってはガス抜きのようなもの。皆楽しんでいるでしょう」

「そうか。まあなんせボスのエディからして、あのはしゃぎようだからな」

「以前は……」


 ポーンは盛り上がっているエディの方を見ながら、ゆっくりとつぶやく。


「うん?」

「まだあの方が幼い頃は、側に私しか居ませんでした」

「うん」

「あの頃の彼女は、とても弱く、脆くて、今にも消えてしまいそうな……」

「うん」

「不安定なコアの影響で、感情をうまく表すことができなかったそうです。それが年令を重ねるごとに、彼女は普通の人と同様に笑い、泣き、怒り、悲しむ。そんなことができるようになったのです。それでも……」

「うん?」

「あの方の芯のところには、幼いころのあの儚さが残っているのです。どうかエディの弱さを、忘れないでいただきたい」

「そうか、ありがとう、よく覚えておくよ」

「……風が、出てきたようです」


 そう言ってポーンは立ち上がる。


「そろそろ隊が撤収します。今夜からしばらく都に戻りますので、今を逃すと、しばらくチャンスはありませんよ」

「そりゃ大変だ。急いで祝辞を贈らねば」


 俺も慌てて立ち上がる。


「あんたにも礼を言っとかんとな」

「私は借りを返しただけです」

「なに、これじゃあつりが出る」

「あなたは……変わったお人だ」


 そう言ってポーンはくすりと笑った。

 なんだよ、かわいいとこあるじゃないか。


「では、行きましょうか」


 ポーンに誘われるままに、俺達はエディの元へと向かった。

 こういう場合、言い訳は無駄なので、素直に謝って、素直に褒めまくるとしよう。

 たぶん、それで十分だと思う。

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