第135話 ドーナツ

 野菜がいっぱいに詰まった木箱から、フルンが大根を一本掴みあげたかと思うと大声で叫んだ。


「みてみて、この大根、デュースの足より太い!」


 またきわどいことを叫ぶなあ。

 俺は周りを見回してデュースがいないことを確認してから、軽くたしなめる。


「こらフルン、そういう危険なことを言うんじゃない」

「え、なんで?」

「最近、太くなってきたって気にしてただろうが」

「太いとだめなの? 私もだいぶ太くなった!」


 といって、スカートを捲って可愛らしい生足を披露する。

 フルンは結構足首も太い。

 同年代で彼女より少し背が高いアフリエールの倍ぐらいの太さはある。

 大型犬の子犬も足が太かったりするけど、あれと同じなんだろうか?


「俺は太くてもいいんだけどな、まあなんだ、女は大人になると、太さが気になってくるんだよ」

「あ、エンテルもよくダイエットって言ってるよね。野菜ばっかり食べてる」

「そうそう、そこ大事」

「お肉食べて運動したほうが痩せると思うけど……。あ、こっちのもっと太い。美味しそう……ガブッ」


 いきなり生の大根にかじりつく。


「おいしい!」


 あんまり美味そうにかじるので、俺もつられてがぶりと一口。


「うめえな、苦くて甘い、いや、やっぱ苦い……つか辛い。うわ、かれぇ!」

「すごい! 口の中ひりひりする! どうしよう!」

「待て、こういう時はミルクだ、ミルクを飲め」

「ミルクー!」


 二人であわてて地下に駆け込み、冷やしておいたミルクを探すが見当たらない。


「あ、今日のミルクは全部使っちゃったんです。シチューを作るっていって」


 と牛娘のリプルが顔を出す。


「いかん、俺達にはミルクがいるんだ。今、出るか?」

「え、あの、じゃあすぐに絞って……」

「それじゃあ間に合わん。よし、フルン。吸え!」

「吸う!」


 二人でリプルに跳びかかり、ダイレクトに吸引する。


「あ、ちょ……ご主人様! フルンも……あの……やだ、そんなに、吸われると……あっ」

「んぐんぐ、ぷはー」

「おいしかった! おちついた!」

「もう……二人共、こまります」


 と顔を真っ赤にするリプル。


「ははは、美味しかったよ」


 ミルクを飲んで人心地つく。

 いやあ、あぶなかった。

 そういや大根って辛いよな。

 田舎でガキの頃食ってた大根と、都会のスーパーで買った物があまりに味が違って驚いたもんだ。

 スーパーの野菜ってあんまり味がしないよな。

 最近の高いやつはそうでもないようだが。


「ほらほら、遊んでないで、早くより分けてしまってください」


 そこで呆れ顔のアンに怒られてしまった。


 今日は、メルビエの義兄であるサボンが届けに来た荷物を、みんなで仕分けしている。

 サボンは、メルビエの倍近い五メートルはある巨人で、顔はいかつく、深く剃り上げた髪はてっぺんでパイナップルのように逆立っていてモヒカンっぽい。

 上から見おろされるとかなり怖い。

 ただし、性格の方はシャイでおとなしい。

 狩りは苦手だが畑仕事が得意で、巨人の谷を切り開いて、立派な畑を作っている。

 それをいつもこうしておすそ分けしてくれるわけだ。

 メルビエも幼いころから彼に可愛がられていたそうで、


「あにさんはあんまりおらに優しいもんだがら、きっとおらに気があるだべ、おら、大人になったらあにさんの嫁になるべと思ってただども、ホントはあにさんはあねさんが好きだってガキの時分にすぐに気づいてもうただで、おら失恋したと思って部屋に閉じこもって布団頭からかぶって、さあなくべと思ったら全然なげなぐて、おらも案外情が薄いもんだなーと思ってただども、今思うとよくわかるだよ、おらあにさんはおとうとおんなじように好きだったんだべ。だがら本当のあにさんになったら、嬉しいだけでべづになぐようなことでもながったんだべ。だっでおめ、好きつーのは、おらがご主人様みてるどぎの気分だべよ、これがおめえ、恋つーもんだべ」


 などと、いつもの訛りで哲学的なことを言う。

 シャイなサボンが子供にバレるほど見え見えのアプローチで頑張って攻略したメルビエの姉、オルビエはまもなく出産だ。

 メルビエも最近は週の半分ほどを実家で過ごしている。

 家の改装が終わったので、当面は彼女の仕事もない。

 気兼ねなく姉の面倒を見てくるようにと言い渡してある。


 サボンの持ってきた箱には、彼が手塩にかけて育てた旬の野菜が山盛り入っている。

 うちの大人数だとすぐになくなってしまうが、こういうのはいいもんだな。

 会社の同僚が実家から送ってきた荷物の話をするのを、ちょっとうらやましく思っていた事もあったが、こうして自分が身内から貰う立場になると、申し訳なくもあり、嬉しくもある。


 野菜を仕分けして、土間に積んでおく分と、地下の冷蔵庫にしまう分に分けおえると、最後に小さな木箱が出てきた。

 中は油紙で包まれており、見ると白くてドロっとしたものが詰まっている。


「これはこっちに貰っとくだよ」


 料理人のモアノアがそれを取り出して台所に運ぶ。


「そいつは何だ?」

「これはラードだべ。豚の脂を精製したやつだぁよ。メルビエのあにさんの作るラードはハーブが効いててうめえだよ」

「ラードか、それ」


 ここで油といえば、このラードかオリーブオイルみたいな植物油、あとはバターか。

 日本のそれとあまり変わらないが、サラダ油というのはないな。

 そもそもサラダ油ってなんだったんだ?

 植物油だよな?

 ドレッシング用の油なんだろうか。

 今まで気にしたこともなかったな。

 まあ、いいけど。

 揚げ物や炒めものには、主にこのラードを使う。

 ラードというと中華などのギトギトしたイメージがあったが、案外さっぱりしてる気もする。


「今日は久しぶりに揚げ物にするだ」

「お、いいな。何を揚げるんだ?」

「前にごすじん様に教わったテンプラでも作るだよ、あのパン粉を使わねえやつだ。野菜もいっぺえあるだし」

「ああ、あれか」


 ラードで揚げる天ぷらは脂の旨味が効き過ぎる気はするけどな。

 他に揚げるものって何があったっけ?

 うーん、テンプラ、コロッケ、エビフライ……ドーナツ。

 ドーナツ?

 ドーナツかあ、いいな、ドーナツ。


「ドーナツ作ってくれよ」

「ドーナツってなんだべさ」

「しらんか」


 なんかTVで作り方を見たような……。

 うろ覚えの記憶をたどりながら説明する。


「パンケーキと同じ種でミルクを少なめに、ちょっと固めにしてな、それを油であげて砂糖をまぶすんだ」

「揚げるだべか。粉だけを揚げて旨いだべか? 油でギトギトになりそうだべが」

「あー、たしか温度が低いと油を吸いすぎて、逆に高いと焦げるとか言ってたな。何度ぐらいがいいんだっけ」

「うーん、まあ、だいたい分かっただ。とりあえずここを片付けたら作ってみるだよ」


 野菜などを地下に運び片付いたところで早速料理開始だ。


「種はこんなもんでいいだべか?」

「おう、いいんじゃないかなあ。俺も人がやってるのを見ただけで作ったことはないんだよ」

「んだら、適当にやってみるべ。これを団子にするだべか」

「ああ、丸めて少し潰して、真ん中に穴を開けるんだ、こう、こんな形に」


 と手で形を示す。


「投げ輪みてえだな。火の通りの問題だべかなあ、まあやってみるべ」


 そうして何度か試作するうちに、それっぽいドーナツが出来た。

 熱々の油で香ばしくあがったさくさくの生地と、ふりかけた砂糖の甘味がからみ合って実に旨い。

 砂糖と油の組み合わせは最高だな。


「おいしい! おいしい! おいしい!」


 フルンは目を丸くして通常の三倍のペースで頬張っている。

 うむ、これは成功だ。

 モアノアはセンスあるよなあ、俺のアバウトな注文でも、すぐにいい感じに仕上げてくれる。


「揚げ饅頭ですかー、南方で口にしたことがありますがー、もっとアクがあって粗雑な味でしたねー。これはとてもお上品で良いですねー」


 とデュース。


「ほう、揚げ菓子自体はあるんだな、まあそりゃそうか」

「そうですねー、ああ、でもこれは美味しいですねー、実に太りそうです」

「ああ、太るぞ、それ」

「ひどいですねー、そうとわかっていながらこんなものをー」

「ははは、気にせずくえくえ」


 この世界の体型の美的感覚は、日本のそれとあまり変わらないようだよな。

 もうちょっと欧米よりかも知れないが。

 わりと肉付きが良くてメリハリの有るのが受けている気がするな。

 俺もこっちに来てから、一回り……とはいわんけど、少しは体格が良くなった気がする。

 年齢的にはそろそろ余ったカロリーが備蓄されやすくなるはずだけど。

 まあ、気にするのは今度にして、今は味わうのだ。

 そうして、しばしドーナツを堪能してから、ふと思いついて尋ねる。


「これ、家で作って売ればいいんじゃないかな。俺の故郷でもドーナツは持ち帰るおやつの定番だったぞ」

「良いとは思うのですが、食い物を売るには資格が要りますから」


 とアン。


「そうなのか」

「商売は資格と各ギルドへの上納金が必要です。うちの場合は上納金は不要なんですが、資格はさすがに要りますので」

「じゃあ、メイフルも資格を持ってるのか?」

「はい。彼女は流通全般に、今は遊具販売の資格も。私は御札、ペイルーンは丸薬、デュースは占いの資格をそれぞれ持っていますね」

「そうだったのか」


 結構ちゃんとしてるな。

 この国ってほんとインフラはしっかりしてるよなあ。


「あと、この街では上納金と税金は納めています」

「そうなのか? 特権階級だったんじゃ」

「そうなのですが、世間体というか、商人の仁義というものがあるようです。以前のような旅の片手間の商売ならともかく、店を出してやるとなればなにかとお付き合いもありますし。メイフルが扱っている商売も大きいですから」

「ほほう。まあ確かに同じような商売をして、あいつだけ税金払ってないとなると、睨まれるわな」

「そうですね。払うとなると住居税、教会税、騎士団税など結構かさむ物ですが、仕方ないでしょう」

「色いろあるな」

「家の表に、商工ギルドや教会のラベルが貼ってあるでしょう。あれがその印です。あれが無いと何かあった時に、例えば火事になった時に互助が受けられないとか色いろあるんですよ」

「大変だなあ」

「ですが、こういうものは生きがいにつながるのではありませんか? 領地を得て、不労所得でのんびり暮らすのは老後の楽しみにとっておきましょう」

「そうだな」

「話がそれてしまいましたが、そういうわけで、うちで売るのは難しいでしょうね」

「だったら、これもルチアに任せるか。家で作って彼女の店に卸すというのはどうなんだ?」

「それは大丈夫だと思います。あくまで彼女の依頼のもとで作るのであって、他店へは卸さないなら、たしか大丈夫だったかと。私も詳しくはないので……」

「まあ、そうじゃないと売る人間だけ資格があっても、作ってるのが無許可の人間だと意味ないもんな。ちゃんと資格を持った人間が管理してないと」

「そうですね。まあ、そこは別途相談するとして、まずは彼女にたべさせてみては?」

「そうしよう」


 午後の暇そうな時間を見計らって、早速おとなりのルチアの店に乗り込む。

 試食の結果は上々だった。


「ふわふわのサクサクで、独特の風味みたいなのもあっておいしい」


 ルチアはぺろりと二つ平らげて、満足そうに頷く。


「そうだろう、渋めのお茶ともあうぞ。俺はコーヒーで食べるのが好きなんだけどな」

「前に飲ませてもらった炒り豆のお茶ね。うちでも試してみたいけど、苦いお茶ってこの辺りでは売るのが難しそう」

「かもなあ」

「ああ、でもほんと、これおいしい。ねえ、ハンコもこっち来て食べてみなさいよ」


 とルチアが奥にいるであろう住み込みバイトの判子ちゃんに声をかけると、いつもの気むずかしい顔で出てきた。


「ドーナツですか、またそんな太りそうなものを」

「いいじゃない、うちの食べ物はたいてい太るわ」

「太り過ぎは万病のもとです」

「そんなお坊さんみたいなこと言わないの、ほら、あなたもいただきなさいよ」


 と無理やり押し付けられた判子ちゃんは、しぶしぶ口にする。


「……おいしい」

「でしょ」

「これがドーナツ……」


 とはじめて食べたかのような事を言う。


「あれ、判子ちゃんはドーナツはじめてか?」

「ええ」

「うちの近所にもドーナツ屋あったじゃん」

「……そうですね」


 それだけ言うと、あとは黙ってモグモグと食べ続ける。

 はて、また機嫌を損ねちまっただろうか。


「サワクロさん、ほんと色んな食べ物知ってるわね、これだけあれば、祭りの時にガッツリ客の舌をつかめるわ。助っ人も呼ばないとダメかも」

「そりゃいいな。ハブオブの方もちょっと考えてるから、色々出せるよな。エヌにも頼まれてるけど、まあなんとかなるだろ」

「ええ。となるとあとの問題は……」

「そうだなあ」


 あとは、いかに人を呼ぶか……だ。

 祭りの客寄せって何すりゃいいんだろうな。

 神輿みたいなものがあれば観光客は来そうだが、いきなり出来るもんじゃないしなあ。

 音楽演奏も頼んではいるが、学生のアマチュアバンドだとBGMとして場を盛り上げることは出来ても、集客効果は期待できない。

 人が来てさえくれれば、どうにかなると思うんだけどなあ……。

 結局、そちらのアイデアは出ないまま引き上げてきた。


 うちに帰ると、ペイルーンと新入りのハーエルが戻ってきた。

 二人は王立学院でアルサの街の歴史を研究しているなんとかという学者の元を訪ねてきたのだ。


「近代史やってる人とは全然つながりなかったんだけど、今日会ってきたサグサワーリ教授は以前エツレヤアンのアカデミアにいたそうで、そのつながりでここの知り合いの別の先生に紹介してもらったのよ。ご主人様好みのメガネ美人よ」


 とペイルーン。


「まじで」

「ええ。まあ、五十年前ならね」

「今いくつだよ」

「御年七十一歳とか言ってたわ。すっごくパワフルだったわね」

「まあ、その話はいい。それでなにか成果はあったのか?」

「まだこれからよ。騎士団にまつわる歴史のレクチャを受けて、色々資料も貸してもらえたから、これから研究するのよ。当面は二人で通って本読みね」

「そうか、ハーエルはどうだったんだ? ペイルーンと一緒にやれそうか?」


 俺が聞くとハーエルは嬉しそうに答える。


「はい、神殿とはまた違った本が、というよりも体系だった知識の集積が非常に興味をそそりました。神殿のすぐそばにありながら、これだけの物が揃っているなどと考えてもおりませんでした。いかに私の目が神殿の中という閉じた世界に向いていたかを思い知りました。特にペイルーンや他の先生方の学習方法は、我々のそれとはだいぶ違いますので、そのことも刺激になります。それだけではなく、なにより学校という場のもつ空気が、そもそも学校とは子女が教養を学ぶものぐらいにしか考えておりませんでしたが、それだけにとどまらず、研究ノウハウの伝授から実際の研究そのものに至るまで幅広く行われている姿が、しかもそれが神の叡智を媒介とせずに、人の力のみに寄って営まれているのがとても興味深く、更には……」


 相変わらず話が長い。

 とにかく順調なのは分かった。

 二人には白象にまつわる歴史を調べてもらい、そこからゴーストに至るヒントを見つけ出してもらえたらと思っている。

 それに二人とも楽しそうなので、一石二鳥だろう。


 冒険者としてのハーエルはどれほどかというと、まあギリギリ実戦で使えるレベルっぽい。

 と言っても、家の精鋭はレベルが高いし、その中に入ってどうにかやれるということなので、言ってみれば中の下ぐらいではある。

 俺やレルルのようなへっぽこ組よりははるかにマシだ。

 ただし、実戦経験がないので、そこのところに一抹の不安が残る。

 今朝も裏庭で訓練していたが、その時の様子はこんな感じだった。


「遅い、術をかけるのが十秒遅いです。それでは回復を受ける前に敵の追撃を受けてしまいますよ、ハーエルさん」


 レーンの指摘に返事を返す余裕もないほどに息の上がったハーエルは、その場に座り込んだ。

 最初から飛ばし過ぎじゃないかと思うぐらいハードだが、ハーエルのポテンシャルを見越した特訓なのだろう。


「仕方ありませんね、少し休憩しましょう」


 朝食の後に、冒険組が集まってハーエルを交えたトレーニングを行う。

 ハーエルはスペックとしては、第二段階までの回復魔法が使える。

 これはレーンと同じレベルだが、運用するにあたってはだいぶ劣る。

 まずハーエルは動きながら呪文が唱えられない。

 精神の集中が乱れるからだ。

 レーンやエーメスにこれが可能なのは、ひとえに修行の賜だ。

 僧兵であるハーエルは棍棒などを振り回した格闘も可能だが、こちらもあまり腕が立つわけではない。

 精々護身術といったレベルだ。

 よってハーエルは戦力として考えると、戦闘後の回復要員となる。


「はぁ、はぁ、も、申し訳ありません。こ、このような……はぁ、練習は、したことがなく……はぁ、はぁ、思えば私は……」

「いいえ、問題ありませんよハーエルさん!」


 長口上のスイッチが入りかけたところを制してレーンが言い切る。


「我々は普段、二から三のパーティに分かれて活動しますが、現状で中位の回復が使えるのは私だけでした。これはすなわち、重傷を負った場合、私のいないパーティは命にかかわる可能性があったということです。それが今後はあなたが居るだけで、そのリスクが減ります。戦闘さえ乗り切れば回復できる、という安心感は何者にも代えがたい余裕を生みます。言い換えれば、目の前の戦闘に全力で当たれるということです。その安心を確かなものにするためには、まずハーエルさん、あなたに戦闘に慣れていただかなければなりません。行動中の回復ができなければそれも結構。後方で安全を確保し、落ち着いて回復させればいいのです。戦場において焦りは大敵であり、とくに僧侶にはメンバーの誰よりも落ち着きが求められます。何故ならば、僧侶は回復のシンボルでありパーティの安全面での心の拠り所だからです!」


 口上の長さならレーンも負けてなかった。

 話を聞いている間に、ハーエルの呼吸も整ったようだ。


「まだ、いけますか?」

「はい、よろしくお願いします!」


 今やってるトレーニングはこうだ。

 前衛にオルエンとフルン、後衛にハーエルとオーレの四人パーティが、四方から残りの戦士組の攻撃をしのぐ、という実戦風の練習だ。

 攻め手はセス、コルス、エーメス、カプルの四人だ。

 この四人に同時に責められれば、オルエンとフルンの二人では盾を構えて防戦に徹するしか無い。

 木剣をつかった練習とはいえ、油断すれば骨ぐらいは折れる。

 そんな攻撃をひたすら耐えしのぎ、オーレが呪文で足を封じれば勝ち、その前に前衛が破られれば負け、という感じらしい。

 オルエンとフルンが作る壁の合間から、時折木刀の一撃が飛んではオーレを狙う。

 オーレ自身も体術でそれをかわすが、そうなると唱えかけた呪文は有耶無耶になる。

 僧侶や魔導師をとわず、こうした状況で術を唱えるというのは、たしかに高度な技術を要するのだろう。

 デュースのように走ったり指示を出したりしながら呪文を連打するのは、最上位の魔導師なればこそなのだ。


 攻防が続けば、防戦側のほうがより疲労度が高くなっていく。

 カプルの強烈な木斧の一撃に耐え切れず、フルンが盾を取り落とす。


「あっ!」


 と視線を足元に落とした瞬間、フルンの首筋にコルスの木剣がピタリとそえられた。


「敵から目をそらしてはイカンでござるな」

「うーん、やっちゃった!」

「ここまででござるな、いかがでござる、レーン殿」


 側で見ていたレーンは、手を打ち鳴らして声をかける。


「今日はもういいでしょう、お疲れ様でした。最後に今後の課題について、話しあいましょう」


 そう言って全員を集める。


「ハーエルさんに必要なのは、やはりまずは慣れですね。このまま毎日、メンバーを入れ替えながら今日のような訓練を続けましょう。当面の課題は二つ。一つは常に自分で安全なポジションをキープすること。具体的には前衛の後ろ、敵と自分の間に常に前衛の盾役が来るように自分を持って行くこと。それによって第一段階の回復だけでも詠唱できる余裕を作ることです。もう一つは、前衛の疲労を見極めること。今の例であれば、フルンさんは二発前のコルスさんの一撃を受け流しそこねて、すでに盾を持つ手がしびれていました。あの時点で最低限の回復を左手にかけていれば、もうしばらくは保ったはずです。と同時にオーレさんにも余裕が生まれて呪文を完成させる可能性が高まっていました。つまりあの瞬間が勝負の分かれ目だったのです」

「うん、いつもだとね、痛いって思った次の瞬間にはレーンが直してくれるからすごい楽! 今日も来るかなーと思ったけど、ハーエルはこなかった!」


 とフルン。


「も、申し訳ありません、私にはそのような変化は読み取れず……」

「当然です。今のあなたにはその技術はありません」


 レーンは容赦無いな。


「ですから、早急にその能力を身につけていただかねばなりません。そのためには常に仲間を観察してください。良いですか、あらゆる動作を見るのです。いつもの動き、疲労した時の動き、ダメージを受けた時、怪我をした時、そうした変化をいつも見続けるのです。例えば盾の構えがいつもより少し下がっている、腰が浮いている、脇を締めすぎている、といった変化を見逃してはなりません。仲間の全てに目を配ること、それが僧侶の仕事です! あなたが彼女たちの背中を守るのです!」


 そんな感じで、ハーエルは朝は戦闘訓練、午後は歴史の勉強とこれから忙しく働いてもらう事になった。

 図書館でのひきこもり生活と比べると大変だろうが、頑張って欲しいところだ。

 その分、俺が代わりに怠惰で自堕落な生活を……といいたいところだが、俺の方も忙しいのだった。

 祭りの準備があるからな。

 商店会長のオングラー爺さんと今から打ち合わせて、そのあとは騎士団の詰め所に行って警備の相談もしなければならない。

 はあ、ゴロゴロしたいぜ。


 打ち合わせの時間まで、まだ少しあったので、うちの店の方を覗く。

 小さな店内は、入口側のショールームと奥の商談室に分かれているのだが、ショールームにはちょっと豪華な棚にチェスや将棋のボードが並んでいる。

 イメージとしてはちょっと田舎の古くからある高級時計店みたいな感じなのかなあ。

 普段使いするような店ではないな。

 黒のスーツに赤いネクタイを締めた、フォーマルな格好のメイフルが、いつもの様に店の隅で立っている。


「よう、調子はどうだ?」

「ぼちぼちですな。午前は一件、商談がありまして、南方行きの客船の娯楽室に、まとめてご注文いただきましたわ」

「ほほう、そういう客もあるのか」

「売上で言うたら、そういう大口のほうが大きいですわな。もっとも小口があってこそ、大口につながるもんですからなおざりには出来まへんけどな」

「そりゃそうだ。ところで、ちょっと困ってるんだけどな」

「なんですのん?」

「この間も話したけど、オングラー爺さんの所の」

「ああ、なんやアイデアが欲しいっていう」

「この後また爺さんと打ち合わせだから、エヌになんか言われそうで。僧侶メイドはどこも厳しいからな」

「あはは、滅多なこと言うたらあきまへんで。しかしそうですなあ、御札の売り方……」

「女性向けがどうとか言ってたけどなあ」

「女性向けといえば、甘いもんですわなあ」

「甘い御札ってあるのかな?」

「大将はたまにわけのわからんこと言いはりますなあ」

「褒めるなよ」

「褒めてまへんで」

「きびしいなあ」

「困りましたな。うちも女性向けに特化した商品は扱ったことおまへんねんな」

「うーん、やっぱあれか、女性といえば恋話」

「コイバナ?」

「恋の話だよ、恋愛。恋愛成就の御札とかないのか?」

「安産のお守りとかはありますけどな」

「恋愛も必要だろう、これさえあれば恋がうまくいくとか言うの」

「御札でどうにかなるもんですのん?」

「ならなくてもその気になればいいんだよ」

「そりゃそうですな。お守りが効かへんでも文句言う人はあんまおりまへんし」

「そうだろ、なんかこう、幸運のお守りとか、勇気が出る御札とかないのか? それに告白をサポートする御札とか言って売ればいいんだよ」

「ははあ、戦意高揚の御札とかはありますで。ちょっと魔力があればあの手のは効きますからええかもしれまへんな」

「ほう、あるのか。ちょっとアンを呼んできて相談しよう」


 というわけで、アンを交えて相談する。


「いささかいんちき臭い気もしますが、戦意高揚の御札は恐れを取り除き、勇気を振り絞る力を戦神ウルに授かる御札ですから、告白に臨む女の子の助けになるかもしれませんね」


 とアン。


「だろ、告白前にこの一枚、みたいな感じでそれ専用として売っちまえば馬鹿売れだぞ」

「神聖な御札をそのように使うのはどうかと思いますが」

「殺し合いに使うのよりむしろ崇高な使い方だと思うぞ」

「ご主人様に言われるとそんな気がしてしまいますが、まあ、別に嘘はついてないでしょうし、神への冒涜というわけでもありませんし」

「そうそう、むしろ恋が叶えばカップルが出来て国も栄えていいことずくめだ」

「なるほど」

「他にはないかな、使いまわせそうな御札」

「家内安全の魔除け札とか、安産祈願はありますけど、それは恋が叶ったあとの話ですし」

「そうだなあ、まあ今回はそれ一本でいいか。欲張りすぎてもだめだ」


 というわけで、アイデアがまとまったところでオングラーのところに出向く。

 手短に打ち合わせを終えると、案の定従者のエヌが聞いてきた。


「紳士様、なにか考えていただけました?」

「まあね、一ついいアイデアを思いついたんだが……」


 とざっくり説明すると、


「確かに、良いアイデアだと思いますけど……」


 とエヌは首を傾げて、


「アンさんも、このアイデアを了承されてたんでしょうか?」

「ああ、賛成してたぞ」

「ちょっと突飛なアイデアなので不安は残りますが……」

「どうかな?」

「恋愛にまつわる物が売れるというのはわかるのですが、私もホロアなので、感覚的にはちょっとわからないところも多いですね」

「そんなものか」


 そういや、ホロアは主人に出会うまでは発情しない的なことを言ってたな。

 言い換えると恋をしないようなものか。


「ふむ、わしが言うのも何じゃが、売れるんじゃないか、それは」


 とオングラー。


「でしょう、でーんと売りだせば多分馬鹿売れですよ。特にルチアの客は若い子が多いので、そっちから引っ張ってくれば行けるんじゃないかと」

「よし、やろう」


 とオングラーの鶴の一声で導入が決定した。


「では、祭りに向けて、戦意高揚の御札を量産しましょう。と言っても私は作ったことがないので、アンさんに教えてもらわないと。あと、宣伝はどうしましょうか」

「うちにお抱えのデザイナーがいるので、彼女も交えて相談してみよう。明日にでもまた来るよ」

「お願いします。ああ、うまく行って、無事に年が越せますように」


 エヌは手を組んでわざとらしく神に祈るポーズを取る。

 この子も結構したたかだよなあ。

 見た目は少女でも、爺さんと二人で何十年も冒険者として生き抜いてきたわけだ。

 年季が違うわな。

 オングラーの元を辞して、再びアンと相談する。


「というわけで、御札の作り方を教えてくれってさ」

「分かりました。しばらくはウクレにも手伝ってもらいましょう。祭りまであまり時間がありませんし」

「そうだな。ところで、サウは今日来てたっけ?」

「家馬車にいますよ、カプルは裏庭なので、今はお一人では?」

「そうか、よし、ちょっと相談してくる」


 今度は家馬車に移って絵描きのサウに相談する。

 最近、彼女はずっとうちにいる気がするな。

 サウの実家はどこか近郊の村らしいが、今は従姉妹であるイミアの家に住んでいるそうだ。

 そこよりこっちのほうが捗るからといって、絵の道具を持ち込んで家馬車の二階で一日中作業して、日暮れとともに帰っていく。

 このままうちの子になればいいのにと思わなくもないが、今はまだ、のんびり見守ってるところだ。


「あら、サワクロさん。何か御用?」

「おう、実はな……」


 と尋ねるサウに、あらましを説明する。


「いいわね、恋愛成就の御札。そんなのがあったら、みんな欲しがるわ」


 とサウ。


「だろ、というわけでパッケージ的なものを頼みたいんだが」

「いいわよ、なんか売れっ子になった気分ね」

「頼むよ」

「それより、祭りのチラシはどうするの? つくろうにも何をやるかが決まってないと、どうしようもないわよ?」

「そうなんだけど、これがなかなか。悪いが、もうちょっと待ってくれ」


 と頭を下げる。

 下げながらふと、会社勤めの頃を思い出す。

 外注デザイナーを抑えたのはいいけど、仕様が決まらなくて発注が納期ギリギリになって胃の痛い思いをしたんだった。

 そうなる前に、早く決めないと……。


 と決心したのはいいが、アイデアを出すにはブラブラするのが一番だよなあ、と裏庭に出ると大工見習いのシャミが来ていた。

 こっちも毎日来てるな。

 カプルと二人で何やらしているようなので覗いてみると、小さな炉で鉄を溶かしているらしい。

 ジュウジュウとトロけた鉄を、砂の鋳型に注いでいた。

 魔法とか使わない、普通の鋳物なんだな。


「何を作ってるんだ?」

「これはフライパンですわ。モアノアにもう一回り大きい物をと頼まれていたのですけど、シャミが手伝ってくれるというのでこの機会にまとめて作っておこうかと」


 見ると隣には出来立てのフライパンがいくつも並んでいた。

 そんなに作るのか。

 買ったほうが楽そうな気もするが、買うと結構高いらしい。


「まだ熱いですから、気をつけてくださいな」

「しかし随分あるな」

「二十人分以上の料理を一度に作れば、下手な料理屋の厨房以上の器具が必要ですわ」

「そりゃそうだ」

「大きな寸胴も欲しいのですけど、これはさすがに家では無理ですわねえ」


 そういいながら、二人は寒空の下、額に汗してフライパンを作っている。

 見ているとシャミは小さな炉に鉄の塊と、何かの粉末を砕いて入れている。


「そんな小さな炉で、よく高温になるな」

「精霊石で、熱を閉じ込めてる。中で、熱が反射する」


 とシャミ。


「少し時間がかかるけど、持ち運べる」

「魔法で制御するので、私には使えませんの」


 とカプル。

 なるほど、こっちが魔法の道具だったか。

 さすがは魔法だぜ。

 出来上がったフライパンを眺めていると、なにか不意にひらめいてきたような気がする。

 なんだろう、なんか出来そうな気が……。


「あら、なにかひらめいた顔ですわね、ご主人様」


 とカプル。

 シャミも興味深そうに俺の顔を見つめる。

 そんなにダブルで見つめられたら照れるんだが。

 ふむ、ダブル……サンド……ホットサンド?

 いや、たい焼きでもワッフルでもいいが……ホットサンドがいいかな。

 ちょうどパン屋のハブオブの為にも一品考えようと思ってたんだ。

 フライパンが一区切りついたところで、早速二人に説明してみる。


「なるほど、鉄板でパンを挟むんですのね。中に具を挟んで、サンドイッチを焼くようなものですわね」

「ああ、ただし縁を圧着するように挟むことで縁がパリッとカリカリに焼けて、中は蒸し焼きになってふっくらするんだ。具はわりと何でもいけるし作るのも楽だしな」

「おいしそう」


 とシャミも興味を示す。


「構造も簡単そうですわ。強度が少し心配ですけど、鉄の粘度をあげればいいかしら?」

「大丈夫と思う」

「では、少し木型を作ってみますわ、今からよろしいかしら、シャミ」

「錬成する、すぐ食べたい」

「あら、ではおねがいいたしますわ」


 というわけで、早速作ってもらう。

 シャミが錬金術で作るらしい。

 何度か紙に図面を書いて、イメージを固める。

 四角い鉄板を丁番でつなぎ、長い柄でテコの原理で挟み込む。

 シンプルなホットサンドメーカーだ。


 シャミは砂の台座の上に鉄のプレートを置く。

 錬成するための台座らしい。

 その上に小さな木枠を組み、さっきの小型炉を置く。

 そこから溶けた金属が流れ落とし、それを魔法で空中に固めると言う。

 支度を終えると、シャミは眼鏡を一回り大きなものに変える。

 同じく黒っぽい色眼鏡だが、ゴーグル並みのデカさだ。

 一瞬チラリと素顔が見えたが、やっぱりかわいいな。


「ご主人様、もう少し下がったほうが良いですわ」


 とカプルに言われて距離を取る。

 危ないのかな?


「始める」


 と言ってシャミは炉のバルブを開く。

 ポコポコという音とともに、真っ赤に溶けた鉄がとろりと垂れてくる。

 つつっと台座の手前まで来た瞬間、空中で静止する。

 初めは球状に広がっていた鉄が、徐々に何かの形に広がっていく。

 あれは丁番の部分か。

 それが徐々に広がり、四角いパンを挟むプレートになる。

 ついで長い柄をすっと形作り、シャミはバルブを閉じた。

 空中に浮いたホットサンドメーカーは、いまだ溶けた鉄のままだが、急速に冷えて固まっていく。

 まるで3Dプリンタみたいじゃないか。

 この技術があればなんでも作れそうだな。

 と感想を述べると、


「でも、量産できない。一点物。あとは、型。繋ぎ目もないから、丈夫。鎧とかも、つくる」


 とシャミ。


「ああ、なるほど。しかしすごいな、型枠を作るだけでも普通は大変だろう。この能力があれば何でも行けるぞ」

「そうでも、ない」


 というが、シャミは赤くなって照れている。


「シャミの錬金はとても精度が高いですわ。普通は手作業のほうが良いのですけど、彼女の場合は手作業も器用な分、イメージが優れているのかもしれませんわね」

「棟梁が、最初に錬金はするなって。まずは手で覚える。彫金が先、錬金はあと。だから、今でも手のほうが、精度はいい。でも錬金は早い。だから、組み合わせる」

「ええ、それが良い結果になっているのだと思いますわ」


 と言ってもまだ片側だけなので、もう一つをシャミが作る間にカプルが仕上げをする。

 形の出来上がった真っ赤な鉄を勢い良く水につけるとじゅわっと蒸気が立ち上る。

 その後、ヤスリで磨いたり色々してあっという間に出来上がってしまった。


「こんな簡単にできるもんなのか?」

「加工しないならこれでよいのですわ。穴を開けたりするなら、一旦焼きなましをしてから加工するのですけど」

「ほほう、よくわからんけど、楽でいいな」

「全くですわ」


 なんにせよ出来上がったので早速パンを焼いてみる。

 まずは鉄板に油をなじませて、使えるようにする。

 その間にハムと卵を焼いておき、朝食のパンの残りをスライスする。

 あとはそれを出来たばかりのホットサンドメーカーに挟んで、軽く両面を焼くだけだ。


「おいしそう」


 とシャミがよだれを垂らすので、最初の一つは進呈してみた。

 ちゃんと出来てるといいけど。


「あつい、さくさく、もちもち」

「どうだ、いけるか?」

「おいしい、こんなパン初めて、すごい、天才の食べ物」

「はは、俺の故郷じゃ、わりとありふれたもんだけどな」

「うらやましい、そんなすごい国、行ってみたい」

「いやまあ、うん、そのうち機会があれば」

「うん……もぐもぐ」


 出来の方はバッチリみたいだな。

 これでまた祭りの料理が一品増えたか。

 ウマそうに食ってる姿を見てると、俺も腹が減ってきた。

 食べよう。




 その日の夜。

 エレンがまた大量の書類を抱えている。

 今夜はメイフルやエンテルも一緒にやっていたので聞いてみると、祭りで使うテーブルなどの調達に関するものらしい。


「普通は神殿が貸してくれるもんなんだけどね、祭りの時は先約が多くてさ、代わりをどうするか探してたら、学院のほうで貸してもらえるらしくてね」


 とのエレンの台詞を受けてエンテルが、


「学校行事で使うものが色いろあるようです。まずは書類上で当たりをつけて、明日にでもルチアさんやハブオブさんを誘って確認してこようかと」

「なるほど、通りにずらっと並べたいもんな」

「ええ、壮観でしょうねえ」

「あと、お茶碗が足りないのですけど、これはもう買ったほうが良いかもしれませんわね」

「そうか」

「ゼリーを入れるグラスや、ドーナツの皿など、テーブルの数より必要になりますし」

「そりゃそうだ。ふむ……、いつぞや俺がもらってきた切子のガラス工房はどうかな? いいものを作ると思うが」

「ああ、あれですか。では、手配しておきましょうか。早めがいいですし」

「うん、頼むよ」


 結構、色んなモノが要るよな。

 しかもネットでポチれば翌日届くわけじゃないので、早めに手配しないと。


「そういえば、音楽演奏をやってくれそうな連中のめどはついたのか?」

「申し訳ありません、いくつか話は通しているのですが、まだ返答が……」

「そうか、まあ急な話だしな。そもそも、お前だって学院に世話になったばかりだから難しいだろう」

「そうですね。知り合いといえば学会などで面識のある同業者の方ばかりですし」


 ふぬ、まあバンド演奏ってのはどっちかというとおまけだしな。

 客寄せのメインがいるんだよなあ。

 時間もなくなってきたが、どうにか決めたいところだ……。

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