第120話 達人
再び、シーリオ村の工場に来ている。
カプルが先日から工場に詰めて頑張っているので陣中見舞いだ。
あとは村長とバンドン商会から来ている会計士が何やら賃金の交渉をしているらしい。
ああいうのは揉めるもんだが、俺としても商売なのであまりサービスしすぎるわけにもいかない。
そもそも物づくりって必ずしも給料とモチベーションが比例しないよな。
低すぎるのは問題外だが、金額以外で満たされるものがないと行き詰まる、みたいなことを仕事で関わったクリエイターが言っていた……ような気がする。
なるべく気持ちよく働いてもらえるけど、儲けも確保できるようなラインで交渉してもらうようには頼んでおいたが、はてさて。
メイフルは別の取引があるとかでこれないので、セスとフルンをつれて来た。
村長の孫にフルンを紹介すると、すぐに打ち解けて遊びに行ったようだ。
こちらは無邪気でいいねえ。
俺はセスをつれて工場の周りをうろついていると、ホッカムリをした老婆から声がかかった。
「守衛さん、今日は専務さんはきとらんのかね?」
専務とはメイフルのことだが、どうやら俺の方は守衛になったらしい。
もっとも、同伴のセスはここの警備を受け持っているので、守衛ではあるのだが。
「今日は何でも街で仕事があるってんで、これないそうだよ、ばあちゃん」
「そうかね、タニシをいっぱい取ったから、つぼ汁にして食わそうと思ったんだけどねえ」
「へえ、そりゃウマそうだ」
「なんだねあんた、いやしいのう」
「すんません」
「あやまらんでもええけどね、街じゃろくなもんくえんでしょうが」
そう言っておにぎりをくれた。
麦飯の類いのようでお米とはだいぶ雰囲気が違うが、タレを付けて焼いてあって、いい匂いだ。
「それくったら、しっかり働くんだよ。あとでつぼ汁も持ってきてやっから」
「がんばります」
そう言って初老のご婦人は去っていった。
「うまいぞ、お前ももらえ」
とセスに半分分けてやる。
「なるほど、程よく皮が硬くて、美味しいですね。これはいい」
しばらく二人で舌鼓を打つ。
「ふう、満足した」
「ええ、とても」
「ところで、ここって警備が居るような物騒な場所なのか?」
「特にそういう話は聞いていませんが、冬場は山から獣や魔物が降りてくることが多いので、そういう意味では警戒しないといけないかもしれません」
「ほほう」
「メルビエの巨人村のような特殊な例を除けば、普通の村はまともに魔物と戦えるだけの戦力は持ち合わせていないでしょう」
「そうかもな」
「騎士団が駐留できれば理想的ですが、この規模の村だと定期巡回が関の山でしょう。その場合は、引退した冒険者などを雇って用心棒にする、というのが定番らしいですね。残念ながら、この村にはいないようですが」
「ということは、この村は今、ノーガードなのか?」
「村人自身が自警団を組んで警備しているので全くの無警戒ではありませんが、見ての通り年寄り中心の素人集団ですから、ちょっと強い魔物がでると果たしてどれだけ戦えるかは疑問です」
「そりゃそうだわな。俺だって、魔物に面と向かって剣を抜くだけで、結構勇気がいるもんなあ。回りにいるのがお前たちだからやれるってのは大きいよな」
「そういうものです。私も試練の旅に出てはじめて、死なない戦い方の難しさを知りました」
そうだよな、セスはあれだけ強くても実戦だとかなりセーブしているようにも見える。
あれは多分、自分だけじゃなくパーティの全員が傷つかないような戦いをしてるんだろう。
実際、うちはめったに怪我もしないからな。
それが決定力のなさにもつながっているのかもしれないが。
そこの所は当面の課題だな。
「この村は囲いもなく開けていますので、むしろ安全な方なのでしょう」
「そういえばモアノアの住んでた村は、柵を作って要塞化してたな」
「あれぐらい僻地だとかえってしっかりしているのでしょうね。ここはそれなりに交通もある農村なので、閉じこもるわけにもいかないのでしょうか」
などと話していると、村長がやってきた。
「セス殿、ここにいらしたか。む、君もいたのか」
「まいど」
「まあいい、君も来なさい。実は以前お話した住み込み警備の募集をかけていたのですがな、応募が有りまして、カプル殿はセス殿に聞けと申されるので」
「私に面談をしろと?」
「そうなりますな。もちろん私もご一緒しますが、その、腕前の方はなんとも私が見てもわかりませんもので。前にたいそう勇ましい男を雇ったことがあるのですが、実際はイノシシ相手に剣も抜かずに逃げ出すような見掛け倒しで、いやこればかりは素人にはなんとも。セス殿はかの気陰流の達人と聞き及んでおりますので」
「そうですか、かしこまりました」
面接に来たのは、かなり年のいった男と、その孫娘だった。
男の方は村長より一回りぐらい年上に見える。六十代後半ぐらいだろうか。
足腰はしっかりしてるようだが、人の良さそうな爺さんだ。
腰に俺たちと同じ日本刀風の刀を差している。
孫娘の方はまだ十代だろう。
「お二人で旅をされていたが、冬の間の逗留先を兼ねて、という事でよろしいかな」
と村長が尋ねると、老剣士のほうが答えて、
「さよう、ま、見ての通りの老いぼれじゃが、ホンツンの役場で張り紙を見たもんでな」
「さようですか」
とセスは頷くが、ちょっと緊張してるようだな。
なんだろう、もしかして胡散臭い人物なのだろうか?
「紹介状はお持ちでしょうか?」
「いや、冒険者稼業も引退しておってのう、教会のものなら……」
懐から取り出す。
冒険者ギルドに所属していれば、最低限の身元は保証してもらえる。
あるいは精霊教会でもだ。
俺の場合は、最初この世界に飛ばされてきた時に、アンのツテで教会が身元を保証してくれた。
今でも、俺の身分は教会が保証してくれているはずだ。
他の連中は奴隷扱いの数人を除けばみんな戸籍があるし、教会や各ギルドの保証もある。
この老人と孫は、教会の発行した身分証しか持っていなかった。
「身元は問題なさそうですな、コン殿にキミネラ殿。しかし、用心棒というにはいささか歳が若すぎるのでは?」
村長が書類を見ながら孫娘の方を見る。
「ならば、腕試しをしてみるかね?」
「それはもちろん。先生、お願いできますか?」
とセスに話しかけるが返事がない。
「あの、セス殿?」
「あ、はい。何でしょう」
「腕試しを」
「わかりました、よろしいか、ご老体」
「構わんよ、どれ、キミネラ」
孫娘に話しかけると、孫は肩に下げたズタ袋から、あまり手入れのされていない木剣を二本とりだす。
それを老人とセスに手渡すと、自分は一歩下がった。
「ご老体が相手を?」
「孫娘では、おぼつかんというのじゃろう」
「いえ、そうではありませんが。では、表に」
「うむ」
二人に続いて、俺達も屋敷を出る。
工場の横には、材木を積み上げる予定の空き地がある。
ここで製材などもするらしい。
そこで十メートルほどの間を置いて、二人が対峙する。
「参ります」
「ああ、きなさい」
老人はそう言ったものの、木剣をだらりと下げて立ち尽くしたままだ。
セスは構えたまま動かない。
そのまま、どれぐらい時間が立っただろうか。
両者ともまったく動かない。
やがて、気がつけばセスの額には、脂汗が滲んでいる。
セスはそのまま刀を納めてしまった。
「参りました、私の及ぶところではありません」
「え、あの、セス殿?」
村長はあっけにとられているが、俺もよくわからなかった。
あの爺さんは殺気などを全然感じない代わりに、存在感も感じない。
「若いのによう練りこまれておる。気陰流と見たが、師はいずれの?」
「エツレヤアンのヤーマが我が師です」
「ほう、聞いたことがある。昔、王都の大会で優勝し、剣聖レンヤの再来とも言われた御仁じゃな。まだ壮健か」
「病ですでに現役を退いておりますが、近頃は息災とか」
「なんと、惜しいのう」
そう言って顎をしゃくる姿は、人の良さそうな爺さんなんだけどな。
「コン先生、あなたのような名人が世にも出ず、このような場所で用心棒などとは」
「そうおだてるな、照れるわい」
と言葉通りに照れて頭をかく。
やはりどう見ても、ただの好々爺だ。
だが、あのセスが一歩も動けずに負けたのだ。
とんでもない達人に違いあるまい。
「孫もよく使う、そうじゃな、お主にはだいぶ劣るが、役には立つじゃろう。わしの分まで存分につこうてくだされ」
「かしこまりました。キミネラ殿、私は週に一度程度しか来れません。私の代わりにコルスという同門の剣士が来ることも有ります。朝夕の見回りと非常時の対応をお願いしたい。報酬の方は、村長の方からお聞きください」
「はい」
と孫娘のキミネラは頷く。
「では、巡回コースを案内いたしましょう。ご……サワクロ殿はいかがします?」
「俺はここで留守番してるよ」
「そりゃいかんぞ君、もっとせっせと働き給え。専務殿からも甘やかすなといいつかっておるのでな」
「まあまあ、こちらの兄さんには、わしの相手でもしてもらいたいんじゃがな」
とコン老人。
村長はまだ老人の実力を疑っているようだが、セスの顔を立てて、というよりもその主人である紳士様の顔を立てて受け入れることにしたようだ。
村長は出ていき、ついでセスとキミネラも出て行った。
狭い小屋には俺と爺さんだけだ。
「ほれ、お前さん。そこのカップを頼む」
そう言って自分は荷物の中からボトルを出した。
棚からきれいそうなカップを二つ取ると、手渡す。
「ほう、お前さんも飲むか」
「ぜひ、ご相伴にあずかりたいですね」
「いいじゃろう、なんぞツマミはないかな?」
「炒り豆で良ければ有りますよ」
モアノアが持たせてくれた、おやつの炒り豆を革袋から取り出す。
「ほう、気が利くのう」
しばらく二人で黙々と酒を舐めた。
二杯目を飲み干したあたりで、ちょっと尋ねてみる。
「さっきの試合、俺には全くわからなかったんですが、どうやって勝負が決まったんです?」
「わしにもわからんよ。あの娘が参ったといったからには、あの娘にはわかったんだろうさ」
「そういうものですか」
「そうだな、わしも若い頃にはそうしたことがあった。相対して剣を構える。そうして次の一手を考える。大上段に振りかぶって一気に、いや、右からフェイントを掛けておびき出し、いやいやそうではない、ここは中段に構えて突き崩す……などとまあ、色々と持てる技を尽くして手を考えるわけじゃよ」
「ははあ」
「だがな、そうした予測をすべて相手に打ち砕かれる、いや、打ち砕かれる予想しかできん時がある」
「はあ」
「そうして打つ手がなくなったら、それはもう降参するしかあるまい」
「なるほど」
「ま、とおからずあの娘の考えはそんなところじゃろう」
「彼女は俺の知る限り、まず怯むこともなければ、後れを取ることもない、相当な腕前だと思うのですが」
「その通りじゃ、構えを見ただけでわかる。実によく鍛え込まれた剣じゃ。よい従者を持ったものじゃ」
「分かりますか?」
「わかるよ、同じ波長をしておる。主人を得たホロアはみなそうじゃ」
「黒の精霊石を身につけてるんですけどねえ」
「うん、またけったいなものを身につけとるな」
「実は……」
とあらましを説明する。
「はは、若いのに殊勝なことじゃ」
「そうでもなくて、最初は単なるいたずらごころだったんですけどね、あの村長さんにさんざん説教されたら、言い出せなくなってしまったもので」
「なるほどのう」
「そんなわけで、なにとぞご内密に」
「ああ、構わんよ」
そのあとは酒盛りしながら、色んな話を聞く。
若い頃は南方を旅していたらしい。
十年ほど前に娘夫婦のもとに帰ると、いつの間にか孫が剣を始めていた。
そろそろ冒険者は引退するつもりだったが、孫のキミネラが自分について剣を学びたいというので、今は彼女の修業のために、こうして各地を旅しているそうだ。
今回も春までの逗留先を探して、ここに来たらしい。
「お孫さんは冒険者を目指してるんですか?」
「さてな、あれは強くなりたいとしか言わんのでなあ」
「強くなる……ですか」
セスに限らずみんな強くなろうと努力してるよなあ。
俺が突然、隠された力に目覚めて無敵になったり……なんてことはないだろうから、みんなが地道に強くなって行くしか無いんだろうけど。
などと悩んでいると、
「どうした?」
「あ、いやその、どうしたら強くなるのかなあ、と」
「お前さんがか?」
「俺もですけど……、ご存知かもしれませんが、紳士の試練とやらがあるでしょう。春になったらあれに挑もうと思うのですが、さっきのセスも含めてうちの従者たちは試練に備えてみんな頑張ってるんです。ところが、俺は見ての通りのへなちょこなもんで、アドバイスのひとつもしてやれない有り様で……」
「ふむ、そうじゃな。わしも長いこと旅をしてお主のような主従の冒険者も随分と見てきたが、主人の器は千差万別、皆ちごうておったな」
そう言って一度盃を置くと、顎をしゃくる。
「剣を持って先陣を切るものもおれば、学者肌で小刀一本身につけずに争いは従者に任せて遺跡を発掘しておるものもおった。主人が必ずしも強くある必要はないわな。それに聞き及ぶ話では紳士の試練というやつは、従者しか戦わぬのであろう?」
「そう聞いてます」
今は違うと言う噂もあるが、細かい所はまだわからない。
「それにじゃ、ホロアという種族、あれは強い。剣にせよ、魔法にせよ、己の得意とするものに関しては、並の人間では及ばぬ力を当たり前のように発揮するものじゃ」
「そうなんですか」
「うむ、天賦の才などというがな、人にも生まれつき剣の才能に恵まれたものはおるが、ホロアの場合、剣士に向いたものであれば全員が才能を持った人間と同レベルからスタートするようなものじゃ。同じように鍛えたのでは人間とホロアではまず差は開く一方じゃな」
「なるほど」
「先程の娘にしてもそうじゃ。あれは試合であったから戦わずして負けとなったが、もしあれが戰場であったならば、あの娘はかなわぬまでもわしの腕一本ぐらいは持っていったであろう。あるいはもう一人味方がおれば、そうじゃな剣士よりも盗賊なり魔導師なりがおれば、負けるのはわしじゃろうな。もっとも、その場合はわしも一目散に逃げるがのう」
といって笑う。
そういえば、先日の探索のあとでも、似たような話をしていたな。
試合ならセスの圧勝だろう、と。
「いずれにせよ、ホロアという種族は主人のためならいくらでも力を発揮するようじゃ。あとは、月並みじゃがお前さんが信じてやるんじゃな。ホロアという連中の強さを」
信じるかあ。
額面通り受け取るとただの精神論みたいだけど、要するにホロアの側には十分なポテンシャルはあるが、主従のあり方に定石はないので、その都度考えてやるしか無いってことだろうな。
臨機応変というか、行き当たりばったりは俺の性に合ってるし、どうにかなるかな。
まあ、そんな気はしてたけど、目先の目標が見えないときは、自分よりベテランの人にそう言ってもらえるだけでも少しは落ち着くもんだ。
「わかりました、ありがとうございます」
「なに、大したことは言うとらんがな。それよりも、もうちょっとその豆をもらえんかのう」
そのまましばらく飲み交わしていると、村長の孫のワイレとフルンが戻ってきた。
「よう、どうだった?」
「うん、川がすっごい綺麗でねー、そんで……あれ、お爺ちゃんここの人?」
とフルンがコン老人に気がつく。
「いいやぁ、雇われ用心棒じゃよ、お嬢ちゃんはこのお人の従者かい?」
「うん! あ、じゃなくて内緒!」
「ははは、わかっとるよ」
「ねえ、お爺ちゃんすごく強そう、手合わせして! じゃなくてしてください!」
「お、元気でいいのう。どれ、今日は気分がいいので、一つ」
「木刀?」
「いんや、この杯を取ったら勝ちじゃ」
と手にしたカップを掲げる。
「わかった!」
言うが早いかフルンは目にも留まらぬ早さで飛びかかる。
ところがコン老人はどこが動いたともわからぬのに、フルンはスコンとなげ飛ばされた。
「すごい! 今どこ触られたかわからなかった! すごい!」
「はは、感心してばかりじゃ取れんぞ」
「うん、行く!」
何度も小動物のように飛びかかるフルンがあと一歩の所で投げ飛ばされる。
あるいはまるですり抜けたかのようにかわされる。
ふと気づくとコン老人は全然動いてないが、手にしたカップの酒も動いてなかった。
こんな漫画みたいなことがほんとに出来るもんなんだなあ。
俺と村長の孫のワイレは側で見とれるだけだった。
「お、もうおしまいか?」
ふいに立ち止まったフルンに、老剣士が声をかける。
「ううん、ちょっと考えてる」
「ほう、何をじゃ?」
「お爺ちゃんの動き。どこも動いてないのに動いてる。セスと一緒だけど、もっと完全に動いてない。うーんとね、セスは木みたいに動かないんだけど、お爺ちゃんは石みたいに動かない」
「ほほう」
「あ、セスは私の先生でね」
「さっき会ったよ」
「勝負した?」
「ああ、したよ」
「どうだった? やっぱりセスが負けた?」
「そうじゃな、戦わずして降参しおったわい」
「やっぱり!」
「師匠が負けて、そのように嬉しそうな顔をするものではないぞ」
「ごめんなさい! でも、やっぱり嬉しい」
「そうかの?」
「だって、お爺ちゃん、すごい達人だもん!」
そこまで言うと、フルンは再び腰を沈める。
同時に先程まで荒ぶっていた気配が静まっていく。
というよりも内に篭もっていくような……それは徐々に濃縮されて、殺気と見まごうばかりに強く鋭く研ぎ澄まされていく。
ただ一点、老人の手にした杯に向けて。
ひゅん、と風が鳴った。
俺にわかったのはそれだけだが、次の瞬間にはフルンは老人の反対側にいて、老人の姿勢は変わらず、ただ盃の酒だけがわずかに揺れていた。
「ほほ、惜しかったのう」
「うん、でもやっぱりダメだった」
「なに、大したものじゃ。思わず酒を揺らしてしもうたわい」
「うん、お爺ちゃんが動いたの、ちょっとだけ見えた」
「そうか、見えたか」
「うん! あ、セス、お帰り!」
いつの間にかセスと老人の孫が立っていた。
「いまのは気陰流奥義、薄氷といいます。自ずから、体得したのですね」
「薄氷! かっこいい! うん、なんかね、紙の上に立ってるようなつもりになったの。破らないように、動かないようにって。もっと早く動くために、余計な動きを全部無くそうって思ったんだけど」
「そう、本来は薄い氷の上に立って修行するのです。ですが、イメージだけで、自分一人で体得したようですね」
「でも、お爺ちゃんには通じなかったー」
「それは技の優劣ではなく、もっと根本的な力量差によるもの」
そこまで言うとセスはコン老人に向き直って頭を下げる。
「弟子が教えをいただきまして、誠にありがとうございます」
「なに、ちょいと遊んでやるつもりじゃったが、末恐ろしいものじゃ。良い弟子を持ったのう」
「はい」
「私も、良い物を見せていただきました」
コンの孫のキミネラも頷く。
あとは剣士同士、控えめな談笑が始まった。
俺と村長の孫のワイレは、苦笑しながらその様子を見守った。
孫が二人だとややこしいな。
まあ、そこはいいんだけど。
剣客の祖父と孫は、工場の一室を間借りして暮らすことになった。
ここは村の中心でもあるし、都合がいいだろう。
山賊が襲うような村ではないようだが、魔物や獣の危険は常にある。
村人は大切な労働者でもあるので、彼らの安全を守るのは俺達にとっても利害に関わることなんだよな。
ってことは用心棒のギャラも俺達が持ってもいいんじゃないか、と思ってあとでメイフルに聞いてみると、アレは最初からうちもちだったらしい。
「しっかりしてんな」
「そりゃ、あの村にそないな余裕ありますかいな」
「まあ、そうなんだろうが」
「せやけど、随分と立派な人が来てくれたようで、よろしゅうおましたな」
「そうだな、なんかすげー達人だったぞ。逆にあんなギャラで雇っていいのかと不安になるぐらい」
「そういう人もおりますねん」
「そうかもなあ」
フルンも気に入ってまた会いたがっていたし、お礼がてらに旨い酒でも持って、また遊びに行こうかね。
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