第105話 縦穴

 翌朝、早くに目を覚ますと、


「旦那、今から壁を掘ってみるけど付き合うかい?」


 とエレンが呼びに来る。

 洞窟の入口に当たりをつけたらしい。


 寝ぼけ眼で見に行くと、我が家の力自慢がツルハシ片手に壁を掘り返していた。

 人の手で埋め戻されていたらしい壁を掘り進むと、石積みの壁が出てくる。

 メイフルが扉を見つけ出し慎重に開くと、小さな石室に出た。

 中には無骨な石棺がある。

 蓋をあけると、隠し階段が現れた。

 本格的じゃないか。


 紅もメイフルも、魔物の気配は感じないという。

 この二人がそういうなら、まず間違いはない。

 となると、どういう面子で乗り込むかだ。

 何がおこるかわからないので精鋭で行くべきだが、あまり大人数でも小回りがきかない。

 それに、人工物なら何かの遺跡の可能性も高いので、専門家であるペイルーンやエンテルも必要だ。


 というわけで、まずはセス、メイフル、レーン、デュース、コルス、ペイルーン、それに俺で行くことにした。

 俺は例のごとく戦力としては邪魔なんだけど、行きたいのでしかたない。

 主人の特権というやつだ。

 と思ったら、フルンも行きたがったので連れて行くことにする。

 フルンにせがまれると、断れないんだよな。

 誰にせがまれてもノーとは言えないけど。

 フルンは新しい剣を腰にさして、実に勇ましい。

 まあ、買ったら早速使いたいよな。


 朝飯を済ませて、支度を整える。

 いつもの冒険装備に弁当、更に全員が明かりを持って石階段を下る。

 階段の最初だけはかび臭かったが、すぐに冷たい空気に代わった。

 奥が深いせいだろう。


 先頭のメイフルがランプを掲げて慎重に進む。

 ペイルーンはキョロキョロ周りを眺めて、様子を見ている。


「この辺りはそんなに古くないわね。上の壁画と同じ、千年とかそれぐらいかしら、石の加工が雑なのよね。数万年ぐらい前のほうが綺麗なのよ」

「そんなもんか。ふつうはどんどん技術が進歩するんじゃないのか?」

「え、そうかしら。昔のほうが神々から受け継いだ技術が残ってるから、色々凝ったものがあるわよ?」

「なるほどねえ」


 地球はそんな都合のいい先生はいなかったからな。


「おっと、階段が終わりましたで。こっからはおまちかねのダンジョン……って感じじゃなさそうですな」


 階段を終えると、道は右手に伸びている。

 土をほって石塀で固めただけの、粗雑なダンジョンだ。

 途中、横穴を掘ろうとした痕跡はあるが、どれも二、三メートル程度で止まっている。

 掘るのをやめたのか、あるいは崩れたのか。


「鉱山とかじゃなさそうよね。お墓かしら? このあたりは地下墓地の風習があるのだけど」


 ペイルーンもよくわからないようだ。

 道なりに進むと、急に通路が綺麗になる。

 先日の新品の塔みたいな質感だ。

 そのまま少し行くと、巨大な縦穴に出た。

 穴の直径はどれぐらいだろう、数十メートル、いや百メートルはあるかもしれない。

 ほんとうに巨大な縦穴だ。

 そこを横断するように橋がかかっている。

 橋の幅は四メートルほどで、パイプ状の手すりが付いている。

 軽く手すりに触れてみたが、ひんやりと冷たい。

 金属製のようだ。

 床も同じく、硬い。

 試練の塔と同じような材質かな。


「すごいわね。ステンレスの層がこんな上まで来てるなんて。大発見だわ」

「これがそうなのか?」

「ええ、普通は何百メートルも潜らないと駄目なのよ。鉄の層もなかったし……そもそも、この地域が神話とかに出てきたこともなかったと思うんだけど、あとでエンテルに確認しないと」


 下を覗いてみるが、真っ暗で何も見えない。

 試しに手頃な石ころを投げてみたが、ついにぶつかる音はしなかった。


「降りられると思うか?」


 とデュースに聞いてみるが、


「どうでしょー、魔界まで通じているにしてもー、ここがどのあたりにあたるのかわかりませんしー。このあたりはたしか魔界でも辺境にあたっているのでー、大きな国は無いはずですがー、それだと魔物が跋扈してる可能性が高いので逆に物騒ですねー。もう少し北東にいけばファビッタと言う大国があったはずですがー、オーレの住んでいた女神の柱の西側も未開の地のようですしー、うーん」

「そもそも、下り口がないと無理だよな。下が見えてりゃ、オーレが飛んでいけるだろうが」


 縦穴の周りを見渡すが、壁面はきれいなもので、穴ひとつ空いてない。

 そもそもどうやって作ったんだろうな。

 メイフルが慎重にあたりを調べながら進んだが、何も発見できなかった。

 こりゃ、ヘリでもないと無理かもなあ。

 なんにせよ、真っ直ぐ進むしかあるまい。


 巨大な縦穴を抜けると、また下り階段があり、その先は枝分かれした通路と小部屋が幾つか連なっている。

 なんだろうな、この感じ。

 病院とか大学とか、そういうイメージに近い。

 現代的に整備された建築物ってかんじだ。


「なんや居りますで」


 メイフルの言葉に、全員が身構える。

 今いる場所は幅五メートルほどの通路の中程だ。


「どちらですかー?」

「あっち、正面ですわ」


 メイフルが指差す方向には何も見えない。


「一匹、あれは……ガーディアンですな」


 というメイフルにデュースが尋ねる。


「型はわかりますかー」

「知らん型ですな。樽みたいなんが宙に浮いて……」


 俺が見ても通路の先は真っ暗で、やはり何も見えない。


「樽ですかー、手強いですねー。セス、フルン、前に立って盾をー。奴らは鉄の玉を打ってきますー。衝撃に備えてくださいー。みんなは盾の後ろにー。他にはいませんかー?」

「見えてるのは一体ですな、あとは感じまへんな」

「わかりましたー。三十秒後に呪文をうちますのでー、それで仕留められなければ撤退しましょー」


 セスとフルンが先頭に立って盾を構える。

 二人の盾は長方形の大きなものだ。

 タワーシールドとか言うらしい。

 地上で留守番中のオルエンのやつは、ひし形で馬上でも足まで隠れるようなタイプなので、結構感じは違う。

 騎士団の連中も同じ盾をもっていたな。


 その盾を地面に突き立てるように並べて構えて、俺達は慌ててその後ろに隠れる。

 盾の向こうから、ジリジリと機械音のような物が近づいてくる。


 ボシュッ!


 炸裂音がしたかと思うと直後に、


 ゴンッ!


 と何かが盾にあたって跳ね返る。


「うぐっ、痛い!」


 フルンが厳しそうな声を上げる。


「大丈夫か、フルン!」

「だいじょうぶ! 盾だから!」

「たのむぞ!」


 更に二発。

 続けざまにフルンの盾に当たる。


「いきますっ! それー!」


 デュースが杖をかかげると、通路の幅いっぱいに拡がるような火の玉が、まっすぐ飛んでいった。

 巨大な火の玉は通路上のものすべてを焼きつくしながらまっすぐ飛んで行く。

 こっちまで熱い。


 そのまま飛んでいって、数秒後。


 ドゴーンッ!


 という爆発音が起きた。

 やったのか?


「どうですー?」

「大丈夫ですわー、気配ももう感じまへんな」

「ふう、危なかったですねー。フルンも大丈夫ですかー」

「平気!」


 とフルンは強がるが、腕が痛そうだ。

 床にはソフトボールぐらいの鉄球が転がっていた。

 こんなもんが直撃したら、骨まで砕けるだろう。

 フルンの盾も、少しへこんでいた。


「よく頑張ったな」


 と褒めてやる。

 その間に、レーンが軽く回復呪文をかけた。


「どうだ、フルン」

「うん、ちょっとしびれたけど、もう平気!」


 問題はなさそうだな。

 さて、どうしよう。


「そうですねー、五体も十体も出て囲まれればともかく、もう少し見る分には大丈夫じゃないでしょうかー」


 とデュース。


「そうだな。なんかありそうだし」

「そうよ、どの時代かはわからないけど、明らかに数万年以上前の遺跡だもの。ペレラール時代の可能性もあるわ」


 とペイルーン。


「ペレラールってこの星の名前だっけ?」

「そうよ、そして十万年、あるいはそれ以上前にあったと言われる、古代文明の名前でもあるわ。紅もその頃の人形のはずよ」

「あー、そういえばそんなことを聞いたような気がしないでもないような」

「いいかげんね、まあいいわ。きっとすごいものが出るに決まってるわね」


 などと興奮気味に先に進もうとするのを押しとどめる。

 ペイルーンは俺と同じぐらい弱いんだから、先走ると危ないだろうが。

 まあ遺跡調査が本業のペイルーンにしてみれば興奮するのもわかるが。


 引き続き、侍のセスが先頭でシーフのメイフルと協力しながら慎重にすすむ。

 途中、さっきよりだいぶ弱い、座布団に足が生えたような珍妙なガーディアン数体が巡回していたが、なんなく退ける。

 ホテルの客室のような通路を抜けると、吹き抜けの広場に出た。


 暗くてよくわからないが、サッカー場ぐらいの広さはあるんじゃなかろうか。

 天井も三十メートルぐらいの高さがある。

 隅の方に、直径五メートルから十メートルぐらいの金属っぽい球がいくつか転がっている。

 それ以外は何もなかった。


「なにかしら、ここ。あの球は昔……えーと、どこかの遺跡で見たのよね。完全にステンレスの固まりで、なんだかわからなかったけど」


 とペイルーン。


「ほほう。しかし、なにもないところだな。体育館か何かか?」

「なにそれ?」

「スポーツとかする広場だな。走ったりとか」

「へー、わざわざ屋内で?」

「ああ」

「外でやったほうがいいんじゃないの? 暗いし」

「雨風に影響されずに都合がいいんだよ」

「ふーん、まあいいけど。それよりももうちょっと調べましょ」


 相変わらず、ペイルーンは専門外には興味が無いな。

 この体育館もどきは俺たちが入ってきた通路の他にも外周沿いに幾つか通路と小部屋がつながっている。

 手近なところから、小部屋に入ってみる。

 中には小さな棚が並んで、いろんな小物が置かれていた。


「へえ、綺麗に残ってるわね。なにか出てくるかしら」


 ペイルーンはあちこち覗いて回るが、金属っぽいブロックや、小さなチップみたいなものしか無い。

 俺も手近なものを拾ってみる。

 二センチ程度の切手ぐらいのカードだ。

 端子とかあったらメモリカードにも見えるような形だが、そういうわけでもなさそうだ。

 何かの装飾品……ってこともないよなあ。


 部屋の隅にはテーブルがあったが、椅子がない。

 テーブルの高さは七十センチ程度で普通サイズなので、立ち机ってわけでもないだろうし。

 空気椅子で頑張ってたとかじゃないよなあ。

 などと考えながら、テーブルの前に立って、腰を下ろす仕草を見せると、床がわずかに振動してせり上がってきた。

 うわ、と驚くまもなく、床が盛り上がり、椅子になった。

 なんじゃこりゃ。


「あら、椅子が生きてたのね。遺跡の机って、そうやって勝手に椅子が浮き出てくるのよ。変形の魔法らしいけど、魔力の無駄遣いよねえ」


 とペイルーン。

 魔法なのか、これ?

 せり上がった椅子は、床と滑らかに結合していて、どこが動いたのかもわからない。

 科学技術だとしたらすごい品質だと思うが、魔法だとしたらすごいのかどうかは判別がつかない。

 とにかく椅子に座ってみる。

 思ったほど硬くないな。

 がっちりしているが、それでいて最低限のクッション性もあるような、不思議な素材だ。


 改めてテーブルを見る。

 こちらはフラットな一枚板が、壁に固定されている。

 触るとつるつるしていて、埃一つ積んでいない。


「なあ、ペイルーン。なんでこれ、埃一つ無いんだ?」

「ああ、それね。魔力が生きてるところだと、大抵そうなのよ。空気を浄化する魔法もかかってるみたい」


 空気清浄機か?

 正直、俺には見ただけではこれが魔法なのか科学なのか判別できない。

 なにか手がかりがあればいいんだけど。

 パソコンみたいなのがあるとか。

 テーブルは金属っぽい一枚板で、スイッチとか配線とか、そういうわかりやすいパーツはついていない。

 壁も一面フラットで、なんというか不気味だ。

 ただ、紅が非常にメカっぽいことを考えると、同世代の文明が科学的なものだとしてもおかしくはないんだよな。

 とすると俺の住んでた日本よりもはるかに進んでたのだろう。

 うーん、そういうSFっぽい社会だと、インターフェースってどうなってるんだろう。

 パソコンみたいなもんはすでに無いんだろうか。

 それでもなにか人間が操作するデバイスみたいなものはありそうなものだが。


 そもそも科学的ってなんだろうな?

 馴染みのあるメカが並んでればすぐに分かるんだろうが、ここはあまりに無機質すぎる。

 要するにアレか、電気を使ってそうなら科学的な文明に見えるのかな?

 もしここの文明が、例えば魔法とか精霊石を動力に使う技術体系の文明なら、俺の考えるようなな装置はなくてもおかしくないかもしれない。

 もちろん、もっと俺の想像を越えた何かなのかもしれないし、単にこういうシンプルなデザインが好きなだけかもしれない。

 むずかしいもんだな。


 諦めて椅子から立ち上がり、席を離れる。

 数秒後にすっと椅子が引っ込んで、また元通りフラットな床に戻った。

 その間もペイルーンは棚の物をあさっている。

 忙しそうなので、しばらくほっておいてやろう。


 他のメンバーはというと、セスとコルスは部屋の入口で辺りの警戒。

 レーンとデュースはそのサポート。

 メイフルは金目の物を探しているようだが、何もないようだ。

 フルンは俺の横に立っている。

 たぶん、俺の護衛をしてくれてるんだろう。


「デュースはこういう遺跡には詳しくないのか?」


 デュースに尋ねてみると、


「ないですねー。魔法に関する伝承はー、もっと後の時代のここ千年ぐらいのものが多いのでー、こういう遺跡は魔導師にとっては研究の対象外なんですよー」

「そんなものか」

「探索自体はしたことはありますけどー、文字も読めませんしー」

「そういえば、紅は読めたんだっけ?」

「読めるみたいだけど、それ以前にあまり文献が出てこないから」


 棚を漁っていたペイルーンがこちらを見ないで答える。


「そもそも、この時代は本とか出てこないのよね。文字を使わない文明だった可能性が高いと言われてるわ。今でも、会話や歌だけで伝承を伝える部族とかあるし」

「しかし、それで紅みたいな高度な人形が作れるのか?」

「さあ、それは謎だけど」

「だいたい、ここも相当高度な施設のようだな」

「まあ……そうよね」


 うーん、日本だって完全じゃないけど書類の電子化とか進んでるし、あれってパソコンが無くなったら読めないもんな。

 それを更に進めて、もっと高度になった社会なら、形のあるものとしては残ってなくてもおかしくないよな。

 だったら……どうする?


「だめね。だいたい、数万年以上前の遺跡はこういう箱ばっかり並べてあるんだけど、当時の人は、これで何をしてたのかしら」


 ペイルーンはこぶし大の金属のキューブを手に首を傾げる。


「何もわからないから、この時代の研究者ってほとんどいないのよね」

「難儀だな」

「その分、チャンスも大きいはずだけど……」

「まあ、そういうのはあるな」


 そこでふと疑問が浮かぶ。


「何もわからないなら、そもそもなぜこれが数万年前のものだとわかるんだ?」


 炭素なんたら測定法とかそういうのはないよな。


「ああ、それね。ここ数千年のは文献も一緒に出てくるから、それでわかるわ。別途史書とかと付き合わせて同定していくのよ」

「ふぬ、そりゃあ普通だな」

「それでわかるのは、一万年ぐらい前までかしら。それ以上前になると、直接の資料は出てこないのよね。ただ史書はあるから、たとえばペレラール記、これはこの星の二十万年の歴史が記載されてるの。八割がた作り物だと言われてるけど。あとはアジアルの書とか、聖書とか、そういうものに色々記された記録と、遺跡の場所や、造形的な特徴から大雑把に判定してるのよ」

「なるほど」

「私の知る限り、この辺りに大きな国や街があった記録はないから、逆に大発見の可能性はありそうね」


 そういや、中国でも割と最近まで殷王朝とかは実在するかどうか分からなかったらしいしな。

 ああいうノリで調べてるのかな。


「いいわ、もうちょっと見て回りましょ」


 俺達は小部屋を出て、次の部屋を探す。

 並んだ部屋はどれも似たようなもので、成果はなかった。


 そのまま広場の端まで移動すると、最初に見かけた巨大な球の前にでる。

 間近で見ると結構でかいな。

 完全な金属製の球体が、床と一点で接している。

 押すと簡単に転がりそうだが、軽く触ってもぴくりともしない。

 表面は、出来たての試練の塔と似た素材で、ツルツルだ。


「これもわからないのか?」

「そうね、何度か見たことはあるけど」

「わからんことだらけだな」

「しょうが無いじゃない、まだ誰も理解した人はいないんだから」

「誰かに聞けりゃあいいのになあ」

「紅も知らないみたいだし」

「他に誰か……」


 なーんか調べる方法を思い浮かびそうな気がするんだけどなあ。


「大将、こっちにおもろそうなもんがありますで」


 あたりを調べていたメイフルが俺を呼ぶ。

 呼ばれて行ってみると、さっきの小部屋とは広場を挟んで反対側の壁面に、少し大きな部屋がある。

 中には棚の他に、いくつかチューブのようなものが並んでいた。

 大半は空だったが、そのうちの一つには液体が満たされ、中には人間……じゃないな、紅のような人形が浮かんでいた。


「わお、大当たりじゃない! これ、紅と同型かしら?」


 ペイルーンが目を輝かせてチューブに飛びつく。

 半透明のチューブの中には、素体のような人形が浮かんでいる。

 人形は裸というか、剥き身の状態で、水中をゆっくり上下している。

 ホルマリン漬けみたいだな。

 体の要所には人形っぽい切れ目というか筋がはいっていて、これがなければ人間の標本と見間違うところだ。


「これ、取り出せるかしら。そういえば、紅の時はどうやって出したのか聞いてなかったわ」


 チューブを調べているが、筋目一つ無いきれいな筒で、スイッチ的なものも見当たらない。

 ここのデザインはシンプルにも程があるだろう。

 これが映画とかだったら手抜きに見えるぞ?

 まあ、こうして目の前に実物があると、現物ゆえの説得力があるからそうでもないんだけど。

 そういや昔、外注のデザイナーさんと話してた時に、本物の雲はたまに同じ形のものが均等に並んでたりすることがあるんだけど、イラストでそれを描くと非現実的だってボツにされるんだ、とか言ってたのを思い出した。

 だからなんだって話だけど。

 何の話だっけ?

 そういや、この人形、紅に似てるな。

 ……そうでもないか。


「きれいな子ですねー」


 いつの間にか隣にいたデュースがそう言う。


「そうだな、こいつも従者になったりするかな?」

「残念ながらー、この子にはコアが、つまり魂が入っていませんねー」

「そうなのか」

「そのようですよー。もっとも人形用のコアは高価ですけど人形師に依頼すれば買えるはずですのでー、この子を連れ帰っていれてあげてもいいかもしれませんねー」

「なるほど」

「うーん、とにかく戻って、エンテルと紅を連れてきましょう」


 とのペイルーンの言葉で、俺達は引き返すことにした。

 元来た通路に入ると、メイフルが歩みを止める。


「ガーディアンみたいですな。四足ですわ。数は一匹」

「了解ですよー、では通常のフォーメーションでー」

「来ます!」


 セスの合図と同時に稲妻が襲い掛かる。

 それをコルスの結界が弾くと、次の瞬間には目の前まで敵が迫っていた。

 前足の一撃をセスが軽く身をかわしていなすと、隙を突いてフルンが剣を叩き込む。

 おニューの刀であるスイベルは中々の切れ味だ。

 今の一撃で前足が切断された。

 ついでセスが本体に刀をつき入れてトドメだ。


「あら、まだ生きてますな」


 コアを剥ぎ取ろうとしたメイフルがそう言ってナイフを掴む。

 改めてとどめを刺そうとしたところで、ふと思いついた。


「たんま!」

「なんですのん」

「ガーディアンって言葉は通じないのか?」

「さあ、うちはしりませんけど」

「どうなんだ、デュース」

「さあ、聞いたことはないですねー。そもそもガーディアンに言葉があるのかどうかー。なぜそんなことを?」

「いや、ガーディアンってここを守ってるんだろ? だったら、ここのことを知っててもおかしくないなあ、って」

「ははあ、なるほどー。一理ありますねー」

「ほなどうします? 捕虜にして連れてきますか?」

「大丈夫かな?」

「やとおもいますで。すでに手足は動きまへんし、魔力もつきてますわ」

「よし、それじゃあ用心して、連れ帰ってみよう」


 四本足をもがれて、半分壊れたボディだけになったガーディアンを縛り上げて、持って帰ることにした。


「なんだい、変わったおみやげだね」


 地下ダンジョンの入口で見張っていたエレンが、戻ってきた俺を見るなりそう言った。


「まあね、今夜のディナーにおあつらえ向きだろ」

「生憎と僕はもう、お腹いっぱいでねえ。旦那が僕の分まで食べてよ」

「遠慮するなよ、仲良く食べようぜ。カニみたいで旨いかもしれんぞ」

「カニなんてあんな虫みたいなもの食べるのかい?」

「旨いぞ」

「旦那は何でもくうねえ」


 などと軽口を叩きながら装備をとく。

 その上でさっそく捕獲したガーディアンを調べてみた。

 まずは紅に会話ができないか試してもらおう。


「会話ですか? マスター」

「うん、どうにかならないかな」

「しかし、この個体は発声機能を持っているのでしょうか?」

「わからん、なにか昔の言葉で話しかけてみろよ。我々は敵ではない、協力しろ、とか」

「かしこまりました。では、私の知っている言語で、アプローチしてみます」


 そういって紅がなにか俺の分からない言語で話し始めた。

 すっかり忘れてたけど、俺のなぞの翻訳機能は万能じゃないんだな。

 今、紅が話してる言葉は全然わからん。

 エンテルやペイルーンも一緒に見守る中、何度か話しかける内に、なにか反応があった。


「お、通じたのか?」

「はい、所属と識別コードの提示を求めています」

「うーん、すでにおまえの所属する組織はない、俺達は何万年も後の時代の一般人だ、情報の交換を求める、と言ってみてくれ」

「はい」


 待つこと一分。


「了解したそうです。何からたずねますか?」

「おお、行けたか。えーと、そうだな。まずはこいつの名前かな」

「……守衛10010110号、だそうです」

「そうか、ややこしいな。まあいいや、守衛ちゃんとよぼう。修理は必要か?」

「コアの損傷は軽微、行動は不可。現状で交渉に支障はないそうです」

「わかった、じゃあまず、あの施設は何かについて聞いてくれ」

「……、港だと言っています」

「港? あのへんは昔は海だったのか?」

「……、いえ、馬……言葉がうまく翻訳できませんが、空飛ぶ馬の港、と言っているようです」

「空飛ぶ馬? ペレラールの騎兵団のこと? やっぱりあったのね!」


 ペイルーンが興奮気味に詰め寄るのを抑えながら、更に質問する。


「あそこにはその空飛ぶ馬があったのか? 今もあるのか?」

「……、知らないそうです」

「そうか、じゃあ、あそこにあった人形のことはどうだろう?」

「人形、ですか?」

「おまえとよく似た人形がチューブに眠ってたんだ」

「わかりました、……こちらも知らないようです」

「そうか。じゃあ、最後にあの施設の使い方はどうするんだ?」

「……、生体コードの認証の後に、同期をとってアクセスする、とのことです」

「つまり、どういうこと?」

「不明です。ですが、ゲスト用アクセスコードを受け取りました。私が行ってみれば、何かわかるかもしれません」

「そうか。よし、あとはペイルーンとエンテルに任せるよ」


 二人は当時のことについてあれこれ聞いているようだが、大したことは聞き出せていないようだ。

 まあ、守衛だもんなあ。

 それよりも、紅が行ってあそこの装置を使えれば、もっといろんなことがわかるかもしれない。

 早速行ってみよう。

 なんだか、面白くなってきやがった。

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