第84話 竜
コーザスの試練の塔は復旧の目処が立たないまま、梅雨も開けたようだ。
思ったより梅雨も短かったな。
色々イベントが有ったせいもあるが。
あのあとエディの招待で、みんな揃って芝居を楽しんだ。
豪華なホールのVIP席で楽しむ芝居は、なかなかのものだった。
悲恋物だったせいか、みんなはばかることなくおいおい泣いているのが凄かった。
その後数日は、みんな芝居の話しかしなかったもんな。
まあ、満足してくれたなら、俺も嬉しいよ。
結局、街にいたのは二週間ほどだったろうか。
お告げが聞けなかったのが心残りだが、そんな都合よく全部回れるわけでもないし、もし大事な情報なら女神様の方に融通を利かせてもらうとしよう。
忍者のコルスを仲間にしてから数日をおいて、俺たちは街を離れた。
エディはすでに街を出ている。
「また会いましょう、ハニー」
そう言って、颯爽と馬にまたがると、麗しの姫君は去っていった。
ルタ島に渡る港町アルサまでの街道沿いは、赤竜騎士団の管轄であり、ゲートを通じて頻繁に行き来しているらしい。
運が良ければ、またどこかで会えるだろう。
名残惜しいが、別れは次の出会いと抱き合わせってもんだ。
またフルンが駄々をこねるかと思ったが、そうでもなかった。
「エディは、ちょっとちがうよねー」
「ほう、ちがうか」
「あの人はねー、お友達?」
「そっか、友達か」
「それとも恋人?」
「恋人かあ」
「でもやっぱり従者がいいよね」
「そうなあ」
「エディも従者になればいいのにね」
「どうかな」
「従者にしたくないの?」
「彼女には団長って仕事があるだろう」
「そっかー。じゃあ、お嫁さんにすればいいんだよ」
「お嫁さんかあ、結婚いいなあ」
「ご主人様、結婚したい?」
「前はしたかったなあ」
「今は違うの?」
「今はお前たちがいるからなあ」
「でも私達、お嫁さんじゃないよ」
「そうだなあ」
「お嫁さんはねえ、跡継ぎを産む人だよ」
「跡継ぎかあ」
「紳士は名を挙げたら、跡継ぎをつくらなきゃね」
「そうかもなあ」
「でもやっぱり、お嫁さんより従者だよね」
「そうだなあ」
従者と嫁ってどう違うんだろうなあ、などとぼんやり考えながら、とりとめのない会話をかわす。
ところで、新入りのコルスはというと、なにやら人に囲まれているのは苦手だと言って、馬車を出て行ってしまった。
といっても昼の移動中だけで、夜には戻ってくる。
具体的には先行して下調べを行うのだという。
そんな必要あるのかなあ、と思わなくもないが、此処から先は山越えで人里からも遠くなるし、トラブルもあるかも知れない。
それに、旅のお供の忍者はやっぱりそうじゃないとなあ、と俺一人で納得してしまった。
まああれだ、夜さえ側にいれば俺としては不都合はないのだった。
セスもそうだけど、これだけの達人が、俺みたいに頼りないおっさんにホイホイされるというのは、たまらないものがあるよね。
久しぶりの馬車に、ガタゴトと揺られる。
それにしても暑い。
「暑いですねー」
御者台で手綱を握るデュースの額には汗が光っている。
「暑いな」
「暑いですねー」
「ほんとに暑いな」
「暑すぎますねー」
などと暑苦しい会話を交わすのにも疲れてきたので、自然と会話が減る。
少し前で馬にまたがるオルエンも、ノースリーブのシャツから溢れる肌が、日に晒されている。
日に焼けた肌も健康的でいい。
シミにならなきゃいいけど。
「日焼け止めってないのか?」
「南方のベイデンという地方の種族は、肌に泥を塗って日焼けを防いでましたねー、ですがーさすがにこのあたりではそういうことはしないですねー」
「泥はちょっとな」
そもそも日焼け止めって何で出来てたんだろうな。
光を防ぐような成分が入ってたんだろうか。
「あとー、名前は忘れましたがー、薬草をすりつぶして塗るというのもありましたねー。すごく臭かったんですがー」
思い出すだけでも臭かったのかデュースが顔をしかめていると、薬草の専門家であるペイルーンが顔を出して、
「日焼け止め? ペンチルの香草じゃない? あれは鼻が曲がるわよ。でも、昔の貴族なんかは使ってたらしいわね」
「へえ、そんなひどいのか」
「ひどいわね。炎症にも効くんだけど、うちにはないわね」
「まあ、臭いのはなあ。素直に長袖着てるべきだろうな」
うんざりした顔で俺が空を仰ぐと、手綱を握ったデュースも同意する。
「そうですねー、それにしても暑いですねー」
「ちょっと代わってもらうか」
「そうしましょー」
アンに御者を代わってもらい、俺とデュースはキャビンに引っ込む。
デュースはだぼだぼのローブを脱ぎ捨てると下帯一枚になって、汗だらけのもち肌をさらす。
「お疲れ様でした、ご主人様、デュース様」
ウクレがあわててうちわを持ち出して、あおいでくれる。
「私もあおぐー」
フルンも一緒にあおぐが、全力でバタバタやるのでいまいちいい感じに風が起きない。
うちわもコツが居るよな。
「はー、ひんやりしますねー。二人共ありがとうございますー」
デュースはそう言って床のじゅうたんの上にごろりとねそべった。
仰向けでこんもりと盛り上がった胸が、だらしなく左右に垂れ下がっている。
それだけじゃなくて、腹の肉もすこし垂れ下がっている。
やわらかそうで、思わず指でつついてしまった。
「うぬぅ、人が気にしてるところをー」
「長いこと探索もしなかったしな」
「そうですねー、そろそろドカンと体をうごかさないとー」
「適量でいいんだよ、適量。しっかり有酸素運動をしないと」
「有酸素ー、とはなんでしょー?」
「全力で走ったり、重いものを一気にもつ時って息止めて力入れるだろ、それと違ってゆっくり走ったりとかの呼吸しながらやる運動を有酸素運動っていうんだよ」
「ははあ、そういえば力を入れる時は息を止めたりしますねー」
「で、脂肪を減らすには、有酸素運動のほうがいいんだよ。詳しい話は俺も知らないんだけどな」
「なるほどー」
「あと、上半身より足とかの下半身に筋肉をつけたほうが痩せやすいとか言うな」
などと話していたら、氷を作っていたエンテルが身を乗り出してくる。
「ご主人様、その話をもう少し詳しく」
「詳しくって、顔が怖いぞ、エンテル」
「あ、すみません、つい」
従者らしくメイド服を着た考古学者のエンテルは、三十路ながらもメリハリのあるナイスボディで体型的には多分うちで一番強い。
ぼよーんとしてぐびっとしてばばーんってかんじだ。
あとメガネだし。
「お前は別にダイエットする必要ないだろう」
「何を言ってるんですか! 十代の頃と違って、今は現状維持するだけでどれほど……、あ、いえ、ご主人様はただ情報を教えてくださればいいんです」
このパーフェクトなボディのどこを削るつもりなんだと思って、つい余計なことを言ってしまった。
こういうセリフは禁句だよな。
「いやまあ、知ってることは教えるけどな」
「私もダイエットするー」
うちわを放り出してフルンが飛びついてきた。
暑いからあとにしなさい。
「ねえねえ、ダイエットってなに?」
「痩せるんだよ」
「痩せるの? どこが? おなか? おっぱい?」
「両方だ」
「えー、これ以上小さくなったらこまるー」
服の上からささやかな膨らみを押さえる。
「それ以前に、下手にダイエットすると筋肉も落ちるからな。フルンには必要ないよ」
「そっかー、筋肉おちたら意味ないよね」
「だいたいあれだけ運動してて太りようがないだろ」
「そっかー」
「ほれ、納得したところで、デュースを拭いてやれ。汗だくだぞ」
フルンを促すと、言われるままにエンテルが作った氷水でキンキンに冷えたタオルを使って、デュースの汗を拭いはじめる。
体をこするたびに、ボリュームのある肌がぷるぷるとふるえる。
見てるだけでもたのしいな。
「はー、極楽ですねー」
「あはは、たぷたぷしてるー」
「うーん、年々お肉がついてきますねー。昔はもっと痩せてたんですけどー」
「私、全然太らないよ?」
「運動してますからねえー、私も動かないと駄目ですねー」
「じゃあデュースも一緒に走ろうか、走るとたのしいよ?」
「日が暮れてからにしてくださいー」
馬車の中は年長組を中心にダイエット談義が花開いていた。
異世界でもかわらんね。
昔は太ってるほうが魅力的だったそうだが、痩せてる方に魅力を感じる、ということはそれだけこっちも豊かなんだろうな。
まあ、俺はどっちでも大丈夫なので、好きにしてもらおう。
朝のうちに冷やしておいたクーラーボックスのワインを出して、一杯飲む。
ふう、生き返るぜ。
カジノで高級酒を飲んだせいか、うちのストックしてるワインの安っぽさがちょっと気になるが、これだけ冷やしてあるとどうでも良くなるな。
その奥では料理人のモアノアがアイスを作っている。
氷で冷やしながら、ボールのアイスをひたすらかき回していた。
あれから独学でアイスづくりを極めつつあるようだ。
「こうしてしっかりかき混ぜるのがこつだすな」
「空気がまじると滑らかになるらしいな」
「そうみたいだすなあ」
「まーだー、まーだー」
「もうすぐ出来るだよ。おとなしくまってるだよ」
デュースの体を吹きながら、よだれを垂らしかけるフルンをけん制するモアノア。
「ブランデーをかけて食べると美味しいですねー」
「えー、お酒にがいよ? シロップがいいよ?」
「甘いのは太りますからー」
「アイスあまいよ?」
「そうですねー」
「お酒も太るって言ってたよ」
「そうですねー」
「なんで美味しものって太るのかな?」
「不思議ですねー」
「太らなければ、みんないっぱい食べられるのにね」
「そうですねー」
「はやくアイスできないかなー」
「そうですねー」
などとデュースとフルンが不毛な会話を繰り広げる間も、エンテルやペイルーンは俺が教えたスクワットを狭い馬車の中でやっていた。
暑いのになあ。
俺は聞こえないようにため息を付いてから、冷えたワインをおかわりした。
そうしている間も、馬車は進む。
太郎と花子は元気だな。
ちらりと外を覗くが、凄い日差しだ。
街道のこの辺りはまだ人通りも多い。
二、三日先で、山越えと海に出るコースにわかれるそうだ。
現在では海路が主流なので、山越えの旅人は少ないらしい。
「といっても、全くいないわけではありませんしー、道もまだしっかりしてるはずなので大丈夫ですよー」
そう言ってうまそうにアイスを頬張るデュース。
「だったらいいけどな、ちょっと船にも憧れるよな」
「このサイズの馬車が乗る船はほとんどないですからー。もっともアルサまでつけば馬車をおいてルタ島に渡るんですけどもー」
「馬車ではいけないのか」
「無理ですねー、小さな荷馬車でもなければー」
「どうするんだ、これ」
「処分するか預かってもらうかー、帰りをどうするかにもよりますねー」
ふぬ。
帰ると言っても、エツレヤアンに帰るのかどうか、まだわからない。
住む家もないしな。
あの小さな小さな住処は、精霊教会に返したので、今頃は別の見習いホロアなり坊主なりが住んでいるはずだ。
テントぐらしもはじめはどうかと思ったが、案外慣れるもんだ。
街にいると街の暮らしもいい気がするが、こうして旅を再開すると、もっと別の土地を見てみたい気もする。
「紳士の試練を終えたあとも、また旅に出るのもいいかもな」
「それもいいですねー。旅はいいですよー。私も、物心ついた時から、ずっと旅をしてましたねー」
「そうなのか」
「楽しいこともー、悲しいこともー、旅をしていれば全部こちらから会いにいけるんですよー」
「かっこいいな。それにまだ見ぬ土地に、まだ見ぬ従者がいるかもしれないしな」
「きっとご主人様が迎えに来るのを待ってますよー」
「そう考えると、早く先に進まねば」
などと急にやる気が芽生えてくる。
「そうですねー、暑いですけどー」
「そうだった、暑いんだった……」
芽生えたばかりのやる気は、夏の太陽に焼きつくされて枯れてしまったようだ。
ふたたびぐったりしていると、御者台のアンが声をかけてくる。
「そろそろ、お昼ですがどうします?」
「食欲ないけどな」
「食べないと体が持ちませんよ」
「そうだよなあ、せめて水浴びでもしたいな。川でもあればいいのに」
「では……そういう場所を……探してまいります」
幌の向こうからオルエンの声が聞こえてきた。
そのまま、馬を駆って休憩場を探しに行ったようだ。
しばらくして戻ってきたオルエンの案内で、少し街道からそれた河原で馬車を休める。
崖に面した小さな淵が、きれいな水をたたえている。
「みずー、およぐー」
とフルンが素っ裸になって勢い良く飛び込む。
「俺も泳ぐー」
と俺も素っ裸で飛び込んだ。
冷たくて気持ちいい。
開放的で癖になりそうだ。
しばしジャブジャブと水遊びをしてスッキリしたところで、川で冷やしたトマトをかじる。
うまい。
食事の後は、木陰で軽く昼寝を取る。
葉擦れの音が耳に涼しい。
はー、いい気持ちだね。
小一時間ばかりうとうとしていると、新入り忍者コルスの声で目が覚めた。
「おう、コルス。戻ってたのか」
「殿、起こしてしまったでござるか」
コルスは俺のことをとのと呼ぶ。
笑わないようにするのが大変なんだけど、どうしたもんかな。
「いや、かまわんけどな、どうした?」
どうも何かあったようだ。
「この先、七キロほど先でがけ崩れでござる。見た限り復旧に一週間は要するかと」
「雨がずいぶん降ったもんな」
「そうでござる。近くの村で聞いたところ、迂回路があるとのことで、今から確認に行くところでござった」
「そうか、まあ任せるよ。飯は食ったのか?」
「今、頂いたでござる。では、後ほど」
コルスを見送って、デュースに相談する。
「で、どんなかんじだ?」
「地図を見る限りー、大丈夫そうな道ですけどー、ちょっと遠回りになりますねー」
「ま、そこは仕方ないだろう」
「そうですねー、この迂回路にある村はー、イクタ村と地図に有りますがー、なにか聞き覚えがー」
「イクタ村なら、ルビーが取れますねん」
と後輩ができたばかりの未来の大商人メイフル。
「へー、ルビーか、やっぱお高いもんなのか?」
「そうですなー、ルビーは精霊石の中でも貴重な光を扱う、赤の石ですからなー」
「え、精霊石なのか? 宝石じゃなくて?」
「レアな精霊石は宝石でもありますけど、ルビーは光源として使いますわな」
あれか、いつもの微妙に似て非なるものに翻訳しちゃうパターンか。
「で、そのルビーはなにができるんだ?」
「ランタンなんかに使う火の精霊石も光るんですけどな、こっちは熱のない光が出ますねん。しかも、こっちの光はうまく加工すると周りに広がらんと、まっすぐ伸びる光ですねん。ですから、ライトなんかにも便利ですわな。大きいもんやと、灯台なんかで使われてますわな」
「なるほど」
つまりレーザーか。
そういやレーザーってルビーを使ってるんだっけ?
そんな話を聞いたような。
ハードは相変わらず弱いぜ。
もっと勉強しとけばよかった。
しばらくして戻ってきたコルスの案内で、ルビーの取れるという村に馬車を進める。
街道に比べて狭い田舎道は、俺たち同様、がけ崩れを迂回する連中で混んでいた。
「これはー、思ったより時間を食うかもしれませんねー」
「そうだなあ、村に泊まる場所あるかな?」
「オルエンに頼んでおきましょー」
というわけで、オルエンに先行してもらい、今夜の宿泊場所を確保してもらう。
俺たちがイクタ村につくと、村は人であふれていた。
「出遅れた……ようで」
とオルエン。
どうやら、旅人用のキャンプ地はいっぱいだったようだ。
元々、人通りの少ない村だ。
そういうこともあるだろう。
エレンとメイフルを村にやって情報を集めると、ルビー鉱山の方に人足用のバラックがあるらしい。
その一角を旅人に開放しているそうだ。
水場もあるそうなので、今夜はそちらに泊まるとしよう。
村から徒歩で三十分ほどのところに、鉱山の入り口はある。
馬車をとめて、テントの準備をしていると、小さな地震があった。
「うひゃー、ゆれるー」
何でもはしゃぐフルンは、今回もはしゃいでいるが、この国で地震は珍しいな、はじめてじゃ無いか?
「そういえば、例のがけ崩れも、地震のせいじゃないかって話だよ」
とエレン。
「なんや二月ほど前から、小さい地震が続いてるそうですなー、それと雨が重なったんでしょうな」
こちらはメイフル。
でかいのが来る前触れじゃなきゃいいけど。
「地震は竜のいびきと言われていますが、やはりすべて竜が原因なのでしょうか。どうなのでしょう?」
とエンテルが尋ねてくる。
「地震か、こっちじゃどうか知らないけど、普通はこう地面が動いてだな」
「地面が動くんですか?」
「えーと、星の中にはマントルがあってだな」
「マントルとは?」
「うーん、火山があるだろ、あれの……」
「火山とは?」
「……火山も知らないのか?」
「山火事のことでしょうか」
「いや、山が噴火したりするだろ」
「噴火……ですか、ちょっとわかりません」
むう、噴火も知らないのか。
このへんって活火山が無いのかな?
「火山ですかー、魔界にしか無いと思いますよー」
とのデュースの言葉を魔族のプールが受けて続ける。
「うぬ、妾の国にはゴリアス火山というのがあったな、数年に一度は火を噴く。そうなると国中が灰まみれで難儀であったわ。仕舞いには国を飲み込んでしもうたが」
「そうですねー、私も魔界を旅した時に初めて見てびっくりしましたー」
「そういえば、地上には火山がないようだな」
「そうですねー、見たことはありませんねー。北極にはあると聞いたことが有りますがー」
あ、そうか。
この星って地下に魔界があるんだっけ。
となると、もしかして覆いかぶさってるこの地上には火山とかないのか。
とするとプレートが動いたりもしないのかな。
でも、地震はあるようだし、どうやって起きてるんだろう。
「わからんな」
「わかりませんか」
う、エンテルががっかりしてる。
いかん、せっかくうんちくを垂れて従者の尊敬を集めるターンだったのに。
こういう時は、逆にうんちくを垂れてもらって自尊心を満たしてもらおう。
「ところで竜のいびきというが、竜って地下に住んでるのか」
「そうですね。というよりも、地下で生まれるのでしょう。竜の卵と言われる、巨大な精霊石の固まりが発見されることが有りまして、これが転じて竜になります」
「へえ」
「我々のような考古学者にとって、発掘の最大の危険は、地下から登ってくる魔物よりも、この竜なのです」
「ほほう」
「魔物は我々でも武装していれば戦えるのですけど、竜が相手では並大抵の冒険者では刃が立ちません」
「なるほど」
「もし、ここの鉱山に竜が眠っているとすれば、大変なことになるかもしれませんね」
そういうものか。
で、竜ってのはどうしようもないほど圧倒的なのかな?
デュースに聞いてみると、
「竜もピンキリですねー」
「ほほう」
「一般に最強と言われる赤竜などはー、まともにやるとゴウドンとリースエルと私でも、ちょっとむずかしいでしょうねー。同レベルがもう二セット、九人は欲しいところですー。さらに結界を張るための神官なり神霊術士をどっさりとー、あるいは特殊なアイテムを用いるかー」
「あのメンツで駄目ってのはすごいな」
「まあ、最強ですからー」
「次いで金竜、銀竜も、ちょっと常人では無理ですねー。石竜や水竜、雷竜であればー、我々でもうまく行けば仕留められるかもしれませんねー」
「お、そうなのか」
「生まれたてであれば、もっと弱くなりますしー」
「なるほどねえ」
「でも、竜には会いたくないですねー」
「そうだなあ」
などと話していると、鉱山の方から叫び声が聞こえた。
「り、竜だあああああっ!!!」
次の瞬間、轟音が響いて、山の一部が崩れる。
竜って、そんな都合よく出てこなくても……。
みると、白い鱗に覆われた巨大な竜が翼を広げて飛び出してきた。
あれが……竜か。
でかい、でかすぎる。
しかも空を飛んでる。
羽ばたいただけで突風が巻き起こる。
え、マジであれが竜?
あんなもん……勝てないだろ?
「みんな下がってー、雷竜ですよー、まだ子供ですけどー」
とデュース。
あれで子供なのか?
「いけませんー、雷が来ますー、コルスー、対雷撃の結界を最大でー」
「わかったでござる」
コルスが馬車の上に飛び上がると指先をナイフで切って宙に何やら血文字を描く。
すると閃光が走り格子状の光の筋が空を覆った。
次の瞬間、竜の体から稲妻がほとばしり、四方に飛散する。
だが、コルスの貼った結界とやらに弾かれて、地面までは落ちてこなかった。
「夕飯の邪魔をする子はー、おしおきでーす」
とデュースが杖を振ると、こんどは今の竜の稲妻の数倍は太い稲妻が、竜に向かって突き刺さる。
ギュルルルルルルッ。
と言った感じの悲鳴を上げながら、竜は元来た山の中へと逃げていった。
「うーん、仕留められませんでしたー。とはいえ、外に逃すと大変なのであれが精一杯でしょうかー」
周りはパニックになる直前にデュースが追い払ったせいか、どうにかもっている感じだ。
俺はというと、まだちょっと動揺している。
あれが竜か。
とんでもない生き物がいたものだ。
「いやー、それにしてもコルスがいてくれて助かりましたねー。うちには今まであれを防げる術師はいませんでしたからー、直撃だとちょっとやばかったですよー」
「そうなのか」
「そうですねー」
しかしコルスが結界を貼れるとは知らなかった。
それも忍術だろうか。
褒めるついでにちょっと聞いてみると、
「そうでござる。拙者の術はおもに結界を張り場を支配する術と、経絡に作用し肉体を支配する術にわかれるでござる」
「ほほう」
つまり、どういうこと?
「彼女は補助系の呪文が使えるんですよー、魔導師のそれとはちょっと違いますけどー」
とデュース。
「おお、ついに念願のサポート系魔法が!」
「そうなりますねー」
知らなかったぜ。
そういえば忍術の話を聞きそびれてたっけ。
正直なところ、ご奉仕のことしか考えてなかったからな。
それにしても、デュースはよく知ってたな。
「それはまあー、新しい仲間の能力は全て把握しておきませんとー」
そうだった、それって俺の仕事じゃないか。
またレーンに怒られる。
と思ってレーンの方を見たら、例の怖い笑顔でこっちを見ていた。
うぐぐ、ごめんなさい。
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