第78話 殴られ屋
明るくなってから起きだすと、すでに雨は上がっていた。
「いい天気だよ、ご主人様! どこか遊びに行こう!」
フルンがぴょんぴょん飛び跳ねながらねだるので、リクエストに応えることにした。
俺が寝ている間に朝の仕事を終わらせていた年少組のフルン、アフリエール、リプルにウクレを連れて街に出る。
撫子だけは、眠っていたのでお留守番だ。
お守役として学者コンビのペイルーンにエンテル、ボディガードとして侍のセスと盗賊のエレンもついてきた。
大行列だな。
探索メンバーであるフルンを除けば、年少組はこんな機会でもないと一緒に出歩くことも少ないので仕方あるまい。
ちゃんと遊んでやらんとなあ。
働き過ぎは良くない。
遊ぶと言っても、この世界では映画もカラオケもテーマパークもないので、庶民は休暇に何をやって遊ぶのかといえば、まず神殿にお参りに行く。
あとは芝居を見る、買い物をする、食事をする、と言ったところか。
祭り時でもなければそんなところらしい。
先に話題に出たカジノなどは貴族やブルジョア向けのハイソな娯楽だ。
庶民でも遊べる博打といえば、以前エツレヤアンで行った競馬などがあるが、この街にはないようだ。
紳士は世間的には貴族と同等らしいんだけど、俺は庶民派で親しみやすい紳士を売りにしてるので、その方向で遊ぼう。
今日のところは、芝居は無理っぽいので、俺たちは街の北にある精霊教会の神殿にお参りに来た。
「ここ、コーザスの神殿は女神アピユルを主神として、いくつかの女神を祀っています。珍しいところだと、放牧の女神モブライールを祀っていますね。この女神は遊牧民などに良く信仰されています。ウクレの故郷であるローゼルなどでは人気があるそうですが、ここスパイツヤーデではあまり知られていません。この土地は現在では農耕が盛んですが、かつては北に広がる草原やその先の山岳地帯で遊牧を行っていた名残だと言われていますね。他にも水神エクアポールを祀っているのは、西に流れるコーザス河の氾濫を治めるためだとか。あるいは……」
エンテルのうんちくが始まった。
レーンもエンテルも、うちに来た当時はそこまででもなかったんだけど、最近はスイッチが入ると止まらなくなるんだよな。
まあ、打ち解けた証拠だと思っておこう。
例のごとく神様の前で手を合わせて、みんな元気で過ごせますようにとかなんとかアバウトにお祈りしておいた。
しかし、いっぱい神様がいるもんだなあ。
それが神殿ごとに祀られてるわけか。
日本の神社みたいなイメージなのかな。
下手に尋ねるとまたうんちくを聞かされそうなので、気にしないでおこう。
幸いエンテルは俺の顔色だけみて突っ込むという芸当はできないようだ。
これがレーンなら、尋ねる前に語り始めるところだが。
そのへんが、坊主と学者の違いだろうか。
神殿の参道には縁日の屋台のごとく、ずらりと出店が並んでいる。
その中でもひときわ盛り上がっているのがあった。
何だろう?
「あれは殴られ屋だね」
とエレンが教えてくれる。
「殴られ屋?」
見るとガタイのいい人足風の男が大きなグローブを付けて、ひょろりとした若者に殴りかかっている。
若者の方はそれをするすると避けていた。
「ああやって、金をとって一方的に殴られてやるのさ。憂さ晴らしを兼ねた見世物だね」
とエレン。
「へー、しかしあの若いの、危なっかしいなあ。ギリギリで避けてるじゃないか」
「いやあ、アレはわざとだよ。完全に見切ってるのに、さらに危なそうに避けてるのさ」
「そうなのか?」
「うん。そろそろ殴られてやるんじゃないかな?」
と言うので見ていると、若者が人足のいいパンチを腹に貰っていた。
痛そう……に見えるが、あまり効いてなさそうだな。
今度は俺にも分かった。
「見事ですね、完全に力を殺しています」
一緒に見ていたセスも感心する。
「どうやってるのかはわかんないけどな」
「あたった瞬間に、重心をずらすのです。今の場合は、打撃を足に逃していました」
「なるほど」
と頷いたものの、さっぱりわからない。
「しかし、あの動きは……」
セスは殴られ屋とやらの動きをじっと見つめている。
興味が有るのだろうか。
そうこう言ううちに、終わってしまった。
人足は振り回される形でヘロヘロになっていた。
一方の若者は、全く息も上がっていない。
「さあさあ、腕に覚えのあるものはござらんか? 拙者からは手は出し申さぬ。ただ殴られるのみ。一人三分で千G、冒険者の方は二千G、さあさあ、拙者を叩いて、日頃の鬱憤をはらされよ」
澄んだよく響く声だ。
よく見ると女の子だな、ありゃ。
短めの髪をちょんまげのようにまとめている。
浅黒い肌が健康的な美少女だ。
「どうだ、セス。やってみたら?」
「いいですね、やってみましょう」
冗談半分で言ってみたら、セスが乗ってきた。
珍しいこともあるものだ。
「一つ、頼みます」
「おや、頼もしい剣士でござるな。冒険者の方は倍の二千Gいただくが、よろしいか?」
「構いません」
そう言って懐から金を出す。
「獲物はこちらの木刀か、素手でお願いしたいでござるが」
「では、木刀で」
「拙者からは打ち申さぬ。ご自由に打ってこられよ」
木刀を受け取ったセスは、フルンに声をかける。
「良く見ておきなさい」
「うん!」
それだけ言うと、セスは取り囲む観客の只中に歩み出た。
双方が木刀を正眼にかまえて対峙する。
はじめは軽やかな笑顔を浮かべていたちょんまげ少女の表情が引き締まってくる。
重苦しい時間が流れる。
ほんの数十秒だろうが、やけに長い。
緊迫した戦闘の時に感じるあの感じだが、見ているだけでそうなるなんてことは早々無い。
そう言えば、気陰流動場で道場主のヤーマが型を見せた時のあの感じ、アレに近い。
動かない二人に、はじめはヤジが飛んでいたが、次第に治まってくる。
セスが半歩前に出て上段にうつり、一方の女は八相に構える。
今気がついたが、彼女もホロアか。
さっきまで全然そんな気配を感じなかったんだけど、セスと本気で対峙して、初めて彼女の気配が感じられたというところだろう。
誰かがつばを飲み込む音が聞こえた。
次の瞬間、二人とも前に出る。
木刀が激しく交差し、双方が立場を入れ替えた。
半瞬の後に再び、掛け声とともに木刀が振り下ろされる。
そこでピタリと動きが止まった。
セスの木刀は相手の額の手前。
一方の女の木刀は、セスの脇腹の手前。
そのままの姿勢で対峙すること数秒。
どちらからともなく、剣をひいた。
「ふふ、そちらからは打ってこないのでは?」
「たしかに。だが、打たねばこちらが……いや、拙者の負けでござるな。まだまだ修行が足りぬ。代金はお返しするでござる」
「いや、それはお収めください。私も良い勉強になりました」
「むむ、そうでござるか。かたじけない……」
そう言って女は頭を下げる。
「拙者、ササの国より参ったコルスと申す。貴殿のお名前をお聞きしたい」
「私は紳士クリュウが従者、気陰流のセスともうします」
「やはり気陰流、同門でござったか。西国にも伝わっているとは聞いておったが」
「そのようですね。旅のご様子ですが、エツレヤアンという街に私の居た道場が有ります。機会があればお尋ねください」
「エツレヤアン、大きな街でござるな。一月ほど前に、通り過ぎたばかりでござるが、次があればお尋ねしよう」
帰り道、フルンはセスに熱心に話しかけていた。
「すごい! 七回打ち込んだよね、全部見えたよ!」
「そうですか、よく見ました。相手の動きは見えましたか?」
「うん、でもね、あの人、途中でちょっとだけ体ひねったよね? あれなんで?」
「あれは誘いをいれられたのです。あれにつられると、上体が伸びきって次の動きに出られなかったでしょう」
「そっかー、私、あれチャンスだと思っちゃったよ」
「フェイントというのは、相手に応じてかけるもの。あの御仁、まだ本気ではなかったのでしょう。お陰で、相打ちに持ち込めました」
「そうなの?」
「うまく負けてやるのが、あの方の商売でしょう。たとえ油断はなくても、そうした心構えでは隙もできます。真剣勝負とは違うのですよ」
「ふーん」
フルンはうんうんと頷きながら話を聞いている。
俺にはわからん世界だな。
キャンプに戻って買い物の荷物を開ける。
フルンたちはお人形とかそういうものを買っていたみたいだ。
あんまり荷物を増やすとアンに怒られるわけだが、俺もちょっと買ってみた。
羽毛の枕だ。
なんだかふわふわだったのでつい買ってしまった。
しかも四つも。
膝枕もいいんだけど、夏場は蒸れるからなあ。
クッション代わりにフワフワしていきたい。
小さい方のテントは子供部屋になっているが、アレを見習って、大きいテントを大人部屋にすることにした。
あまり豊かとはいえない俺の想像力でエキゾチックなマハラジャ風というかそういうスペースを作って、ウハウハするんだ。
二つあるテントの小さい方は三角形のいわゆるテントで、二メートル四方の床の上に二本の柱と吊り糸で貼っていある。
床が立ち上がったバスタブ型なので、ちょっとぐらいの雨なら平気だ。
もう一方の大きいテントは円錐状の天幕で、中央に大きなポールがあって四方から紐を張って支えている。
直系四メートル程のスペースは立って歩ける高さがあるので、なかなか快適だ。
こちらは床がないタイプなので、テントの周りに溝を掘り、防水した皮を地面に敷き、その上に絨毯などを重ねて床を作っている。
試練の塔に挑むときのように長期滞在時は、馬車から着替えや日用品も持ち込んで積んである。
そういえば遊牧民だったウクレは、この何倍も巨大な天幕の中に、更に小さな天幕をはって暮らしていたらしい。
なんかそういうのもかっこいいな。
でまあ、とりあえず買ってきたふわふわ枕をクッション代わりに並べて寝そべる。
周りに手の空いた従者たちを並べて、うちわなんかで扇いでもらって、ゆっくり酒を舐める。
うわー、極楽だ。
テントの中はただでさえ空気が籠もるのに、梅雨の湿度でさらに蒸し暑い。
俺は腰帯一つになって転がると、手近な従者を抱き寄せる。
何も身につけていない従者たちの肌も、うっすらと汗が滲む。
肌を重ねると、従者も体型によって肌の温度が結構違うもので、そういう違いを確かめるのもいいものだ。
はー、たのしいねえ。
しばし極楽を堪能して、テントから出る。
夕暮れ時のいい風が吹いていた。
あつらえた竈のところで、料理人のモアノアや奴隷のウクレが、晩の支度に汗を流している。
今日はなにを食わせてくれるのかね。
隣の焚き火では、盗賊コンビのエレンとメイフルが矢の手入れをしながら、なにか話していた。
隣に腰掛けるとエレンが、
「どうしたんだい、旦那。ご奉仕に飽きて、盗賊の悪巧みに乗りたくなったのかい?」
「一つ、暑さの吹き飛ぶようなエキサイティングなやつを頼みたいね」
「旦那好みの話ねえ、昨夜、酔っぱらいの男が素っ裸で街を走り回って、巡回中の兵士に抱きついてキスして回ったそうだよ」
「それが、俺好みの話題だとおもうか?」
「どうかな、旦那の好みは複雑だからねえ、もしかしたらと思ってね」
「お前にそう言われると、なんだかそんな気がしてくるからやめてくれ」
「ほな、もうちょいスリリングな話も有りますで」
とメイフル。
「伝説の大泥棒、灰色熊がこの街にいるって噂でっせ」
「え、ほんとに?」
とエレンが驚く。
伝説の大泥棒の、なにがスリリングなんだろう。
ヤバイやつなんだろうか。
「あら、聞いてまへんか?」
「聞いてないよ! 今日もギルドに顔出したのに誰も何も言ってないじゃないか!」
「エレンはんは灰色派やから、みんな気をつかってますんやで」
「くそう、なんてこった。もう五年もスパイツヤーデには戻ってなかったのに……。僕はもうおしまいだ!」
「ええ機会やから、しごいてもらうんですな」
「人ごとだと思って、自分だって金色烏が突然街に現れたらどうするんだよ」
「ひええ、そない恐ろしいこと言うもんちゃいます!」
「とにかく、僕はもう寝る! おやすみ!」
そう言ってエレンはさっさとテントに潜り込んでしまった。
あんなに取り乱すなんて珍しいな。
よほどスリリングな話だったらしい。
「あはは、あれは派閥のボスが街に居るかも、いうんでびびってますねん」
「ボスってそんなにヤバイのか?」
「まあ、盗賊は縦社会ですからな、そりゃあもう。そばに来るだけで、うちらみたいな下っ端は震え上がりますねん」
「怖いな」
「怖いですなあ」
「しかし、ボスの情報とかペラペラ喋っていいものなのか?」
「ボスは特別ですねん。盗賊ギルドの七色の幹部は、ある意味、盗賊界の英雄やら勇者みたいなもんですからな。名前ぐらいはだれでも知ってますわ」
「へえ、そんなものか」
「そないなわけですから、この街ではもう、エレンはんはおとなしゅうしてるしか無いですやろな。幸い、試練もできんことですし、のんびりやり過ごしましょ」
そこで飯の支度ができたようだ。
エレンは食べないのかな?
「食べるよ!」
と言って出てきた。
もう、持ち直したか。
「なんで僕が動揺しなくちゃならないんだ。やってらんないよ! お酒! お酒頂戴!」
こりゃ、そうとうショックだったみたいだな。
しかたない、たまには俺が酌をしてやろう。
飲み食いしている間も、エレンとメイフルの二人はペラペラとよく喋る。
盗賊ってよくわからんけど、寡黙でニヒルな笑いを浮かべているような、そういうイメージが有るな。
おしゃべりな盗賊ってのはどうもイメージと違う気もするが、この二人はおしゃべりでボロを出すことはなさそうだ。
「そういえば、赤竜騎士団の連中も街にいるみたいだよ。視察って話だけど」
食事をとりながら、エレンが思い出したように話す。
「へえ、バダムの爺さんとか来てるのか?」
「いや、なんでも新しい団長が来てるって話だよ」
「ほほう」
あの騎士団、団長に会ったことがないなーとおもったら、もしかして団長がいなかったのかな?
そこの所を尋ねると、
「そうだよ、三年ぐらい空席だったのかな? だから爺さんが老骨に鞭打ってあれこれしきってたのさ」
「たんにおせっかい焼きなだけじゃなかったのか」
「それは否定しないけど」
「で、団長ってどんなやつなんだ?」
「えーとねえ、ウェルディウス家の……ウェディウム?」
「そりゃ、往年の魔王の名前ですわ」
「ああ、そうだった。なんだったかな?」
「エンディミュウム……です」
これはオルエンの台詞だ。
さっきまでテントの中で俺の相手をしていたオルエンは、麻のシャツにズボンというイケメンな格好をしている。
ボーイッシュと一言で言うには、最近では色気が出すぎて、歌劇女優みたいな感じだな。
「ああ、そうそう、そういう人。知り合い?」
「修行時代に……ともに槍を……学びました」
「へえ、仲が良かったのか?」
「はい。騎士や見習いには、貴族の次男…三男が…多く、あまり付き合いが良くないものも……いましたが。あの方には……とても…よくしていただきました。きっと……立派に団を率いるでしょう」
へえ、オルエンがそんなに褒めてると、ちょっと妬けるな。
あそこは筋肉ダルマ系ばっかりだったけど。
一度会ってみたいものだ。
「しかし、あの騎士団に嫌なやつとかいたっけ。みんな、いいやつばかりだった気も」
「バダム卿の薫陶を……受ければ、みな……ああなります。騎士団は他にも……有りますので」
なるほどね。
「ご主人様、湯殿の支度が整いました」
そこに、セスが知らせに来る。
奥にあつらえた桶風呂にはたっぷりと湯が張られていた。
夜のうちに溜めておいたらしい。
ありがたく一番風呂をいただく。
せっかくなのでセスと一緒に入る。
「これは……その、恥ずかしいものですね」
狭い湯船で体を寄せて、セスが顔を赤くする。
俺が調子に乗って、色んな所をわしゃわしゃと撫で回すものだから、セスはますます顔を赤くする。
「どうした、のぼせたみたいじゃないか」
「存じません……」
「ははは」
と他愛ない時間を過ごす。
隣の樽では、犬耳のフルンと牛娘のリプルが行水のようにじゃぶじゃぶと遊んでいた。
完全に動物の水浴びだよ。
「今日は水の換えがないんですから、あまり無駄遣いしないでください」
とアンに怒られている。
こういう時は、こちらにもとばっちりが来るので、早々に上がってしまおう。
風呂から上がり、紅とレーンに体を拭いてもらいながら、差し出された冷たいエールを飲む。
はー、極楽だねえ。
「ご主人様、お酒ひかえなくていーの?」
パンツ一丁で髪を拭いていたフルンが心配そうに尋ねる。
「ああ、もう元気ハツラツだからな」
「よかったねえ。じゃあ、今夜は私がお酌するー」
「おっしゃ、飲むか!」
「飲ませるっ!」
焚き火の前の一等席で、フルンに酌をしてもらいながら、のんびりと酒を飲む。
俺が飲み始めると、他の連中も手が空いた順に腰を下ろして銘々飲み始めるのだが、普段は割と飲むセスが、今夜はグラスに手を付けていない。
「どうした、ほんとにのぼせたか?」
「いえ、少し考え事を」
そう答えながらも、視線は宙を眺めたままだ。
何を考えてるんだろうな。
まあ、心当たりはひとつしか無いんだけど。
「昼間のねーちゃんのことか?」
「ええ、そうです」
「大した腕だったな。俺が見てもわかるよ」
「腕は互角、条件次第では私が劣るやもしれません」
「そんなにか」
剣でセスに張り合える奴ってそうそういないと思うんだけどな。
「今一度、立会を所望したいものです」
「じゃあ、明日も行ってみるか?」
「いえ……」
そういって首を振る。
そうか、まあいいけどな。
「申し訳ありません、今夜は、先に休ませて頂きます」
そう言ってセスはテントに入った。
「セス、悩んでるねえ」
とフルンが首を傾げる。
「悩んでる時は、剣を振るといいんだよ。セスが教えてくれたんだけど、忘れちゃったのかな?」
「ああ、あれはいいよな。無心で振ってると、なんか悩みとかどうでも良くなる」
「そうだよね! 私、セスに教えてくる!」
飛び出そうとするが、慌てて取り押さえた。
「大丈夫だよ、セスが忘れるわけないから。それに夜遅くに剣を振り回すと近所迷惑だろ。明日の朝にしなさい」
「そっかー、そうだね。うん、じゃあ、私ももう寝る! じゃなくて、お酌はもういい?」
「おお、もういいぞ。おつかれさん」
「うん、おやすみなさい!」
フルンが寝ると、一気に静かになる。
代わりにエレンが隣りに座って、相手をしてくれる。
「セスでも、悩むことがあるんだね。いつもさばけてるのに」
「今は貫禄あるけど、従者になる前は、結構脆いところもあったからなあ。悩みだすと内にこもるタイプなのかもしれん」
「ヤーマの娘さんのことだっけ? 皆色々あるよね。旦那のことだって、一年分しか知らないんだから」
道場主の娘であり、かつてセスが仕えることを望みながらも果たせなかった故人のことだ。
俺と知り合う前にも皆の人生はあったわけで、俺はそれもひっくるめて従者として受け入れなきゃならないんだよな。
それを真面目に考えだすと途方に暮れるけど、実際はこうして一緒にお風呂に入ってお酒を飲みながらいちゃいちゃしてればどうにかなる……はずだ。
「それにしても、彼女、すごく強かったね。剣士やサムライとも違う気がするけど、何のクラスだろう?」
「あれ、侍じゃないのか。剣を使うホロアって何があるんだ?」
「大半は戦士で、サムライも少しいるけど、彼女は違うんじゃないかな、セスとはちょっとノリがちがうよ」
「サムライでも剣士でもないならー、ニンジャじゃないですかー?」
隣で酔っ払っていたデュースが答える。
「忍者! すごいな、忍者もいるのか」
例のごとく、忍者に似たなにか、ってだけかもしれないが。
「へー、あれがニンジャなんだ。レアクラスだよね、これはもうスカウトするしかないんじゃないの?」
「いいな、よし、明日はナンパに行こう!」
酔いが回って、俺もだいぶアバウトになっている。
たいして変わってない気もするけど。
飲み過ぎは良くないので、程々で眠ることにするか。
明日はナンパだぜ!
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