第65話 ペルウルの街

 畑を縫うように続く田舎道は、昼前に大きな通りへと合流した。


「街道の本流に戻りましたねー、ここからはのんびりいけますよー」


 石畳の街道を馬車は快適に進む。

 轍に車輪を取られる心配もないので、快適だ。

 太郎と花子の足取りも軽いような気がする。

 いや、花子はちょっと尻が重そうかな。

 気のせいか。


 見る見る交通量が増えたかと思うと、街道の左右に民家が並び始める。

 やがて大きな石壁が見えてきた。

 これがペルウルの街だ。


 ペルウルは大きな港街で、前のボズの村などと比べるとずいぶん大きい。

 むろんエツレヤアン程ではないが、それでも大きな街は都合がいい。

 金さえ出せば、何でも手に入るからだ。

 準備をしていたとはいえ、いざ旅を始めると足りないものはたくさん出てくる。

 そうしたものの補充がそろそろ必要になってきた。


 ペルウルの試練の塔は、街の西、海に面した広場に立っている。

 ここの塔は百年以上の歴史があり、今よりまだ街が小さかった頃に、ここに生えたそうだ。

 その塔を取り囲むように広場ができ、店が並び、今では街の一部として取り込まれている。


 俺達のように宿を取らずに野営をする冒険者のパーティは、広場から少し離れた所に設けられたキャンプ場に場所をとることになる。

 ここは安いが有料で、その代わり水場やトイレが確保されているそうだ。

 まるでオートキャンプだな。

 歴史があるだけのことはあるか。


「これだけ大きな街だと、ちょっと商売の方は難しいでしょうね」


 アンがあきらめ気味につぶやく。


「しかし、うちにはパズル付き丸薬があるじゃないか。多少は期待してもいいんじゃないか?」

「そうですね、頑張りましょう。ただ、この街だと治安もいいし、衛兵もいますので、パーティに数を割いても大丈夫だと思いますよ」

「なるほど」


 力持ちのモアノアも増えたしな。

 例のごとく出店の手続きなどを済ませてから、今日は買い物などの準備にあてる。

 二組に分かれてアン達は食料を買いに、俺はエレンとセス、デュースをつれて、冒険者向けの雑貨屋を見に行くことにした。

 まず、欲しいものは毛布だな。

 ウールの頑丈な毛布を何枚か買い足したい。

 羽織ったり敷いたり、探索の際に何かと重宝するのだ。

 今、馬車に積んでいるのはエツレヤアンで寝具として使っていたものだけで、それとは違い、冒険者が携帯するようにコンパクトに作られたものがある。

 そういうものをデュースが一枚持っているのだが、これが非常に使い勝手が良い。

 全員分は要らないが、二、三枚は欲しいところだ。


 あとは足りなかったタープやロープ、ランプなど。

 予備の小さいテントも引っ張りだして張ることにしたので、色々いるのだ。

 海釣り用の竿もほしいんだった。


 まずは最初に見つけた店に入り、色々眺めていると、何に使うのかよくわからない品が色々並んでいる。

 きれいな小瓶の水薬や豪華な装飾のナイフなどがこれみよがしに並べられ、目移りする。


「これはこれは紳士の旦那様、これなどなかなかの逸品でございますよ」


 無駄に愛想のいい中年太りの店主は、古びたL字の針金を二本、取り出した。


「こいつを手に持ってダンジョンを歩けば、隠し扉や落とし穴の前ですーっと動くんですわ、魔法で検知できない罠も高確率で見つけるというすぐれもの、滅多に手に入りませんがお近づきの印に、お安くいたしますよ」


 まさか異世界でダウジングを目にするとは思わなかった。

 もしかしたら本当に魔法かなにかで効果があるのかな?

 と思って隣にいたエレンの方をちら見すると、苦笑していたのでやんわりと断ることにする。


「でしたらこのマント、いにしえの火炎魔神のひげを織り込んだという逸品で、あらゆる火を防ぐという魔法のマントでございますよ、どうです、お一つ」


 どうもこの店は胡散臭いな。


「じゃあオヤジ、実際に火の玉の一つもあてて燃えないところを見せてくれよ」

「よろしゅうございます。では……」


 と店主はマントを手に取ると、あいた手で魔法を唱えて、火の玉をぶつけた。

 マントはふわりとはためいただけで、火の玉を消し飛ばしてしまう。

 へえ、ちゃんとしてるじゃないか。


「どうです、大したものでしょう」

「いいな、俺は魔法が使えないからなあ」

「魔力ばかりは天賦のものでございますからな、ですがこれさえあれば、どのような火の攻撃にさらされても……」

「ではー、私が試してみてもいいですかー」


 と表でロープを物色していたデュースが入ってくる。


「え、あら、そちらの魔導師はお連れ様で?」

「そうですよー、どうでしょうー、いいですよねー、ご自慢の逸品ですものー」

「あ、いや、それはですね」

「なにか問題でもー?」

「いやいや、そうだ、他にも水竜の鱗を縫い込んだ前掛けが……」


 どうやらこれもインチキだったか。

 店を変えよう。


「あ、ちょっと旦那様、お待ちを……」


 店主は未練たらしく声を上げるが、さっさと店を出た。


「はは、旦那も黙ってると田舎者っぽいからカモられるんだよ」


 エレンが意地悪そうに笑う。


「ほっといてくれ。お前最初からインチキだと気づいてたんじゃないのか?」

「まあね、旦那もいい勉強になったろう?」

「なったよ、なりすぎたよ」


 まったく、日々是勉強ってやつだな。

 異世界ぐらしは大変だぜ。


「胡散臭い店は、だいたい店構えでわかるんだけどね。買い物なら、あの奥の店とかどうかな」


 とエレンの勧める店に入ってみた。

 店内はさっきとはうってかわって質素な感じで、整頓された棚に、ロープやらツルハシやらがシンプルに並べてある。

 ははあ、こういう堅実そうな商売をやってるほうが信頼できるというわけか。


「そればっかりでもないけどね」

「というと?」

「盗賊にしかわからない符牒があるのさ」

「ケチ」

「盗賊をケチ呼ばわりする人がいるとは思わなかったよ」


 とエレンは目を丸くしている。

 なんだかしてやった気分だぜ。


 店主は偏屈そうなばあさんだったが、買い物の方はデュースに任せて、俺はエレンと売り物を眺めていた。

 ナイフやランプ、油壺など俺達も持っている装備品が大半だったが、このツルハシは何に使うんだろう。


「そりゃ、洞窟でつかうのさ。精霊石を掘ったり、塹壕を掘って攻略の拠点にしたりね」

「塹壕?」

「ダンジョンに拠点がないと安全に探索が進められないじゃないか。きっちりバリケードを作れればいいけど、そうじゃなければまずは穴をほって土の壁をつくるのさ」

「なるほどねえ」


 かんがえてみればそうか。

 魔物だって団体で攻めてくりゃ、戦争みたいなもんだ。

 神殿の洞窟の最下層で、似たようなこともあったしな。

 ダンジョンってひたすら突き進むだけじゃないんだなあ。


「うちも一本ぐらいあってもいいかもね。今あるショベルだけじゃ、頼りないし」

「ダンジョンはともかく、キャンプじゃ結構穴掘りするもんな」

「じゃあ、買っとこうか」


 必要な物を買い整えると結構な量になった。

 馬車まで配達してくれるらしいので、お願いする。


 奥で陣取っていた老婆はぎこちない動きで立ち上がると、店の奥に向かって声をはりあげた。


「メイフル! メイフルッ! 出前だよ!」

「はいなー、今行きますでー」


 賑やかな関西弁風の返事が返る。

 奥から出てきたのは、鍋を抱えた娘だった。


「お、こら立派な紳士はん、まいどおおきに。で、どこまで運びますのん」

「通りの向こうの広場なんだけど」

「ああ、キャンプ場でんな、あれならすぐですわ。もう、お買いもんはよろしいんで? それなら、ちょいと荷車回してきますわ、おもてで待っといてんか」


 けたたましくしゃべり倒すと、手にした鍋を放り出して、奥に引っ込んだ。


「すみませんね、騒がしい娘で」


 店主の老婆は、呆れた顔で頭を下げる。

 どうも足が悪いようだ。

 引きずるように奥の椅子に座り直すと、膝を擦る。


「いやいや、賑やかなのはいいじゃないですか。辛気臭いと、財布の紐も閉まるってもんです」

「おやまあ、紳士様も話がわかる」

「ただの田舎もんですが」

「たしかに、ちょっと変わっていなさる」


 そう言って店主はエレンの方を一瞥した。


「ばーさんもそう思うかい? なんせ僕の自慢の主人だからね」

「そうらしいねえ、しっかりお仕えすることだよ」

「彼女は立派な従者じゃないのかい?」

「あの子はただの見習いだよ。商売を覚えたいと乗り込んできて、勝手にいついちまったのさ」

「へえ、そいつは変わりもんだね」


 エレンの言う彼女とは、さっきの関西弁娘の事だ。

 彼女がホロアであることは気がついていた。

 最近はそれぐらいはわかるようになってきた。

 だが、どんなクラスかまではわからない。

 メイドとスクミズのどちらかもわからないな。

 他にもなんとか族がいるとか言ってた気もするが……。


「おまたせー、ほないきまひょか、荷物積むんでちょいと待っといてやー」


 先ほどの娘が大八車を引いて表から戻ってきた。

 関西弁娘は、てきぱきと荷物を積み上げる。


「ほな店長、ちょっくら行ってきますわー」

「ああ、粗相のないようにね」

「わかってまんがな」


 通りは人通りが多いので、一本それた路地をとおって馬車に戻る。


「紳士はん、あんたらどこから来ましたん」

「エツレヤアンからだよ、試練の旅の途中でね」

「へえ、そりゃ結構な話ですな。うちみたいな商売人には、縁のない話ですけどなあ」

「君もホロアなんだろう。仕える相手によっては試練に挑むこともあるんじゃないのか?」

「そうですなー、でもま、うちは商売人に仕えるつもりですねん、冒険者とは縁がないですやろな」


 オルエンやレーンも、似たようなことを言っていたな。

 騎士に仕えるとか、勇者に仕えるとか、やっぱりそういう希望みたいなもんはあるもんなんだろうな。

 エレンにも希望とかあったんだろうか?


「僕はもちろん立派な紳士様にお仕えしたいと思ってたさ」


 とアバウトなことをいう。


「調子のいいこというてはりますなー、もっとも、うちも紳士にお仕えする盗賊を見たんは始めてですけど」

「僕だって、商売人の見習いになってる盗賊を見たのは始めてだよ」

「お互い、はみ出しものちゅーわけですな」

「元々、はみ出し者の盗賊からはみ出して、普通に戻っただけかもね」

「あんた、うまいこと言いはりますなー」


 つまり彼女も盗賊なのか。

 メイドじゃなさそうだし、スクミズかな。

 なるほどね、商売人を目指す盗賊も変わっていれば、それを雇う人間もまた、かわりものか。


「うちはスクミズ盗賊の道具屋見習い、メイフルと申します、ひとつよろしゅう」

「ああ、よろしく。しばらくはこの街にいるから、また世話になるかもな」

「おおきに、しっかり勉強させてもらいますわ」


 馬車に戻ると、さきにアン達は戻っており、屋台を広げているところだった。


「おや、紳士はんも商売しはるんですな」

「まあな、御札と丸薬ぐらいだけど」

「旅の片手間なら、無難ですわな。あんまり変わったもんあつこうて、赤字出しても面倒ですし……ってこれ、かわった包み紙ですな」

「ああ、それはな……」


 とパズル袋の説明をしてやる。


「へー、おもろいこと考えますな。はー、これはほんまにおもろいわ。いやー、ほんま、なるほどねえ、包み紙なんて、店の名前いれるぐらいしか使い道ないと思うてましたわ。いやー、あんた商魂ありますなー、ちょっと見直しましたわ」

「なんなら、格安でうちのノウハウを教えてもいいぜ」

「ほんまですか?」

「ああ、暇を見て来るといい」

「おおきに。こらいけますで、へー、こらすごいおもろいですわ。あんたみたいなお人なら、お仕えしてもええんですけどな、ちょいと相性みしてもらいまひょか」


 と言って、突然俺の手を握ってきたが、あいにくと光らない。


「あらー、残念ですな、うちもええ人見つけたかとおもたのに」


 そういって、自分だけ一方的にしゃべり尽くすと、


「ほな、夜にでもまた伺わせてもらいますわ、まいどおおきにー」


 と大八車を引いて、去っていった。

 賑やかな娘だ。


「ずいぶんと賑やかなスクミズでしたね」


 アンが呆れて言う。


「また、後で来るってさ」

「構いませんけど、相性が合うわけでは、なかったようですね」

「そうみたいだな」


 相性のいい相手なら体が光る。

 相性が良ければ従者としてうまくやっていける。

 実に都合の良い仕組みだが、体が光らなければそれだけで縁が切れてしまうのも、いかがなものか。

 もっとも、セスやエンテルだってはじめは光らなかったし、どうなるかはわからんさ。


 そもそもホロアなら生きてる間に主人を見つけないと成仏できずにゴーストとやらになるんだよな。

 あれはなんというか、辛いよなあ。


 夕飯を待つ間に、荷物の整理をする。

 馬車の隣に今までの大きいテントと、以前使った小さいテントをL字に並べ、それをつなぐようにタープを張る。

 そのためのタープをさっき買い足したのだ。

 今まで使っていた分は焚き火の隣に今までどおり張っている。

 これで、馬車のキャビンと大小二つのテントをあわせて三DKぐらいの居住空間ができたわけだ。

 ここまでくると、エツレヤアンに住んでいた頃より広いぐらいだ。

 快適さでどっちが上かは、なんとも言いがたいが。


 あとは風呂もほしいよな。

 先日の突然の里帰りで、風呂が恋しくなってしまった。

 こっちに来てから、色々美味しい思いもしてきたが、ゆったりお湯に浸かる贅沢だけは、まだ味わえていない。

 水の心配がなければ樽でも買って風呂にするんだけどな。

 旅の空ではむずかしいか。

 それでも豊富な水場があればいけるかもしれないな。

 考えとこう。




 気がつけば日が暮れていた。

 精霊石のランプも増やしたので、何箇所かにわけて吊るすと、結構あかるくなる。

 要所に明かりがあると、何かと便利だな。

 その内の一つは、フルンたち専用だ。

 だいぶ文字を覚えたので、夜はフルンやリプル、ウクレは本にかじりついている。

 前はエンテルやデュースが読み聞かせていたのだが、最近は自分で読めるようだ。


 あるいはレーンのレクチャも人気があるようだ。

 特にフルンはあれこれ質問しては、僧侶らしいありがたい話を延々と聞かされて喜んでいる。

 物好きな奴もいたもんだ。

 今日も「死んだらどうなるの?」などと難しいことを聞いていたようだ。


「人は死ねばその魂はアシハラの野に昇り、永遠に生きると言われています!」

「ほんとに?」

「わかりません! 精霊教会の教えではそうなっていますが、女神様が直接死後の世界に言及したという証拠は聖典には残っていません。聖書をまとめた人たちのでっち上げの可能性もあります!」

「えー、じゃあ嘘なの?」

「わかりません! 私は教条主義ではないので検証できないことは語りません!」

「えー、レーンもお坊さんなのに?」

「私にわかるのは、この世に生きる上で必要な神の教えを解釈し、広めることです! あの世のことは、あの世に行ってから調べます!」

「村のお坊さんは、悪い子は死んだら地獄に落ちるからいい子にしろって言ってたよ?」

「そういう説もあります! 今どのように生きたかで死後の世界の立場が決まるという説です。将来、この場合は大人になったら、という意味ではなく死んだ後のことですが、そのとき楽しい思いをするために、いまいい子にしていなさいという教えです。人の心を律するためには良い手段ですが、少々打算的ですね!」

「打算?」

「見返りのためにいい子にするということです」

「私もご奉仕いっぱいしていいなら、もっといい子にするよ!」

「いいですね! 私もご主人様にいっぱいお説教したらその分だけご奉仕できるなら、もっとお説教したくなるかもしれません!」

「じゃあ、お説教しよう!」

「残念ながら、私は見返りのためにお説教はしません。それが、価値観というものです!」

「価値観? じゃあ、他の価値観もあるの?」

「そうですね、たとえば死後の世界など無い、まったくの無、死ねば終わり、神様もない、いまある人生が全てだ、という人もいます!」

「えー、そんなのやだ。いいこと無いよ?」

「そうでもありません! 今が全てだということは、今頑張るということです。今日を楽しめない人が明日になったら急に楽しめる保証などありません!」

「うーん、そう言われればそうかも……」

「むずかしいですか!」

「うん!」

「つまり、自分には理解できない考えの人がたくさんいるということです!」

「わかった!」

「良いですね! ではこの続きは別の機会にしましょう」


 どうやらありがたい説教は終わったようだ。

 俺も説教される前に、先にご奉仕してもらったほうが良さそうだ。


「さすがはご主人様。私の話をよく聞いていらっしゃる!」

「そうだろう、俺は物分かりのいいほうなんだ」

「では、お言葉に甘えて! たっぷり! ねっとり!」


 そんな感じで、食事の支度が終わるまで、レーンとみっしり大人の説教タイムに励んだのだった。




 食事を終えた頃に、メイフルがやってきた。


「まいどー、ちょいと勉強させに寄せてもらいました。これうちの店長からの土産ですわ、どうぞ飲んでやってください」


 と、大きな酒壺を差し出した。

 挨拶に立ったアンがメイフルを招き入れる。


「まあ、わざわざありがとうございます。さあ、火のところへ。メイフルさん、あなたお食事は?」

「おおきに、もう食ってきましたわ」

「じゃあ、このお酒をさっそく……」


 メイフルを交えて、色んな話をした。

 街の話、試練の塔の情報、景気の話など。

 パズルの方は、ひと通り説明してやると、要領を掴んだようだ。

 彼女はその場で即興で二、三考えだして見せた。

 スクミズ盗賊ってのは、知恵の回るクラスなのかもしれないな。


「これはホンマにええアイデアですわ。うまく口コミに載せるには、一工夫いるかも知れませんし、あとこれって定期的にパズルをふやさんと駄目ですわな」

「そうだな。タイミングにもノウハウがいるだろうが、客は常に新しいものを求める。しかも問題を追加するだけじゃ、マンネリ化するだろうしな。俺達は旅をしながらだからマンネリの心配はいらないが、定期的に新しいアイデアを盛り込んでいかないとだめだろうな」

「難しいですなあ、でもこれはやりがいが有りますで。宣伝の革命やわ、ほんま。商売は目利き半分、宣伝半分でっせ」


 一目見ただけでそこまでわかるだけでも、大したもんだと思うよ。

 宣伝と言っても、TVのようなブロードバンドメディアがないと、大衆向けのCMはうてないし、ビラだってただじゃない。

 ポケットティッシュような方法も考えたが、あれだって大量消費社会だから低コストでティッシュを用意できるのであって、この世界でただで配れる同等品を確保するのはなかなか難しかったりする。

 人間、同じようなものがあれば知ってる方を買うものなので、その意味でも宣伝は重要なんだけど、だからこそ難しいんだよなあ。


 それとなく仕事時代の経験を交えながらメイフルと話すうちに、すっかり夜もふけてしまった。


「いやー、勉強になりましたわ。また、近いうちにご一緒させてもろてよろしいですやろか」

「ああ、俺も楽しかったよ。こっちも色々参考になったし」

「そらおおきに、ほなまた寄せてもらいます、おやすみなさい」


 去っていくメイフルを見送って、火の前に腰を下ろす。

 昼間はずいぶん暖かくなったが夜はまだまだ冷えるな。

 明日からは新しい塔の探索だ。

 さっさと寝てしまおう。

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