第59話 塔の探索 中編
試練の塔に通い始めて数日が過ぎた。
多少のトラブルはあるものの、今日の探索は順調だった。
出てくる敵をあしらい、一つ一つ小部屋を調べていく。
「そろそろ四階に行きましょうかー」
とのデュースの言葉に俺たちは階段を登る。
すでに四階への階段は見つけてあったのだが、未踏領域の探索を優先したのだ。
「普通のダンジョンと違ってー、試練の塔は定期的に魔物や宝物が湧き出てきますからー、きっちりマッピングするのが大切ですよー」
「まるでゲームみたいだな」
「ゲームというとー、チェスのようなものですかー、あれは確かに騎士の合戦をモチーフにしたと聞きますがー」
「エクたちがやってるチェスもゲームだけど、こういうダンジョン探索を擬似的に体験するようなゲームも俺のいた世界じゃ人気でね」
「ははー、よくわかりませんがー、擬似的にー、というのは子供のごっこ遊びのようなものでしょうかー?」
ごっこ遊びか。
説明が難しいな。
また別の機会に説明してやろう。
四階は難関だというだけあって、さすがに厳しくなってきた。
敵も少し強いのだが、通路の構造が複雑になってきている。
慎重に地図を書くので、なかなか進まない。
なんだか、腹も減ってきたな。
「ふう、今なん時だ?」
「そろそろ昼時ですねー」
「飯にするか」
四階に登ってすぐの大広間は、この階を探索する冒険者たちのたまり場になっており、魔物も出ないようだ。
一旦そこまで戻ると、片隅に腰を下ろして弁当を広げる。
といっても行動食として用意した硬いパンとチーズをワインで流し込むだけだ。
どうも命がけの仕事の最中に酒を呑むというのが感覚的にしっくりこないが、エレンなどは、
「ちょっと酒が入ったほうが、かえって調子がいいもんさ」
などと言って、革の水筒からグビリと飲む。
そもそも素面で殺し合いをやろうなどというのが、まっとうな発想ではないのかもしれない。
エレンが投げ渡した水筒から、俺も一杯やってみた。
しみるぜ。
食後の腹ごなしに、今日書いた地図を見返しながら、午後の行動を決める。
「やはり敵が少し強いようです。連携を確認するためにも、さきほどの小部屋で魔物を狩るべきでは?」
地図を見ながらセスがそう主張すると、
「鍛錬など狭い塔でやる必要もあるまい。どんどん進めばよい!」
とプールが積極案を提示する。
それに対してペイルーンが、
「あら、実戦での練習も大事じゃない? だいたいプールはさっきも術をかけようとして呪文唱えてる間に戦闘が終わったじゃない」
と突っ込むと、プールが反論する前にデュースが、
「そうですねー、プールは大きな術に頼りすぎですねー。もうちょっと前衛のフォローを心がけた術を使って欲しいですよー。あなたの幻術は強力ですけどー、使いどころが難しいですからー」
「わかっておる!」
とゴネるプールを制して、レーンが演説をぶつ。
「まあまあ、それよりもやはり、先に進みましょう! 我々はこのようなところで立ち止まるわけには行かないのです。なぜならば、我々には紳士の試練に挑むという大いなる目的があるのですから!」
じゃあ、みんなよく喋って腹もこなれただろうし、そろそろ休憩も終わりだろう。
「で、どうするのです?」
とのセスの問に、簡潔にこう答えた。
「進もう」
扉をくぐると、少し広めの部屋に出る。
中央には大きな石が置かれ、今入ってきた扉を除くと、四方は壁に囲まれている。
「おお、リドルですね!」
レーンが鼻息を荒くする。
「リドル?」
「謎かけのことです! 女神の与える試練の一種で、要は知恵を試されているわけです! 知恵と勇気、両方兼ね揃えたものこそが英雄と呼ばれるにふさわしいのです!」
「なるほどね」
石の表面には、浮き彫りで模様が彫られている。
ついで部屋を見渡すと、やはり外壁に同じ模様が彫られている。
ぐるりと一周りしてみると石の四面と外壁の模様は対応しているようだ。
となると、模様を合わせるのかな?
セスに回させると、正面の壁があがり、扉が現れた。
「お見事です! さすがはご主人様!」
とレーンはわざとらしく感心しているが、こんなのはなぞなぞにもならんだろう。
「なぞなぞ! それはいったい!?」
「うーん、パズルというかなんというか」
「ご主人様はリドルがお得意なようですねー」
と珍しくデュースに褒められる。
「こういうのは多いのか?」
「そうですねー、多くの女神はこういう問いかけがお好きなようでー。これはちょっと簡単でしたがー、この程度でも詰まる者は多いですねー。ほかにも連続して魔物を倒すといった試練もありますがー」
「なるほどね。別に俺も得意なわけじゃないし、もっと難しくなると駄目かもな」
「ご主人様の世界にもこうしたリドルがあるのですか?」
とセスも尋ねてくる。
「まあ、一種の遊びだからな」
「遊び……なのですか。これがわからずに行き詰まるパーティも多いと聞きます」
難しくはないと思うが……しかし、そういうなぞなぞの類に子供の頃から親しんでなければ、あるいは難しいのかもしれない。
タイヤだって発明できなかった文明もあるんだし、これだって発想がなければ、手がでないものなのかもなあ。
なぞなぞ部屋を抜けると、すこし敵が増えたようだ。
このメンバーでも行けなくはないが、あまり無理はせずに切り上げることにした。
「おかえりなさいませ」
出迎えたアンの顔を見るとやっと落ち着くよ。
連日の探索で、さすがにちょっとつかれた気がする。
俺ももう若くないんだなあ。
「こちらは、程々の売上でした。食い扶持を稼ぐという意味では、十分な儲けでしょう。初日が儲かりすぎでしたから」
べつに商売に来てるわけでもないし、それだけ売れりゃ、十分さ。
探索の方でも、一回で生活費数日分の儲けは出ている。
トータルでは結構な黒字だな。
「とはいっても、ずっとここで稼ぐわけではありません。道中は、お金が出て行くばかりです」
「そうだな」
「このところ、ちょっと贅沢をしたので、今日は控えめに、いつものマメスープとパンです」
「そりゃ、いいけどな」
なんと言っても紅を抜いても十五人分だ。
例えば朝飯に目玉焼きが食べたいと思っても、それだけで十五個も卵がいる。
パンだって、十五個だ。
実際は一つじゃ足りない者も多い。
やり繰りしてるアンの苦労も知れるというものだ。
俺だってたまにはうまいものを食いたいが、それよりも育ち盛りの連中にしっかり食わせんとなあ、という気にもなるしなあ。
食後にテントに横になってマッサージをしてもらう。
何人かが体に油を滴らせて、全身を使って刷り込んでくる。
やっぱこれがたまらんなあ。
エッチな事よりマッサージのほうが良くなると、これはさすがにまずいかもしれない。
あとでずんずん頑張ろう。
隣で同じく全身を揉みほぐされていたデュースと、明日の相談をする。
店と食事、それに全体のことはアンにまかせているが、探索に関してはデュースがリーダーだ。
基本的に彼女の意見に従うことにしている。
「この数日でひと通りの構成も試しましたしー、明日は休暇にしましょうかー」
「そりゃいいな、もうへろへろでな」
「薪や食料も確保したいのでー、明日は希望者で森に狩りと薪拾いに行ってもらいましょー」
「あくまで希望者にな」
「はいー、私は無理ですねー」
「俺も無理だな」
というわけで、翌日は留守番組としてまったりと過ごすことに。
目を覚ますと昼前で、隣ではデュースがあられもない格好でよだれを垂らして眠っていた。
「んにゃー、もうあさですかー?」
「もう昼だよ」
「はー、せっかちですねー」
のそのそと起きだすと、売店が一区切りついたアンたちが昼の支度を始めたところだった。
いつもコーヒーを入れてくれるオルエンは狩りに出ていたので、代わりにレーンがコーヒーを入れてくれる。
お湯の注ぎ方がダイナミックなせいか、風味はいまいちだし粉も混じってざらざらするが、まあこれはこれで。
繊細な騎士であるオルエンと違って、レーンは大物志向だからな。
遅れて出てきたデュースは、まだ眠そうだ。
まあ、俺も眠いんだけど。
疲れを翌日に引きずるようになると、年なんだなあ、と思うね。
留守番組で揃って食事を摂ると、あとはのんびりと午後を過ごす。
特にやることもなく空を眺めていると、忙しく駆けまわるアンやレーンのスカートがひらひらと舞う姿が目に入る。
アンは夜着を除けばメイド服以外を着てるところを見た覚えがないな。
隣で再びうとうとしているデュースは、肌着の上にローブみたいなものを羽織っているだけで、魔法使いっぽいといえば、ぽいのだが。
「いいんですよー、メイド服なんて来てなくてもメイド族はメイド族ですからー」
一見、もっともなことを仰るが、オフの日ぐらい、メイド服を来てくれてもいいじゃないか。
そうだだをこねると、
「もー、しょうがないですねー。じゃあ、ちょっと着替えてきますー」
と馬車に入ったので、俺もついて行ってみた。
「着替えなんて見ても楽しいもんじゃないでしょー」
「いや、楽しいだろう」
「別にいいですけどー」
デュースはするすると脱ぎ捨てると、素っ裸になる。
あいかわらず、凄いボリューム感だ。
色々持て余すぜ。
「あらー、コルセットはこっちにしまっておいたと思うんですがー」
と裸のまま荷物を漁る。
「ないですねー、ちょっとアンかレーンを呼んできていただけますかー」
やってきたレーンと二人で、荷物をひっくり返すと、たちまち馬車の中は女物の衣類で溢れかえった。
ひらひらと飛んできたパンティーが俺の頭に乗っかる。
「ご主人様! なぜ私のパンツをかぶってにやにやされているのです、紳士らしく慎みを持ってください!」
レーンに怒られた。
濡れ衣なのに。
乾いてるけど。
どうにか見つかったのか、デュースはメイド服を着始めるが、ブラウスのボタンが閉まらないようだ。
やっぱりだらけすぎなんじゃ。
「ちょっと脱いでください! 締め直しましょう!」
とレーンがコルセットをぐいぐい締めはじめる。
「ちょ、ちょっと締めすぎ……あふ、むり、むりですー」
「なにを! いって! いるのです! これぐらい! 平気です!」
いや、さすがにムリだろうと思うのだが、閉めるたびにはみ出したお肉が胸や尻に流れるかのようにさらに溢れてくる。
こぼれないように支えてやろう、ということでおっぱいを両手で支えてみた。
「お、ご主人様気がききますね! そのまま支えておいてください! 一気に絞めますので!」
怒られるかと思ったら褒められた。
レーンの考えることはわからん。
それにしてもシュールな絵面だな。
「さあ、出来上がりですよ!」
「はー、はー、これはー、厳しいですねー」
「飲み過ぎですね! 今夜から控えましょう!」
「そ、そうですねー」
女は大変だな。
「ご主人様も、ベルトが一段緩んでますよ! 少し搾ってください!」
バレてたのか。
「ふー、これはー、だめですー、気絶しそうー」
「いや、もうメイド姿は堪能させてもらったので、脱いでいいよ」
「そうしますー」
しかし、同じぐらいおおきいエンテルは自然とメイド服を着こなしてたな。
「彼女は体型維持に気を使ってますからー」
そうなのか。
言われてみれば、エンテルだけは職場の同僚みたいな、普通の女性とおなじ空気を感じてたんだよな。
普通ってなんだよと言う気もするが、俺もそういうのは疎いからなあ。
「はー、やっぱりこの格好のほうがくつろげますねー」
「もう、せっかく着たのに! ちゃんと運動して痩せてください!」
レーンはぷりぷり怒りながら、馬車から出て行った。
「そうしますー。じゃあ、ひと汗かきますかー」
とデュースに誘われたので、俺もせっせと頑張ることにした。
いい汗かこう。
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