第45話 ハレの日
祭りの最中でも、一応、店は開けている。
客を取られてあまり売れないんだけど、客商売だからな。
さいわいなことに、お店の売上は軌道に乗っている。
薬の出前や商品のバリエーションが増えたこともあるし、探索の際に知り合った冒険者が家で買ってくれるようになった、というのも大きい。
やっぱり地道にお得意さんを作るのは大事なんだよな。
急に流行ったものは、すぐに廃れるもんだ。
それ以外には以前から行なっている教会への御札の納品も、引き続き行なっている。
今日もメイド長のアンと長耳娘のアフリエール、それに新入り牛娘のリプルを伴い神殿まで出向くことにした。
アフリエールは丸薬づくりでペイルーンにこき使われているが、それ以外でも家事全般でアンを助けて働いている。
他にも裏庭で野菜やら薬草を栽培したりと、一日中働き詰めである。
外見が繊細な美少女なので心配になるが、農家育ちのタフさもあってかパワフルだ。
一方、牛娘のリプルもまた、自分で言ったとおり、一日中、馬車馬のように働いている。
こちらの世界では
細身の割に力もあって、背負子に山盛り薪を積んでモリモリ運ぶ姿は頼もしい。
むしろ初日から働き過ぎで、体を壊さないかと心配するぐらいだが、「親譲りで頑丈ですから」と愛らしい笑顔でほほえむのだった。
そんな顔をされたら、おじさんはもうね、ほら、たまらないのよ。
というわけで、従者のねぎらいを忘れない、いいご主人様の俺だった。
それはそうと、リプルのはじめてのご奉仕の時に、よいしょよいしょと激しくがんばっていたら、小さな胸からぴゅるりとミルクが出たんですよ。
ちょっとだけど、俺の顔に直撃するぐらいに。
なにかリプルは俺にミルクをぶっかける趣味でもあるんじゃないかと訝しんでいるところだけど、我が家の薀蓄担当のデュースいわく少しでも出るなら、そのうちに胸も張ってきて、ちゃんと出るかもしれないとの事だった。
そのためにはしっかり食べて、しっかりまぐわうことが肝要だそうで。
それを聞いてリプルはすっかり喜んで泣き出すほどで、とにかく頑張りますと意気込んでいた。
はい、俺も頑張らせていただきます。
ところで、俺は何も考えてなかったんだが、牛娘は牛と違って出産しなくても乳が出るらしい。
先に子供を作れと言われたら、相当悩んでいたところだが、なんにせよセーフだよ。
そもそも、モゥズ族は同種の間でしか子を産めないらしい。
グッグ族であるフルンもそうらしいので、獣族ってのは遺伝的にだいぶ人とは離れているのだろうか。
その点、プリモァ族はまだ人間に近いのか。
リプルの父親は、モゥズ族の男だそうだ。
種牛は貴重で、しかも牛娘は人などに仕えるとその相手としか交わらないので、子を産めない。
リプルの母親のように、モゥズの男とつがいになったものだけが、子を生むのだという。
ややこしいもんだ。
人間一種族しかいなかった地球の感覚だと、やっぱりよくわからんよなあ。
人間といっても、紳士である俺はこの世界の人間とは別種族だそうだが。
神殿に続く道も、すっかり通い慣れて、今では程よい散歩コースだ。
気がつけば遠くの山の頂に雪が見える。
「山に雪がかぶると、すぐに冬が来ます。もう、冬支度を始めないといけませんね」
とアンは言うが、こうして歩いていると、まだわずかに汗ばむ。
特に今日はいい陽気だ。
少し遅れて、荷物を担いだアフリエールとリプルが歩いている。
何やら家事の段取りなどについて話しているようだ。
アフリエールがあれこれと説明している。
同年代のフルンは家事が苦手なので、一緒に働ける仲間が増えたのが嬉しいのだろう。
それにしても、増えたなあ。
今、俺の従者って何人いるんだ?
えーと、十一人か。
そうか、そんなにいるのか。
そうかあ。
部屋に余裕ができたと思ったのもつかの間で、結局年少組は固まって同じ布団で寝ているし、紅は相変わらず部屋の隅で三角座りだ。
リプルなどは最初、馬と一緒に裏庭で寝ると言い出したので、さすがに止めたが、かと言って寝るスペースがないのは相変わらずでいかんとも。
さらに、姫奴隷のエクのためにベッドを用意したのが効いてるんだよな。
部屋の三分の一がベッドになってしまって、内職などの作業スペースを取ると、昼間は全員が部屋の中に入れなくなってしまった。
当のエクは恐縮しながらも、やはり喜んでいたようで、
「私のような端女のためにこのようなお気遣いをいただけて、無常の喜びでございます」
などと相変わらずのノリだ。
あと柔らかいベッドの上でのご奉仕はすごく塩梅がいいことが判明したので、俺的にも大変よろしかった。
とはいえ、さすがにこの狭さはまずいと思うんだけど、
「旅に出るまでの辛抱です」
とアンが言い張るので如何ともし難い。
もちろん、アンのほうが俺より悩んでるに違いないので、無責任に要望ばかり出すわけにもいかないが、どうにかしなければ。
オルエンとも相談して、二段ベッドでも作ろうかという話が進んでいたところで、祭りに入ってしまったので今は保留にしてある。
落ち着いたら、作ってみるとしよう。
「アスロ様、こんにちは」
御札を収めた後に、アンの保護者であったアスロのところに顔を出す。
「まあ、いらっしゃい、アン。ちょうど良かったわ、こちらから連絡を入れようと思っていたのだけれど」
「何かあったんですか?」
「ええ、そのまえに紳士にご挨拶を。お連れのお嬢さんがたは、はじめてですね」
「後輩の従者で、アフリエールとリプルです」
アンに紹介されて、二人は頭を下げる。
「アフリエールと申します、よろしくお願いします」
「これはご丁寧に。プリモァ族のお嬢さんかしら」
「はい。ハーフ……ですけど」
「まあ、ごめんなさいね、プリモァの血のほうが濃いのかしら」
「そうだと思います」
「でもそのほうがいいわね。そのほうが、紳士様とのつながりがより強く、深くなりますからね」
「はい」
「もう一人はモゥズ族ね」
「は、はい。リプルです」
「かわいい仔牛さんね。あなた達のように様々な種族からの分け隔てない忠誠を得られるのも、紳士様の徳の高さの表れ。貴方様のような方にアンを貰っていただいて、改めて嬉しく思います」
久しぶりに会うアスロは、相変わらず、穏やかで気持ちのいいご婦人だ。
冷静に考えると、そんな褒め方があるのかと不思議な気分になるのだが、目の前で言われると、全くそんな気がしないのが、それこそアスロの人徳なのだろう。
俺なんかと違う、本物の徳ってやつだろうなあ。
アフリエールとリプルもすっかり打ち解けて、楽しそうに話している。
「そうそう、大事な話を忘れていました。今日はレーンが奉仕請願を上げる日なのですよ」
と思い出したようにアスロがアンに話しかけた。
「え、もうなんですか?」
「ええ、つい昨日、あの子も成人しましてね。祭りのせいで忙しく、連絡が遅れてごめんなさいね」
「お気になさらず、でも昨日の今日で、もう奉仕請願を?」
「そうなのですよ、言い出したら聞かない子ですから」
「そうですね……でも、おめでたいことです。お祝いしてあげないと」
「ええ、あなたに祝ってもらえると、あの子も喜ぶでしょう」
ホロアという種族は、ある程度年をとると、成人の印が体に現れるらしい。
そうなると女神の前で、自分が従者として生きることを誓い、主人を得られることを願う。
それを奉仕請願というそうだ。
その儀式を終えると、ホロアは修行の旅に出たり、師について修行したりするのだという。
「そうですか、レーンもついに……」
「その子は後輩かい?」
「後輩というか、妹分というか、私がここを出るまでは同じ部屋で寝起きし、修行した仲なのです」
「なるほどねえ」
「あと、二、三年はかかるかと思っていました。私がここを出たあと、あの子は奥の院に籠って修行していたので、しばらく会っていないのです」
しみじみと語るアンは、なんだか嬉しそうだ。
会うのが楽しみな馴染みというのは、いいものだな。
馴染みといえば、日本で隣に住んでいた判子ちゃんのことを綺麗サッパリ忘れていた。
あの子はいったい、なんなんだ?
いろいろ知っているふうだったが、俺がここに来た原因とかもわかるんだろうか。
その辺、もうちょっと考えたり調べたりしなきゃダメなんだろうが、考えないようにしてるよな、俺。
などと悩んでいるところに、着飾った少女が走ってきた。
癖の強い黒髪が景気よく跳ねている。
元気そうな娘だな。
「はぁ、はぁ、アスロ様、ただ今……終了いたしました」
「お疲れ様、立派になりましたね」
「はい、これで私も……」
とそこまで言いかけて、隣にいるアンに気がついたようだ。
「お姉さま!」
「おめでとう、レーン。あなたもとうとう一人前ね」
「もしかして私を祝いに?」
「ええ、そうですよ」
「あ、ありがとうございます!」
レーンという少女は、オーバーアクションで頭を下げる。
「あなたも主人を探して修行するのですね。これからが大変ですが、頑張ってください」
「はい、私もお姉さまみたいに立派な方にお仕えするようにがんばります。そういえば、お姉さまのご主人様ってどういう方なんでしょう、紳士様だとはお聞きしましたが」
「ええ、こちらのクリュウ様ですよ」
そういって俺を紹介する。
「え、この……おじさん?」
ははは、おじさんときたか。
「レーン、あなたまだ言葉遣いが治ってないようですね」
にこやかだが、威厳のあるアスロの声でたしなめられて、レーンはたちまち恐縮する。
そそっかしいタイプだな。
「す、すみません、決して悪意があったわけではなく、お、お許しを紳士様」
そういって慌てて頭を下げる。
まあ、子供はそういうもんだ。
いや、成人したと言っていたな。
「そういえば、どういう奉仕請願を立てたのですか?」
「えーとですね、やっぱりこう、イケメンの勇者様と、ばっさばっさ魔物をなぎ払いながら、世界を旅して回るような……あ、いえ、決して紳士様がイケメンではないとか、そういう意味では」
いちいち墓穴を掘るタイプだな。
「ご主人様はイケメンです!」
と突然、俺の斜め後ろに隠れていたアフリエールが声をあげる。
そういうフォローはかえって辛くなるんだけどな、ははは……はは。
「いや、でもオジサンですし」
「オジサンでもイケメンなんです!」
と二人は一触即発の状態だ。
アンとアスロは呆れた様子だが、リプルはオロオロしている。
「イケメンってのはもっと若いです!」
「若くなくてもイケメンな人はいるんです!」
三十代はまだ若いだろう。
若いと言ってくれ、お嬢さんがた。
「だいたい、どう見ても親子ぐらい離れてるじゃないですか」
「そんなことないです、ね、リプル?」
とアフリエールはリプルに話題を振る。
味方を増やそうとしたのだろうが、咄嗟に話を振られたリプルは、
「え、あの、おとうさんよりご主人様のほうが年上です……けど」
らしいな。
俺も聞いた時ショックだったけど。
リプルを引き取るときに父親には挨拶しなくていいのかと思ったが、モゥズの種牛は数が少ないせいか、多くの牛娘とつがいになるので、子供の面倒は一切見ないそうだ。
つまり子育ては母親だけの責任だという。
それはさておき、味方の誤爆を受けて窮地に立つアフリエール。
「ほら、やっぱりおじさんですよ」
「むぐぐ、お、おじさんでも……おじさんのほうがかっこいいんです!」
アフリエールもムキになってるな。
俺的にはまだ若いというスタンスで押して欲しかったが。
それよりもアフリエールはムキになって興奮しているせいで、レーンの体の変化には気づいていないようだった。
後ろで見ていたアンは驚いていたが、俺と目が合うと、にっこりと微笑む。
それから、睨み合っている二人の間に割って入った。
「ほら、ふたりとも喧嘩しないで。これから長い付き合いになるんですから」
「いえ、お姉さま。私はこれから主人を探す修行の旅にでます。名残惜しいですが、今日はひと目お会いできてうれしかったです」
「その必要は無さそうですよ。ほら、ごらんなさい」
とアンはレーンの手をとってみせる。
その手はうっすらと輝いていた。
「え?」
空いた手で俺の手も取り、重ね合わせると、レーンの体はいっそう輝き出す。
「え? え?」
「おめでとう、レーン。イケメンのご主人様と出会えたようですよ」
「え、ちょっとまって、え、え? いや、でも、ほら……」
レーンと目が合う。
明らかに動揺していたが、徐々に頬には赤みがさし、目は潤んでくる。
「うそ、でも、え、ほんとに? わ、わた、わた、わあああああっっ!!!」
突然レーンは走りだした。
逃げたな。
「しょうがない子ですねえ」
「まあまあ、誓いを立てた日に主人が見つかるなんて、めったにない幸福ですから、動揺するのも無理はありませんよ」
アンとアスロはにこやかに語る。
「その気のない人を無理に従者にする必要はないじゃないですか」
とアフリエールはまだ機嫌が悪いようだ。
「そう言ってやるなよ。いきなり出会うと動揺するみたいだぞ。 アフリエールも最初はワタワタしてたじゃないか」
「それは……その……ご主人様が、あんまり素敵に見えたので……」
「そう言われると照れるなあ。そういえばペイルーンも初対面ではあんな感じだったなあ」
「そうなんですか? ペイルーンのお姉さまはいつも自信にあふれているのに」
あいつが自信満々なのは見かけだけだからなあ。
そう言うタイプほど想定外の事態に弱いんだよ、彼女みたいに。
そういってレーンが走り去った方をみる。
追いかけるべきか、しばらくそっとしておくべきか。
「追いかけましょう。あの子は理屈っぽい分、内側から答えを出せるタイプじゃありません。どう転ぶにしろ、手を差し伸べてあげないと」
とのアンの言葉に、俺達は追いかけ始めた。
紅葉の美しい神殿の中庭を、ゆっくりと歩く。
こういう時は、ゆっくりでいい。
アンはいまいち納得の行かないアフリエールに、何やら話して聞かせているようだ。
「さあ、機嫌を直して、一緒に探しましょう。今日は晴れの日なんですから」
「でも……、相性のいい相手は一人とは限らないんでしょう?」
「理屈ではそうですが、その一人に出会う確率でさえ、とても低いものです。実際には精霊の力が反発する、いわゆる相克の相手でなければ、どうにかやっていけるものですし、あそこまではっきり光らなくても相手を選ぶことはあるようです」
「それで幸せになれるのでしょうか? 今の私達みたいに」
「どうでしょう、ですが人間の夫婦などは私達のような、精霊の強い結びつきなしでつがいになります」
「でも、祖父母はあまり仲が良くないようです……。両親は、母がプリモァで相性がよかったから仲が良かったんじゃないでしょうか」
「ふふ、あの夫婦は、とても仲が良いと思いますよ。仲の良い関係のあり方は、一つではないのです」
「そうなんでしょうか」
「私達も、現状に甘えず、よりよい従者としてご主人様との関係を続けていきたいものですね」
「はい」
アフリエールもどうにか納得したようだ。
アンの言葉は説得力があるなあ。
それはつまり自信にあふれているからだ。
その自信は、多分俺への信頼から来てるんだけど、俺はそれほど頼りにはならんからなあ。
プレッシャーだぜ。
俺の方はといえば、姿が見えなくても、彼女がどこにいるのかわかる。
まだ契約もしてないのにこれだから、よほど相性がいいのか。
まっすぐ進むと、大きな樹の下で、レーンは突っ伏していた。
傍に行って腰掛ける。
「よう、さがしたぞ、メイドのお嬢さん」
「……近づいてくるだけで、わかるものなんですね」
「らしいな」
「いま、すごくドキドキしてるんです」
「ふぬ」
「絶対顔も真っ赤です、熱くてお湯が沸かせそうです」
チラリと顔を上げてこちらを見る。
真っ赤に上気した愛らしい顔。
それが少し涙ぐんでいる。
「おかしいです、こんなの。わたし、絵本で見た白薔薇の騎士みたいな勇者様の従者になるってずっと思ってたのに、あなたに会った途端に、頭のなかがもう全部あなたのことしか考えられません。不条理です」
それは俺も思う。
なんでこの子たちはこういう仕組みになってるんだろうな。
主人にとって都合良すぎるだろう。
「ほんとに……おかしいです。わたし……、だってあなたはイケメンじゃありませんしオジサンだし、でもこうして見てると、世界一素敵な人にみえて、目が離せないんです」
「そうか」
「いますぐ触れて欲しいし、おしゃべりもしたいし、そ、その、ご奉仕とか、そういうのも……」
「ふぬ」
「それなのに、私ときたら……いきなり失礼なことを言ってしまうし、逃げちゃうし……せっかくの晴れの日に、世界で一番素敵な人に出会えたというのに、全部自分で台無しにして……わたし……わたし……」
アンがハンカチを取り出して、レーンの顔を拭ってやる。
泣きはらしたひどい顔が、少しだけましになる。
「レーン、あなたは昔から夢見がちな子でしたが、主人に出会えるという幸福に比べれば、それ以外は、実は些細な事なのですよ」
「お姉さま……」
「現に私がご主人様に出会ったときは、路地裏でパンツ一枚のお姿で徘徊しているところだったんですから」
「お、お姉さまも苦労されたんですね」
「ちょっと、驚いただけです。あなたも、突然のことでびっくりしただけですよ」
「そうでしょうか」
「ええ、ほら、起き上がって、顔を拭いて、あなたの大切な人に向き合ってください」
レーンは覚悟を決めて俺を見つめる。
だから、俺もちゃんと真面目な顔で、彼女に向き合った。
「あ、あの……わたし、思ってた人と全然違ってましたけど、それはあくまで、私の妄想で、私だって妄想と現実は違うことぐらいわかっておりますし、それにいまこうして……」
そこでレーンは一度深呼吸をして、
「あなたが……いいです。あなたにお仕えしたい……。あなたのものになりたいのです。どうか、おねがいします」
深く下げられた頭を優しくなでてやる。
うん。
なんとなくわかった。
彼女たちが俺に都合の良い存在であるように、俺も彼女たちにとって都合の良い存在なんだろうな。
それなら、うまくいくに決まってるよなあ。
だから……、
「よろしくたのむよ、レーン」
「あ、ありがとうございます」
彼女は思いっきり頭を下げて、そういった。
元気のいい娘だ。
「じゃあ、今ここで契約しましょうか。幸い、こっちには参拝客も来ませんし」
「ええ? ここで?」
「アフリエール、リプル、ちょっと周りを見ててもらえるかしら」
アンに促されるままに、俺とレーンは青空の下で契約した。
結構、アンも大胆だよなあ。
それでも、落ち葉の絨毯の上で、生まれたままの姿で俺に抱かれてうっとりする少女は、とてもいいものだった。
十二人目の従者に幸あれ。
などと柄にもなく祈ってしまうほどだった。
祈ってないで、自分でどうにかしなきゃならないんだけどな。
レーンとアフリエールは互いに謝罪し、仲直りする。
「先程は申し訳ありませんでした!」
「ううん、私こそごめんなさい。がんばって一緒にご主人様にお仕えしましょう」
「はい! 頑張ります!」
従者が俺と相性がいいということは、間接的に従者同士も相性がいいのが普通だそうだ。
だから、みんな仲良くやってくれてるんだな。
これが大奥物のドラマみたいに毎日いがみ合ってたらたまらんよ。
アスロに挨拶して、俺達は帰路につく。
無論、新しい従者を連れて。
「ご主人様は紳士ですけど、試練はもう済まされたのですか?」
やはりアンの妹分だけあって、試練が気になるのかな?
「試練には、来年挑む予定だよ。」
「よかった、じゃあ試練に挑む従者として、お役に立てるのですね」
「ああ、頼りにしてるよ。ところでレーンのクラスはなんなんだ?」
「もちろん、お姉さまと同じく僧侶ですよ。もっとも私は巫女の素質はないので、回復系の呪文しかつかえないんですけど」
そりゃいいじゃないか、ついにうちにも念願の回復役ができたのか。
もうすっかり諦めてたよ。
「あ、でもまだ、ヒールの第二段階しか……」
「ヒールって第二段階まであれば十分じゃないのか?」
「ええ、十分だと思いますよ」
とアン。
「でも、回復役がいないということは、従者の数はまだ少ないのでしょうか」
「あなたでちょうど十二人目よ」
「そうなのですか、思ったより多いのですね。さすがはお姉さまがお仕えするお方だけの事はあります」
「あなたの主人でもあるのですよ」
「そうでした。私も名を汚さぬよう、頑張ります!」
「おねがいしますね」
「でも、十二人だと、そこそこのお屋敷にお住まいなのですね」
「いやあ、お屋敷なあ……」
「あれ……、私また何か余計なことを」
「うちはまだ、教会からお借りしている長屋に住んでいるんです」
「え、前に一度おじゃましたあれですか?」
「あれです」
「でも……あそこに十二人は」
普通そう思うよな。
それでも住めるんだから、人の可能性は無限大だよ。
家につくと店番のペイルーンが出迎えた。
「おかえりー、遅かったのね。ってその子は?」
「ああ、彼女は……」
「はじめまして。今日から従者の末席に加えて頂きました、レーンと申します。不束者ですが、よろしく! おねがい! 致します!」
気合の入った挨拶だな。
「あら、これはご丁寧に。ペイルーンよ。よろしくね」
「はい!」
とまあ、万事この調子でうちにいた者に挨拶して回る。
うまくやってくれそうだ。
たぶん、やってくれるだろう。
そういうところは、心配してないんだよな。
というか心配するところは他にあるんだよなあ。
と、女の子でぎゅうぎゅう詰めの我が家を見て、思うのだった。
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