第42話 祭

「ひゃー、うわー、高いー、高いよご主人様!」


 フルンは興奮して犬耳がぱたぱた動き続けている。

 犬っぽくて可愛い。

 俺達は今、祭りの目玉である観覧車に乗っていた。

 まさか、こんな立派なものまで作るとは。

 高さだけなら街には高い建物もいくつかあるのだが、観覧車とかの高さって別物だよなあ。

 隣で俺にしがみつきながら、長い耳を下げて、おっかなびっくり外を眺めているアフリエールも可愛いもんだ。


「ほらほら、あそこ。みんないるよ!」


 そう言ってフルンが下を指差すが、アフリエールは怖くて覗けないようだ。


「えー、高くて面白いのに」

「と、遠くが見えるのは、いいと思うけど……、下はちょっと」

「ふーん、あ、ほら、あっち、海見えた、海!」


 正直、フルンはパワーがありあまり過ぎてて持て余すんですよ。

 色んな意味で。

 ちょっとため息を漏らしてしまうと、


「もっとデーンと構えてなさいよ、デーンと」


 ポップコーンをモリモリ食べながら外を眺めていたペイルーンにそう言って太ももをぺしゃりと叩かれる。

 まあ、そうかもしれん。

 ポップコーンをぶんどって一粒つまむと、隣のアフリエールを抱き寄せて、


「ほら、あーん」


 といって、食べさせる。


「んぐ……」


 といって、俺の指ごとしゃぶる仕草が色っぽい。

 姫奴隷のエクが来てから、みんな色気が三割増しぐらいになってませんかね。

 そこの所についてそれとなく話を振ると、


「あの、いろいろ教えてもらうので……」


 そういって答える上目遣いの仕草からしてエロいのよ。


「あー、わたしも食べるー、あーん」


 そういって大口を開けるフルンは今までどおりだった。

 和むぜ。


「はやくー」


 それはいいから、あまり暴れるなよ。

 急かして足をバタバタするものだから、ゴンドラが揺れるのだ。


「ひ、ひゃ」


 怯えてアフリエールはしがみつくし、フルンはますますせがんでくるしで、大変だった。


「貫禄がないわねえ。これじゃあ、アンも大変ね」


 呆れてないでフォローして下さいよ、ペイルーンさん。

 俺の心の嘆きを無視するように、観覧車はゆっくりと回り続けたのだった。




 下で待っていた連中と合流して、再び祭りを見て回る。

 どこもかしこも人で溢れている。

 エツレヤアンは大きな街だが、人が多すぎてとんでもない有り様だ。

 どこにこんなに住んでたんだ?


「近隣の村からもやってきますから。親戚などを頼って、泊まり込みで遊んでいくんですよ」


 とのアンの説明を聞いて納得する。

 祭りは一週間ほど続くらしい。


「これが終わると農家は種まきですし、街でもみんな忙しくなります。冬支度もありますし」


 なるほどねえ。

 うち的にはどうなんだろう。


「例年だと、冬場は暇でしょうか。雪が降ると冒険には出られなくなるので、冒険者はよそに移るか、別の仕事で冬を越すそうです」

「つまり、うちも出られなくなるわけか。もう少し実践訓練をしておくべきかな?」

「かもしれませんね。冬が開けたら、旅の支度をはじめなければなりませんし」

「目的地まで、半年ぐらいかかるんだよな」

「その予定です。修行を兼ねて色々寄りますし、ある程度余裕は見ていますが、何があるかわかりません」


 そうだよな。

 冒険向けじゃない従者でも、アフリエールなんかは農家ぐらしでタフだけど、ろくに外出したこともないエクなどは、長旅に耐えられるのかどうか不安だ。


「そういえば、エクは布団も合わないようだよ?」


 後ろで飴をなめていたエレンが話しかける。


「夜中何度も目を覚ましてるみたい。最近気がついたんだけど」

「多分、立派なベッドで寝起きしていたのでしょう。あのせんべい布団では負担になっていたのかも。たしかに、ちょっと疲れているようには感じていたのですが、なれない暮らしのせいかと思っていたので。盲点でした」


 アンも気がついてなかったようで、随分と反省しているようだ。

 やっぱり気を使いすぎなんじゃないかなあ。

 なにかフォローできればいいんだが、それがまたわからん。

 もっとも、俺も気がついてなかったわけなんだが。


「でしたら、藁でベッドをつくりましょうか? 今の時期なら春蒔きの麦藁が手に入ると思いますけど」


 とアフリエール。

 今のは、あるだけマシってレベルの布団だからな。

 それでも、人数分工面するのは大変だったけど。

 しかし、藁でベッドが作れるのか。

 そういえば、そんなアニメを子供の頃見たような?


「貴族のベッドがどんなものか、わかりませんけど、藁のベッドもフカフカで気持ちいいです」

「フカフカいいな、俺もほしい」

「片付けられないので、全員分だと難しいと思いますけど……」


 とはいえ、エクだけベッドにすると、それはそれであいつが気を使うだろう。

 ハーレムってのも結構、苦労が多いな。

 とりあえずダブルサイズぐらいのベッドを作って様子を見よう。


 その前に今日の本命は牛娘だ。

 午後に市が立つという。

 他にもエレンがいろいろ調べてくれたようだ。


「子牛が十頭ほど出るらしいよ。これを逃すと、次はまた来年だね」

「売るってことは、牛娘ってのは奴隷と同じなのか? 獣族なんだよな?」

「うーん、そうじゃなくて、自分で自分を売る……のかな? ある意味ホロアと一緒だよ。牛は相性の合わない男に抱かれてもあまり乳を出さないから。だから、定期的に子牛が生まれると、そうやって市を立てて自分を売り込むんだよ。親牛の持ち主も金になるしね」

「よくわからんが、その仕組だと大々的な牧場とかは作れそうにないな」

「そこが家畜と牛娘の違いだね。この間見た屋台や、田舎の農家なんかでしか、牛娘のミルクは味わえないんだよ」

「つまり、相性が合わなければ飼えないわけか」

「でも、牛娘はホロアより相性が合いやすいって聞くから、十人もいれば一人ぐらいはあたりがいるよ」


 と言った前情報をエレンから聞いて、競りに望む。

 小さなステージの上で、それぞれの牛娘が紹介されると、希望者と面通しになる。

 子牛と言うからもっと小さいかと思ったが、結構成長している。

 当然、乳もでかい。


「旦那は子供好きだからねえ」


 誤解されるようなことを言うなよ。

 でもまあ、確かにでかい。

 しかも四つあるから不思議な感じだ。

 かと言って奇形というのでもなく、これはこういうものなんだなあ、という感じである。

 十人ほどならべられ、希望者は順に前を通って相性を見る。

 見方は簡単で、ホロア同様、体が光るらしい。

 俺の番が来て、順番に回っていくが、なかなか体が光らない。

 可愛い子もいたのに残念だ。

 結局、一人も相性のいい子はおらず、牛娘は買えなかった。


「残念だったね」

「まあ、相性の話なら仕方ない。次に期待しよう」

「次は来年だって」

「そうか、となるとこの街にはいないなあ」


 まあ、仕方がない。

 それにしても、あのミルク、毎日飲みたいなあ……。

 もちろん、ダイレクトで。

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