第14話 犬耳娘

 老騎士のバダムから知らせが入ったので、エレンとアンを伴って、犬耳娘フルンのお見舞いに行く。

 幸い病状は安定しており、すぐに退院できるらしい。

 ただ、病自体は薬と神官の呪文で治癒したが、衰弱した体を癒やすには、もう少し時間がかかるとの事だった。

 もともと、このスパイツヤーデ王国の遥か北西に広がるデバの森に住んでいたのが、南下してきた魔物に住処を追われ、孤児としてこの街に流れ着いたところをエレンと知り合ったらしい。

 二人で日銭を稼いでいたが、そのうちにフルンが病に倒れ、仕方なくエレンはスリに手を出したのだそうだ。

 エレンはフルンの今後のことを心配していたが、当のフルンは、


「わたしのことは心配いらないよ。エレンはごしゅじんさまができたんだから、しっかりがんばってね」


 と、つれない。

 子供なりに気を使っているのだろうが、さて、どしたものか。


 途中で医者が来て、面会が終わる。

 帰り道、エレンはあまり口を開かなかった。

 フルンと一緒に暮らしたいのだろうが、自分からは切り出さない。

 俺としても、居候を養えるような、立派な屋敷にでも住んでいればともかく、あの狭い一間で毎日くんずほぐれつしている中に、一緒に住まわせるわけにも行かないだろう。

 本物の犬なら軒先につないでおけばいいんだろうが……、とそこでフルンを鎖につないだ姿を想像して慌てて首を振る。

 それ以上いけない。

 そんな鬼畜趣味はないぞ。

 改めてバダム翁に相談すべきなんだろうな。

 きっとエレンもそんなことを気にしているのだろう、などと考えているとアンが尋ねる。


「そういえば、あの子は引き取らないんですか? グッグ族なら今から仕込めば良い戦士に育つはずですが」

「だめだよ、この国の人は獣人を抱いたりはしないだろ?」


 とエレンが言うと、アンは皮肉たっぷり目に、


「大丈夫ですよ、ご主人様はおっぱいが大きければいいそうですし」

「え、そうなの? じゃあ、大丈夫かな?」

「何の話だ?」


 俺が尋ねるとアンが答えるには、


「グッグ族はホロアとは違うのですが、やはり女神の眷属と言われる古代種で、優秀な戦士に育ちます。南方では血の契約を交わして幼いうちからたっぷり可愛がり、身も心も従えて忠実な戦士に育て上げると聞きます」

「でも、この国ではフルンみたいな獣人を抱く人は少ないから……」


 エレンがそうつぶやくとアンが、


「今は子供ですけど、すぐに巨乳に育ちますよ」

「そ、そうなのか!?」


 つい、巨乳という単語に反応してしまう。

 あのフルンが巨乳に……ロリ巨乳か。

 いや、縦も伸びるよな、やっぱり。


「ほんとだ、巨乳に食いついた!」

「でしょう」


 エレンが呆れた顔でこっちを見る。

 よせ、そんな目で見るな。


 結局、とって返して再びフルンに面会し、話をする。


「ほんとに? わたしも貰ってくれるの!?」

「ああ。君がいいならね」

「ありがとう、おじさん。わたし立派な従者になる!」

「うんうん、がんばってくれよ」


 そんなわけで、あっけなくフルンも引き取ることになった。

 しばらく安静にするなら、自宅療養でもいいということで、連れ帰ることにする。


「というわけで、また仲間が増えました。みんな仲良くしてください」


 アンに紹介されて、フルンが挨拶する。


「フルンです、グッグ族です、ごしゅじんさまのお役に立てるようにがんばります」


 ホロアに限らず、女神の眷属と呼ばれる古代種族は、主人に抱かれると特別な力が宿るらしい。

 それが契約なのだが、詳しいことはわからない。

 主人の持つ精霊力を内に宿すことで、主人の一部になるからだと精霊教会では教えている。

 血の契約とも言うらしいので血とかアレとか、そういうものをかわすことで結ばれるんだろう。


「要するに、フルンも同じように可愛がってやればいいんだな」


 ということで、例のごとくナニする。

 まだ子供っぽくも思えたが、嫁に行ってもおかしくない歳だと言うので、気にしないことにした。

 俺も思ったより守備範囲が広いらしい。

 それ以前に、適齢期ってのも文化的背景に根ざしたものだからな。

 ここの連中がOKというなら、それはOKなのだ、たぶん。


 フルンは獣族というだけあって、体の三分の一ほどに真っ白の体毛が生えている。

 主に背中や手足の先端だ。

 胸や大事な所は生えてないので、そう言う所は人間と変わらない。

 でも抱きしめると背中のもこもこヘアーが楽しめて、実によろしい。

 大きめの耳も触り甲斐がある。

 生憎とまだ胸はぺったんこだが、そのうち大きくなるんだろう。

 ホロアと違い、成長が止まることはないのだそうだ。

 行為の最中に、フルンの体が一瞬金色に輝いて驚く。

 あとで聞いた話では、グッグ族などの古代種は金色の精霊力を宿すものらしい。


「ふはー、ごしゅじんさま、どうだった?」

「ああ、とっても良かったよ」

「よかったー、気に入ってもらえないと困るもんね。ごしゅじんさまのこと大好きだもん」

「そうかそうか、おれも大好きだぞ」


 うん、かわいい。

 もっとなでなでしたいところだが、病み上がりなので休ませてやろう。

 薬を飲ませて寝かせつける。

 グッグ族は元が頑丈な種族らしいので、すぐに良くなるだろう、と医者も言っていた。


「そういや、グッグ族って戦士向けなんだって?」


 訪ねてみると、全員がそうだという。

 有名らしい。


「フルンを戦士に育てるなら、セスに任せたほうがいいのかな」

「わかりました、私が責任をもって育てます。もっともグッグ族の戦士は肉体能力を生かした豪剣を使うので、気陰流の教えに合うかどうかわかりませんが」

「まあ、それはおいおい考えよう」


 フルンが眠ったのを確認したアンが、会話に入ってくる。


「フルンが育つには時間がかかるでしょうけど、いずれは壁役になってくれるでしょうね」


 そういえば壁役が必要なんだったな。

 育つまで何年かかるかわからないが、俺だってこいつらをうまく使えるようになるのに、何年かかる分からない。

 それぐらいのつもりでいかなきゃな。


 グッグ族はとにかく頑丈らしい。

 初対面が病気の姿だったのでイメージしづらいが、鍛えれば、素肌で刃を弾くという。

 いくらなんでも、そんな風に育ったフルンを抱けるだろうか?

 でも、巨乳になるんだよな?

 だったら問題ないんじゃないですかね。

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