第10話 大型新人
セスは家事全般がからっきしだめだった。
掃除は道場の雑巾がけこそ毎日していたそうだが、基本的に剣を振るばかりで他のことはさっぱりだという。
本人は深く恥じ入っているようだったが、一芸に秀でるというのは、それだけでたいしたものだと思う。
とはいえ、その辺は多少は予想してたんだけどね。
セスは不器用そうだからな。
手先ではなく、生き方が。
そこでまずは、アンに教わりながら料理の基本を学んでいる。
アンにこっそり聞いたところでは、
「ご主人様に料理を食べていただきたいそうですよ」
「そりゃいいな。で、なにを作ってくれるんだ?」
「そうですねえ、うちはパンを焼くか豆のスープを作るかだけなので……」
そうだった。
まあ、消し炭でもなければありがたくいただくけどな。
ちなみに俺は祖母に仕込まれたのと、一人暮らしも長かったので、料理洗濯なんでも出来るんだが、アンがやらせてくれないのだった。
代わりというわけでもないが、俺は毎日の素振りを欠かさない。
道場まで行かなくてもセスがいつでも見てくれるのでかえって捗る……気がする。
当のセスは、今後も道場の代稽古に出る事になった。
セスが道場に行く日だけ、俺も金魚の糞のように付き従って、練習してくる。
道場での修行中だけは引き続き先生と呼ばせてもらうことにした。
セスは渋い顔をしていたが、他の弟子の手前もあるのだろう、了承してくれた。
また生臭い話だが、セスが代稽古に出ることで、毎月給金が貰えることになった。
道場主のヤーマが押し付けるような形で決まったのだが、きっとうちの貧乏ぶりをバダム翁あたりから聞いていたのだろう。
断るほうが恥ずかしいので、ありがたく貰うことにした。
その日もそうして稽古を終えて二人で帰る途中のことだった。
なにやら下品なわめき声が聞こえる。
少し気になって覗いてみると、
「誰の許しを得て、通りで商売してんだよ、姉ちゃん」
「ほかにも出してる方がー、いっぱいいるじゃないですかー」
「だから然るべき筋に話を通すもんだろ、こういうのはよ」
「ですからー、商工会には登録をー」
「然るべき筋っていってんだろ?」
どうやら、道端で辻占いをしていた魔導師の女が怖い連中に絡まれているようだ。
「どこの世界でもああいうのは変わらんね」
と言うとセスも頷きながら、
「ご主人様の世界でもあのような?」
「まあね、ショバ代云々ってのは聞くねえ。どうしよう?」
「あの程度であれば口をだす程でもないのでは」
「そうかもなあ」
それでも彼女に気を引かれて眺めていると、チンピラたちの恫喝は徐々に度を増していった。
辻占いのおっとりした対応に苛立っているように見える。
俺はああいうタイプも好みなんだけどな。
なんせ、マントの上からでもわかるぐらい、乳がでかい。
だが、チンピラどもにはそんな素敵属性は理解できなかったようで、魔導師の占い道具を蹴り倒し、彼女を突き飛ばした。
「きゃぁ!」
あ、揺れた……じゃない、さすがにやり過ぎだろう。
「セス」
「かしこまりました」
みなまで言わずとも、セスはすっと進み出てチンピラの後ろに回り込む。
「へらへら言い訳してんじゃねえよ、いいかげんにしろって言ってんだろ?」
さらにまくしたてようとしたチンピラの後ろからセスがポンと肩を叩くと、次の瞬間にはひっくり返っていた。
「のわっ」
「商売熱心は結構ですが、あまり人様に迷惑をかけるものではありませんね」
「げえっ、気陰流道場の……こ、こいつは失礼しやした。今日の所はこれで」
お、あっさり引き下がったぞ。
案外、職業意識の高いチンピラだったのか?
「セス、おまえも結構、顔が広いんだな」
「どうでしょうか。とても偏ってる気はしますが」
と苦笑するセス。
「よう、ねえさん、大丈夫かい?」
尻餅をついていた彼女に手を差し伸べると、
「あらー、これは立派な紳士様ー、ありがとうございますー」
そういって俺の手を掴み返した彼女の体は、とてもまばゆく輝きだした。
「あれ? なんですかこれー」
と驚く彼女にセスも手を貸してやりながら、
「おめでとう、あなたも主人となる方に巡り会えたのですね」
「え、え、じゃあ、あなたがわたしのー?」
「その候補ってやつらしいな」
なるほど、道理で気になる乳、じゃなかった、ご婦人だと思ったんだ。
「よ、よかったー、今日ははじめて占いで出てたからー、どうしてもここを動きたくなかったんですよー、よかった、あなたが私の……」
少し涙ぐんで、声をつまらせているように思える。
そんなに嬉しかったのか。
「私はー、魔導師メイドのデュースですー、あなた様はー」
「俺はクリュウだ」
「ではー、私を……貰っていただけますかー?」
また急な展開だが、俺の意識はただ一点に注がれていた。
胸がでかい!
つい目が行ってしまう。
いかんいかん、気付かれるじゃないか、えーと、なんだっけ?
あ、いま胸を寄せた!
見てるのばれてる!
ばれた上でアピールされた!
「紳士様、どうか私をー」
はい、喜んで!
これでまたひとり、メイドさんをゲット……って、
「あ……でも、私ー」
あれ?
喜んでOKしようとしたら水をさされた。
「あのー、失礼ですがー、紳士様はお幾つでしょうかー」
「歳?」
一年の長さが地球とほぼ同じことはアンに聞いた。
不思議なもんだが、人の住める惑星の条件はだいたい同じようなものだと聞いたことがあるので、そう不思議でもないのかもしれない。
要するに何が言いたいかというと、地球の年齢そのままでいいってことだ。
「三十を少し過ぎた所だけど……」
「そうですかー」
あれ、おっさんはだめとかそういう感じ?
確かに若くてむっちりしてるけど、俺と一回りも離れてなさそうだし、むしろちょうどいいぐらいじゃ……。
などと考えていると、
「あのー、紳士様は年上でもー構いませんかー?」
年上だったのか。
そうは見えなかったが……でも少しぐらい上でも。
「少しじゃないんですけどー、それでも貰っていただけるでしょうかー」
どれぐらい歳上なのか気になるじゃないか。
しかし女性に年を聞くのはいかがなものか。
しかも年上だと言ってるし。
「あのー、やはりー、お連れのような若い子のほうがー、良いですよねえ」
あ、体の光が陰る。
だめだ、よくわからんけど、俺は彼女たちのこの輝きを曇らせちゃだめな気がするんだよ。
「そんなことはないさ、俺は一目見た時から、君が気になって仕方なかったんだ」
「そ、それじゃあー」
「ああ、君を貰おう」
「ありがとう……ございますー」
歓喜にあふれる彼女の体は、いまや直視できないほどに輝いていた。
このままうちまで帰れるのか?
ここで契約ってのはちょっと……。
「血をいただけますかー? 仮契約ということで」
「そ、そうだな」
かと言って口移し……もいかがなものかと。
「指で良いでしょう」
そう言ってセスが懐から小刀を出す。
「はい、ではそれでー」
とデュースも納得しているようなので、俺は人差し指の先をすっと切る。
血のしたたる指を、デュースと名乗る女魔導師はハムっとくわえ込んだ。
えろい。
指先をちゅうちゅうと吸いながら、たまに舌をあてて指先を舐め上げる。
まるで俺の指先が性感帯になったかのようにゾクゾク来る!
なんじゃこの舌使いは!
「んぐ……ん……んん……っ」
俺の血をたっぷりと口中で味わった後に、デュースは飲み下した。
と同時にみるみる体の輝きが収まっていった。
「ふふ、ごちそうさまでしたー、ご主人様ー」
いまや俺のものになった魔導師のデュースは、手早く荷物をまとめると、おっとりとした優しい声でこういった。
「さあ、どこへなりとお連れくださいー。生涯をかけてー、ついてまいりますー」
家に戻ると軒先でアンが掃除をしていた。
「おかえりなさい。おや、お客さんですか?」
「いや、新しいメイドだ」
「おお、さすがご主人様。少し出かけるだけで従者が増えるとは。さあさあ、中にどうぞ」
メイドたちに見守られながら、改めて契約という名のナニをするのは結構恥ずかしいものがあるのだが、どうにかやり遂げる。
それよりもあれだ、デュースは初の巨乳。
柔らかくウェーブのかかった可愛い感じの娘だが、とにかく巨乳。
アンもセスも体型的には子供みたいなもんだったし、ペイルーンもメリハリのない方だったので、ここに来て初の巨乳にいささか興奮し過ぎてしまった。
乳だけではなく、満遍なくメリハリの効いた申し分のない体つき。
ねっとりと吸い付くような肌。
じつにケシカラン。
そんなわけで、あんまりおっぱいばかり堪能していたものだから、アンに突っ込まれてしまった。
「あの、やはりご主人様は大きいのがお好きだったのでしょうか」
「いや、特にそういうつもりもなかったが、こうでかいとなあ」
「うぐぐ」
アンはめずらしく憤り、セスはしょんぼりしている。
ペイルーンは、人それぞれ似合ったサイズが有るのよ、と気にしていないふうだった。
うんまあそのとおりだな。
でもって、四人目のメイドを得て、狭い我が家はますますもってすし詰めである。
大丈夫だろうか?
「とうとう、寝るスペースの確保も難しくなってきたわね」
ちゃぶ台を片付けながらペイルーンがつぶやく。
実際、ワンルームマンション並みの一間に五人、さらにアンやペイルーンの内職道具などが並ぶと、かなり狭い。
まあ、どうにもならないんだけど。
「しかしメイドが四人いればパーティとしての体裁もどうにか保てそうですね」
とアンが言うのを受けてデュースが、
「あー、やっぱり紳士の試練に挑まれるんですかー?」
「そうしていただきたいのは、やまやまですが」
「ルタ島の試練の塔も復活したそうですし、ちょうどよかったですねー」
「え、そうなんですか?」
「先月、コンザの港町にいたんですがー、そこでアルサから来た人に話を聞いたので間違いないですよー。当地のネアル神殿でも近々島をあげて紳士を受け入れるとかー」
「でも確か、ルタ島の試練の塔は最低八人の従者が必要だったのでは」
「そういうわけでもなかったようなー。それにあの島にはメイドやスクミズもいっぱいいるはずですしー」
「スクミズ!?」
アンとデュースの会話に驚いて声を上げる。
「ホロアの一種族で……ってホロアの説明はしましたっけ?」
「いや、聞いてないぞ、アン」
「女神がお作りになった従者の種族はメイドの他にも色々いるんですが、それらを総称してホロアと呼ぶんです」
「なるほど」
「で、その内の一つにスクミズ族というのもいるんですよ。どちらかと言うと戦士系が多いですが」
「いや、スクミズってなんだ? 水着? 紺色のあれ?」
「よくご存知ですね。女神ウルの衣装をかたどったと言われています」
いやいや、メイドはまだ家政婦的な延長でそういうもんかと思ってたが、さすがにスクミズはないだろ!
この世界ってなんか地球とつながりがあるのか?
まさか全く別の異世界にそんなもんが同時発生したりはしないだろ?
あれか、シンクロニシティってやつか?
だいたい女神がスクミズ着るなよ、あんなでかい神殿に像まで立てて、あの衣装の下はスクミズかよ!
「古くはブルマ族やシーシー族というのもいたそうですが」
ブルマときたか。
ピンポイントすぎる。
どっちが先かはわからんが、絶対に無関係なわけがない。
それとも、この勝手に言葉が通じてるやつの影響なんだろうか。
つかシーシーってなんだ……おもらし?
「しかし、ルタ島となると、移動費用も馬鹿になりませんね」
「ゲートも高いですからねー、私はパスがあるんですけどー」
「ゲート?」
また知らない言葉が出てきた。
「空間転移用のゲートですよー?」
ワープ装置みたいなもんか、便利なものがあるんだな。
「ホロアだけでなくー、ゲートもご存じないんですかー?」
「ご主人様はわけありで、あまりそういうものに詳しくないんですよ。あとでお話しますが」
と、アンがフォローするが、
「ははあ、東洋風の顔立ちだとは思いましたがー、ゲートもない辺境のお生まれでしたかー」
田舎者扱いされた所で、むらむらきたので、再びけしからんほどに巨大な塊を堪能することにした。
いいよね、巨乳。
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