第9話 自閉症スペクトラム症候群の原因

 僕が、先生のところに通うようになって半年ほどが過ぎた。大体が雑談だが、その中でどういうところが病気で、そして、発達障がいと考えられるところなのかを話してもらった。


 僕の生きにくいと感じる原因は、自分でもわからないほどたくさんある。それを、先生の助けを得ながら見つけているというところだ。そして、そこから、自分の良さも見つけられればというところなのだが、僕の生きにくさの原因である「自己否定」がそれをとにかく邪魔する。


 就職活動だけでなく、幼稚園の頃まで振り返って、僕は何度もいじめにあった。そこで、まずいじめられるのは自分が悪いと思うようになった。ただ、大学までは勉強すればある程度は周りから注目され、承認されるということを知り、それにとにかく邁進したという感じだ。


 ただ、ここに欠けていたのは、いつも人ばかりを中心に考え、自分は全く欠けていたというところだ。


 就職活動は、それの現れだったのかもしれない。徹底的な自己否定。僕自身の生き方全てを否定された格好だ。今まで君は他者の猿真似をしていたようだとストレートに言われたこともあったし、民間は向いてないから公務員にでもなればいいと、公務員を馬鹿にしてるようなものいいをされたこともある。


 思い返すたびに腹が立つし、悔しいし、そして最後に自分はなんと情けなくダメな人間だと、結局自己否定が行き着く先だ。


 まず、先生にそこを改善することが1番の目標だと言われた。単純なことだ。できることを見つけ、それを褒めること。今日1日数ページでも本を読めたとか、1行でも日記を書けたとか、家事の手伝いができたとか、運転ができたとか、些細なことだ。


 ただ、難しいのは、僕がそれを「些細なこと」と否定的に捉え、肯定できないところだ。ここに僕の難しさがあるし、わずかな否定が自分にとってとてつもなく大きな否定に思え、それが延々と火山の噴煙のようにモクモクと頭の中で出てきて、時にそれが突発的に爆発し、どうしようもない自己嫌悪、そして死にたいという思いと、でも死にたくないという思いの強い葛藤が、僕を発狂させる。


 すると、大声をあげて「死ね」とか「消えろ、こんな記憶」と大きく手を振りながら暴れたり、頭を何か手近な硬いものにぶつけたり、ひどい時は心配になった親に罵声を浴びせたりと、冷静な時自分からすると、また死にたくなるような酷い記憶を残すことになる。


 こうなると、親に手を出すこと、そして、外に出て他人に手を出すことなども恐れるようになる。外で声を張り上げ、奇人(これはあくまで周りの「普通」と思われる人間の感想を想像して言っている)になり得るのだ。


 そう言った行動を繰り返す自分を、否定できずにはいられない。自己否定の繰り返し。これも、社会に否定され続けた結果生まれた行動だ。そして、発達障がいによくあることでもある。原因がよくわからず、どう行動していいか、想像が難しい。その結果、社会に否定される。


 社会は大抵が自分たちの「普通」で生きている人の塊だ。そういった「普通」から外れた行動を許容できるほど、この社会は優しくなく、社会に馴染めない「普通」でない自分のせいだという考えを植え付けるように、言葉や目つき、口調などで訴えてくる。それが恐ろしい。みんなは自分の色を持って社会に馴染む。なのに僕だけ何色にも染まらない。それが苦しかった。

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