第8話 主治医との出会い

 県の保健福祉事務所に行くのは全く幸運であった。ネットで探していたら、たまたま相談できることを知った。そして、藁をもつかむ思いでそこに行くことになった。


 しかし、そうは言っても精神科医が相談相手だと言うのだ。僕は、極度に不安だった。そのため、両親を行かせることにした。様子を見てきてほしいと言ったのだ。車でついていき、僕は車の中で待っていた。


 その時の誤算は、精神科医の人が僕を大丈夫なら呼んで来てくれと言ってきたことだ。両親が呼びにきて、僕に、


「優しそうな先生だよ。今までみたいな感じの先生ではないと思うよ。」


と言われたので、半信半疑ながら、呼ばれたとなるとそれに行かないのは申し訳ないかと、まだ会いもしない相手だが、義理立てはしなければと思い、行くことにした。


 相談室には、ベテランの精神科医と若手の臨床心理士2人がいた。その精神科医の人は、第一印象は朗らかなイメージだった。かなり緊張してる僕に対して、優しく


「今まで色々と辛い目にあってきたんだね。」


と言ってくれたのだ。なんのこともない一言かもしれない。でも、僕にとってはなんと嬉しい言葉だっただろう。


 今までの僕の経験は、僕自身が悪いんだと。僕が色々理由をつけるから辛いんだと。人のせいにしたいけど、してはダメだ。そんな風に思い、なんとかして自分のせいにしようとしてきた。


 それが、誰かに辛い目にあってきたと言われると言うことは、やっぱり自分のしてきた経験は、辛い経験で、自分だけで理解しようとしてたことが、初めて共有できた気がした。


 そして、少し話しやすくなり、僕は自分の話をした。今は引きこもって、ゲームばかりやってると言った。そんなこと言うこと自体不思議だった。僕の恥ずべき現在だ。隠そうとしてしまうのに、口から出ているのだから。当時、カウボーイの主人公のゲームが出たばかりで、僕はその主人公に仮託して悪事をその世界で働いていた。それが、いくらかストレスを軽減させるのだが、やはりこんなゲームをずっとやること自体、生産性も何もないと否定してしまうのだ。


 しかし、この精神科医は否定することなく、自分もそのゲームを知ってると応え、色々と自分のやってきたゲームも交えながら、ゲームの面白さ、そして、それをやること自体悪ではないと言ってくれた。


 こう言うことを言ってくれる人を今まで見たことがなかった。なにより、専門的な診断を淡々とするのではなく、相手とのコミュニケーションを重視して診察するような感じだったので、そこに好感が持てた。


 精神科医は、


「もしよければ、私の働いてる病院に診察に来ませんか?私が直接枠を空けとくから、1・2ヶ月待てば診察できるから。」


「お願いします!」


私にとってこの日ほど嬉しい誤算はなかっただろう。そして、この精神科医こそ、今に至るまで私を診察してくださっている先生なのだ。

 

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