第6話 精神科医への失望
シロが亡くなってから半年。相変わらず引きこもったままだった。誰とも話してないからか、声が出ない時が急に訪れ、苦しかった。
でも、それ以上に、笑えなくなったのがきつかった。両親との会話も少なくなり、一日中部屋から出るでもなく、ただひたすら寝てるか漫画を読んでるかだった。それでも、最初の頃はまずいと思い、もう一度就活しようとサイトに登録したりするのだが、そこまででが限界で、落ちた記憶が蘇り、また落ちてさらに自分を追い詰めたくないと、防御に入ってしまう。そんな自分の姿を見ては、また卑下し、自己嫌悪に陥り、負のスパイラルに嵌るのだ。
シロの喪失感は想像以上に大きかった。完全にペットロストの状態だった。18年も一緒にいたのだ。かけがえのない家族だったのだ。夜中、一階におり、シロの写真を少し眺めるだけで泣きじゃくった。
このままではまずいと、両親は思い、僕を精神科に連れて行くことにした。そこからが、また苦難の連続だった。
最初の精神科医は、若い先生だったのだが、とりあえずは褒めてくれるのだが、褒めて欲しいポイントがずれていて、加えて足がだらりと机から出ていることに目がいき、そこにやる気のなさを感じてしまった。また、今の状態から抜け出すため心理療法を勧めてきたのだが、そこの雰囲気が暗くどんよりとしており、とても馴染める気がしなかった。
結局、そこでは薬を出されてそのまま通わなくなってしまった。
次の精神科医は、おじいちゃんの先生だったが、初診ではよく話を聞いてくれて、先生の体験談も交えるなど、僕としては分かりやすい診察をしてくれて、帰り際
「いつでも遊びに来る感覚で来なさい。」
と言われたのがまた嬉しかった。
しかし、次の診察で状況が変わった。僕はこの頃とても不安定で、両親に将来のことを聞かれると頭がカッとなり、自分なりに努力してきたことを一生懸命説明するのだが、うまく伝わらず、そのもどかしさが暴力的な衝動へと変わり、一方で両親にそれを向けるようなことは絶対あってはならないという理性が働き、その葛藤が家の壁を殴ったり、自分の頭を洗濯機など固いものに思いっきりぶつけることで、とりあえずは抑えられていたのだが、やはり、この一連の行動に両親も恐怖を覚え、僕も自分でまずいと思い、2回目の診察に向かった。しかし、先生は、
「ここはね、働く人がメンタルを癒すためにくるところだから。君みたいに働いてない人には向いてないんだよ。だから、違う病院に紹介状書くので、そっちに行ってください。」
と言われたのだ。僕は愕然とした。いや、もう悔しくて仕方なかった。涙が止まらなかった。信頼できる人に出会ったと思ったのに、こんな言葉を吐かれるとは思ってもいなかったからだ。見捨てられたと思った。裏切られたと思った。こうなるとこの先生のやることなすこと腹が立って仕方なかった。私は涙を堪えながら言った。
「それならせめて、僕がなんとかこの気持ちを抑えられるような薬を処方してください。もう、頭がどうにかなりそうなんです。苦しいんです」
と訴えた。先生はあまり薬に頼るべきでないと言った。しかし、僕は抗った。普段、人に物を頼むことを異様に躊躇する僕にとって、ここからさらに物を頼むなど、我ながら驚くことをしたと思う。だが、それだけ悔しかったし、怒っていたのだ。
渋々先生は薬を出そうとするのだが、何の薬を出すのかわからないのか、薬の辞書を手に取り出し、それを元に処方し出したのだ。なんてことはない、それを見て僕はなんでこんな先生を選んだのかと思った。
帰り、車の中でも嗚咽したままだった。あの時から精神科医という人間は全く信用できないと思うようになった。
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