第3話 故郷

 福島の実家に着いたのは、朝の10時くらいだった。荷物を実家に戻し、叔父には1日泊まってもらった。両親は、僕が何事もなく帰って来れたことに安心した様子だった。


 何度か両親に弱音を吐いている。昔だったら、テレホンカードを片手に電話ボックスで数分で話すくらいかもしれないが、今はスマホを使い、苦しい胸の内を言葉でなく文字で打てる。僕にとっては、その方がうまく表現できるような気がするので、ありがたいことだ。とは言っても、脈絡なく、


「大学に行った意味がない」


とか


「毎日毎日死にたいと思ってる」


とか


「怖くて仕方がない。僕の中で色んなものが壊れてきた」


とか。とにかく不安にさせるようなことを書いてしまった。それに対して両親は優しかった。いや、優しくするしかなかったのだと思う。


「大丈夫、私たちがついてるから。辛くなったら帰って来れる場所があることを忘れないで。」


 帰って来れる場所。その言葉がとても僕にはありがたかった。結局、僕は自分に見合わない見栄を張るために東京に行ったようなものだ。あんなに田舎だと感じてた福島が、これほど心安らげる場所だとは思ってなかった。


 僕は、帰ってからすぐに寝床に入った。僕の部屋。20年近く住み続けた僕の部屋。小学校の頃祖父に買ってもらった勉強机。棚の釘緩みはじめてるカラーボックスに読み古した漫画や文庫本が置かれてる。思い出が詰まってると捨てきれずにいるミニカーや電車のおもちゃ。親に買ってもらうのが恥ずかいと思いはじめた時、自分で選んで買うようになった服たちを納めた衣装箱。バネが弱くなったベット。何もかもがそのまま残されていた。僕は、またこの部屋に戻ってきた。ようやく都会の喧騒を離れ、自分だけの大事な空間に戻れた。そのはずだった。少なくともその時はただ安心していた。

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