第2話 都落ちの常磐道
叔父と友部のサービスエリアで運転を交代した。友部のサービスエリアでラーメンを食べるのは、僕の毎回の楽しみだ。
関越道と東北道、常磐道の3つの路線は、高崎・宇都宮・水戸を過ぎると全て三車線あったのが二車線になり、渋滞になりやすい。しかし、水戸を過ぎたあたりは比較的安定して走行できる。その上、平日の深夜に東京を出発してるので、常磐道はまさに自分だけの道路であるかのように思えるのだ。それでも、広々と思えないのは、太平洋沿いのためか、平坦な土地が少なく、険しい山々を潜り抜けるように道路を通してあるためか、迫り来る山の圧迫感があるためだ。
その最たるところが、日立の19キロ12本に及ぶトンネルの区間だ。山の圧迫感もさることながら、連続するこの魔のトンネルに毎度のことながら疲れさせられる。いつのまにか高速は山の中腹ほどを貫き、街よりもはるかに高い位置を走っている。
「ここから落ちたら死ぬな」
そう意識の中でつぶやいていたものが、どうやら外に漏れていたらしく、叔父が驚いたように顔を見つめ、
「そろそろ休憩するか?また交代するから。」
と心配させて、さらに気を使わせてと、僕にとってはとてもバツの悪い記憶になってしまった。どうしても、自分が悪いと思ってしまったことは、どんなにいい記憶を作っても、更新できないのだ。就活の記憶とてそうだ。面接の自分の力を発揮できず、訳のわからないことを延々と喋っていた記憶が、いつまでも鋭く僕の心を抉ったままだ。
この頃、そういった記憶が夜急に蘇り、それに対して罵声を無意識に浴びせるのだ。
「死ね。何で俺だけが、何で俺だけがこんな目に遭うんだ。」
そんな声を急に張り上げ、後に残るのは何も言わぬ空気の音とこだましていつまでも僕の頭で反響する自分自身の嗚咽だ。
アパートを出た理由の一つには、そういった僕の異常さもあった。当然、隣人は僕のことなど知ったことではない。自分の平穏なる生活を脅かす異物に、容赦などない。金を払っているのだ。当然の権利だと。僕は、殊更に権利を主張する資格もなく、疲れ切っていたこともあり、すんなりと退居した。
「田舎に帰れば、少しは良くなるだろう」
そう仄かな希望を持ち、太平洋の彼方からゆっくりと上がるご来光を見つつ、関東を抜けた。
北茨城からいわきへ入るとき、勿来関を通ることになる。「な動詞そ」でするな。つまり、来るなと言う意味の古語から来ている陸奥への玄関口。僕は、もう東京には戻るつもりはなかった。
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