第7話 玉鹿の休日(含、レトロ建物探訪記)

ごきげんよう〜


玉鹿ぎょくかは本日、お休みをいただいております。

というか、週に一度の定休日はメイド全員お休みなのです。

せっかくのお休みですからわたくしは外出です。

お家でゆっくりも良いのですが、天気も良いことですしお散歩がてら近くの図書館まで。


わたくしの家から歩いて通える距離に、この町の図書館があります。

1980年代に建てられたこの図書館は、非常におもむきがあってわたくしは大好きです。

2階建てのこじんまりとした建物で、外観はレンガ色のタイル張り、いわゆる公共建築といった雰囲気です。

隣に建つ市民会館と同じ仕上げですので、設計も施工も同じ会社なのでしょう。

長い歴史の中で、ところどころ補修した部分は近い色味のタイルが貼られています。

新旧入り混じったタイルは艶の具合も違うので少し目立つのですが、それがまたパッチワークのようで味わい深いのでございます。


最近の建物にはあまり見られなくなりましたが、四角いガラスブロックを並べた小窓もまたよいものです。


中に入りますと、玄関ホールの壁は白い縦長のデコボコとしたタイルが敷き詰められています。

照明も既製品ではなく、このタイルに合わせて設えたと特注品と思われます。

階段室、トイレへの入り口はステンレスを組み合わせたアーチが取り付けられており、仕上げの見切りとなる良いアクセントになっています。


内装自体に真新しさはありませんが、図書分類の表示や特集のPOPなどは見やすく、表示方法も工夫が凝らされています。

スタッフの皆様の試行錯誤が見て取れるようです。


小さい図書館ながら、地域の郷土資料から小説、児童書まで一通り揃っており、蔵書の状態も良いように思います。


今日はお気に入りの作家さんのシリーズの新刊を。


古書店と、そこに併設されたカフェを営む大家族が主人公。

平和な日常の中にちょっとした事件が起こります。

ほっこりするような展開もあれば、本当に悲しい話もあります。

いろんなことがあるけど、みんなで前向いて進んで行かなきゃいけない、というようなお話。


生きていればいろいろある。

辛いことも楽しいこともあって、その繰り返し。

本当にそう思います。


喫茶一匙きっさひとさじ」で一緒に働くことになった夢鹿むじかさん。

彼女もまた辛いことがあったのでしょう。

表情の曇り具合からもそれが見て取れます。

詳しいことは聞いておりませんが、マスターからわたくし達メイドへそれとなくお話しくださいました。


彼女はいま現実を受け入れようとしているところ。

わたくしも経験がありますが、精神的にも体調的にも今が一番つらい時。

本当ならゆっくりお休みを、と言いたいところなのです。


しかし彼女自身がそれを拒みました。

働かせてください、と。

元々の責任感と、何かしなければ、という焦燥感があるのでしょう。

生まれてしまった空白を、何かで埋めなければ潰れてしまいそうになる。


それならば、と。

わたくし達は彼女が働けるように支えることに決めました。

幸い、この喫茶店は目が回るほど忙しい、ということもありませんし、

ご来店いただくお客様もいい方ばかり。


転ばない方法を教えるのではなく、

転んでも立ち上がることができる、ということを教えるのだ。

昔何かの本で読みました。


ここで彼女が現実を乗り越える支えになれれば幸いです。




お目当ての作家さんコーナーで、懐かしい文庫本を見つけました。

登場人物は写真家を目指す大学生、人妻、姉。

怪しい本ではありませんよ。

街の公園をめぐりなら、カメラを通したつながり、家族、愛、そんなお話です。

読み終わった後に感じる静かな満足。

何度も繰り返し読みました。


夢鹿むじかさん、読書も好きとのことでしたので、

ネット書店で購入して贈ってみようかしら。

気に入って頂けるとよいのですが。

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