第一章 和菓子と喫茶とメイド服
第6話 夢鹿の朝(肌寒い屋根裏部屋にて)
誰かが私の名前を呼ぶ声がする…
温かいベッドの中で、毛布に包まれている…
そんな夢を見た。
久しぶりに幸せな気持ちを感じた気がする。
元いた家にいたころの夢。
知らない土地の屋根裏部屋で、
あの頃、朝が苦手なは私はよく母親に起こされていた。
もともと血圧が低いため、目が覚めてからも起き上がるまでに時間がかかる。
今は心療内科から出された薬を服用しているため、余計に朝が苦手になっていた。
睡眠に入りやすくする薬と、睡眠のリズムを整える薬、そして不安を和らげる薬。
薬のおかげで眠れるようにはなったが、目が覚めてからしばらくと日中が少しつらい。
頭に
最近は慣れてきたが、最初は日中の眠気がひどかった。
病院の先生によると、体が、脳とこころを休ませようとしているそうだ。
本当なら何もせずに寝ていたい。
しかしここは私の家ではない。
起こしてくれる母親もいなければ、頭が覚醒するまで耐える時間もない。
「
店の屋根裏部屋に生活空間があり、そこで寝泊まりしているのだ。
周囲の人は皆よくしてくれるが、一人で起きてこないような従業員ではいつまでも雇うわけにはいかないだろう。
店の制服であるクラシックメイド服に袖を通し、姿見で確認する。
問題なさそうだ。
準備ができたら店の一階へ降りる。
この時間には、マスターと
私の最初の仕事は3人で朝食をとること。
仕事の話、他愛ない雑談を交えながら頂く。
他人と接するのが苦手な私は、人と一緒に食事をするのは中々の苦痛である。
この店で一番早く仕事を始めるのはマスター。
その日、喫茶店で提供する和菓子の製造があるからだ。
食材を届けに来た業者さんの対応もある。
市場から仕入れてきた、菓子の材料や私たちのまかないの食材。
大きな市場から車で1時間かけて届けてくれる。
季節の素材や新鮮な食材から作られるマスターの和菓子は本当においしい。
マスターの次に出勤してくるのは
「喫茶一匙」(きっさひとさじ)の各メイドにはそれぞれ役割があり、
彼女の仕事は裏方がメインだそうだ。
朝方にマスターが和菓子を作る際のお手伝いをし、同時に3人分の簡単な朝食を作る。
完成した和菓子をショーケースに並べたり、冷蔵庫に保管したりもする。
開店前にその日最初の珈琲を淹れるのも大事な仕事だ。
マスターの分と彼女の分をハンドドリップで抽出。
それを飲みながら、その日の気温・湿度なども考え、
珈琲の抽出時間の調整や、仕込みの量などをマスターと相談している。
手早く食事を終えた私は食器を下げ、次の仕事に取り掛かる。
それは開店前の掃除。
表の掃き掃除、店内の床・テーブルの水拭き、茶室にも掃除機をかけ、一通り行う。
開店時間が近づくと
彼女も揃いの制服に着替えると、開店準備を始める。
彼女の主な担当はホールでの仕事だ。
愛想を振り撒くタイプではないが、柔らかな雰囲気と独特の空気を持っており、
老若男女ファンが多い。
和菓子屋「
なのでメイド3人でオープン作業を終え、開店時間を迎える。
「
彼女も主にホール担当だが、もう一つ仕事がある。
何かトラブルがあった時のピンチヒッターとでも言おうか、すぐに動かせる予備戦力のような立ち位置である。
ご近所様のお手伝いに出動するのも大抵
ちょっとした力仕事があったり、酒好き・煙草好きの方も多いため、彼女が適任なのである。
私もこのタイミングで屋根裏部屋に上がり、休憩に入る。
長時間働くのがつらいのと、眠気が強くなってくるのでこの時間に仮眠をとる。
2時間程の休憩後、勤務に復帰する。
夕方の時間になると
閉店時には
掃除・片付けが終われば、私は退勤し屋根裏部屋にあがる。
これが「
一か月前に比べれば少しは慣れてきたが、まだまだ動きがぎこちない気がする。
いつまでここに置いてもらえるかはわからないが、いられる内は一生懸命働こうと思う。
一日の終わり、いつも通りの時間に薬を飲み、眠りにつく。
最近は悪夢を見ることも減ってきた。
後は日中の倦怠感がもっと少なくなればいいのに。
今度の診断で先生に相談してみよう。
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