第4話 鹿苑の憂鬱

※喫茶店の間取りを近況ノートに掲載しました。

2023年10月31日 「喫茶店の間取りを公開しました〜」

https://kakuyomu.jp/users/tyasaji_gyokuka/news/16817330666145044613

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実に腹立たしい。


先ほどから、縁側に腰掛ける鹿島かじまへ非難の視線を浴びせかけているのだが、一向に気づく気配がない。休憩時間はとうに終わっているはずだ。

彼女の名は鹿苑ろくおん

喫茶一匙きっさひとさじ」の「キッチン担当」兼「経理担当」だ。今は喫茶店の休憩室で帳簿の整理をしているところ。


いや、鹿島かじまのことだから気づいていて知らないふりをしているのかもしれない。

彼女は休憩時間中の煙草を何よりも楽しみにしている。

そんな彼女が縁側に腰かける姿を、店の事務作業をしながら眺めるのが私の密やかな楽しみだ。


いい女が煙草を咥える姿というのはそれだけで絵になる。

長く伸ばしたストレートの黒髪、その髪が肩から腰まで流れている。

長身で手足も長い彼女はどんなポーズを取っても雑誌のモデルのようになってしまう。

身長は玉鹿ぎょくかの方が高いのだが、彼女はこう…何か違う。

鹿島かじまと真逆で、どんなポーズを取っても決まらない。

まあ彼女は彼女で違う魅力があるのだが。

とにかく鹿島かじまが物憂げに煙草をくゆらす様は見ていて非常に気持ちが良い。


だがそのことを彼女に伝えることはない。

伝えれば必ず調子に乗ってくる。

間違いない。


こういった話を他人にするとよく勘違いされるのだが、恋愛対象として女性を見ているわけではない。そもそも私にはあまり恋愛感情というものはない。

というか他人にあまり興味がない。

鹿島かじまのように絵になる美人を眺めることは楽しいが、あくまでも鑑賞だけ。

それとこれとは別。


大体、なんでも恋愛話に結びつけたり、男だの女だのと騒ぎ立てること自体が時代遅れである。

からだもこころも、グラデーションのように男や女や様々なものが混じり合っているのではないか。

女だから男が好きだとか、女なのだから女らしくあれだとか、そうやって型に嵌めようとする価値観には吐き気がする。

とは言うものの、こんな田舎町でそんなことを騒ぎ立ててまわるわけにもいかない。

他人の話はそこそこ聞き、ほとんどは受け流す。

愛想笑いは面倒なのでしない。

そういうことはそれこそ玉鹿ぎょくかの得意分野だ。

物事には適材適所というものがある。




ところで。

それにしても休憩が長すぎやしませんかねえ、鹿島かじまさん。

視線で圧をかけると、流石にいたたまれなくなったのか鹿島かじまが煙草を片付け始める。


厳しすぎず。甘やかしすぎず。

手綱は適度に引き締めねばならない。

それが鹿苑ろくおんの仕事術です。

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