第1話 私の名前は夢鹿

※喫茶店の間取りを近況ノートに掲載しました。

2023年10月31日 「喫茶店の間取りを公開しました〜」

https://kakuyomu.jp/users/tyasaji_gyokuka/news/16817330666145044613

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寒い。

元いたところと比べたら、気温にして5℃は違う。

親戚を頼り、この地へ移ってきてから一月経った。

今は喫茶店の屋根裏に住み込みながら働かせてもらっている。


親戚が経営する和菓子喫茶、「喫茶一匙きっさひとさじ」。

ここのマスターが母と親戚だったらしい。

マスターの他には3人の店員さんがいた。

3人とも女性で、仕事に慣れない私によくしてくれている(それぞれのやり方で、だけど)。


和菓子、喫茶、と聞いて和風の店内をイメージしていたが、いわゆる「純喫茶」といった雰囲気の内装だった。

それよりも私の心をときめかせるものがあった。

制服がクラシカルメイド服だったことだ。


いわゆるコスプレの「メイド服」とは違い、中世のメイドが着ていたようなクラシカル、袖も裾も長い、上品なメイド服。

一度だけ友人に連れて行ってもらったカフェの制服によく似ていた。

あのメイド服を着た店員さん達の所作、言葉使い、雰囲気、全てが素敵だった。

こんなお店で働きたい。素直にそう思った。


しかし。

まさかこんな田舎町でこのメイド服に袖を通すことになるとは思わなかった。

まだ明るい気持ちにはなれないが、このメイド服に袖を通すときは心が高鳴る。


現実を、頭ではわかっているつもりだが、「受け入れられていないように見える」と言われた。

そうなのかもしれない。


わかっていなくても、受け入れられなくても、今はとにかく働かなくてはならない。

1日でも早く仕事を覚えなければ。

ここでお世話になるにあたって、新しく名前を与えられた。

私の名は「夢鹿むじか」。


憧れの制服で、知らない土地で、私の生活は始まった。

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