第2話 玉鹿は考える。

※喫茶店の間取りを近況ノートに掲載しました。

2023年10月31日 「喫茶店の間取りを公開しました〜」

https://kakuyomu.jp/users/tyasaji_gyokuka/news/16817330666145044613

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玉鹿ぎょくかは思いを馳せていた。

煌々と燃ゆる、囲炉裏の木炭に。

十分に火が回ったそれは温かなオレンジ色に明滅している。

この状態になると、大きな火が灯っていなくとも高い温度をもつ。


真っ黒な塊がオレンジ色の光を放つまでの様子を、飽きもせずによく眺めていた。

眺めてばかりで他の仕事をしないので、よく鹿苑ろくおんに小言を言われたものだ。


しかしどうだろうか、今目の前にあるのは先ほどまで真っ白な三角形の物体だったのに、いまでは真っ黒になっている。

なんとも言えない鼻をつく匂いまでする。


玉鹿ぎょくかは焼きおにぎりを作るはずが暗黒物質を錬成していた。

なぜ同じ火を扱う作業なのに、木炭は煌々と輝き、おにぎりは消し炭になってしまうのか。


火というものは命を生み出しもするし、奪いもするのかもしれない。

『破壊と創造は表裏一体』

何かの本でそんな文章を読んだ。

宇宙も「びっぐばん」というとんでもない大爆発から始まったという。

まったく想像がつかないが、実に面白い。


今日もまた鹿苑ろくおんが隣で小言をつぶやいている。

私に言っているのだろうか。

私か。

今この場には私と鹿苑ろくおんしかいない。

そもそも鹿苑ろくおんが手が離せないのでキッチンを手伝ってくれと言ってきたのではなかったか。

納得がいかない。

いかないが小言の勢いが強くなってきたので、光の速さでこの暗黒物質を無かったものとし、次なる錬成を始めねばならない。


そう、私にはお客様に焼きおにぎりセットをご提供するという重大な使命がある。

こうしてはいられない。

鹿苑ろくおんさん、さあそこをおどきなさい。

いつまでも過ぎたことを言っていてもしょうがないでしょう。

玉鹿ぎょくかは今日も働きます。

焼きおにぎりセットを待つお客様のために。

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