第78話 細工
それからしばらく、トモヤとフラーゼがバンザイを続けた後。
ひとまずリーネには臨時的にフラーゼの剣が貸し出され、新たな剣が創り出されるまではそれを使用することとなった。
そうして、次はトモヤの番だった。
「フラーゼ、ちょっと俺の相談にも乗って欲しいんだけど」
「っ! はい、任せてくださいっす!」
まるで忠犬のように嬉しそうな笑顔を浮かべながら応えるフラーゼ。
その反応に少しだけ苦笑いを浮かべながら、トモヤは異空庫から例の物――終焉樹の核を取り出した。
先ほどリーネに渡した透明の剣とは違い、それは漆黒に染まっている。
ドンッ、と。それを床に置くと、重量を感じさせる音が響いた。
「これは……なんすか?」
当然、フラーゼは見覚えがないのだろう。その不自然なまでの禍々しさに目を丸くしそう尋ねてくる。
特に隠すことではないので、トモヤは素直に答えることにした。
「それは終焉樹の核だよ。フィーネスって迷宮を攻略した時に手に入れたんだ」
「はいはいなるほど、終焉樹フィーネスを攻略――攻略したんすか!?」
「あ、ああ。まあたぶん……」
想定を超える驚きぶりに思わず身を引いてしまう。
しかしフラーゼの反応はその程度で留まらず、少し離れたところでトモヤ達を見守るリーネに本当かどうか尋ねるように視線を向ける。
リーネがこくりと頷くと、フラーゼもようやく信じたように「ほー」と声を漏らした。
「それは本当に心から衝撃っす。終焉樹というと、最下層に近づくとAランクやSランクの魔物も出てくるって聞いてますし……いやー、これはさっきのレッドドラゴンの話とは格が違うっすよ。トモヤさん、Sランク魔物も倒せるような実力があるんすね! さすがはあたしの見込んだ人っす!」
「いつの間に見込まれて……まあ、Sランク魔物なら確かに何体も倒したな。北大陸に来る途中の船でも、リヴァイアサンを倒したしな」
「リヴァイアサン!? ほんとっすか!? アトラレル海の主って言われるくらいの魔物っすよ!?」
北大陸で暮らすフラーゼにとってすれば、アトラレル海に出てくるリヴァイアサンは終焉樹攻略よりも身近で、驚く内容だったのだろう。
先ほど以上の驚きぶりを見せる彼女に証拠を見せるため、トモヤは異空庫からリヴァイアサンの鱗を取り出す。
リヴァイアサンを倒した際に手に入れたこの素材は、トモヤの物となり受け取っていたのだ。
「ほ、本物っす……」
巨大な鱗が十枚弱。
それを見てフラーゼの目には驚愕が浮かび、そしてなぜか輝きも灯る。
「ト、トモヤさん、これ売ってくれないっすか!? リヴァイアサンの鱗は素材としても一級品なんっす! 一枚につき聖金貨10枚でどうですか!?」
「聖金貨10枚……!?」
日本円に換算すると100万。
想像以上の金額を提示され、トモヤは思わず復唱する。
しかしそれを何か勘違いしたのか、フラーゼは顔を赤く染め――両手の人差し指をつんつんと当てながら恥ずかしげに言った。
「そ、その、それで足りないんでしたら……トモヤさんさえよければ、あたしが体で支払っても――」
「ただでやるよ」
「――ちょっ! もうちょっと反応してほしかったっす!」
なんだかよく分からない方向にいきかけた気がしたので、トモヤはそれ以上フラーゼの言葉を聞くことなく、ただで鱗をあげることにした。
何故かフラーゼが拗ねたように頬を膨らませているが、その理由はトモヤには分からない。本当の本当である。
「さっきから見ていれば、何をやっているんだ君たちは」
「あいたっ」
「っと……リーネ、それにルナ」
フラーゼとトモヤの頭に、こつんと拳が落とされる。
全く痛みはない。少し話の流れがおかしくなっているので、それを修正しに来てくれただけだろう。
ひとまず言い訳することにする。
「いや、この鱗をフラーゼにただであげることになっただけだ」
「……いいのか? 相応の場所で売却すれば、結構な金額になると思うが」
「別に大丈夫だろ。親交の証的な。金に困ってはいないからな」
「っ! トモヤさんはお金持ち! いいことを聞きました!」
「……フラーゼ?」
「り、リーネさん? いえその、なんと言いますか…表情怖いっすよ!?」
「ふんっ」
「あいたっ! いや痛くない!」
なぜか突然じゃれつきあうリーネとフラーゼ。
その中からトモヤはひとまず退散し、ルナリアの横に座り、二人を眺める。
「……平和だなぁ」
「ねー」
現実逃避のようなトモヤの呟きに、しかし純粋無垢なルナリアは上半身を乗り出すようにトモヤの方を見て、満面な笑みで賛同してくれる。
その際に、彼女の首にかけられている青色のネックレス――トモヤがノースポートでプレゼントした物がふらりと揺れた。
あれ以来、いつ何時でもつけてくれている。トモヤにとって感無量である。
「――っと、そうです! 閃いたっす!」
「えっ、なに」
すると突然、フラーゼがそう叫ぶ。
彼女の視線がルナリアのネックレスに向けられていた。
「いやー、リヴァイアサンの鱗をただで頂けるのは嬉しいんすけど、本当にこちらから何も渡さずいるのはあまりにも申し訳ないんで、せめて何かお返しにと思いまして。そのネックレスを魔道具に作り替えるのはいかがでしょう?」
「魔道具に作り替える?」
「はいっす! 用途は様々ななんすけど、そうっすね……リヴァイアサンの鱗の持つ魔力感知の性質を利用しましょうか。その性質を、そのネックレスに融合させましょう。とはいえ形や色が変わったりはしないので、その辺りの心配は無用っす」
「そうすると、どうなるんだ?」
「限られた範囲内でしたら、対象者の魔力を感知することによって、その方がどこにいるのか分かるようになるっす。パーティで旅をしてる人にとって、仲間がどこにいるかすぐに知るための手段を確保することは重要っすらからね、便利っすよ」
「……なるほど」
フラーゼの説明を聞き、トモヤは頭を回す。
トモヤは索敵スキルや千里眼スキルを持っているため、その気になればいつでもリーネやルナリアのいる場所が分かる。
けれど逆はどうか。彼女達がトモヤの居場所がどこか分からず困るという場面は、たしかにこれから出てくるかもしれない。
「リーネ、どう思う?」
「ふむ、いいんじゃないか。あくまで使用を緊急時のみに限定すれば、お互いのプライバシーもある程度守られるだろう」
「なるほど。ルナはどう思う?」
「……えっと、いつでもリーネやトモヤのいるところが分かるってこと?」
「ああ」
「なら嬉しいなっ! これで、いつでも会いにいけるねっ!」
「「る、ルナ……!!」」
「えっ、なんすかこの光景……」
ルナリアの言葉に心を打たれるトモヤとリーネの姿を見て、少しだけフラーゼは引いていた。
こうして、トモヤ達はフラーゼの提案を受け入れ、それぞれのネックレス(念のためトモヤのも)に細工を施してもらうこととなった。
ようやく次に、トモヤにとっての本題である終焉樹の核の話に移る。
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