第73話 ドワーフの国へ向けて
◇◆◇
「「ついたー!」」
「元気だな」
船から降り、北大陸の地に足を踏み入れたトモヤとルナリアが楽しそうに、両腕をあげながらそう叫ぶ。
それに対し感想を入れながら、リーネは後ろで小さく微笑んでいた。
「いやー、アンタらがいてくれて本当に助かったよ。リヴァイアサンが出てきた時はもうダメかと思ったからねぇ。ほれ、私達が貰った報酬の半分だ。持ってきな」
「ヴェールさん……それでは、遠慮なく」
《水辺の灼熱者》のリーダーであるヴェールが代表して、金貨の入った袋をトモヤに渡す。
これまでの経験から、トモヤはこういった状況では変に断らず、素直に受け取った方が両者にとっていい結果になると学んでいた。
ぐっと手に重みがかかる。
それからトモヤ達とヴェール達は最後に挨拶を交わし別れた。
この港、ドイクポートに滞在する予定のヴェール達と、このままドワーフの国に向かうトモヤ達とでは向かう場所が異なるのだ。
また会うことが出来たらいいなと、素直にそう思える人たちだった。
「さて、俺達はドワーフの国に向かうか」
「ああ、そうしよう」
トモヤの提案に頷くリーネ。
ドワーフの国はこの港からほんの数時間歩いた先にある。
正確に言えば、この港もドワーフの国の国土の一部だ。
ただ、一般的には今から向かう国土の中で一番の大都市のことをドワーフの国と呼ばれているため、決して間違えている訳ではない。
日はまだ空高く昇っている。今日のうちに辿り着くことが出来るだろう。
乗合馬車に頼るまでもない。舗装された街道もあるらしいため、ゆっくりと歩いて行こう。
船の上に四日間もいたため、運動不足解消だ。
「そんじゃ、しゅっぱーつ!」
「おー!」
「……ふふっ」
片手を上げて叫ぶトモヤを真似するように、ルナリアが満面の笑みで飛び跳ねながら応える。
それを先程と同じように、後ろから楽しそうに眺めるリーネ。
「トモヤはこっち! リーネはこっち!」
「おおっ」
「ふむ」
ルナリアは自分の右側にトモヤを、左側にリーネをつれてくる。
そして二人と手を繋ぐと、えへへぇと笑う。
その笑顔に癒されながら、トモヤとリーネはぐっと手を握り返した。
傍から見れば、ただの夫婦と娘でしかなかった。
街道には、トモヤ達以外の人々も多くいた。
ドワーフ族と思わしき者達も多い。
まあ、ここがドワーフの国である以上当然なのだが。
トモヤのイメージ通り、男性は少し身長が小さめで筋肉質かつ、顔には髭などが多い。ただし女性に関しては、身長のみ人族より少し小さいな、程度の感想しか抱くことができなかった。
ドワーフ族と人族を並べても、特に注視しなければ気付かない可能性もある。
歩いている途中、魔物は一体も出てこなかった。
この辺りは魔物の駆除が行き届いているらしい。
港付近にはいくらか草花が生えていたが、先に進むごとにその数は減っていき、固く乾燥した大地が広がっていく。
数々の鉱山に囲まれるドワーフの国に近づいている証拠だった。
「ここらでいったん休憩するか?」
歩くこと二時間。既に半分の道程は過ぎ去っている。
ただ、茶色の景色が増えてくるごとに空気の質も少し濁り、呼吸がしづらくなってくる。
トモヤやリーネはこの程度では問題ないが、心配なのはルナリアだ。
そう思い尋ねたのだが、彼女はふるふると首を横に振る。
「だいじょうぶだよ? まだ全然つかれてないからっ」
「本当か?」
「うんっ」
顔色を窺うに、嘘ではなさそうだった。
幼い体に似合わず、大した体力である。
まあ、それもそのはずだ。終焉樹暴走事件の後にも、トモヤは終焉樹の中に入り多くの魔物を倒し、しまいには先日のリヴァイアサン討伐の件もある。
今のルナリアのステータスは、おそらく以前よりも格段に上昇しているはずだ。
体力がステータス上のどの項目に含まれているのかまでは分からないが、ステータスが高いほど疲れにくくなるということは、かつてインドア派だったトモヤがこれだけ元気なことからも証明できる。
けれど、まあ。
ルナリアが疲れていないからといって彼女をこれ以上歩かせてもいいかと言われれば、それはまた別の話であり。
「ほら、ルナ、乗れ」
「……? あっ! うんっ!」
「む」
その場でしゃがむトモヤを見て少し不思議そうな表情を浮かべた後、ルナリアはその意図に気付いたように顔を輝かせる。
ルナリアは両足を広げ、トモヤの首にまたがるようにして座った。
体重がかかるのを感じたトモヤはぐっと、ルナリアの重み――いや、軽みに耐えながら立ち上がった。
つまりは肩車だ。
「わぁっ! 高いねっ」
特に大した景色があるわけでもないだろうに、普段より高い視線から見下ろすことそのものが新鮮だったのか、ルナリアはトモヤの上でわいわいと騒ぐ。
ルナリアが飽きるまではこのままで進むとしよう。
……残る問題は、ルナリアではなくトモヤの隣にいる少女についてだ。
「……リーネさんも、あとで乗る?」
「っ!? の、乗らない!」
羨ましそうに二人を眺めるリーネに恐る恐るそう問いかけると、彼女は顔を真っ赤にしてそう答えた。
船上での膝枕や添い寝のあれこれによる恥ずかしさも、どうやらまだ完全には消えていないらしい。
まあそれは仕方ないことだろうとトモヤも思う。
何故なら今のトモヤの顔も赤く染まっているから。
気を取り直して、
トモヤ達は再び歩を進め、ドワーフの国を目指していった。
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それから実は、まだ知らない方が多くいそうなのでご報告すると、本作は既に書籍化・コミカライズ化されております。
コミカライズはマンガボックス様から配信されており、ちょうど現在、この北大陸編を連載中です!
書籍版を原作としているため、Web版とはかなり展開が異なっているのですが、リーネやルナリアの可愛さは健在どころか何倍にもパワーアップしているため、ぜひ一度ご覧いただけると幸いです!
『ステータス・オール∞(インフィニティ) ∞使いの最強能力者、異世界を自由気ままに暮らします!』と検索していただければ見つかります!
どうぞお楽しみください!
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