第67話 ひざまくら、なでなで、よしよし②

 直接リーネの口から肯定の言葉が出てきた以上、もう答えは確定されてしまった。


「そうなんだ……じゃあ、代わってあげるねっ!」


「えっ、なっ、ルナ!?」


「おいちょっとルナさん?」


 さらにルナリアによるとんでも提案によって、トモヤとリーネの両者ともが激しく動揺する。特にトモヤにとってその提案は一大事だった。


 なぜならルナリアの膝枕は、言い方は悪いがある意味おままごとのような感覚で受け入れられたのに対して、リーネが相手だと色々と意識せざるを得ない。

 さらなるトドメとして、今のリーネの服装は船上にいるため当然鎧姿ではなく、動きやすいように柔らかな白色の生地で出来た上着に、紺のショートパンツといった格好だった。


 つまり何が言いたいかと述べれば、その白くすらりとした太ももが露出されているということであった。

 このまま話が進めば、本当にマズイ事態になる。だから断ろうと思ったトモヤだったが……


「し、しかし、私はともかく、トモヤが嫌がるんじゃないか……?」


 リーネのその不安げな表情を見てしまえば、その思考は頭から消えていき。


「べ、別に、俺は嫌じゃないけど」


「そ、そうか。な、なら、少し失礼して……」


 そんな会話のあと、ルナリアと入れ替わるようにリーネがトモヤのすぐ傍にまで寄ってきて、その露わになっている太ももの上に、トモヤの頭が置かれた。


(こ、これは……)


 ルナリアのそれとはまた違う、反発力のある鍛えられた太もも。だからといって心地よさがないというわけではなく、むしろより力強く支えられているかのような感覚だった。

 そして何より、すべすべとした肌が首筋に触れ、不思議な気分になりそうだった。


「と、トモヤ。き、気分はどうだろうか?」


「あ、ああ、いい感じ、かな」


(いや、正直緊張しすぎてとっくに船酔いとかどっかにいったけど!)


 けれど、真剣にトモヤに膝枕してくれているリーネの顔を見てしまえば、それを口に出すことは出来なかった。

 決してこのまま膝枕を続けて欲しいから言わなかったわけではない。いや、続けて欲しいというのは、それはそれで事実だが。


「そ、そうか」


「…………」


「…………」


「うんうん、なかよしなかよしっ」


 気まずさによって無言になる二人。

 それをルナリアは横から楽しそうに眺めている。


「そ、それでだな、トモヤ……」


「な、なんだ?」


 そんな中で、気恥ずかしそうに話しかけてくるリーネ。

 この状況で何をそんなに聞きづらそうにする必要があるのだろうか。

 その疑問の答えは次の瞬間明らかになった。


「わ、私もルナのように、頭を、なでなでした方がいいだろうか?」


「……任せる」


「そんなぁ、卑怯だぞ!?」


「ええっ」


 選択権を全面的に押し付けたトモヤに、リーネからまさかの文句が返ってくる。


「ううぅ、あ、ある意味これは、膝枕以上に恥ずかしいんだ……」


「そうなのか?」


「う、うむ。だから、君が望んでくれないと、決意ができ……な……い、んだ」


「だからって、そんな死にかけみたいな声を出さんでも」


 蒸気が出るのではないかと思うほど顔を赤くするリーネ。

 すでにトモヤのツッコミはその耳に入っていなさそうだった。


(ど、どうするんだこの変な空気!)


 心の中でこの空気を変えて欲しいと願う。

 すると、トモヤの心の声が伝わったわけではないだろうが、まるでそれを聞いたかのように行動を起こす大天使がいた。

 そう、ルナリアだ。


「リーネ、トモヤによしよしするのはずかしいの? なら、わたしも一緒にやってあげるね!」


「は?」


 ただし事態を悪化させないとは言っていない。


「ほ、本当かルナ!? よし、なら頼む!」


「うん、まかせて!」


「おい、ちょっと待て。待ってください。なんか話が変な方向にいってる気が」


「ふん、うるさいぞトモヤ。覚悟しろ。もう君は逃げられない」


「そうだよ、逃げちゃだめだよ!」


「えっ? えっ?」


 反論するトモヤ。

 けれどもリーネとルナリアは構うことなく行動を開始する。

 つまり二人合わせてトモヤの頭を撫で始めた!


「ど、どうだトモヤ。なでなでだぞ!」


「よしよし、元気にな~れ」


「~~~~!!!」


 リーネの生の太ももの上に頭を乗せた状態で。

 ルナリアの小さく可愛らしい手が、もう慣れたようにトモヤの頭を撫でる。

 そしてリーネの、普段は剣を握っているにも関わらず白く美しい手が、トモヤの髪を掻き分けるようにぎこちなく動いていく。


 どちらにせよトモヤにとって、それは天にも昇るような気持ちよさであることには変わらず。


(し、死にそう。こんなもん、防御ステータス∞ごときで耐えられるか!)


 そう、心の中で叫ぶのだった。

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