第60話 ナンパ撃退
砂遊びを楽しんでいる最中、二人組の男にナンパされるリーネだったが――
「――――はいストップ。そこまでだ」
「……トモヤ」
その場所に辿り着いたトモヤが、男の腕をぐっと握りしめる。
リーネがこの程度の奴ら相手に後れを取るようには思えない。けれどそれと、男達がリーネの素肌に触れていいかというのは別の問題だった。
感情的な面で、トモヤはその行為を絶対に許せない。
「ッ、なんだテメェは!」
「いきなり何しやがんだクソが!」
男達は突然の乱入者に対し、乱雑な態度をとる。
リーネと男達との間に身体を入れた後にその腕を放すと、ふんっと振り払うような反応を見せる。
その後、二人は気味の悪い笑みを浮かべる。
「はんっ、その嬢ちゃんの連れってのはテメェのことか。なんだなんだ、弱っちそうな身体しやがって。俺達に歯向かってんじゃねぇぞ!」
「俺様達は二人とも平均ステータスが5000超えだ……この凄さが分かったらさっさと引きな!」
(つまり二人合わせてもルナ以下、ということか)
ルナリアは既に平均ステータス10000を軽く超えている。
目の前にいる男性達も冒険者として見れば弱いわけではないのだろうが、これまでリーネという実力者と旅をし、Sランク魔物すら朝飯前に倒すことの出来るトモヤにとってすれば雑魚も同然だった。
「悪いけどそれは出来ない……ていうか言っておくけど、俺達の方が間違いなく強いから、お前らの方が帰った方がいい。しっしっ」
「ッ、黙って聞いてれば……!」
「上等だ! お前みたいなガキ、一瞬で潰してやらぁ!」
「……結局こうなるのか」
その場で身構える二人を前に、トモヤは小さく溜め息を吐いた。
後ろからリーネやルナリアが少しだけ心配そうな、というか面倒事に巻き込まれてドンマイ、といった目で自分を見ているのに気付き、トモヤは一つ首肯だけを返す。大丈夫、何とかすると。
(改めて思い返せば、こんなあからさまに絡まれるのって、こっちの世界に来て初めてかもな)
マグリノ山脈で出会った《鋼鉄の盾》の皆は最初こそトモヤ達を侮ったかのような素振りを見せていたが、実際に魔物が出てきた際には逆にトモヤ達を庇うかのように戦ってくれた。
盗賊団、《灰霧》に関してはむしろトモヤの方から攻撃を仕掛けていった。
モルドとの決闘に関しても、彼が真っ正面から正々堂々と勝負を挑んできただけだ。
それらとは違い、今回の騒動はいわゆるテンプレ展開の一つと言える。初めてこの世界に来た時のわくわく感に似たものをトモヤは感じていた。
そう、つまりは美少女(リーネ:最強)に絡んでいる暴漢(ルナリア以下の実力)を圧倒し、その後惚れられるというよくあるアレだ!
(よーし、とりあえず大怪我をさせない程度で倒してやろう――ん?)
「うっ、が……」
「なん……だ……」
しかし、気合を入れ直すトモヤの前で不思議な現象が起きた。
まだ戦闘を開始していないにもかかわらず、突如として男性二名の膝が曲がりその場に倒れていったのだ。
原因はその後、すぐに分かった。
「大丈夫かしら、貴方たち。お困りの様でしたので、少しだけご協力させていただいたのよ」
「お前は……」
男性達が倒れることによって、その後ろから彼女は姿を現した。
海水浴場には場違いな白色のローブに身を包み、フードを深くまで被っているため容貌を完全に窺うことは出来ない。やけに潤った唇やその周辺の白い肌、そして水色の髪だけを見ることができる。
声色などから察するに、20代後半から30代前半程度の女性だろうとトモヤは判断した。
そう分析していると、後ろにいたリーネが一歩前に踏み出す。
「その……今、貴方は何をしたのですか?」
「そう大したことはしていないのよ。会話から明らかにこちらの両名が悪いというのは見て取れたから、麻痺性の魔法を少々与えただけなのよ。もちろん、後遺症などが残るものではないし、すぐに目覚めると思うわ。貴方たちが気に病む必要はないのよ。私が好きでしたことなのだから」
「そう、ですか……助けていただき、感謝します」
「いえいえ、お力になれたのなら光栄だわ」
少しだけ釈然としない様子ながらも感謝を告げるリーネに、その女性はそんな言葉を残し立ち去ろうとする。
「あっ、その、せめてお名前だけでも」
「名前? そうね……」
リーネの問いに少しだけ悩む素振りを告げた後、その女性は言った。
「ルーラー、とでも呼んでもらおうかしら」
「ルーラーさん、ですか……」
「ええ。それでは、今度こそさようなら」
そう言い残し、ルーラーと名乗った女性は去っていった。
取り残されたのはトモヤ、リーネ、ルナリアと、地面に寝転ぶ二名の男性のみ。
「……なんだか、訳の分からない展開だったけど」
少しだけ思うところはあるももの、気にしても仕方がないと考え直し、トモヤはゆっくりと視線を下ろした。
「この二人、どうしよう……」
ルーラーはすぐに目を覚ますだろうと言っていたが、さすがに数分程度で起きる気配はない。
どうしようかと頭を悩ませているとき、その声は響いた。
「大変だぁあ! クラーケンスライムが出たぞぉぉおお!」
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