第25話 召喚魔法

 ルナリアのステータスを見たトモヤは、こくりと頷いた。


「これは……たしかに、リーネの言う通りレベルやステータスが上がってる」


「本当か?」


「ああ」


 レベルは8から10に。ステータスは平均的に30程度。

 昨日ルナリアのステータスを見てから彼女は戦ったりしていないため、間違いなく今のトモヤの戦闘の影響だった。

 その結果をトモヤはリーネたちに伝える。


「そうか、それだけ上がったのか」


 リーネはふむと考え込むような素振りを見せたあと言った。


「今トモヤが倒した魔物たちは全てCランク。その恩恵が全てルナに譲渡されていれば、恐らくレベルは15前後にまで上がっただろう。そこから考えて、やはり譲渡されるのはトモヤに与えられる分の一割程度だと思う」


「……そんなもんか。もっとドンッと上がってくれれば楽なんだけどな」


 それでも、ルナリアが戦わずして彼女のステータスを上げる手段が見つかっただけで成果は大きい。

 与えられる恩恵が一割なら、トモヤが百倍の魔物を倒せばいいだけだ。

 とりあえず念のためルナリアのレベルが1000になるまで頑張ろうかと思うトモヤに、リーネは声をかける。


「さて、これでルナの戦力増強のための目安はついたが、肝心な彼女本来の実力についても確かめておいた方が良いな」


 リーネの言う通りだった。ステータスの数値が上がっても、ルナリア自身が戦い方を知らねば意味はない。そう思い直しトモヤはルナリアに視線を向けた。


「ルナ、ちょっとやってもらいたいことがあるんだけどいいか?」


「うん、がんばる!」


「よし」


 試すのは治癒魔法、召喚魔法、神聖魔法。そして神格召喚だ。

 隠蔽がどのようなスキルなのかは既に分かっている。治癒魔法に関しても知識自体はあるが、Lv∞の状態だとどのような傷まで治せるかを知りたかったのだ。


 まず治癒魔法、神聖魔法の順番で検証を開始した。

 その結果、治癒魔法Lv1で治せるのは軽い打撲や、剣の切っ先が触れた際につく切り傷程度だと判明した。


 ちなみに実験台はトモヤで、ステータス・防御の値を下げ、そんな彼にリーネが軽く攻撃を与え傷を生み出していた。その過程でトモヤは『なんだこの、えすえ……いややっぱり考えるの止めておこう』という思考になっていた。

 ちなみにリーネが傷を与える光景はルナリアには見せなかった。


 神聖魔法の検証もそこまで苦労することなく済んだ。

 ルナリアが放った弱々しい白色の光は、防御の値を100まで減らしたトモヤに傷一つ負わせることはできなかった。

 むしろ少し暖かく、湯たんぽ代わりに使えそうだった。

 トモヤはルナリアの頭を撫でた。


「ふえっ? トモヤ、どうしたの?」


「いや、急に撫でたくなってな。迷惑だったか?」


「ううん、うれしいよ! もっとなでて!」


 しばらくそんな幸せな時間なでなでタイムが続いた後、改めて神聖魔法の検証を続ける。


 結論としては、使い道が全くないわけではなかった。神聖魔法は魔を滅する聖なる魔法。出来るだけ威力を下げたリーネの魔法を打ち消すだけの力を持っていた。

 順調にレベルやステータスが上がれば、どんな魔法でも打ち消すことの出来る力になるかもしれないとリーネも告げていた。


 そんなこんなで次に進むのだが、神格召喚と召喚魔法では難航することになる。


「しんかくしょうかん? の使いかた、わからないよ」


 そのルナリアの発言通り、彼女は神格召喚の使用方法を知らなかった。

 トモヤとリーネの二人はふーむと頭を悩ませる。


「ルナ本人が分からないんじゃどうしようもないな。俺の鑑定でもどんな能力か分からないし」


「うん、ひとまずこちらを確かめるのは後にしてもいいだろう。召喚魔法の方に移ろう」


 この時点でのミューテーションスキルの使用は諦めることにする二人。

 最後に、召喚魔法を試すことにした。


 召喚魔法――魔法陣を媒体とし世界中から魔物などを召喚する魔法。

 魔物の強力さ、使役できるか否かはスキルレベルと本人の性格に委ねられる。

 “スキル外の要因”によって左右されることの多い力だ。


「ちなみに魔法陣が描かれた魔法紙は事前に買っておいたから問題はない」


「市販品なんだ……」


「中には自作にこだわる人もいるが、初級用などは基本的にはそうだな。ルナ、これを使ってみてくれ」


「わかった!」


 リーネから差し出される一枚の紙をルナリアが受け取る。

 その紙に書かれているのはゲームなどでよくみる円形の幾何学模様だった。

 その魔法陣に、呼び出したい魔物の条件を頭で思い浮かべながら魔力を注ぎ込むことによって召喚魔法は発動する。


「一応訊くけど、ルナはどんな魔物を呼び出したいんだ?」


「うーん、一緒にいて楽しいひと!」


 魔物は人じゃないんだけどなーと思いつつもルナリアの意思を尊重するトモヤ。



 そう、そのルナリアの回答がこの後に何を引き起こすかなど、この時のトモヤには知る由もなかった。

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