第24話 強化指針



 ◇◆◇



 翌日、トモヤとルナリアとリーネの三名はルガールを出て平原に来ていた。

 昨日トモヤとリーネが話していたところよりも少し町からは遠い。

 まだ出会っていないがいつ魔物が出てきてもおかしくない場所だ。


 ここに来ようと提案したのはリーネだった。


「それで、俺たちを連れてきたのは昨日言ってた、ルナのいるときに話したいってやつなのか?」


「ああ。話したいというより試したいという方がより近いかもしれないが……その実験が成功すれば、懸念事項だったルナの戦力向上が見込めるかもしれない」


「……聞かせてくれ」


 それはトモヤやルナリアにとって重要な話だった。ルナリアがもしトモヤのいない場でも無事にいられる方法はないかと、ずっとトモヤは頭を悩ませていた。

 それを解決する方法があるというなら聞く他ない。


「うん、だがこれはあくまで推察の範疇を出ないということだけ理解しておいてくれ……まず一つ、重要となってくるのが所有者と奴隷の関係だ」


 まさかここで、ルナリアが奴隷であるという事実が関わってくると思っていなかったトモヤは目を丸くし、そのまま続きを促す。


「例えば戦闘奴隷との契約を書き記した契約書の中には、よくこういった文が記されている。『奴隷が魔物などを倒した際、その経験値の一割を所有者に譲渡する』――と」


「なっ、そんなことが可能なのか? けどどうやって?」


 その説明にトモヤはさらに驚いた。ゲームなどではそういったアイテムが存在するときもあるが、現実の話となるとそれがどういった理屈か非常に気になる。

 ちなみにそんな風に真剣な表情で問いかけるトモヤの横で、ルナリアは眠そうにあくびをしていた。話についてこれていないようだ。可愛い。


「簡単な話だ。ステータスとは世界神エルトラによって人族などに与えられる恩恵。人族などに仇なす魔物を倒すことでその恩恵は増え、ステータスが上昇していく……その基準となるのがレベルと呼ばれるものだ」


 今まで知らなかった様々な知識を真剣に聞くトモヤに、リーネは説明を続ける。


「戦闘奴隷などにとってみれば、自分だけでなく主人が強くなることもまた彼らの利得につながる。故に彼らに与えられる恩恵を主人に譲渡することは可能なんだ」


「なるほどな、話は理解できた。けどそれだと、どう頑張ってもルナの努力を俺が奪う形にしかならないんじゃないのか?」


 そうであるならば、結局ルナリアが前に出て戦う必要が出てくる。しかも成長速度が遅くなるだなんて本末転倒だ。


「うん、まあ普通ならばそう考えるだろうな。そこでトモヤに尋ねたいことがあるのだが、たしか君のステータスは全て∞だったんだよな? それ以上増えないという値だったはずだ」


「正確には増えようが誤差の範囲でしかないってだけだけど……っ、まさか」


 そこで一つ、トモヤの中に可能性が生まれる。

 その頭の中を読み取ったわけではないだろうが、リーネはうんと頷き言った。


「トモヤのステータスが全て無限な以上、どれだけ魔物を倒そうとその恩恵を与えられることはない。もし与えられても無意味だからだ……なら、その分の恩恵を、君が大切に思う別の誰かが譲り受けることは可能なんじゃないか?」


「……確かに、試す価値はあるかもな」


 その後、トモヤ達は早速その推察が正しいかどうかを確かめることにした。


 ただ魔物と出会う前に少しでもルナリアを守る手段はないかとトモヤは思考し――スキル:防壁Lv∞が出現した。

 防壁は、選択した箇所を1時間透明の結界が防ぐというスキル。人に纏わせることもできるらしく、ルナリアにその防壁を纏わせた。

 この時点で、ひとまずトモヤがそばにいる時なら1時間はルナリアの安全が保障されたことになる。


 その後、改めて実験が行われた。


「トモヤ、がんばって!」


「おう、まかせろ」


 防壁を纏わせているといっても念のため、ルナリアの横にはリーネが立ってもらっている。もしもの時は彼女がルナリアを守ることとなる。

 トモヤはそれからしばらくの間、襲い掛かってくる魔物を討伐するのだった。




「これで二十体目……っと!」


 グレイウルフ、ブラドアスラ、フレイムバード(Cランク中位指定。炎を纏った鳥)などを剣で切り倒す。

 今回トモヤは隠蔽後のステータス、攻撃・敏捷・魔攻の三つの項目を8000にして戦ってみたが、この程度のモンスターなら問題なく討伐することができた。かすり傷すら負っていない。

 しばらく戦闘時はこれだけの出力で構わないだろう。


「すごい、すごいねトモヤ!」


「ありがとう、ルナ」


 トモヤが次々と魔物を倒していく様子を、ルナリアは興奮した様子で見ていた。

 山脈からの帰りで魔物が出てきたときは馬車の中にいてもらったため、実際に見るのはこれが初めてなのだ。


 どうやらルナリアは魔物が倒れていく姿を見て、吐き気を催したりはしないらしい。事前にルナリア自身にそれらを尋ね大丈夫だと答えてもらっていたが、実際にその光景を目の当たりにする瞬間までどうなるかとトモヤは心配していた。

 これだと旅の中で魔物が襲ってきても躊躇なくやり返すことが可能そうだ。むろん、できる限りそんな光景をルナリアに見せようとは思わないが。


「さて、そろそろいいだろう。トモヤ、鑑定でルナのレベルを見てくれ」


「分かった」


 頷き、トモヤはルナリアに鑑定を使用した。


 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 ルナリア 12歳 女 レベル:10

 職業:白神子

 攻撃:50

 防御:60

 敏捷:50

 魔力:160

 魔攻:120

 魔防:100

 スキル:治癒魔法Lv1・召喚魔法Lv1・神聖魔法Lv1・隠蔽Lv1・神格召喚(しんかくしょうかん)


 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


「おおっ……」


 確かにレベルと各ステータスが上がっているのを見て、トモヤは感嘆の息を漏らすのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る