第22話 調整

 シンシアの家を出て、ルガールの町の商業区である東区をトモヤとリーネは歩いていた。トモヤはリーネにここまで連れてきた理由を尋ねる。


「リーネ、用ってなんだ?」


「うん、それなんだが、実はルナが中央大陸から追放された理由が分かったかもしれない」


「っ、本当か!?」


 それは知っておきたかったことだと、トモヤは思わず顔をリーネに寄せる。

 リーネは少し顔を赤く染め視線を逸らしながら、うんと頷く。


「簡単に答えだけ言わせてもらうと、神聖魔法のスキルと白色……より輝く白銀の髪、そして何よりミューテーションスキルのせいだと思う」


「……それらがどうしてルナが追放されることに繋がるんだ?」


「うん、一つずつ順を追って説明しようか。トモヤは神聖魔法がどのようなものか知っているか?」


「ああ」


 先ほどルナリアのステータスを鑑定で見た時、同時にトモヤはそこに書かれているスキルについての説明も呼んでいた。

 神聖魔法――魔を滅する聖なる魔法。身体ではなく魔力に直接働きかける力とあった。それがどう関わってくるのだろうか。

 それらを尋ねると、リーネは右手の親指を立て答える。


「これはまあ常識だが、魔族はその名の通り他の種族に比べ身体を構成する魔力の割合が格段に高いんだ。故に神聖魔法は別名、魔族を滅ぼす魔法と呼ばれている。自分達を滅ぼす力を持つ少女に敵意を抱くのは、残念なことだが当然の事だと言えるだろう。これが理由の一つ」


 リーネは続けて人差し指も立て、そのまま説明を続ける。


「二つ目は髪の色だ。輝く白色の髪もまた、魔族の中では嫌悪を抱かれる原因となる。その考えは、魔を滅ぼす力が総じて白に近い色をしていることに起因する。神聖魔法も同様だ。さらに言うなら、魔族は比較的深い色素の髪や肌を持つことが多く、純粋に白色の髪を持った者が少ないんだ」


 中指も立て、最後の理由に入る。


「と言っても、これらの理由が一つ一つあるだけならばさすがに追放とまではいかないだろう。精々が少し疎まれるくらいだ。だがその二つが揃えば十分な理由になる。しかも今回に限っては追い打ちとしてルナはミューテーションスキルも保持している」


「……ミューテーションスキルか」


「うん、そうだ。ミューテーションスキルを持っている者は世界中を探しても、多くて二桁に及ぶかどうかだろう。ノーマルスキルに比べて非常に強力な力だ。保持者には様々な面倒事が振りかかる。それ故に私は普段から隠蔽で隠しているのだが……トモヤ、君もそうだろう」


「え、ああ。確かに面倒事を避けたいってのは一緒だけど、細部に至っての理由は全くちが――」


「とまあ、これらの三つの条件が揃えば少女一人を追放するには十分すぎる理由になるだろうな」


 言い切るよりも早く、リーネは話し合いにに結論を加えた。

 その結論は、ルナリアが追放され南大陸に一人でいた理由として、トモヤでも十分に理解できるものだった。

 ただ、そうなると色々と思うところも出てくる。


「そうか、やっぱりルナは苦労してたんだな」


 追放されるということは、故郷の人から疎まれていたということだろう。

 話し相手が少なかったから、年齢よりも幼い口調になっているのだろうか。

 家族などはルナリアにどのように接していたのだろうか。

 愛情を受ける機会が少なかったから、トモヤが向けた優しさをあそこまで快く受け入れてくれたのだろうか。


 そこまで考えて、トモヤはいいやと首を振った。


「ありがとうリーネ、お前のおかげでルナのことをもっとよく知れたよ。けどまあ、過去がどうであれ俺達がすることは何も変わらないけどな」


「うん、そうだな。その方がいいだろう。それをきっとあの子も望んでいるはずだ」


 トモヤとリーネは顔を合わせ二人で笑う。

 そう、二人はとっくの昔にルナリアに骨抜きにされているのだ。

 何があろうと彼女への愛情が変わることなど、上昇方向にしか存在しない。


「それで、リーネが俺に話したかったことってルナに関することだけなのか?」


「ん? いや、もう二つほどあるが、そのうちの一つはルナがいる場で話したい。もう一つは……」


 そこでリーネは言葉を止め、なぜか視線をトモヤから逸らす。

 智也の気のせいでなければ頬がほんのりと赤く染まっていた。


「そ、その前に! トモヤの方から何か私に言いたいことはないのか!?」


「……なんでそんなに焦っているのかは分からないけど、そういや頼みたいことが一つあった」


「む、それはなんだ?」


 苦し紛れのセリフにもかかわらず、トモヤの心当たりのある素振りにリーネは正気に戻った。

 その変わりようからリーネの真面目さを窺うことができ、面白いなぁと思いながらもトモヤは告げた。


「ステータス調整、手伝ってくれ」



 ◇◆◇



 東門を出て数十分歩いた先にある、というか何もない平原でトモヤ達は向かい合っていた。

 周りには他の冒険者も魔物もおらず二人きりである。


「それで、トモヤはステータスと実際の力の関係を知りたいということか」


「ああ、さすがに今のステータス・オール200は失敗したからな。今後のためにどのくらいの数字に隠蔽しようかと思っててさ」


 具体的には、トモヤが普段使う攻撃100倍とはステータスでいうとどれ程の数値なのかということだ。一人で確かめられないこともないが、トモヤよりこの世界の知識があるリーネがいた方が色々と効率的だった。


「うん、確かにその方がいいだろう。君のステータスを初めて見た時は、正直アホなんじゃないかと思った」


「辛辣」


 けど、リーネの言う通りだった。あの日トモヤは何も考えず、レベル×10が標準ステータスだと思っていた。だがこの世界ではレベルが上がるごとにどんどん上昇度が増していくのだ。


 リーネは以前のレッドドラゴン討伐でレベルが36から39に上がり、平均ステータスは24000から28000程度になったと言っていた。こんな風に異常なほどの成長速度だ。

 もっとも、他人に見せる場合は相変わらず3分の1の数値にしているらしいが。


 トモヤもこれから行く先々で同じような面倒事を起こしたいとは思っていない。それゆえの考えだった。




「だいたいこんな感じか」


 数十分後、トモヤは自分のステータスに隠蔽を施した。


 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 トモヤ・ユメサキ 17歳 男 レベル:35

 ギルドランク:C

 職業:剣士

 攻撃:8000

 防御:8000

 敏捷:8000

 魔力:8000

 魔攻:8000

 魔防:8000

 スキル:火魔法Lv3 水魔法Lv3 治癒魔法Lv3 剣術Lv3 異空庫Lv3


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「たった数日で40倍も強くなってしまうとは……」


 実際の強さは何一つ変わっていないが、ステータスの変動ぶりを見てトモヤは冗談混ざりにそう呟いた。


 リーネと色々の実証を行った結果、どうやら何も強化を行っていないトモヤの攻撃は、ステータス10の時に近いらしい。つまり10倍にすれば100、100倍にすれば1000、800倍にすれば8000ということだ。

 これだけのステータスがあればある程度の無茶をしても誤魔化すことができる。そう考えた上での判断だった。


「よし、これで完璧だ。手伝ってくれてありがとう、リーネ……」


 そういって感謝を告げようとトモヤがリーネに視線を向けると、彼女は少し顔を赤くしながら真剣な表情でトモヤを見つめていた。

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