第21話 ルナかわ

 ――ルナリアのステータスをリーネ達と共有してから数分後。

 ひとまず話題はルナリアの年齢についてだった。


「ルナって12歳なんだな。正直10歳ぐらいだと思ってた」


「む、トモヤ失礼。わたし、そんなに小さくないよ」


「そ、そうだな」


 先ほどまで不安気な表情を浮かべていたルナリアは、むぅと頬を膨らませながら不満げにトモヤを見つめる。

 その様子を見たら、10歳と推測したのは見た目からで、言葉使いなどからもっと幼い可能性もあると考えていたことは言えなかった。


 どうしようかと頭を悩ませるところを助けてくれたのはシンシアだった。


「その、ルナさん、きっとトモヤさんは魔族が人族と比べて少しだけ成長が遅いことを忘れていたんだと思いますよ。だから勘違いしたんじゃないでしょうか?」


「……そっか。ならしょうがないね! トモヤ、許してあげる!」


「ありがとう、ルナ」


 シンシアの手助けによって事なきを得た後、どちらが主人なのか分からないような会話を交わすトモヤとルナリア。

 信頼度を損なわずに済んだと安心するトモヤがルナリアの頭を撫でると、


「えへへぇ」


 彼女は先ほどまでの怒った様子からは想像できない程に可愛らしく、表情を崩し喜んだ。

 いや怒った顔もそれはそれで可愛かったな、とトモヤは思った。

 トモヤの手の動きが二倍になった。


 さて、実は先程のシンシアの説明。魔族が人族より寿命が長く成長が遅いというのは事実だが、幼少期の頃にはまだその影響は現れない。

 自衛できるまでに成長するまでは人族と同じように育っていく。ルナリアの幼い外見は彼女自身の特徴だ。


 この場を誤魔化すためにとっさについた嘘だったのだが、それを知らずに二人は仲直りしてとても楽しそうにしていた。

 結果が結果なのでまあいいか、とシンシアは思考を切り替え過去を捨てた。


 年齢についての話題を終え、次はスキルについて話し合う。


「しかし、召喚魔法に神聖魔法ですか。偏りのあるスキルですね」


「そうなのか?」


「はい。召喚魔法は世界中から魔物などを呼び出して使役する力ですが当たり外れは大きいですし、そもそも召喚主の指示に従わない場合もあります。神聖魔法も与えられるダメージは敵によって大きく左右されます。一人で旅をするのは難しいといったところでしょうか」


「なるほどな。で、この神格召喚ってやつは」


「私にも分かりませんね、聞いたことがありません。リーネさんはどうですか?」


 そう問いかけるシンシアだが、肝心のリーネは何かを考え込むようにしていた。

 思えば先程からも無言を保っていた。

 心配になり、トモヤは声をかける。


「リーネ、どうかしたのか?」


「……いや、なんでもない。神格召喚は私も聞き覚えがないな。といっても、そもそも世界に一つしかないスキルだからミューテーションスキルなんだ。そのスキルについて知っている者はいないだろう」


「それもそうだな」


 リーネの発言にトモヤが相槌をうち、次にこれから旅をする上でどうすれば絶対にルナリアが安全でいられるかの話に移る。常にトモヤが隣にいられるとも限らないからだ。


 答えが出ず皆が頭を悩ませていると、客間の扉が開かれる。

 女性の使用人が人数分の紅茶とクッキーを持ってきていた。

 少し前に、話し合いが長引くと思ったシンシアが指示したものだ。


「トモヤ、これなに?」


 目の前に置かれた、いい匂いのするお菓子にルナリアは目を輝かせていた。


「それはクッキーだな。お菓子だよ。甘くて旨いから食べてみな」


「うん、いただきます!」


 マグリノ山脈からの帰還中にトモヤが教えたいただきますを唱えてから、ルナリアはぱくりとクッキーを口の中に放り込んだ。

 一口噛んだ瞬間、クッキーのような食感が初めてなのか目を開き驚くが、すぐに表情が緩んでいく。


「おいしい!」


 そう言って、満面の笑みをトモヤに向ける。

 帰還中の食事もそれなりの美味しさのものを食べさせているつもりだったが、その時とは喜びようが違う。

 ルナリアは甘党なのかとトモヤは判断した。


「トモヤも、トモヤも食べて!」


 そう言って、ルナリアはクッキーを一つ掴みトモヤの口に差し出す。

 シンシアとリーネの温かい目線に気恥ずかしさを感じながらも、ルナリアの懇意を無下には出来ないと思った。


「じゃあ、いただきます」


 ルナリアから運ばれてくるクッキーの先の部分を歯で挟み、そのまま口の中に入れて噛む。

 サクッとした優しく気持ちいい食感と、バターの風味が口いっぱいに広がる。日本で食べていたものに勝るとも劣らない味に、トモヤの表情も小さく綻ぶ。


「ん、うまい」


「えへへー、でしょ!」


 トモヤの感想を聞き、まるで自分の功績かのように、にかっと笑うルナリア。

 ああルナかわいい。略してルナかわ。と内心で思うトモヤの横でリーネやシンシアもクッキーを口に運んでいく。


「うん、たしかにこれは旨いな」


「ええ、とっても美味しいです。やはり皆さんと食べると格別ですね」


 それぞれがお菓子に満足しながらもぐもぐと食べていく。

 そんな中、最初はおいしいおいしいと言いながらルナリアが手を止め、じっと皿の上にあるクッキーを見つめていた?


「どうしたんだルナ?」


 トモヤがそう尋ねると、ルナリアは少し勇気を振り絞ったかのような表情で口を開く。


「その……トモヤ、すき?」


 その好きというのが何を指しているのかがトモヤには分からなかったため、推測で答えることにした。


「ああ、俺はルナのこと好きだぞ」


「ほんとう!? うれしいな! 私もトモヤだいすきだよ!」


 椅子から飛び上がるようにして喜びを露わにするルナリアだが、突然はっと動きを止める。


「そうじゃなくて! これ、このクッキーっていう食べもの、すき?」


「あ、ああ。そっちね。それも好きだけど……」


 恥ずかしい勘違いをしてしまったのだとトモヤは動揺しながらもそう返した。

 発言の内容自体は本当のことなので問題はない。それどころかルナリアも自分への好意を表明してくれたため嬉しさ∞なのだが、気のせいでなければその光景を見ていたリーネとシンシアの目が少しだけ温かなものだった。


「そっか……うーん」


 それからまたクッキーを見つめて悩むような素振りを見せたあと、立ち上がるとシンシアのそばまでよっていく。

 そしてトモヤに聞こえないような小声で何かをシンシアに囁きかけていた。それを聞いたシンシアは優しい笑みを浮かべる。


「ええ、それはとてもいい考えだと思いますよ」


「ほんとうに?」


 嬉しそうに笑うルナリア。その姿を眺めてから、シンシアはリーネに視線を向ける。

 するとリーネはその意図を誘ったかのように頷く。


「リーネさん、お願いしていいですか」


「ああ、私としても色々とトモヤと二人で話しておきたいことがあったからな。問題はない」


 その様子を見てトモヤだけが疎外感を感じていた。

 そんなトモヤにリーネは声をかける。


「トモヤ、少し外に出かけよう。用がある」


 そのリーネの言葉によって、ひとまず今日の話し合いは終了となった。



―――――――――――――――


「ルナリア可愛い」略して「ルナかわ」

皆さんも積極的に使っていきましょう。

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