第14話 隠蔽
レッドドラゴンを無事討伐出来た喜びを隠さないまま歩いてくるリーネに、トモヤは声をかける。
「これで倒せたのか?」
「うん、今の一撃をまともに浴びて立っていられる魔物はいないからな」
普段ならば生存フラグかと疑う様なセリフだが、見たところ完全にレッドドラゴンは死んでいる。もし生きていてもトモヤ達ならば対処できるし問題はない。
となると、話題はいま最もトモヤが気になっている内容に移るのだった。
「リーネは何でわざわざステータスを隠してたんだ? わざわざ全部の数値を3分の1にする理由も気になるし。それに俺になら教えてもいいっていったい……」
「言葉の通りだ。ミューテーションスキルを持っている者は少ないからな、変な注目を浴びないよう普段は隠蔽のスキルで隠しているんだ……と、私はステータスの詳しい数値までトモヤに話しただろうか?」
「ん? ああ、いやそれは俺の鑑定のスキルで見えて……あ」
言っている途中に気付く。トモヤが改ざんしたステータスカードには鑑定のスキルを書いていない。完全にトモヤの嘘がバレた瞬間だった。
「なるほどそういうことか。君は鑑定のスキルも持っていたんだな」
だがリーネは素直にその発言を受け入れた。むしろトモヤの方がその反応を見て少し眉をひそめる。
「そんな顔をしないでくれトモヤ。うん、そろそろちゃんと情報を共有するとしようか。よし、一旦ここに座ろう」
そう言って男らしく地面に座るリーネ。そんな彼女に倣ってトモヤも座る。
それからリーネは知っていることをトモヤに話した。
リーネの本当のステータスは先ほどトモヤが見たものだ。
普段は家名や職業、ミューテーションスキルを隠し、そしてついでにステータスを弱く見せるために隠蔽のスキルを用いている。
それは全て色々な面倒事から逃れたいという意思によるものである。職業に関しては昔つまらないミスで露見したことがあり今では通り名となっているが、その失敗談は恥ずかしいので話したくはないらしい。
トモヤも色々と察して聞かないことにした。
さらにトモヤが驚いたのが、隠蔽のスキルを持った者は他人のステータスカードを見た時に、それが本物かどうか見分けることが出来るということだった。
だからリーネは冒険者ギルドでトモヤのカードを見た時点で既にその内容が嘘だと気付いていたのだ。
そう言われていみればトモヤにも覚えがあった。
初めてリーネのカードを見た時トモヤは違和感を感じていたのだ。そのトモヤの推測通り、その違和感こそが隠蔽を見分ける際の感覚であった。
ちなみに本物のステータスを見るためには施された隠蔽よりもレベルの高い鑑定のスキルが必要である。
とまあそういった小難しい話を除くなら、リーネは初めからトモヤが何らかの意図でステータスを改ざんしていることを知っていた。
トモヤがステータス上ありえない行動を起こし必死に誤魔化すたびに、心の中で大爆笑していただけの話である。
その話を最後まで聞いたトモヤの目は冷めていた。
「てことはリーネは俺の本当の実力が分かった上でパーティに誘ったってことだな。それを踏まえて自分の行動を思い出したらめちゃくちゃ恥ずかしいんだが」
「それについては謝ろう。だがトモヤが必死に隠そうとするから私もそれに合わせなければと思ってな。うん、優しさというものだ!」
「絶対に違うと思う」
文句を言うトモヤと、それを誤魔化すリーネ。急に二人はなんだかおかしくなって笑い出した。お互いに嘘をついていたとはいえ、それは決して相手を馬鹿にするためのものではないと分かっていたからだ。
この一日で築き上げられた信頼の賜物である。
それからしばらく笑みを交わし合った後、リーネは優しい声で告げる。
「ただこれだけは勘違いしないでくれ。私はステータスカードだけでトモヤの実力を測ったわけじゃない。この目で君を見て信頼に足る人物だと思えた、純粋に興味を持ったんだ。長い間一人で旅をしてきたが、そういう風に感じた相手はトモヤが初めてだった。だから一緒に依頼を受けてみたいと思ったんだ。自慢だが、私は人を見る目があるのでね」
「自慢なんだ……」
気恥ずかしくなるような真っ直ぐな言葉。それを聞いて、トモヤも覚悟を決めることにした。
「せっかくだから、俺もリーネに本当のステータスを見せるよ」
「む、いいのか? 別に私はそんなこと望んでいないぞ。いや見たくないと言えば嘘になるが、君が隠そうとしているものを無理強いするつもりは」
「リーネなら信頼できるから大丈夫だ」
「そ、そうか……なら、見せてもらおうか」
茶目っ気のある意趣返しの言葉にリーネは顔を赤く染める。小さく笑いながらトモヤは隠蔽を解除したステータスカードを手渡した。
するとリーネは眉をひそめ、すぐにトモヤに問う。
「この0が二つ続いたような文字はどういう意味なんだ? 私には何が書いてあるのか理解できないんだが……」
「ああ、やっぱりそう見えるんだな。それは無限っていう意味の記号だ。つまり際限なくどれだけでも上昇させられるんだ」
「なっ、そんな馬鹿げたことが……ではこのオール∞というスキルはなんだ?」
「ミューテーションスキルで、この世にある全てのノーマルスキルを扱えるんだ、レベル∞の状態で」
「…………」
普段のクールな様子はどこにいったのやら、ぽかーんとした表情を浮かべるリーネ。
そんな反応をしてしまう気持ちはトモヤにも理解できる。どこまでも規格外な能力であることは十分に知っていたからだ。
「はは……ははっ! なるほど、うん、やはり私の見る目は正しかったようだな。こんな優れたステータスなど初めて見た。君は本当に凄いな」
「凄いのは俺じゃなく……いや、そうだな。ありがとうリーネ」
一度はステータスの方が凄いんだと言おうとしたトモヤだが、途中でそれは言う必要のないことだと悟り感謝の言葉に変えた。
ここで話さなければならない内容は終わり、二人は立ち上がると転がるレッドドラゴンの死体に視線を移す。
「さてトモヤ、討伐証明と素材のために最低でもあの顔だけは持って帰らないといけないが、君の異空庫にはそれだけの空きはあるか?」
「ああ、それくらいなら十分ある。けど残った身体はどうするんだ? 腐ったりしたら大変だぞ」
「あれだけの大きさだと他の魔物の餌になるとしても食い尽くせないからな。だが問題ない。ギルドに帰って報告すればギルドの回収班が来てくれる手筈になっている」
「なるほど」
返事をしながらレッドドラゴンの側に寄っていく。そこでふとトモヤはその可能性に気付く。
「リーネ、やっぱり回収班に来てもらう必要はない」
「ん? それはどういうことだ……ああ、なるほど」
異空庫Lv∞――つまり保存できる量も無限。というわけでトモヤは頭だけでなく城ほどの大きさの身体ごと異空庫に放り込んでいた。入れるものの大きさによって異空庫の入り口も広がるようで、楽々と入れ終えた。
「じゃあ戻ろうリーネ、今日こそは日が暮れる前にな」
「む……」
昨日の出来事を思い出したのか、リーネは頬を膨らませて不満げな視線をトモヤに向けていた。
そして二人は山を下っていくのだった。
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