第13話 遭遇

 ワイバーンの討伐後、あの五人――Cランクパーティ《鋼鉄の盾》とトモヤ達は名乗り合い、何故か少し仲良くなってから別れた。


 リーダーのクルトはトモヤ達に『俺は信じてるぜ、お前達ならレッドドラゴンを倒せるってな……!』とかっこよく告げていた。

 なお彼らはこの後も雑魚魔物討伐を続けるらしい。


 そんな悲しい出会いと別れを繰り返し(繰り返してない)、それから現れる魔物をことごとくトモヤ達は倒していき、とうとう頂上にまで辿り着くのだった。


 頂上は拓かれた空間となっていた。山道のように木々が生え茂ってはおらず、広大な地面が広がる。そこにトモヤ達の目的の魔物がいた。


「これは想像以上だな」


 その竜はリーネの髪にも似た燃え盛るような赤色の鱗を身に纏っている。その身体は誇張抜きで城のような体躯で、顔、牙、腕、爪、翼などの武器となるどの部分も規格外の大きさを誇っていた。

 そこに存在するだけで重圧感が辺り一面にかかり、一歩足を踏み出せば大地が大きく振動する。


 そこまでの分析を終えようやく鑑定を発動。《レッドドラゴン》――Aランク中位指定。聞いていた通り強力だ。トモヤからしたら負ける気は全くしないが。


「よし、それじゃあトモヤ、事前に言った通り顔への攻撃は牙を折らないように注意してくれ。先に翼を片方でも切ってしまえば優位にことを運べる。他に何か質問はあるか?」


「いや大丈夫だ、頑張ろうリーネ」


「うん、期待してるぞトモヤ」


 二人は視線を合わせにっと微笑む。

 トモヤはリーネを援護するようにして戦うつもりだった。別にいまさらステータスについて隠そうとしているわけではない。既にリーネにほとんど勘付かれているだろう。あれだけの失態を見せれば当然だ。


 ただ、覚悟をしてレッドドラゴンと向かい合っているリーネの意思を尊重したいと思っただけだ。彼女に大きな怪我を負わせないことだけがトモヤの目標だった。


 トモヤ達が攻撃しようとしたとき、ようやくレッドドラゴンが動きを見せた。


「グォォォオオオオオ!」


 咆哮。馬鹿げた声量と凄絶な爆風が吹き荒れ、トモヤとリーネは必死に足を地面につけ耐える。続けて、ギロリと力強い眼光がレッドドラゴンからトモヤ達に向けられる。


 確実に敵と認識した目だった。

 だからといって問題はない。

 むしろ望むところ――真っ先に動いたのはリーネだった。


「はぁぁあ!」


 斜めにジグザグに走り狙いを定められないように気を付けながら、リーネは剣を振るい空斬を放つ。赤い刀身がすっと空間を切り裂き、それがそのままレッドドラゴンの腹に命中する。

 だが軽い傷が生じるのみで致命傷とはいかなかった。


「グォォ!」


 だがそれでもレッドドラゴンのプライドは傷ついたのか、怒りに満ちた叫びと共に口から炎の塊を放った。離れていてもなお感じるその熱量に、トモヤはリーネの安否を心配する。


「リーネ!」


「大丈夫だ! この程度――フレイムウォール!」


 リーネがそう唱えた瞬間、炎の盾が彼女の前に現れる。レッドドラゴンの放ったブレスと接触し、熱と風がその場所を中心に吹き荒れていく。


 その隙にトモヤも行動を開始していた。敏捷を100倍にし、レッドドラゴンの後方に回り込んでいたのだ。

 攻撃と魔攻もそれぞれ100倍。剣に魔力を纏わせ、力強く跳んだ。


 狙う場所は巨大な双翼の左側。リーネの指示通りまずは動きを取れないようにしようという目的だった。

 しかしレッドドラゴンはまるで背中に目が付いているかのような反応を見せ回避する。トモヤの剣は微かに切っ先が翼に触れただけだった。


「すまんリーネ!」


「いいや十分だ! 後は任せろ!」


 トモヤの言葉にリーネは力強く応える。レッドドラゴンが逃げた先にリーネは堂々と立っていた。

 真正面から迎え撃つつもりなのだろうか、自信ありげな表情がトモヤの瞳に移る。


「トモヤ、私は君に一つ嘘をついていた」


 そして何故かこの状況の中いきなりそんなことを言い出した。

 えっ、なに死亡フラグ? と言っても恐らく通じないのでトモヤは落下しながら静かに聞き届ける。


「君に見せたステータスカード。あれは本当の数値じゃない。都合が悪いから普段は隠しているが、君には本当のことを教えてもいいだろう」


「いや、何を言って――」


 ――――鑑定Lv∞を発動します。


「……うん?」


 意味深な言葉を発するリーネに質問しようとするトモヤの頭の中にそんな言葉が浮かぶ。いったいこの場で何を鑑定する必要があるのか。

 そう考えたトモヤの目に飛び込んできたのは、なんと昨日見たばかりのリーネのステータスだった。ただ、そこに書かれてある内容は全く違っていた。


「なっ、これは……」


 突然のことに驚きながらも、トモヤはその内容に目を通した。


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 リーネ・エレガンテ 18歳 女 レベル:36

 ギルドランク:B

 職業:赤騎士

 攻撃:24240

 防御:23400

 敏捷:20970

 魔力:22800

 魔攻:25260

 魔防:23100

 スキル:火魔法Lv4・剣術Lv5・空間魔法Lv4・隠蔽Lv5・空間斬火くうかんざんか


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 空間斬火――ミューテーションスキル。切り裂いた空間を直接燃やし尽くす。


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 新たに加えられた情報はリーネのファミリーネームと職業、そして隠蔽と空間斬火というスキルだ。さらにその空間斬火は世界に一つしかないミューテーションスキルである。ついでにステータスに関しては全て三倍になっていた。



「見せてやろうトモヤ、これが私のミューテーションスキル――空間斬火だ!」



 力強く叫びながら、リーネはレッドドラゴンの懐に入り込むと剣を水平に振るった。24240という攻撃ステータスによって放たれる一撃はレッドドラゴンの腹を容易に切り裂く。


 だが、彼女の攻撃はそこで終わらなかった。


 リーネの剣が通った場所、つまりレッドドラゴンの腹部から突然爆発したかのように火柱が立つ。燃え盛る炎はレッドドラゴンを内部から燃やし尽くしていた。

 しばらくの間レッドドラゴンは痛みと熱さで悲鳴をあげるが、数十秒後、完全に力を失ったかのように身体を倒していった。


「これで終わりだ」


 剣を鞘に戻すと、リーネは満面の笑みをトモヤに向けた。

 こうして、レッドドラゴン討伐の依頼はトモヤが大した活躍を見せないまま呆気なく片付いたのだった。

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