第12話 最強
翌朝、陽光がさんさんと射す中トモヤは眠気と戦っていた。
隣にいるリーネはさすがと言うべきか、テントから出たばかりの頃は眠そうだったのに、今ではビシッと気を引き締めていた。
一夜を過ごし、トモヤ達の間で昨日の出来事は一旦忘れることにしようという取り決めになっていた。胸の奥に残る感情はともかく、浮ついた状態でレッドドラゴンと戦うわけにはいかないからだ。
「では、この子をよろしく頼む」
「はい、了解ですよ~」
マグリノ山脈の麓に辿り着くと、リーネはまずここまで共に来た馬を預けることにした。山道ではいない方が素早く動くことが出来るからだ。
数百年前まではフレアロード王国とクレイオ魔法国の間を移動するにはマグリノ山脈を超えるのが大前提だったが、それでは力を持たない商人達が移動することは困難だった。そこで土魔法に優れた者達が数年がかりでトンネルを作り上げ、今ではそこを通って移動することが出来る。
トンネルの出入り口には小さな宿場があり、そこでは移動中の商人やマグリノ山脈に挑もうとする冒険者達が集っていた。
昨日のうちにここまで辿り着ければあのような事故は起こらなかったが、もう既に手遅れな話である。
といった、目覚めてからここ二時間のことをトモヤはさらりと思い出し、今度こそマグリノ山脈に登ることになった。他の冒険者達とは違いトモヤ達が目指すのはレッドドラゴンの目撃情報がある山頂だ。早く進む必要があった。
通常ならば苦難な山道だが、トモヤ達の歩みは順調だった。両者共に軽装であるし、そもそも荷物は全てトモヤの異空庫の中に入れてある。山を手ぶらで登れるというだけで凄まじいメリットだった。
だが、そんな二人の様子に文句をつけてくる者もいた。
「ああん? おいそこのガキと姉ちゃん、そんな格好でどこいくつもりだ? 遠足でも行くつもりかよ!」
鎧などの重装の五人の男達と遭遇した時、その中で最もガタイのいい男が馬鹿にするようにそう告げた。残りの四人も同調する様にハハハと笑う。
その時トモヤが真っ先に思ったのは、ああようやくそれっぽく絡まれたな~ということだった。完全に嘗めていた。
「私達はレッドドラゴンの討伐に向かっている。何か文句があるのか?」
義理堅く返事をするリーネに対し、男達はさらに盛大に笑う。
「はっはっは! 正気かよ! お前らみてぇなのがAランク指定魔物に敵うわけねぇだろうが!」
「ふむ。なら君たちは何の目的でここに来たんだ?」
「決まってんだろうが、レッドドラゴンに怯えて逃げてきた魔物を討伐するためだよ! ほら、噂をすればなんとやらだ」
言われ、トモヤは辺りを見渡す。するとそこには体長2メートル弱の石の鱗で覆われたトカゲの魔物が十匹以上いた。囲まれている。
そして鑑定が自動発動。《ロックリザード》――Cランク上位指定。昨日戦ったブラドアスラよりも弱い。見るからに硬そうだが、防御力に優れた魔物なのだろうと推測する。
拳か、剣か、それとも魔法か。
どう戦うべきか思案するトモヤの前で、例の男が叫ぶ。
「はん、ロックリザードじゃねえか! 楽勝だぜ! お前ら雑魚はそこで実力の違いを見てやがれ!」
その声に従うように、五人は背中や腰から大剣などの武器を抜きロックリザードに向かう。
振り下ろされた武器は堅固な鱗に弾き返されるが、傷自体はしっかりと負わせていた。
「はっ、なんの! こんな魔物数撃で倒してやる!」
「へへっ、当然よ!」
それでも彼らは意気揚々と二撃目を放とうとする。
俺達の代わりに戦ってくれるとかもしかしてこの人達いい人じゃね? と場違いなことを考えるトモヤの側で、リーネは動きを開始していた。
「私だけでなくトモヤまでも愚弄するとは。いいだろう、望むところだ――空斬」
「ちょっとリーネさん?」
止めようとするトモヤだが、それは無駄に終わった。
リーネが力強く剣を抜き振り切った瞬間、男達が相手をしているロックリザードもそれ以外の敵も、総じて身体を真っ二つに斬られて崩れていった。
トモヤには既に見慣れた、剣術と空間魔法を合わせたリーネの必殺技だ。
「はあ!? どうなってやがる!?」
「私が倒しただけだ」
リーネの宣言に男達は驚きの表情を浮かべるが、リーネの剣を振り切った状態を見て納得せざるを得ないと思ったのか、マジかよ……呟きながら肩を落としていた。そんなわけねぇ! とごねると思っていたトモヤは少しだけ拍子抜けした気分だった。
「さて、これでよーく分かっただろう。私とトモヤが君達よりもよっぽど強いということを」
「……確かにアンタが強いのは認めてやるよ。けどそっちのガキは別だ! さっきも一歩も動けてなかったじゃねぇか!」
「何を言っている。それは今の戦闘にトモヤが出るまでもなかっただけの話で――ッ、トモヤ!」
「おいガキ! 後ろだ!」
何故かいつの間にかトモヤの実力について討論している二人だったが、突如として血相を変えそう叫んだ。
視線はトモヤの後ろに向けられている。反射的にトモヤも振り向き、そして目を大きく見開いた。
そこにいたのは怪鳥だった。
鑑定発動。《ワイバーン》――Bランク上位指定。巨大な茶色の体躯に鋭い牙を持つ、レッドドラゴンが現れるまでこの山の主だった強力な魔物。
そんなワイバーンが大きく口を開けながらトモヤに向け猛烈な速度で迫っていた。
躱そうにも、戦闘経験の少ないトモヤに冷静な判断は出来なかった。ただ茫然と後ろから聞こえる叫び声を耳にしながら、自分に迫る魔物を眺めるしかできず。
そして――――
次の瞬間、とうとう接触し爆発した。
トモヤではなく、ワイバーンの頭が。
「「「え、えぇー!」」」
その光景を見ていた者達は皆、リーネまでもが声を合わせて驚愕の声を上げていた。まさかすぎる展開だったのだ。
そんな中、トモヤはようやく冷静さを取り戻した頭で、身体にかかった血を清浄魔法で綺麗にしながら分析していた。
(もしかして、防御∞のおかげか?)
そのトモヤの分析は正しかった。
絶対に壊れない壁に勢いよくぶつかればどうなるかを考えれば早い。
今までトモヤは戦闘時にまず敏捷を上げ躱すことを前提にしていたため経験することはなかったが、防御∞の状態では相手の攻撃力が高ければ高いほどそのまま相手に衝撃が跳ね返るのだ。
絶対防御という名の最強の攻撃。それがワイバーンの頭が爆発した理由だった。
「ど、どうだ! これがトモヤの実力だ!」
自分も驚いていたにも関わらず、リーネは両腕を組み自慢げにそう告げた。
それに対して、男達はもう反論する気力もなく、
「「「ば、馬鹿にしてすみませんでした!」」」
声を合わせて、そう謝るのだった。
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