第4話金曜日
会社の定時のチャイムが鳴る。
「よっ、有友君。今夜は、宜しく」
と、崎はにこやかな顔である。
「今夜は、折田常務と飲み会だから、金の心配は要らないな」
と、有友は帰り支度をし始めた。
2人がエレベーターで1階のエントランスホールに着くと、折田常務は既にタクシーを呼び、乗り込んでいて、後部座席の窓を開き、
こっちこっち
と、手を振っている。
2人は足早にタクシーに乗り込んだ。
助手席には、崎が座った。やはり、サラリーマンだ。
下っ端は、助手席なのだ。
居酒屋に向かう道中、崎は折田常務と有友の関係に付いて尋ねていた。
「崎君。実は、有友君と同じ高校出身者でね。20年前の面接で、知ったんだ。身体はまだ、痩せていてね、カッコ良かったんだけど」
折田は、隣の有友の腹を見た。
「わ、私も有友君が痩せていた時代を知ってます。しかし、同じ高校出身者と言う事だけで合格したわけでは無いですよね?」
と、崎は有友もコネなのか確認した。
「崎君。勘繰りなんな。有友は、入社試験は3番目だったんだ。英語が満点でね。それで、他の連中と話し合い、検査課に配属したんだよ。崎君、君は6番目だった。数学がトップだったな。たしか。だから、2人に検査課の未来を託したんだ。実は私も、検査課出身でね。だから、コネだの何だの無能な人間を採用する林専務が引退をするのを機に、会社を一掃するんだ」
崎は軽くたしなまれて恥ずかしかった。
「折田常務は、人事部に働き掛けてその人材に見合う人事異動を実行しようとしているんだ」
有友は、崎に折田常務のプライベートの話しをし始めて、酔っ払って露天風呂に入ったら、そこは池だったエピソードをしたら3人は笑顔に包まれた。
ようやく、居酒屋に辿り着く。
早水荘。
安く飲食店出来て、温泉もあり、宿泊出来る田舎の宿である。
3人は先ず、風呂に入りさっぱりした所でビールを飲み始めた。
鯉の洗いとビールは格別だ。
「さ、有友君。水谷先生に恋心を抱く若い衆は一体誰なんだい?」
折田は既に顔を赤くして、有友に尋ねた。有友は、咳払いしてから、
「眼の前におります」
と、崎の肩をポンポンと叩いた。
「……崎君。君かい?」
「は、はい」
「冗談はヨシコちゃん」
「……」
「……」
「ま、ま、2人ともビールを飲みましょう」
と、有友が言うと、
「あの女は、辞めておけ」
「な、何故ですか?」
「話は長くなるから、短く言うと、婚約者を病気で亡くした過去があるんだ。だから、それ以来、男性に興味を持たなくなってね。痴漢を半殺しにしたり。だから、無理だと思うよ」
そう言うと折田は、タバコに火をつけて煙を深く吐いた。
「や、やっぱり、無理か〜」
崎は落胆した。
「折田さん、友達ならどうですかね?」
と、有友。
「友達?……そりゃ、いいアイデアかも知れない。今度、さり気なく飲みに誘ってみるよ。私は、たまに水谷ちゃんと飲む事があるからね。君んとこの女の子を誘えば、水谷ちゃんも緊張しないで済むだろから。……この辺で良いかな?さっ、酒を飲むぞ!」
有友は折田の提案は悪く無いと思った。そして、崎の横顔を見ると口角が少し上に上がっていた。
3人は散々飲んだので、早水荘に一晩宿泊した。
さ〜て、崎は水谷先生のお友達になれるのか?
君は僕を裏切らない 羽弦トリス @September-0919
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