第3話折田常務と

「おっす、有友君」

と、有友に声を掛けたのは折田常務であった。

「お疲れ様です。しゅんちゃん」

「有友君、この会社内では俊ちゃんはまずいだろう」

折田常務は有友に缶コーヒーを渡して、喫煙室へ向かった。

喫煙室には、2人だけ。

「有友君、今度の人事なんだけど、あの総務課の柴垣はどこに飛ばそうか悩んでるんだ」

と、言って缶コーヒーのプルタブを引き、一口飲んだらタバコに火をつけた。

「折田さん。アイツ、検査課に、回してもらえませんか?」

「何故?」

有友は頂きますと言ってから、缶コーヒーを飲み始めた。

「柴垣は、頭が弱いくせに何で総務課課長なんですか?」

「それは、元専務の林の親類だったからだよ。僕はそれが許せなくてね。年度末で、林は会社を出るから、能無しの柴垣を身の丈に合った仕事に就かせようと思うんだ」

有友はタバコを吸いながら、

「折田さんは、アイツどこの専門学校で何を専攻していたんですか?」

折田は笑いながら、

「有友君。アイツは専門学校中退だよ!多分、理学療法士のコース。うぷぷ」

「へぇ〜、良くそんな学歴の人間が課長になれましたね。コネってバカしか居ませんからね」

2人は喫煙室で話し合い、検査課の主任に降格される事になった。

主任なんて、最も必要の無い役職者である。崎や若い衆も柴垣を罵るだろう。だが、彼はマイホームのローンが25年残っている。退職は出来ない。


「ところで、折田さん」

「なんだい?」

「家の産業医の水谷先生は独身ですか?」

折田は不思議そうに、

「あぁ〜、恵ちゃんか。恵ちゃんは独身だよ。何で何で?」

「ちょっと、知り合いが水谷先生に恋をしちゃって」

「あ〜、無理無理。恵ちゃんは極真空手の生徒でね、痴漢を半殺しにした事があるんだ。それから、男は誰も近付かなくなったんだ」

「そうでしたかぁ〜」

「おっ、もう昼休み休みだ。有友君、今度その男の子を私に紹介しなさい。今週の金曜日、空けといて。飲みながら相談に乗るから」

「分かりました。ありがとね、俊ちゃん」

2人はそれぞれの持ち場に戻った。

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