第2話崎の想い人は……

5人は居酒屋に向かった。

店は金山総合駅の2階にある、海鮮居酒屋「嘉文かもん」。

有友の奢りなので、全員は遠慮なしにツマミを注文した。

有友、さき、兼古は生ビール。柴川、小豆沢は生搾りレモンサワーで乾杯した。

「いや〜、柴垣ってのはうぜぇ〜男だ」

と、有友が言うと、

「アイツ、弱いヤツに威張る馬鹿だしな。どこの大学だっけ?」

と、崎が言うと、

「アイツ、専門学校卒なんだ」

「専門は?」

「知らねぇ」

「あんな、馬鹿が課長ってこの会社も終わりだな。さくらちゃん、七海ちゃん災難だったね」

と、崎は女の子に言葉を掛けた。

「係長が居なかったら、私たち1時間説教される所でした。同期の女の子は、あの馬鹿にホッチキスの留め方が悪いだけで、1時間説教されたらしいです」 

と、柴川が言う。

「いいか、説教は必要だからするもんじゃない。説教が好きだからするんだ。今度、何か言って来やがったら、アイツにカーチェックさせてやる!」

有友はビールを飲みながら、怒っていた。

「でも、有友さん。相手は課長ですよ!勝てますか?係長で」

と、兼古が尋ねる。

「なぁ〜に、心配いらねぇよ。折田常務とは飲み仲間なんだ。折田さんは、会社を改革しようとしていてね。今度、大きな人事異動がある。その時、柴垣は降格人事の対象になるって話だよ」

「折田常務と飲み仲間……、凄いですね」

「同じ高校の卒業生なんだ。凄くないよ」

兼古は、ハイボールを注文した。崎は芋焼酎のロック。

有友はまだ、ビールだった。

マグロユッケを女の子達が食べていた。

「崎君。君はまだ結婚しないのかね?」

崎は、グラスの中の氷をマドラーでつつきながら、

「それが、まだ出来ないんだ。彼女すらいない。兼古、君には彼女いるよね?」

「はい。います。付き合って3年目です」

「崎さん、兼古先輩の彼女、モデル並ですよ」

と、小豆沢が言う。

「崎君、好きな女性社員はいるのかな?」

「……い、いないでもない。でも、格差が」

「誰だい?君の想い人は?」

崎はロックをあおり、

「産業医の水谷先生」

「み、水谷〜?あの、32歳の女医か〜」

「だ、だから収入格差で、釣り合わないんだ」

「崎さん、恋愛に格差なんて関係ないですよ」

「そうそう、さくらちゃんの言う通り」

女性陣は崎を励ます。有友はニヤニヤしていた。

「崎君。実はまだ、周りに漏らしちゃいけないけど、今度の人事異動で君は検査課の課長に昇格なんだ。そして、兼古君は係長、小豆沢ちゃんは主任、さくらちゃんはもうちょい頑張ってね」

一同は驚きで一瞬静かになった。

「じぁ、有友君は?」

「僕は営業本部長だよ。検査課の仕事ぶりを元に仕事を取ってくるよ。検査課には新人5人が配属されるから、さくらちゃんはその5人の先輩になる訳だから、頑張ってね。皆んな、まだ内緒だよ」

有友以外の人間は、ガブガブ酒を飲み始めた。

嬉しそうだった。

「課長になったら、いくら位の給料になるのかな?」

と、崎が呟くと、有友が耳打ちした。

崎は目を丸くして、

「そ、そんなに?……収入格差はだいぶ縮むな」

皆んな、楽しい酒を飲んで、また翌日からの業務に差し支えない様に、帰宅した。

崎の想い人は今頃、何をしているのか?と、有友は考えていた。

この恋は成就させたいと。

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