弟子ちゃんは正義

 黒髪のナツは、酒場で酔いつぶれておりました。

(この場合は場酔いなので未成年飲酒を推進しているわけではない)

「あぁ~~~仲間ができなぁ~~い!!!」

「おうおうどうしたナツ坊。また駄々こねてあいつらを困らせてねぇだろうな?」

ガタイのいいおっさんがナツに話しかけてきました。

おっさんは転生したての彼らを導いてくれた、天使のような方でした。

ガタイがいいしおっさんだけど天使でした。名前はテンシでした。

「んにゃ~~追放されたっていうか追放してもらったっていううか~~~?でも誰も俺の新しいパーティー入ってくれねぇんだよぉ~。」

「そりゃ加入条件が”クレータードラゴンの討伐経験あり”じゃなぁ…。」

クレータードラゴン。

隕石とともに現れ、視認した瞬間に対象を含めた地形ににクレーターが出来るほどの重力攻撃をする。

パーティーは死ぬ。

だから討伐方法は視認される前に超スピードで殺すか認識外から遠距離で殺す。

「うちのパーティーはみんな出来たんだぜ~?」

「坊主のギルドは最強格だっただろうが、むしろなんで抜けたんだかねぇ。女の子もよりどりみどりだしよぉ?」

「だってハーレムよぉ…」

ピピッ。

ナツの頭上に通知のマークが出ました。

「お、坊主。生意気にも条件に合うやつが加入したいみたいだぜ?」

「んにぇ~~。」

うねうねしながらナツは、歩いてくる加入希望の相手を見ました。そこには


「む、師匠。連れ戻しに来た。」

一言でいえばケモミミロリ。そんながいたのでした。


弟子ちゃんとは。かわいいである。

弟子ちゃんの名はディシアという。奴隷だったのをナツが買い取ったのだ。名付け親もナツである。安直。弟子だからディシア。

そして弟子ちゃんは、最強である。(ナツ社比)

弓、魔法、剣、暗器、火器、盾なんでもござれのオールラウンダー。

同じオールラウンダー職であるナツの正式な弟子にして、完全上位互換なのであった。


「ディシアじゃん~、お前は立派に育ったな…!」

ナツはディシアをわしゃわしゃと撫でまわしました。

「師匠いつもそればっかり。」

「んでもぉ~俺に今更何の用だよう~…」

「師匠を連れ戻しに来ただけ。」

「なあんでさ~!おれは戻らないんだぬぁ~!まだ負けてないっ!」

「今日中にメンバーを集めるなんてもう無理。ハルにドラゴン肉と土下座で許してもらお。」

「やだやだ~~~い!!!!」

じたばたと駄々をこねながら、幼女に引きずられて酒場を出ていく10代男性の姿が、そこにはありました。


「俺はまだ…まだ負けてないっ!」

「師匠そろそろ自分で歩いて。」

街道を幼女に引きずられるナツである。滅茶苦茶に注目の的だが、ナツだとわかると「またか」というふうになり、すぐに目をそらされる。

「だいたい、クレータードラゴンの討伐経験があるの、この街のギルドでは”くそ王国滅べ”だけ。」

”くそ王国滅べ”は、この世界に来たばかりのハルとナツが、転生者なのにやたら国から雑に扱われたこと(最初の所持金として二人分の装備ぎりぎり買えるか怪しいぐらいのものを渡されたとか)に対する嫌味を込めたクソギルドネームである。当初はマジで冗談のつもりだったのだが最強のギルドになってしまったがために、最近では「ほ、本日の依頼は”くそ王国滅べ”へのもので…」と王国の者が顔を引きつらせながらやってくる始末である。

「えぇ~~むぁじでぇ~~~???この国俺らいなかったら20回は滅びてない~?」

「色々倒しすぎて若輩者の経験を奪い去っているのを、師匠は少し自覚した方がいい。」

「それは否定できないかも~~~ってじゃあ俺のせいか~。なんか泣けてきた…」

年を取ると涙もろくなるねぇなんて言いながら、ナツは視界のにじむ目をぬぐう。

青空はきらりと光った。

その光は徐々に、こちらに迫るように大きくなっていった。

「…噂をすればってか。」

「あんな募集貼った師匠のせい。」

二人は空を見上げる。

隕石…正しくは隕石のように丸まって眠るクレータードラゴンが、空から降ってきたのだ。

気づいた街の人たちは大慌てで騒いでいる。兵士たちが避難させていくが、もつれたり転んだり押したり駆けたり喋ったり、大混雑。

「これは街に落ちるパターンか?」

「まっすぐ降ってくるならこないと思うけど、今日は風が強いから、多分。」

ナツはゆらりと立ち上がると、腰に携えた剣を抜きます。

それを見たディシアも、剣を取り出します。

「ディシアの今のメインは爪だろ?」

「師匠が剣を使うなら、こっちも合わせるだけ。プランは〈空中分解〉でいい?」

「話が早いね、マジ最高だよ弟子ちゃん。」

二人は足に力を籠め、構えます。

「弟子ちゃんは、やめてください…!」

そして二人は、スーパーボールみたいに街の壁を蹴り、空へ跳びました。

壁を蹴り、屋根を蹴り、空を蹴り、時に互いを蹴り、風の魔法で加速し、地の魔法で足場を作り。

熱く燃えながら落ちてくる竜に切り込んでいきました。


「絶・天!!」

ナツは熱さをものともせず、丸まった竜を8分割にしました。

そこにすかさずディシアが飛び込み、

「砕・晶!!!」

竜を…砂利と同じぐらいの大きさになるまで、一瞬で切り刻みました。

竜だった砂利は上空の強い風にあおられ、灰となりながら飛ばされていくのでした。



「師匠は仕事が雑。あの大きさの肉片が街に落ちたら大変だった。」

「あれもドラゴン肉にできるんじゃないかな~とか考えてたんだぜ、これでも。」

「クレータードラゴンの肉は猛毒。知ってたでしょ」

「ふっ……。」

ナツは上空から落ちながらも、かっこつけてごまかしました。

そして。

「じゃ。」

空を蹴り、近くの森までぶっ飛んで逃げていくのでした。

「俺はハーレム、諦めね~からな~!!!」

その去り方は、小物の悪役みたいでした。

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追放されたらハーレムになれるわけではないのか!? 箱屋 @hakogiya85

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