第27話 アリシア、孤児院を訪問する

「ナタヌー、ひさしぶりの帰宅だけど緊張する?」


「い、いいえ! わたわたわたわた私はだだだだ大丈夫ですっ!」


 わかりやすくめちゃくちゃ緊張してるじゃないの……。

 右手と右足が同時に出ていて、前世の記憶に出てくるロボットみたい。


≪それはロボではなくてゼンマイ仕掛けのおもちゃですよ。ロボはそんな動きはしません。ロボをバカにしないでください!≫


 あ、ロボが怒った。

 ロボなりのプライドってやつ?

 エヴァちゃんは滑らかな動きだもんね。


≪私ほど美しく動けるロボは他にいないかと。ローラーシューズショーにも出られます≫


 美しいY字スピン、からのアップライト・ビールマン!

 姿勢制御も完璧だし、ポーズの移行もスムーズでめっちゃしなやか!


「良いじゃないのー! ちょっとここに空き缶置いておくから、その技で小銭でも稼いでおいてくれない? わたしとナタヌは孤児院に挨拶に行ってくるからさ」


≪わかりました。おまかせください。ついでにラダリィさんも貸してください≫


「OK。ラダリィ、あとよろしくねー」


「わ、私もですか⁉ 私はローラーシューズショーはちょっと……」


 ラダリィが突然振られて慌てふためいている。

 いつも冷静なラダリィさんも、こういう角度からドッキリを仕掛ければかわいい反応するんだー♡


「ラダリィはこれに着替えてニコニコしながら空き缶の横に立っていれば大丈夫だからね♡」


 と、幻のアイドルユニットの制服を手渡す。


「これは……人前で着て良い服ではないです……」


「失礼な! 由緒正しいアイドルのステージ用の衣装だよ! 今頃レインお姉様はこれを着てソロでがんばっていらっしゃるんですよ⁉」


 たぶんだけどね。

 ヤンスが一緒に着たりしていなければ……。


「ですが肌の露出が多すぎて……」


 こんなことで恥ずかしがるなんて、プロ意識がなってないなー。

 

「じゃあいいよ、こっちで。これなら着られるでしょう?」


 スカートは膝よりちょっと上くらいの丈。

 肩出しだけど胸元はリボンで隠れているし、清楚系のアイドル衣装だよ。


「こ、これならなんとか……」

 

「じゃあお願いね♡」


 ふっ、チョロいな。

 一度無理めな衣装を見せてから、少し露出を減らした衣装を渡してあげれば、「これならさっきのよりはマシ」という心理が働いてしまうわけですよ。ハードルを下げられたことで、冷静に考えれば着る必要のないアイドル衣装を自ら進んで手にしてしまう。『ドア・イン・ザ・フェイス』というテクニックなので、ぜひ覚えて帰ってくださいね♡


 エヴァちゃん、エヴァちゃん。ちょっと良い?


≪なんでしょうか≫


 ラダリィの恥ずかしがっている写真、お願いね!


≪合点承知の助です。エチエチハプニング付きでお届けします≫


 さっすがー! エヴァちゃんわかってるぅ♡


≪ふっ、アリシアの考えることなど、考える前からお見通しです≫


 わたしたち一心同体♡


「何か嫌な予感がします。やはりこの衣装は……」


 ヤバい! ラダリィのスキル外スキルが発動しそう!


「な、ナタヌ! わたしたちは孤児院に急ごう! じゃ、そういうわけだから、2人ともしっかり頼むよーーーーーー!」


「えっ、あっ、きゃっ⁉ きゃ~~~~~~~~」


 ナタヌを担ぎ上げて、その場を全速力で離脱!

 ラダリィに声をかけられる前に光の速さで逃げるに限る!



「ふぅ……ここまでくれば一安心だね。って、もう孤児院の前に着いちゃった」


「なんで急に……抱きしめるなら心の準備をさせてくださいよ……」


 地面に下ろしてからもナタヌが頬を赤らめてモジモジしている。

 

「いや、今のは緊急離脱以上の意味はなくてね……。あ、ほら! 孤児院に入るよ! 身だしなみは大丈夫⁉」


「えっ、あ、はい! 大丈夫……だと思います!」


 ナタヌは頭を小刻みに振って気持ちを切り替えている様子。

 

「ここを離れてからもう6年くらいになるんだもんね。みんな元気だと良いね」


「そう、ですね!……はい!」


 少し不安そう。

 オーナーさんたちに何かあれば連絡は来る手筈になっているけれど、子どもたちがどうなっているかまではわからないもんね。6年だとけっこう入れ替わっているのかな。通常なら10~15歳で養子に出ることを考えると、ナタヌのことを覚えている子は、もしかしたらもういないかもしれない……。当時9歳の子で、今15歳か……。ギリギリだ……。


 開いたままの門をくぐり、本館の入り口前に立つ。

 見た目は……ボロボロのままであまり変わっていない。あれからそのまま6年経った。そんな感じだ。外に出て遊んでいる子どもたちが見当たらない。ちょうどお昼時だからかもしれないね。


「よし、行こう! ナタヌがノックして!」


「はい!」


 元気よく返事。一瞬だけためらった後、古びたドアノッカーをゆっくりと3度叩く。


 しばらく待つと、中から走り寄ってくる足音が聞こえてきた。


「は~い」


 若い女性の声だ。


 ナタヌ、そんなに緊張しないで。わたしがついているから。

 緊張でカチコチに固まっているナタヌの手をそっとつないでドアが開くのを待った。 

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