第24話 アリシア、柱に騙される

「そこで私は言ったんです!『殿下! それはアリシアさんの手ではなくて大根ですよってね!』」


 ナタヌが日乃本酒を並々と注いだコップを片手に何かを熱く語っている。


「そんなこともあったな。でも実際は大根じゃなかったよな」


≪私が作ったアリシアの手のような大根、に見せかけたゴボウでした≫


 そんなことある?

 共通の話題みたいに話しているけれど、わたし、ぜんぜん知らないエピソードなんですけど?


「殿下はお酒に弱すぎます! もう少し鍛えないとこの先、王様としてやっていけませんよ!」


「だから俺は王にはならないとあれほど……」


「殿下はまずはお酒の飲み方を学びましょう! 私が教えてあげます!」


『ナタヌ、楽しそうな話だが、それはまたあとでだ。そろそろ休憩を終わりにして、これからの段取りについて話をしよう』


 旅の思い出話(?)に花が咲き、ナタヌが追加のお酒を取り出したところでスーちゃんがやんわり止めに入った。


 飲まないスレッドリーに対して、酔っ払いたちの絡み酒が始まってしまうところだった……。

 さすがはスーちゃん。

 ナタヌ、今は休憩時間だからね。宴会は……せめて夜にしようね。


 って、ナタヌがすごく不満そう。

 なんですぐにお酒飲みたがるのよ……。


「わたしたちは遊びに来たわけじゃないからね! それに、このあと孤児院も訪問しないと」


「そうでした! 忘れてなんていませんよ!」


 完璧に忘れてたでしょ。

 お酒飲んでからさすがに孤児院にはいけないでしょ。


「アリシア、ナタヌ様。その話はそれくらいで。スークル様、お話の続きをお願いいたします」


 ラダリィが場を仕切ってくれる。

 助かるよー。

 エヴァちゃんがいるとつい話が脱線しがちだからね。


≪私は何も言っていません。さすがに濡れ衣ではないでしょうか≫


 そう? エヴァちゃんってすぐにふざけて横道にそらそうとしてくるもんねー。


≪今回ふざけているのはナタヌさんです。私はナタヌさんの静脈にほんの少しだけアルコールを注射しただけで何もしていません≫


 してるじゃないの!

 めっちゃしてるじゃない!

 だからナタヌってば、珍しくこんなに饒舌だったのね……。

 結局いつも犯人はエヴァちゃん!


≪地元に帰ってこられて、なぜか緊張されているようでしたから、どうにか緊張をほぐしてあげないとと思いまして≫


 それはとても良い気遣いだと思うけれど、アルコールを注射するのはダメ! 早く分解してあげて!


≪ですが素面に戻ると、ただの陰キャプリーストに戻ってしまいます≫


 陰キャプリースト言うな!

 物静かなのに脱いだらすごい! テンションが上がると早口でしゃべり出す!

 それがナタヌのかわいいところでしょう!


≪テンプレのような陰キャプリーストですね。アリシアは陰キャが好きなのですか?≫


 そういうことではなく……。

 そうねー、普段から大騒ぎする人よりは物静かな人のほうが落ち着くっていうのはあるかもねー。


≪脱いだらすごい?≫


 それ大事!

 ぶかぶかなローブで隠された豊満なボディ! あどけない少女のような見た目なのに、ギャップがたまらない!


≪完全にエロオヤジの思考です≫


 うっさいなー。

 人の趣味にケチつけないで!


≪ラダリィさんのように脱がなくてもすごいというのはダメなのですか?≫


 それも最高!

 顔が地味目なのに体が100点! いや、120点を上げちゃおう!

 ラダリィさん最高!


「アリシア、何か……私にご用事ですか?」


「え……何もない、けど?」


 あっぶなー。

 おっぱいガン見していたのに気づかれた⁉

 視線を悟られないように偽装していたはずなのに……ラダリィって妙に勘が鋭いよね……。


≪ラダリィさんがどんなスキルを使用しているのか……私にも探知不能です。ですが確実にアリシアの視線に気づいていらっしゃいましたね≫


 やっぱりスキル外スキルってやつなのかなー。

 普通の人間なのに。


「アリシア? スークル様のお話を聞いていますか?」


「えっ、あ、はい。……なんだっけ?」


 ぜんぜん聞いていませんでした!

 エヴァちゃんがすぐに話を脱線させるから!


≪濡れ衣です。アリシアが勝手にエロ妄想していただけでしょう≫


 妄想くらいいいでしょ!

 実際に触ったりしているわけじゃないんだから!


≪私の体ならいくら触ってもらってもかまいませんよ。どうせ人工物ですから、そこの柱を撫でるのとそう変わりません≫


 なるほど……。

 柱を撫でるのは……普通のことよね。

 ふむ……。じゃあ、別にみんなの前で撫でても問題ないか。


≪あっ♡≫


 いや、めっちゃ注目されたじゃない……。

 なんで柱さんがそういう声出すの……。


「アリシア……どうしましたか? 急にエヴァ様の体を撫でまわしたりして……酔っぱらっているのですか?」


「違っ! これはエヴァちゃんが、自分は柱と同じだからって……」


「アリシアさん……」


「ナタヌもそんな目で見ないで!」


「柱……柱はいいよな。俺もたまに撫でたくなるよ」


「いや……無理に理解を示そうとしなくて大丈夫だから……。わたしが悪かったです。真面目に話を聞くので進めてもらっても良いですか……?」


 くぅ……。

 完全におかしな子扱い……。

 エヴァちゃんのこと恨むからね!


≪私は柱。撫でまわしても問題ないただの柱です≫


 もう黙っていてっ!

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