第23話 アリシア、スーちゃんの神殿に到着する

『アリシア、遅かったな。待ちくたびれたぞ』


 神殿に着くなりスーちゃんが声をかけてきた。

 そう?『ダーマス』に入ったのは予定のスケジュールより1日早いよ? ってー、そんなことより……女神様が自分の神殿で受付係みたいなことするのやめて? ちゃんと奥の礼拝堂にいてよね。


『道中トラブルはなかったか?』


 スーちゃんが若干口角を上げながら笑う。


「あー、その顔! 絶対見てたんでしょー? えーえー、トラブルだらけでしたよ! 全部トラブルでした!」


 だいたいは楽しかったけど!

 あとは……やっぱり少し悲しかったけど……。


『それは何よりだ。お前たちも自分の家だと思ってくつろぐがいいさ。別室を用意してあるから、一度休んでから今後の話をしよう』


「スークル様! ありがとうございます!」


 ナタヌが真っ先に手を上げる。

 さすが『ダーマス』出身のナタヌ。ホームに帰ってきて、元気いっぱいだ!


「私たちも……神殿に入ってよろしいのでしょうか……」


 と、ラダリィが不安そうに眼を泳がせている。「スークル様の信徒ではないのに」という言葉が省略されていそう。


『アリシアのパーティーメンバーだろう。それであれば、オレの家族も同然だよ』


 さっすがお義姉ちゃん♡

 そうだよー、ラダリィもナタヌもスレッドリーも、それにエヴァちゃんもわたしの大事な仲間だからねー。やさしくしてね!



「おおー、神殿の中にこんな客間があるのねー! おっしゃれー♪」


 わたしたちが連れて行かれた客間は、とってもきらびやかな内装の広間だった。

 床も柱も水晶でできている。外の光を反射しているのか、照明器具がないのに部屋の中はすごく明るい。テーブルやソファやほかの調度品も、王宮で見たのよりもずっと豪華なものばかり。神殿の古びた外観やシンプルな受付とはずいぶん印象が違うね。


『オレはあまりこういうのは好かんのだが、ここの司祭がな……』


 ヤレヤレとため息を吐く。


「こういうのって司祭様の趣味なんだ? 女神様の意向を汲んでなんやかんやするものかと思ってたよー」


 聖職者なのに意外と俗物的っていうか、貴族趣味っていうか……。


『オレはこういうのはよくわからんのでな。司祭に任せることにしているんだ。舐められないように適当にやってくれ、とな』


 舐められるって……あなたはヤンキーか何かですか。

 女神様をペロペロするのはわたしくらいなものですよ?


≪それは誇れることではありませんよ≫


 いいの! わたしは特別なの!


「本当に美しいです……」


「そうか? 女神の神殿にしては、少し地味じゃないか?」


 これで地味、だと……。さすが、王子様は言うことが違うね。


「殿下の趣味は少々派手過ぎます。何かあればすぐに金細工……」


 金!

 スレッドリーも金細工が好きなの?

 ヤバッ……わたしと同じだ……。

 わたしの純金好きがバレないようにしないと……。


『たしかアリシアも金が好きだよな。たしか祭壇も純金で作っていたし』


 あー、速攻でバラされた!

 スーちゃんが、ニヤニヤしてるぅ! わざとだ! これ、わざとだわ! 性格わるぅ!


「べ、別に金なんて好きじゃないし……。たまたま落ちてたから使っただけだし……」


「そうか! アリシアも金が好きか! 純度の高い金は美しいよな!」


 めっちゃ食いついてきたー。

 共通項を見つけて、スレッドリーが目を輝かせているよ……。

 必死に話題を合わせようとして……引くわー。


「ま、まあ……祭壇は神聖なものだし、純度の高い金を使ったほうが失礼にならないかなって……それだけだからね!」


「将来、俺は自分の部屋を金で作りたいと思っているんだ」


 それはさすがに心が休まらなそうだし、趣味悪い……。


「純金の部屋で一緒に暮らそう!」


 えっ、普通に嫌なんですけど……。


「だったら私はアダマンタイトの部屋を作ります! 私の部屋で一緒に暮らしましょう!」


「アダマンタイト……? 見たこともない素材だしそれもちょっと……」


 ナタヌも無理やり対抗しなくて良いからね?

 普通の家を建てて、普通に暮らしたほうがたぶん楽しいよ。


≪では私はダイヤの家を創りましょう≫


 ゴツゴツしていて住みにくそう。

 あとすぐ燃えそう。


「ラダリィさんはどんな部屋を作りますか⁉」


 と、ナタヌが気を遣ったのか、静かに微笑んでいるラダリィに水を向ける。


「わ、私ですか? 私は……夏は涼しく、冬は暖かい。そんな部屋があれば良いなと思っています」


「はい、ラダリィの部屋を採用! わたしはラダリィと暮らすことにします!」


 普通が1番!


「そ、そんな……」


「純金のほうが良くないか?」


≪ではオリハルコンの部屋を≫


 非常識な人たちはちょっと黙って! 常識的なラダリィさんを見習ってちょうだい!


『お前たちは楽しそうでいいな。いつまでも変わらずアリシアのことを助けてやってくれよな』


 スーちゃんが目を細めて笑っている。

 まあ、こうやってワイワイしながら旅をするのはとても楽しいですけどね。


 いつまでもずっと、かー。

 ホントにそうね……。

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