第22話 アリシア、再びダーマスに到着だーます!

『キモ王子と行く』馬車の旅もいよいよ目的地へと近づく。

 ナタヌの故郷でもある北の辺境の地にある『ダーマス』という街だ。


 パストルラン王国の大使として、謎の国(国名すら知らない)との国交を結ぶべく、調印式に臨む。


 平民のわたしが大使だってさー。

 本番が近づけば近づくほど、「ホントに?」って気持ちでいっぱいになる。もしかしたら壮大なドッキリの可能性も? いや、さすがにないかー。殿(ヤンスの顔をしている)は実在したし、事故で謎の異空間に取り込まれて、こっちの時間と5年半もズレたりしたし。


 国交ねー。

 肉体を持たない謎の集団。

 霊体? 幽体? 理屈はわからないけれど、人類が進化した姿らしい……けれど、なぜか旧来の肉体を持つわたしたちに興味を持ったらしい。

 お互いに情報交換できたらいいね、ってことだとは思うんだけど……不安。

 言葉は通じるみたいだから平気なのかなー。


≪いざとなったら私が出て行って話をつけます≫


 絶対ややこしくなるから、ロボは静かに黙っていてね♡


≪アリシアを守ります! ふんす!≫


 鼻息……鼻もないくせにそういうの良いからさ。

 スーちゃんも一緒だし、武力的な方面は間に合ってます。


≪私は何をすれば……≫


 さあ? 馬車でも磨いていたら良いんじゃない?


≪雑用係ですか≫


 静かに黙っていられるなら、ついてきてもいいよ。


≪一生しゃべりません≫


 ふーん。

 でも肉声を発していないからセーフ、みたいな屁理屈は通用しないよ?


≪すみませんでした。負けを認めます≫


 潔いんだかバカなんだかわからないね……。

 まあ、ホント騒がないでよね。失敗すると国の一大事になるし。これはフリじゃないよ?


≪というフリ、ですね?≫


 怒るよ。


≪TPOの鬼と呼ばれたこともあるこのエヴァにお任せください≫


 誰が呼んでるのよ、それ。

 あなたほど空気が読めないのはスレッドリーくらいなものよ?


≪ということは、アリシアと私と殿下で3トップですね。もちろんアリシアがセンターです≫


 誰が1番空気読めないって⁉


≪そろそろ『ダーマス』が視界に入ってきました。みなさんを起こしたほうが良いのではないでしょうか≫


 まだ話は終わってないんだけど!

 まあいいわ。

 この件については、あとでじっくり話し合いましょう!



「みんなー、そろそろ『ダーマス』につくよー。ちょっと空気に潮風が混じってきたかもー!」


 客車との連絡窓をガンガン叩き、3人を起こしにかかる。

 窓を開けて潮の匂いを感じようよー。

 ナタヌは懐かしいんじゃないの?


「……はい、そろそろですね。起こしていただきありがとうございます……」


 少し寝ぼけ眼のラダリィがゆっくりと起き上がる。

 スレッドリーとナタヌはまだ眠り込んだままみたい。


「おはよう。急がなくて良いけど、そろそろ2人を起こしてね。あと1時間以内には到着だよー」


 ここからは少しペースを落として走りますからね。

 ほかの馬車や徒歩の旅行者何かもちらほらいるし。安全第一!



* * *


「『ダーマス』に到着だーます!」


「なんですそれは?」


 ラダリィが冷たい視線を投げかけてくる。


「いや、なんかね……『ダーマス』にきたら必ずやらないといけない儀式、みたいな感じ?」


 ただのダジャレと言うなかれ。ここに来るとなんとなくそんな気持ちになるんだよね。不思議な街ー。


「ナタヌ、ただいま戻りました!」


「おかえりなさい、ナタヌ」


「アリシアさん、ただいまです!」


 ナタヌがうれしそうに笑っている。


 ひさしぶりの……6年振りくらいの故郷かな?

 どうだろう、『ダーマス』の街は変わってるかな?


「とりあえずスーちゃんの神殿に行くとして、その後は、孤児院に挨拶に行こうか」


「はい! お願いします!」


 オーナーのおじいちゃんたち元気だと良いね。

 まあ、年齢的に言えばまだ現役だとは思うけど。資金面では安定したはずだし、きっと従業員の人もたくさん雇えているだろうし、もうプチ引退して孤児院経営だけになっているかもね。



「しっかしあれだね……。やっぱりというかなんというか……スレッドリーがいたら、細かい身元照会みたいなのがぜんぜんなくて、すぐに街に入れてもらえる……」


 こんなことなら、普通にエイミーンさんも入れたかも……というのは絶対に口にしない。もうスレッドリーが決断したことだから。それを尊重する。2人はしあわせになった。それでいいよね!


「こちらが『ダーマス』の街ですか。ところでナタヌ様。スークル様の神殿はどちらですか?」


 ラダリィが物珍しそうに街並みを観察しながらナタヌに話しかける。


「え~と、たしか……この大通りをまっすぐ行って、噴水の前を右に曲がったところに神殿があったと思います!」


 ふむふむ。

 とりあえず向かってみましょう!


 というわけで、スーちゃん!

 これから行くねー!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る