第21話 アリシア、煽り散らかされる
≪ナタヌさん、ラダリィさんの殿下に対する恋愛ポイントが50上昇したことを確認しました≫
やだー!
そういうのやだー!
2人ともやめてよー!
パーティー内恋愛禁止!
≪直接、後ろの客車に乱入してそう言ったらいいじゃないですか≫
でもでも……。
≪ヘタレ≫
だってだってぇ! なんか3人で良い雰囲気だし……。わたしがあそこに参加したら、「何コイツ」って思われるんじゃ……。
≪そこで飛び込んで空気をぶち壊さないと、1人だけ置いていかれますよ≫
そういうのって空気読めない子がすることじゃない? 嫌われたくないし……。
≪ウジウジしてますね。アリシアらしくない……でもむしろアリシアらしいですね≫
どういう意味よ……。
≪いつも強気のわりに、大事な時にはヘタレるダメダメフラれ虫≫
そ、そんなにひどく言うことないじゃん……。
さっきのはタイミングを逃しただけで……。ちゃんと大事な時はがんばるもん!
≪そうですか。今ががんばり時だと思いますけれど違いますか?≫
違わない……かもしれない……じゃないかもしれない……のかもしれない……。
≪はっきりしませんね。ですが私はそれでもかまいませんよ。フラれ虫のアリシアを独占できますし≫
わたし、フラれるの?
まだ答えを出してないのに?
≪それこそタイミングですよ。人の気持ちは移ろいやすいのです。いつまでも自分が優位に立っていると思ったら大間違いなのです≫
知った風な口を……。
ロボに人間の気持ちを語られるなんて!
≪何か間違ったことを言いましたか?≫
言ってない……と思う。
≪私は完璧な存在ですから、間違うことなんてありません≫
腹立つー。
≪ここは私に任せて先に行け!≫
それ、死ぬ時のフラグだよ。
≪良いからさっさと後ろに乱入してきてください≫
はい……。
気が重いよ……。
≪ハリーハリーハリー!≫
エヴァちゃんが急に厳しい……。
≪あとで本当にウジウジされても困りますから、今ぶつかってすっきりしてきてください。不戦勝なんておもしろくありません。私は実力で勝利したいのです≫
わかりましたよ……。逝ってきます……。
すごく気が重いけれど、ここまで言われたら行くしかないよね……。
なんて声をかけたらいいかわからないけど……とりあえず行く!
わたしは馬車のコントロールをエヴァちゃんに任せて、客車のほうに移動する。
気が重い……。
でも行くしかない! テンション上げてGOだ!
「や、やっほー……。みんな宴会してるー?」
なんじゃそりゃ。
と、心の中で自分にツッコミを入れながら……笑顔引きつっていないかな?
「アリシア」
「アリシアさん!」
3人でラブラブしていたはずなのに、スレッドリーもナタヌもわたしの顔を見るなりうれしそうに笑いかけてくれた。
「えーと、えーと。わたしにもレモンスカッシュをちょうだい! ちょっと小腹が空いたし、クレープでも食べたいなー」
「はい! すぐに用意します! イチゴバナナオレンジモモクレープチョコレートホイップマシマシスペシャルで良いですか⁉」
「さすがにそれはずっしりと重すぎる……。バナナチョコクレープで。普通のやつ、ホイップ少なめで」
「はい、喜んで♪」
ナタヌはホントにうれしそうに保冷庫のほうに向かっていく。
ナタヌさん、あまり接客はやっていなさそうなのに、ちゃんと手際が良いのね。クレープおいしそう。すでに焼いてある生地にフルーツを盛り付けるだけだけど、手慣れているのがわかる。
「はい、バナナチョコクレープとレモンスカッシュです! おいしくな~れ、萌え萌えキュン♡」
呪文まで!
か、完璧だー!
わたしの手にしたクレープを見て、スレッドリーとラダリィが唾を飲み込む。
「アリシアだけずるいぞ。俺にもバナナチョコクレープを頼む」
「わ、私もお願いしてもよろしいでしょうか」
「はい、喜んで♪」
ナタヌは自分の分も含め、3つのクレープを盛りつけると、スレッドリーとラダリィに1つずつ手渡す。
「ああ、ありがとう。うまそうだ」
「ありがとうございます」
2人ともうれしそう。
「どういたしまして! ですがお店で焼いた生地に盛り付けしただけなので、私は何もしていないですよ~!」
馬車に取り付けてある保冷庫は、連動型アイテム収納ボックスにもなっているので、『龍神の館』と繋がっている。つまり食料品はそっちからずっと補充され続けるってわけ。
「ナタヌ」
スレッドリーがナタヌに声をかける。
クレープに口をつけていない。何かあったのかな?
「何ですか、殿下? クレープ、お気に召しませんでしたか?」
「あれはないのか」
「あれ、というと?」
「その……あれだ。萌え萌えの……」
えっ、まさかの呪文待ち⁉
「殿下……」
「なんだ?」
「……キモッ」
ナタヌが、虫を見るような目でスレッドリーを睨みつける。
「なぜだ⁉ さっきアリシアにはやっていただろう⁉」
「あれはアリシアさんだからですけど⁉ なんで私が殿下にそんなことしないといけないんですか! 想像するだけで鳥肌が立ちます!」
ざーんねん♡ わたしだけ特別なの♡
「そ、そうなのか……」
あれ? ガチへこみ?
「殿下。本当に気持ち悪いので、黙ってクレープを召し上がってください」
ラダリィがとどめを刺しに行く。
ラダリィさん……「キモい」と「気持ち悪い」だと、わりと言葉の重みが違うと思うんですけど。さすがに「気持ち悪い」は言い過ぎではないですか?
「そうです。アリシアがやれば良いのではないですか?」
ラダリィがわたしに向かって意味ありげな視線を投げかけてくる。
「な、に?」
突然「良いのでは」と言われましても?
「アリシアが代わりに呪文を唱えて差し上げてください」
口角を上げてニヤリと笑う。
「えっ……なんで……」
「殿下がご所望されているのです」
「いや……なんでわたしが……」
クレープを作ったのはナタヌなのに。
「この中で、殿下のことを『気持ち悪い』と思っていない唯一の人なので、やはり呪文を唱えるのはアリシアしかいないのではないでしょうか」
なにその破綻している理論は……。
ナタヌもめちゃくちゃ頷いてるし……。
「アリシア、頼む」
スレッドリーも真顔で頼んでくるな!
今、自分がけっこうひどいこと言われてるのわかってる? キモ王子様?
「えっ、ホントにやる流れ……? 冗談じゃなくて?」
「お願いします」
マジぃ……。こんなに見られてるときっついなー。
≪いけ、ヘタレ姫≫
ヘタレ姫言うな!
わかったわよ! やればいいんでしょ、やれば!
「えっと……お、おいしくなーれ、萌え萌えキュン♡……これでいい?」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! 萌え萌えキュ~~~~ン!」
スレッドリーが雄たけびを上げ、呪文のかかったクレープを一飲みに。
「うまいぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
いや……キモッ。
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