第17話 アリシア、未来を提案する
今はわたしのことは良いからね?
ラッシュさんとエイミーンさんのことを何とかしないと。このままだと『ダーマス』には入れないんだし。
1つ目の案は……一旦保留で。
過去を改変するのはさすがにやり過ぎだと思うし……。
2つ目の案を聞かせて?
≪2つ目は少し地味です。私は1つ目のタイムマシンで過去に戻るほうが派手でアリシア向きだと思います≫
派手さ加減がね……。
人として超えちゃいけないラインを超えているって意味では相当派手だけどね。
≪私と一緒に魔王を目指せば気にならなくなると思いますが≫
なんかもう、ずっと魔王を推してくるね……。
エヴァちゃんが魔王になりたいんじゃなくて、わたしも一緒になるの?
≪アリシアと私は一心同体なので当然のことです。私が魔王なら、アリシアも魔王でしょう。ダブル魔王として世界に君臨するのです≫
そういうイメージだったのね。
これからはちょっと気をつけてエヴァちゃんの発言を確認しないと……。気づいたらとんでもない犯罪に手を染めていそうで怖い……。
≪私が法律だ≫
法律を持ち出すと、魔王っぽいようなそうじゃないような……。
って、だ・か・ら!
すぐに脱線するのやめてってば!
早く2番目の案をプリーズ!
≪もったいぶってみました。2番目の案は地味なので≫
地味でも良いから教えて!
≪そうですか? あまり良い案だとは思っていないのですが……。2つ目の提案は、エイミーンさんの暗殺者としての記憶を封じます≫
記憶を?
それって、ラッシュさんが呪医の先生にされたのと同じことをするってこと?
≪そうです。ラッシュさんが迎えに来なかった。捨てられた。裏切られた。その記憶から封印してしまえば、その後の暗殺者としての人生もなかったことにできます≫
なかったことに……できなくない?
エイミーンさんは忘れたとしても、周りの人は覚えているよ?
≪顔を変え、名前を変えて新しい人生を歩んでもらうのが良いでしょう≫
思ったより大がかりだった……。
つまり、エヴァちゃんがやろうとしているのは、11年分の記憶をすべて封印して、エイミーンさんという存在をこの世界から消す?
≪結果的にはそうなりますね≫
それって……エイミーンさんの中には、10歳の時までの記憶しない状態になるってことだよね? 肉体年齢と精神年齢に差が生まれる……わたしと似た状況にならない? わたしは5年半だったけど、エイミーンさんはその倍の11年……。相当きついと思うんだけど……。
≪11年分の教育。21歳としての振る舞いについては、専属のエヴァシリーズが完全サポートします。それに何より、これから先はずっと、ラッシュさんが一緒にいてくださるでしょう≫
そっか……。
そこがわたしとの大きな違いってことね。
大切な人とずっと一緒に……それなら過去の記憶なんて、か。
ぜんぜん地味じゃないし、苦しいけれど良いアイディアだと思う……。
でもこれは当事者の2人が結論を出すべき問題かな。
うーーーーーん。
難しい!
たとえばだけど、第3の案として、『ダーマス』の街に入らずに王都にも戻らずに、このパーティーを抜けて2人だけでどこかに隠れ住む、なんていうのもあって良いと思うんだけどな。お別れは悲しいけれど、2人の未来のためにはそれも選択肢としてはありなのかなって。
* * *
それからすぐ、街道の脇に馬車を止めて、緊急ミーティングを開いた。
議題はもちろん、エイミーンさんのこと。
「わかっているかもしれないですが、エイミーンさんには国家指定の指名手配がかかっています。『ダーマス』の街に入ろうとした時点で拘束。おそらく死刑になります」
エイミーンさんがゆっくりと頷く。
ラッシュさんがその肩を抱き寄せ、何かしゃべり出そうとする気配を感じたので、先にわたしが話を始める。
「いろいろ言いたいことはあるでしょうけれど、先にわたしの話を聞いてください。まず忘れてほしくないのは、わたしたちは仲間です。仲間のために最善を尽くしたいと思っています」
その仲間の未来のために、回避策をいくつか考えてきたわけですが――。
と、さっきエヴァちゃんと考えた第2案『エイミーンさんの11年分の記憶封印&別人になる』と第3案『2人で愛の逃避行』を説明する。もちろん第1案『タイムマシンで過去を改変』は話していない。
「私は愚かだった……」
わたしの話を聞いた直後、エイミーンさんが泣き崩れた。
なぜ憎しみの感情に突き動かされて、暗殺者としての道を歩んできてしまったのか、と。
「私はラッシュに裏切られた被害者などではない。ただの加害者でしかなかった……。憎しみの衝動にかられ、多くの人間をこの手に……」
自分自身の手のひらをじっと見つめている。
「エイミーン……」
ラッシュさんが震えるエイミーンさんの手に、自身の手を重ねる。
≪ですがエイミーンさん。あなたは直接的にはただの一度も暗殺を行ったことがないのではないですか?≫
「えっ、そうなの⁉ エヴァちゃん、それマジ情報?」
11年も所属していて一度も暗殺をしたことないなんてある⁉
懸賞金が掛かっているっていうから、てっきりめちゃくちゃ暗殺しまくっている主力のメンバーなのかと思っていたけど⁉
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