第16話 アリシア、朗報を聞く

 きっとラッシュさんも成長したエイミーンさんを女性として意識し始めている。そんな気がするの。


 だから、2人にはしあわせになってほしい!


≪わかりました。ここでアリシアに朗報があります≫


 エヴァちゃんがわずかに口角を上げて笑みを浮かべる。


 朗報?


≪ラッシュさんの話をヒントに、この完璧なるメイドロボのエヴァ様が2つの回避策を考えて差し上げました≫


 回避策!

 それはぜひ聞きたい!

 もうメイドロボの件はつっこまないからねー。


≪メイドロボ渾身の策、その1つ目を発表します。作戦名は「もしもあの時~、ラッシュさんの記憶が封印されなかったら~」作戦です≫


 メイドロボ推し……絶対つっこまない!

 えーと? もしもあの時、ラッシュさんの記憶が封印されなかったら?

 つまりどういうこと?


≪すべての問題はラッシュさんが約束通りにエイミーンさんを迎えに行かなかったことにあるのです≫


 まあそうね。

 迎えに行けていたらこんなことにはならなかったはず。

 無事エイミーンさんを引き取って、今も一緒に暮らしているかも。そうしたらもしかしたら兄妹みたいな関係になっていたのかな。


≪義兄とのアブナイ関係。捗ります≫


 そういうのは捗らなくてよろしい。

 今真面目な話の最中だからね? TPOどうしたのさ。


≪詳細を説明します≫


 無視したなー。

 都合が悪いとすぐこれだもん。


≪考えて見たら簡単なことだったのですよ。失敗したならやり直せばいい。あの時あの場所に戻れば良いのです≫


 うん? つまりどういうこと?


≪都合の悪い過去を改変してしまえば良いだけのことなのですよ≫


 過去を改変?

 もしかして、タイムマシンに乗って過去に行って、ラッシュさんの記憶が消されないようにするってこと?


≪理解が早くて助かります。それではこちらの机の引き出しから時空の歪みに入りましょう≫


 いやいやいや。

 時空の歪みって言われても……。

 机の引き出しの中にタイムマシンがあるって……それ、前世の世界で国民的な人気を誇るアニメのお話だよね? 未来から来た青いタヌキが活躍する。いや、そもそもその机、今どこから取り出したの?


≪オマージュです≫


 パクリかどうかを聞いているんじゃなくてね? まあその青いタヌキのやつはフィクションだから。現実的に考えて、過去に戻ったりはできないよ?


≪ですがタイムマシンはそれなりの精度で『創作』できました。つまりこの世界ではノンフィクションということになります≫


 そんなの簡単に創らないで……。

 だいたいさ、過去を改変すると、それに合わせて未来が変わっちゃうから、今のわたしたちがどうなっているかわからないんだよ? もしかしたら存在ごと消えちゃうかもしれないし。


≪タイムパラドックスやバタフライエフェクトのことですか?≫


 そうそれ。

 些細な改変でも未来には大きな影響を及ぼす可能性があるからね。木の枝を踏んだとか、蚊を叩き潰したとか。


≪自分の運命力を信じてください≫


 運命力って……そんな適当な……。LUK≪幸運≫は鬼ほど積んでるけれど、運命力とは違うよね?


≪それは運命力ではなく、運の良さですね≫


 まあそうだよね。知っていました!

 でもさー、タイムマシンはないよー。大がかりすぎるって。

 ラッシュさんが独り身じゃなくなっちゃったら、軍を離れて冒険者をやることもなかっただろうし、その経験を活かして聖騎士になることもなかったかもしれないし、聖騎士にならなかったらスレッドリーの世話係にはならないだろうし。そうなったらこの状況って大きく変わっちゃうよね。


 わたしとスレッドリーが出逢うこともなかったかもしれないし。


≪自分の運命力を信じてください。運命の相手なら、スレッドリー殿下とは別の形で出逢えているはずなので、そうでないなら運命の相手ではありません≫


 適当な仮説なのによく言い切るね。

 別にスレッドリーが運命の相手かそうじゃないかなんてどっちでも……。


≪自信がないんですか?≫


 そういうわけじゃ……。

 運命の相手かー。

 アイツ、白馬には乗っていないけど王子様だよね……。第2王子だけど。


≪顔ヨシ、王子ヨシ、性格ヨシ。何か不満がありますか?≫


 うーん?

 どっちかというとってくらいだけど、スレッドリーが女の子だったら理想的かも?


≪わかりました。去勢しておきます≫


 いや、そういうことじゃなくて……。


≪去勢手術、または性転換手術を行いますか?≫


 ペットじゃないからね? 本人が望んでいないのにそういうのはやめてあげて……。


≪アリシアが本気で望むなら、スレッドリー殿下もそれを望むと思いますが≫


 たしかにね……。でもそれをあてにするのはどうかなと……。

 いやホントに何の躊躇もなく女の子になりそうで逆に怖い……。


≪こんなに想われていて、まだキープしますか? 暴君を通り越して鬼畜ですね≫


 だってこの旅の間は結論を出さない期間だもん……。

 まだ悩んだって良いんだもん……。


≪何が「もん」ですか。かわい子ぶってもダメです。もう旅の終わりは近いのですよ。そろそろ結論を出してください≫


 結論、ね……。

 どうしたらいいかな……。


 って、それよりも、今はラッシュさんとエイミーンさんの話を!

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