第15話 アリシア、エイミーンさんについて悩む

≪国家指定の指名手配犯のエイミーンさんは、街には入れないと思います≫


 たしかに……。犯罪者を領内に入れないようにするのが、城門の役割で、門番のお仕事だよね!


 どうしよう……。

 このままだとこの馬車は『ダーマス』に入れない……。


≪犯罪者なのですから、素直に門番の方に突き出すのが良いと思います≫


 だからそれは無理だって……。

 せっかく和解して(?)旅の仲間に加わってもらったんだし、そんな騙すようなマネしたくないよ。


≪アリシアは犯罪者をかくまうのですか?≫


 その言い方をされると……。

 でもほら、後ろを見てよ。ラッシュさん、あんなにしあわせそう……。

 昔の恋人のナルディアさんの時のことを思いだしてよ。つらいはずなのに笑顔で見送ってさ……。苦労人だよ? 国が平和だから聖騎士なのに剣の腕を示す機会もなく、ずっと何年もスレッドリーのお世話だけしてさ……。


 11年前のことだって。

 当時はエイミーンさんのことを本気で心配して引き取るって言ったんだと思うよ。ラッシュさんってそういう人だよね。

 それなのにさ、救援活動の任務は大変過ぎたからって、ほかの新兵たちとまとめられて記憶を封印されちゃってさ……。それがなかったら、きっと任務完了後にすぐにエイミーンさんを迎えに行って、今も2人はしあわせに暮らしているんだと思うの。

 エイミーンさんはラッシュさんのことを恨みながら過ごす必要なんてなかったし、暗殺者になる必要もなかった。


 誰も悪くないのに……。


 だから、どうにかしてあげたい……。


≪ほんの1つ、ボタンを掛け違っただけでこのようなことが起きてしまう。それがまた人生なのではないでしょうか≫


 そうなのかもしれないけど……。エヴァちゃんが人生を語るとさすがに違和感が……。


≪今は真面目な流れですから、私もふざけたりしません。TPOをわきまえることこそ、人として大切なことなのではないでしょうか≫


 TPO……Time(時間)、Place(場所)、Occasion(場合)。

 うん……わたし、ミィちゃんにけっこう注意される……。


≪素直なのがアリシアの良いところです。空気を読み過ぎて普通の人間になってしまったら、魅力は半減してしまいますし、「暴君」の看板を下げなければいけなくなってしまいます≫


 魅力半減ですか……。

 いや、『暴君』の看板はどうでも良いっていうか、むしろそれは下げられるなら下げたいくらい……。


≪怒ったら殴る。気に入らなければ蹴る。本能の赴くままに生きてください≫


 さすがにそれはひどくない?

 暴君を通り越して、ただの暴力的な人だよ……。


≪事実を述べたまでです。アリシアの記憶を再生しますか?≫


 うん……それはいいや。

 ちょっと身に覚えがあるし、反省します……。


≪私はロイスさんがアリシアに蹴られて喜んでいる記憶が気に入っています。何度も再生しています。恍惚の表情を浮かべるロイスさんを待ち受けにしているくらいです≫


 勝手に人の記憶を再生するのやめてよね?


 ああ、ロイス……。

 そういえば、何かにつけてわたしに蹴られようとしてたもんね……。

 ほかのチームドラゴンのメンバーとは違って、喜んじゃうから指導には使えないし、最終的には挨拶代わりに蹴っていた気がするけど。んと、待ち受けって何?


≪話が脱線しています。元に戻してください≫


 いつも誰が脱線させてるのよ……。

 張本人に言われると腹立つわー!


≪アリシアは、エイミーンさんが暗殺者集団≪シガーソケット≫の構成員になったこと自体が彼女の意思ではないのだから、罪に問うのは間違っている。冤罪だ。そういう主張ですか?≫


 さすがにそこまでは主張しないよ。

 不幸な事故だったと思う。

 でも暗殺者として活動してきた11年間は冤罪でもなんでもなくて事実なんだろうし、そこは……でも国家指定の犯罪者って、普通に考えてかなりの重い罰だよね。もしかして死刑?


≪そうですね。懸賞金が掛かった時点で死刑確定です。しかし、回避方法があるようです≫


 回避方法⁉

 どんなどんな?


≪仲間の情報を売る。ほかの構成員の逮捕に寄与すれば、死刑は免れ終身刑に減刑されることもあるのだそうです≫


 あー、そういうこと……。

 終身刑か……。

 一生牢屋に閉じ込められるってこと?


≪それはケースバイケースです。軍の監視のもと、強制労働するケースもあるようです。それについては今考えても仕方ありません≫


 減刑されても終身刑……。

 ラッシュさんとは別れないといけない……。

 悲しむよね……。


≪アリシアはどうしたいのですか?≫


 どうしたいか、か……。

 たぶんね、2人の様子を見ていると、きっと相思相愛なんだと思うの。

 当時は15歳と10歳で年齢差もあって、ラッシュさんには恋愛感情なんてなくて、純粋にエイミーンさんを助けたい気持ちだったと思う。でもきっと最初からエイミーンさんのほうはラッシュさんのことが好きで……。

 そんな2人が今、奇跡的に再会できた。

 26歳と21歳。

 きっとラッシュさんも成長したエイミーンさんを女性として意識し始めている。そんな気がするの。


 だから、2人にはしあわせになってほしい!


≪アリシアの考えはよくわかりました。そんなアリシアに朗報があります≫

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