第13話 アリシア、手を繋ぎたそうにする?

「呪術師が絡んでいるというのはあっていそうですけど、それは直接的な薬の効果ではないですね。たくさんの人の特定の記憶を消す効果を発揮する薬は、たぶん作れないと思います」


 わたしでもそれは無理。

 薬って人によって効き方が違うものなのよ。その人に合わせてオーダーメイド的に調合するならギリギリいける……かもしれないけど、だったら薬じゃなくて直接記憶を消す方法を考えるほうが楽そうだと思う!


≪後頭部辺りを殴れば、だいたい記憶は飛びますからね≫


 それは危ない対処療法だよ。

 記憶以外にも重大問題につながりそうだから、人の頭なんて殴ったら絶対ダメだよ? どうしても殴りたい時には、1番ダメージの少ないお尻を蹴っ飛ばそう!


≪私に人を殴りたい時なんてないですが? 私はすべての人を愛しています≫


 今日のエヴァちゃんは博愛主義なの? 白エヴァちゃんなの? イメージ的に魔王とは正反対だけど?


≪魔王はすべての人を愛するがゆえにすべての人を恐怖に陥れて支配するのです。だから昨日も今日も同じ私です≫


 うん、ぜんぜん意味がわからない! ちょっと今忙しいからあとで聞くね。


≪自分から振っておいてひどいです≫


 はい、聞こえないー。


「ラッシュさんはお医者さんたちにどんな治療を施されたか覚えてますか? たぶんその中に記憶を封印する術式か何かが紛れ込んでいたんだろうなーって思うんですよね」


 薬以外で何かされているんだと思います。


「どんな治療か……。そうですね、まずは1人ずつ問診がありまして、それが終わると30分ほど栄養剤の点滴をします。それが終わると薄暗い部屋に入り瞑想をします」


「瞑想? そこをもうちょっと詳しく!」


 めっちゃ怪しい。


「点滴が終わった者から順に、瞑想専用の大部屋に入るのです。等間隔で座り、目を閉じます。医師が良い香りの香を焚くので、とても気分が落ち着きます」 


「その時、誰かに何か話しかけられたり、とかはありましたか?」


「いいえ。その部屋の中では誰1人言葉を発しません。頭を空っぽにして、ただ目を閉じるのです」


 うーん。マインドコントロール的な何かかと思ったけど、何も話しかけられていないのかー。だとするとお香の効果? でもお香だけで何かはできないよね。トランス状態にして、耳元でそれらしい言葉を囁いたりしないと催眠術的な効果はないかなー。なんだろ……。


「瞑想が怪しいのに、決め手に欠ける……」


「手掛かりになるかわかりませんが、瞑想の時には頭を空っぽにして、朝食の前に唱和している言葉を頭に思い浮かべるように言われていました」


「あーっと、なんでしたっけ?『よくがんばった』的な?」


「『私たちは初任務を完遂した。すべての要救助者を正しく救った。よくやった。復興は成し遂げられた』です」


「それをずっと心の中で唱える?」


「はい、そうですね。そうすると心が軽くなり、気持ちが楽になっていきます。ずっとずっと唱え続けます」


 ラッシュさんが目を瞑り、当時の瞑想を再現してみせてくれた。


「うん、それですね! たぶんですけど、問診か何かの時に、そのキーワードをきっかけにして記憶にロックがかかるように催眠術をかけられているんですよ」


 自分たちで勝手に深く催眠術にかかるように仕向けられていたかー。なかなかやるじゃないか、そのお医者さん軍団。いや、催眠術担当は1人かもしれないけど。


「あ、ラッシュさん。それ、たぶん解除されていなくて今も有効だと思うので、瞑想して唱えるとまた記憶がロックされちゃいます。せっかく思い出したんだからやめときましょう」


 催眠術をかけたお医者さんがいないと正式な解除はできないと思う。今はたまたま当事者のエイミーンさんが目の前に現れたから、イレギュラーな方法で記憶が戻っただけだし。


「今、何度か唱えてしまいました……。私はまた、エイミーンのことを忘れてしまうのでしょうか……」


「またラッシュお兄ちゃんに忘れられてしまうのか……。それは嫌だ……」


 2人が手に手を取り合い、悲しそうな目でわたしのほうを見つめてくる。

 いや……なんかもう、記憶云々の前に、あなたたち相思相愛じゃないですかね?


「1回や2回唱えたくらいでは大丈夫だと思いますよ。その催眠効果よりもエイミーンさんが目の前にいるインパクトのほうが大きいでしょうからね」


「良かったです……」


「良かった……」


 見つめ合う2人。

 なんかもう……付き合っちゃえよ!


「えーと、おしあわせに?」


「わ、私たちはそういうのでは!」


「らららラッシュを殺すためにここにきたので!」


 顔を真っ赤にして動揺しまくりアワアワしまくりの2人。でも決して繋いだ手を放そうとはしない。これが心の底から惹かれ合っているってことなのね……。なんかずるい!


 と、誰かがわたしの手を握ってきた⁉


「えっと……何?」


「いや……手を繋ぎたそうにしているなと思ってだな……」


 ……ちょっと思ってたけど! なんでそれをスレッドリーに気づかれないといけないの⁉


「嫌だったか?」


「……嫌じゃ……ないです」


 でも悔しい!


「あ~! 抜け駆け! 殿下ずるいです! アリシアさん、私も!」


 ナタヌがわたしの空いているほうの手を取る。


「やった~♡」


 こういうので喜べるナタヌってやっぱりかわいいな。


≪私の繋ぐ手がないです……。かわいそうなエヴァちゃん≫


 ヨヨヨと大げさに泣き崩れる。


「それでは余り者同士、私と手を繋ぎましょうか」


 しゃがみ込んだエヴァちゃんに、ラダリィが手を差し伸べる。


≪ラダリィさん、好きです♡≫


 おー、堂々と浮気かな?



「それじゃまあ、話がまとまったところで、エイミーンさんも馬車に乗ってください。一緒に『ダーマス』にいきましょう。道中積もる話でもしてもらって、ね?」


 というわけで、目的地『ダーマス』を目前にして、旅の仲間が1人増えましたとさ。

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