第12話 アリシア、呪術について語る
「私もさきほど思い出したところなので、詳しいことは何もわかっていないというのが正直なところです」
ラッシュさんが小さく首を振る。
まだ昔の記憶がすべて戻ったわけではなさそう?
「朝食を終えて、少し休憩を挟んだ後に投薬治療を行う時間になるのですが、私たちを治療していた医師たちの中に、呪術師がいたように思います。今思い起こせばそうだとしか思えない……」
「呪術師ですか? ラッシュさんは呪われたんですか⁉」
ナタヌが驚きの声を上げる。
「ナタヌ、呪術師は呪いをかける以外にもいろいろあるんだよ。ラッシュさんが言っているのはたぶん呪いとは違う……ですよね?」
「はい。もちろん医師たちの中には何人か呪医がいるのは知っていたのですが、なぜか投薬治療の時にだけ現れる、普段見たことのない医師がいたように思います……」
呪術という言葉から人を呪う恐ろしいものだと思われがちだけど、呪術師ができることは人によってさまざまで、その領域はかなり広い。呪詛のような、いわゆる相手を攻撃する魔術や護符を扱ったりする想像通りの呪術師もいれば、エンチャントや付与魔法、そして薬草の調合を扱うような錬金術師寄りの呪術師もいる。あとはヒーラーの役割を担う祈祷を専門にしている人もいる。
わたしも傍から見れば、呪術師寄りの錬金術師かもね? 実際には『創作』スキルであれこれしているから、中身はぜんぜん違うんだけど。
「今思い起こせば……栄養剤と安定剤と説明されていた薬の中に、何か記憶を曖昧にさせるような、そういった成分が入っていたのではないかと思うのです」
「記憶を曖昧に、ですか? その薬のせいでエイミーンさんの存在自体を忘れてしまったってことですか?」
ピンポイントで記憶を消去する?
そんな薬あるのかな。
「真実はわかりません。ですが残った結果として、私は今の今まで、迎えに行くと約束したことを忘れ、エイミーンの存在すら忘れていました。言い訳のようにしか聞こえないと思いますが、これが私から語れる私の中での真実です」
語り終えたラッシュさんは、再びエイミーンさんに向かって深く頭を下げた。
「私はどうしたら……。これまでいくら探してもラッシュお兄ちゃんの情報は手に入らなかった。それが急に『ラミスフィア』と『グレンダン』で目撃したという情報が上がって……」
エイミーンさんが複雑な表情を浮かべ、立ち尽くす。
ラッシュさんの裏切りに対し、愛情が反転して憎しみに変わった。その憎しみの気持ちで今の今まで生きてきたんですね……。今回その復讐をしようとわざわざここへやってきた、と。
「エイミーンさん、まあ、もうちょっとだけ待ってくださいよ。いろいろ推測だけで話が進んでいますし、情報を整理しましょう。わたし、こう見えても呪術について詳しくないわけではないので、何かできることがあるかもしれないですし?」
呪術っぽい『創作』スキルも使えますし?
「アリシアさんすごい!」
ナタヌが拍手する。
わたし、まだ何もしてないからね?
「呪術や魔術のことはさっぱりわからず……アリシア様、どうかお願いいたします」
ラッシュさんが頭を上げ、わたしに向かって懇願するような視線を投げかけてきた。
「えーと、まず気になっているのが、何らかの薬の効果によってピンポイントで救援活動の記憶が消えた、とのことでしたが間違いないですか?」
「はい、その時の記憶だけが曖昧になったのだと思います。救援活動の任務に就いた、という記憶はありました。しかしそれは記録的な記憶で、『どの村に行ったのか』という程度で、どんな人々とかかわりを持ったのかと聞かれると、何も答えられなかったと思います」
「それはラッシュさんだけじゃなくて、その治療を受けたほかの人も、ですか?」
「はっきりと確認し合ったわけではありませんが、周りの者たちもおそらく同じような状況だったと思います。ですがこうしてエイミーンの力を借りながら順を追って話をしていくうちに、少しずつ当時の記憶が戻ってきました……」
「なるほどー。だとすると、薬の直接的な効果という線は薄いかもしれませんね」
ポーションとして販売されている汎用的なものでさえ、その効果は個人差がある。ある程度の効能を保障されているくらいの認識でいたほうが良いくらい。
「市販のポーションではなくて、その呪医が独自に調合した薬となると、余計にその効果はばらつきが出ると見たほうが良いです。単純にHPやMPを回復させるならそこまで気を遣う必要はないですけど、ピンポイントの記憶の消去なんて……」
そもそもそんな効果を持つポーションがあること自体初耳だし、治療した全員に等しく効果があるなんて、まず普通に考えてあり得ないことだと思う。
「なので、呪術師が絡んでいるというのはあっていそうですけど、それは直接的な薬の効果ではないですね」
おそらくホントの原因はほかにある、と思う!
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