第7話 アリシア、エイミーンの過去を聞き出していく

「エイミーンさん! 休戦! 一旦お互い冷静になりましょ。深呼吸してー」


 スーハー。スーハー。


 わたしもエイミーンさんも、まだちょっと顔が赤い。

 冷静にならないと良い話し合いもできないから、クールダウンが大事、と……。


≪こちらのお飲み物でもお召し上がりください。気分が楽になります≫


「エヴァちゃん、ありがと。エイミーンさんもどうぞ」


 珍しく気が利くじゃないの。

 ちょっと喉が渇いて……ってこのニオイ、お酒じゃないの!


「エイミーンさん待って! それ、めっちゃ強い度数の蒸留酒!」


 あっ、遅かった……。

 まさか一気に飲み干すなんて……。


「……何か? とてもフルーティーでおいしかったが……まさか毒でも仕込んでいたか? 残念だったな。私は特殊な訓練をしているから毒など効かな……ヒック」


 毒は効かなくても、お酒は効くんですね。


「これは……ヒック。なにか……ヒック。……しらわへ」


 あーあ。

 めちゃくちゃお酒回ってるじゃないの。


≪計算通りです。弱点部位:アルコール。毒物には強いが、アルコールの匂いを嗅いだだけで酔っぱらう。とありました≫


 そんな人にこんな強いお酒を飲ませたら……。


≪今が尋問チャンスですよ。裸にひん剥いて全部調べ上げてやりやしょうぜ。オヤビン!≫


 誰がオヤビンだ!

 それ、悪者がやるやつじゃないの!


≪女アサシンは捕まると必ずエロい目に合うと、参考文献には書かれていましたが≫


 いったい何を参考にしたー⁉

 前世の偏った知識を参考にしちゃらめぇー! 我ながら情けない限りだけど、前世のわたしはそんなことばっかり考えていたのね……。もっと詳しく!


≪乗ってきましたね! さあ、尋問タイムの始まりです≫


 尋問ターイム!

 ってダメダメ。みんな見てるでしょ!

 危ないなー。ここで乗せられてエイミーンさんを裸にしたりしたら、わたしがド変態の烙印を押されるところだったわ! 普通の尋問をします! ノーエロ!


≪つまらないですね。エロい場面になったら起こしてください。おやすみなさい≫


 ロボが寝るなっ!


「あー、エイミーンさん? お酒、大丈夫ですか? 苦しい?」


 だいぶ息が上がっていて、顔が真っ赤……首筋も真っ赤だ。急性アルコール中毒とかにならなきゃ良いけど。


「らいじょうぶらいじょうぶ~なのよぉ。さっきのおいひいのみものもっとちょ~らい♡」


 ぜんぜん大丈夫そうじゃない……。

 ろれつが回ってないじゃないの。


「アリシア、急にコイツはどうしたんだ? 毒でも盛ったのか?」


「コイツじゃなくてエイミーンさんね。毒なんて盛ってないよ。エヴァちゃんが強いお酒を飲ませたから酔っぱらっちゃったのよ」


 とりあえず話が聞ける状態にしたいけど……。んー、解毒ポーションは使いたくないなー。完全に素面に戻られると、さっきの繰り返しだろうし、せっかくだからちょっと酔っぱらった状態のままで口を滑らせたい。


 あー、迷っているうちに、エイミーンさんが樹の根っこを枕にして寝っ転がっちゃった。


「ラダリィー。ちょっとこっちにきてエイミーンさんを介抱してくれない?」


 こんな時にはラダリィのメイドスキルで対応だ! 何とか良い感じに酔いを醒ましてくれないかな?


「酔っぱらってしまわれたのですね。こういった場合の対処は心得ています。私にお任せください」


 と、ラダリィがエイミーンさんの体を起こして真水を飲ませる。


「たくさんお水を飲めば、状況が改善します」


 あー、そうだね。たしかに。

 お酒と同量の水を飲めば、酔いは醒めていくはず。簡単なことなのに忘れていたわ。さすが冷静沈着なラダリィ!


「ラッシュさん! 今です! こっちに来てください!」


 エイミーンさんが良い感じに苦しくなく酔っぱらっているうちに、ラッシュさんとの問題を解消しましょう!

 うまく話が聞き出せればいいんだけど。


「エイミーンさん。この人わかります?」


「ラッシュ……こらー! ラッシュ! ころしゅ」


 どうどう!

 いきなり殺さないでください。


「そう、この人はラッシュさんです。聖騎士ラッシュ! 穀潰しの第2王子と呼ばれるスレッドリーの面倒を見てくれている奇特な聖人ですよ。人に感謝されることはあれど、恨まれるようなことは絶対にしない、THE良い人のラッシュさんですよ」


 こんな人のどこに恨みを抱いているんですか?


「ラッシュ……。ころしゅ……。ラッシュ……何で私を捨てたの……。何で私を捨てたの……。ラッシュ……。帰ってきて……。私を捨てないで……」


 エイミーンさんは目をつぶり、うわごとのように繰り返す。

 目からは一筋の涙が流れる。


「ラッシュさんが捨てた? いつですか?」


「……11年前。竜巻で……おとうさんもおかあさんもしんじゃった。キャスケイト村もなくなっちゃった……」


 11年前にパストルラン王国の南部地域一帯を襲ったという大規模な自然災害。

 キャスケイト村というのは、エイミーンさんの出身の村なのかな。


「ラッシュさん? キャスケイト村という名前に心当たりはありますか?」


「はい……。当時まだ新兵だった私が、災害支援のために派遣された村々の中に、そういった名前の村があった、と記憶しています」


「救援活動を、なるほど。いくつか担当の村があったんですね。その中の1つの村にエイミーンさんがいた、ということかな」


 やはりエイミーンさんの記憶に間違いはなくて、2人はそこで出会っていたということで間違いなさそう。


「エイミーンさん、当時のこと、もうちょっと詳しく思い出せますか?」

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