第6話 アリシア、盛大に勘違いされる

 泣きながら走り去ったナタヌをなんとか捕まえて……ただいま説得中です。


 いきなりローラーシューズの最大速度で走り去ろうとしないでよ。かまってちゃんどころか、ガチ逃走じゃないのさ……。


「私、必要ですか……?」


 泣かないでって……。


「もちろん! ナタヌがいないとわたし淋しい!」


「私、古い女ですけど……」


「どこがー⁉ 若くてかわいい! ナタヌが1番かわいいよ!」


「不器用でプリーストなのに攻撃魔法ばっかりですけど……」


「そこがナタヌの魅力だね! 一緒に最前線に立とう!」


「私のこと、一生大事にしてくれますか……?」


「大事にするよー! ずっと一緒にいようね!」


「……アリシアさん♡」


 ふぅ、なんとか事なきを得たかな……。


≪また口先でごまかして……悪い人ですね≫


 ちょっとー! 人聞き悪いことを言わないの! 全部本音だから! ウソ偽りなんてございません!


≪そうですか。それは……良かったですね≫


 なんで今度はエヴァちゃんが不貞腐れてるのよ。


≪泣いて走り去れば追いかけてきてくれるシステムが発動すると思いまして。今から私が「もう、アリシアなんて知らない!」と言って泣いて走り去りますので、捕まえてから気の利いた一言をお願いします≫


 そういう悪い学習をしないで!

 絶対追いかけないからね? エヴァちゃんの本体はわたしのアイテム収納ボックスの中にあるんだから、追いかける必要ないし。


≪人質を取るなんて卑怯ですよ≫


 人質って……。

 自分の本体でしょうが……。


 あー、もう! またエヴァちゃんのペースだ! エイミーンさんを放置して遊んでいる場合じゃないんだってば! 急いで戻らないと!



* * *


「待たせてごめんなさ……ん? スレッドリーは何してるんだろ?」


 わたしとナタヌ(とエヴァちゃん)が、街道沿いの大きな樹の下に戻ると、スレッドリーがエイミーンさんと何やら話をしている様子が見て取れた。

 それを少し離れたところから、ラダリィとラッシュさんが眺めているという不思議な図式。


「あの2人は何を……?」


 いったんスレッドリーのほうに近寄るのはやめて、ラダリィとラッシュさんのところへ状況確認に行ってみる。


「急に殿下が『アリシアが言っていることは本当だ!』とおっしゃられて……」


「『アリシア様はウソをつかない。アリシア様がお前のことをかわいいと言ったのなら、お前はかわいいんだ!』と……」


 どういうこと……。

 あ、よく見たら、エイミーンさんの体がケイレンしてるし……。

 スレッドリー……さては図らずもエイミーンさんのことを言葉攻めにしたのね?


 あーあ。エイミーンさんの顔……どころか全身真っ赤になってるじゃないのさ。スレッドリー……やり過ぎはダメだよ? 人は言葉でも死ぬ……あっ、気絶した。


「ちょっとスレッドリー! その辺にしてあげてって」


 ホントに死んじゃったら困るでしょ。


「おお、アリシア。戻ったか。アリシアの代わりに言葉を尽くして伝えておいたぞ」


「うん……見たらわかるよ。だいぶ……やったわね……」


 これ、エイミーンさんは帰ってこれるのかなー。

 

 おーい、スーちゃん?

 エイミーン=ランドシックさんってそっちに行ってないよね?


『さすがに来ていないぞ。見ていたが……言葉では死なんだろ。かなりギリギリのところではあるみたいだがな』


 何とか持ちこたえましたか……。

 まあ、ラッシュさんに復讐の刃を向けないと死んでも死に切れませんよね? なんの恨みかはわからないですけど。


 とりあえずありがとー。

 気付け用のポーションでも飲ませようかな。


 はい、これでOK。


「おーい、エイミーンさーん。戻ってこーい」


「はっ、私はいったい……」


 ああ、良かった。戻ってこれた!


「迷惑をかけてごめんなさいね、うちの王子が」


「王子?……ああっ、ラッシュが子守をしているという第2王子!」


 そう、その第2王子です。エイミーンさんはスレッドリーの顔、知らなかったんですね。実は本物の王子なんですよ。ご迷惑をおかけしましたねー。


「アリシア……」


 何よ? 代わりに謝ってあげたんだから感謝しなさいよね。


「もう一度頼む」


「何を?」


「さっきのセリフをもう一度頼む」


「セリフ? 迷惑をかけてごめんなさい?」


 スレッドリーは何を言っているの?

 今はエイミーンさんと話をしているんだから黙っていてよね。


「その後だ」


「その後?」


≪アリシア。復唱してください≫


 うん?


≪迷惑をかけてごめんなさいね≫


「迷惑をかけてごめんなさいね」


≪うちの王子が≫


「うちの王子が」


「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


「ちょっ、何⁉」


 急に大声を出しながら握りこぶしを天高く掲げて⁉


「俺はアリシアのものだ~~~~~~~~~~~~~~!」


「えっ……違う違う違う! そういう意味じゃないからっ! 勘違いしないで!」


 ぜんぜんそういう深い意味はないからね!


「アリシアさん……」


「アリシア……とうとう」


「殿下、良かったですね……」


「みんな、違うから! パーティーの代表として謝っただけだからね⁉」


 あー、もう恥ずかしっ! 顔熱いわっ!

 なんでみんなすぐそういう勘違いするの⁉


 うちの王子。


 違う違う違う! ホント違うからねっ⁉


「ひょっとして……お前は王女か?」


「いや……ぜんぜん違います」


 エイミーンさんもたいがい天然だなー。

 この周りの反応を見て、わたしが王族だと思った?

 普通に熱冷めたわ!

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